Stardust Stargazer
−星屑(ほしくず) 星見人(ほしみびと)−


 
その16・暴走リカルドの狂気  

イラスト by COSMOSさん プチ加工byくずは

 「きゃあああああぁぁぁぁぁ・・・・・!」 
マイがロックがしてあった格納庫のドアを簡単に操作して開け、足を1歩踏み入れたその瞬間だった。
その悲鳴はマイのもの。だが、それは周囲に響くことなく、レーザー銃の音にかき消されていた。

どさっと床に崩れ落ちたマイのその身体から肉の焦げる臭いが立ち上がっている。
 「残念だよ、せっかくマイをこの手にしたと思ったのに・・・キミは・・・マイじゃなかったんだね?」
格納庫へ数歩入ったそこに、リカルドがレーザー銃を手に立っていた。
ゆっくりと床に倒れたマイに近づくと、リカルドは忌々しげに彼女を蹴り上げる。
「うかつだったよ。本当にうかつだった。本物の彼女じゃなかったなんてさ?!」
シュオン!と再び発射されるレーザーの音がし、それは、マイの頭部を突き抜けた。
「ぼくの愛しいマイはね、キミみたいな筋肉お化けじゃないよ。そりゃ性格はちょっと強情で、なかなかのものだけど、それ以外は可憐で柔らかくて、手の中にそっと抱きしめて守ってあげたい、そんな女の子なんだよ?まったく!」
足早に駆けつけてきたクルーに、屍となったマイを一応メディカルルームに運ぶよう命じたリカルドは、忌々しげに舌打ちをうつと、自分の部屋へ向かった。


メディカルルーム・・・そこは本来ドクターのテリトリーである。が、リカルドは有無を言わさずマイを運び込ませると、自分の部屋から持ってきた機材をオペルームに運び込み、ドクターに手伝わせて解剖を始めた。
持ち込んだ機器類は生物学を基盤とし、その生物実験用にリカルドが開発した様々なものだった。一応医師免許も持っているらしい。

一通りの解剖が終了し、縫合をドクターに任せると、リカルドは、マイの肉体、その組織内に残ったデータの解析にとりかかった。

「ふむ・・・かすかだが、この偽物のものではない強い思念波の形跡があるな。これを受けた後、肉体が変化したとみてもよさそうだが・・・どこからの思念波だ?」
そこまで解析できるものかどうか、一応持ってきたとはいえ、今手元にある限られた機器と、そして、悲しみと怒りに我を忘れ、頭部を撃ち抜いてしまった結果、脳にキズをつけてしまったことが、不安にさせた。
だが、後悔しても遅い。なら、現状で出来る限りをするのみである。
「さて、第二の記憶集積回路を持つ心臓が、どこまでこいつの記憶を語ってくれるか?しかし、脳もまだ完全には死んでいない。クローン生成培養液に浸せば、少しは脳の回復がみられるかもしれないな。いや、少なくとも今しばらく完全なる脳死までの時間稼ぎにはなるはずだ。それまで少しでも記憶を抽出してみるか。」
リカルドは、取り出した脳に適合する培養液を配合する為、準備に取りかかった。


「それにしても、よくもこのぼくを謀ってくれたものだ。まさしくこいつは、マイのクローンだ。こうまでしてぼくから逃げるのかい、マイ?かわいいぼくの小鳥♪
キミがそのつもりなら、ぼくにも考えがあるよ。とことんキミを探す。キミがこのクローンに飛ばした思念波の軌跡を、ぼくは必ず解析してみせる。そして、迎えに行こう♪そうしたら、キミは今度こそぼくのものだよ、マイ♪」
にやっと笑い、リカルドは、ふと思いついた事を口にする。
「ああ、それとも・・・あのイザム坊やを手にいれようか?将を射んと欲すればまず馬を射よと言うからな。情報によると、どうやら海賊船に拾われたらしい。ドーシュ家とその海賊と双方に連絡を取り、取引の仲介役を申し出、成功させれば、難なくあの坊やを手中に治められる。そうしたら、キミはきっとあの子のところにはやってくるよね?まさしくあの子はキミの足枷だよ。そうまでしてやっても所詮は姉弟。運命のパートナーじゃないんだから、あの子に恋人ができたとき、悲しい思いをするのはキミの方だよ?そこまでして守ってやる必要なんてないんだよ。そのことが分からないかな〜?そう♪ぼくだったら、キミにそんなことは感じさせやしない。キミだけを思って、ずっとずっと大切にするのに。そう・・・・永遠にね・・・・・・」

(く・・狂っている・・・・この男は正気じゃない・・・・なぜ、ドーシュ家は、こんな男に当主直径の令嬢の調査を任せられたのだ?)
青白い計器の光に照らしされたリカルドのぶきみなまでのほくそ笑みを見て、ドクターは思わず全身に冷たい物が走るのを感じた。



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