Stardust Stargazer
−星屑(ほしくず) 星見人(ほしみびと)−


 
その15・鳥かごからの脱出  

イラスト by COSMOSさん


 

プチ加工byくずは

 「私は・・・・どうしたらいいの?・・どうしたら?・・今分かっているのは、ここに囚われている事がイザムにとってマイナスになっているということだけ。」
リカルド・ビューラーに捕らえられ、そのスターシップの一室に押し込まれたマイは思案に暮れていた。
イザムの性格はよ〜く理解していた。幼いながらも正義感の強いイザムなら、必ずなんらかの方策を取り探し始めるに違いなかった。いや、幼さ故、純粋に助けようとするだろうと思われた。
戦闘用に培養されて形成されたもう一人の自分。彼女がイザムを守っているのなら、その心配も少なくなる。もっともそれでも探そうとはするだろうが、彼女が止める。何らかの理由をつけ、危険な事には関わらせないだろう。
が、そのもう一人の自分の死を感じた時、間違いなくイザムは自分を探しにくることになると確信した。
足かせになるのなら、いっそ死を、という考えもマイの脳裏にふと浮かんだが、それはイザムにとって逆効果になると思えた。消息不明ならどこまでもきっと探すに違いない。
お互い相手の消息が把握できていない今でさえ、そう、マイはイザムの生存を信じ、そしてイザムもマイの生存を信じて疑っていないのだから。
それは、心の奥底での強い結びつきのなせる技だったかもしれない。

「やあ、マイ、少しは落ち着いたかい?」
 「落ち着いたかい?ですって?人を有無言わさず連れてきておいて良くもそんな事がいえるものね?」
「おおっと♪」
ドアを開けて入ってきたリカルドのその言葉に食って掛かるマイ。
だが、たとえ自分を険しい表情でにらみつけていようと、そんなのはリカルドにとってどうってことなかった。
「あは♪怒ってるキミも素敵だよ、マイ♪しょんぼりしてるより、キミにはそっちの方が似合ってる♪」
「あなた、自分のしたことが理解できてないの?」
悪びれた風もなくにこやかに言うリカルド。
「自分のしたこと?・・ああ、分かってるよ。ガキ一人のお守りの為、辺境惑星に閉じこめられたキミを救ったってことかい?」
「違うわ!私は・・・救ってなんて頼んでないわ!イザムには私しかいないのよ!私しか・・・私が守らないで誰がイザムを守るの?」
「キミがイザムを守って・・キミはどうするんだ?」
「え?」
胸の前で握りしめて抗議していたそのマイの両手をぐいっと掴むと、リカルドはさらっと言った。
「ぼくはキミに自由にあげたかった、キミに自由な翼で飛んでもらいたかったんだ。そのためにはあんなガキ、邪魔だろ?」
「そんなこと!」
勢いよく引き抜こうとするマイの手をリカルドはぐっと握りしめる。
「じゃー・・自由な翼で飛んでもらいたいって言うのなら、ここから出して!私の自由にさせてちょうだい!」
「ああ・・かわいい小鳥ちゃん、それはダメだよ。キミはぼくのところにいなくちゃいけない。」
「なぜ?それじゃ自由とは言えないじゃないの?!」
「ぼくがどれほどキミを探したか、話しただろう?もう苦労しなくていいんだ。ぼくが守ってあげるから、その中で自由に飛び回ればいいんだよ。女性はね、男性に守られてその中にいることが一番の幸せなんだよ。」
「そんなの・・そんなの幸せじゃないわ!それに、一方的すぎるわ!」
「大丈夫。しばらく一緒に過ごせば、情も移るってもんだから。ね?」
「あり得ないわ!あなたなんか、絶対好きにならない!」
へびのような視線。マイはリカルドの尋常鳴らざる自信たっぷりに勝ち誇ったような笑みにぞっとしていた。
「まー、まー、そういきがらずに。気楽にしてていいんだよ。ぼくは紳士だ。強制はしない。」
睨み続けているマイの手を話、投げキッスを送るとリカルドは部屋から出て行った。

(どうしよう・・・・・このままどこかへ連れて行かれたら・・・・・・そこからもう一生出られないわ。まだスターシップの中にいるうちになんとか脱出しないと)
と、脳裏の、いや、心の奥深くに響いてくる何かがあった。
(マイ・・・私の分身・・・・)
「え?」
それは声とも違っていた。まるで自分が呟いているようにも聞こえるような心の底から響いてくる言葉。脳裏にその真髄から湧き出てくるような自分自身の声。
マイは、その声をもっとはっきり聞こうと集中する。
心の中の自分自身の声だと思えるそれに、必死になって意識を集中した。

(イザムを守るわ・・命を賭けて・・・・・人類の未来がかかってるイザムを・・・・)
(ええ、守るわ!イザムを!)

−ドクン!−
心の底のその声と自分の意志が一つになったその時、マイの全身が大きく鼓動した。
−ドクン!−
(例え何度死のうと、どんな窮地に陥ろうと、諦めない・・・イザムは私の大切な弟・・イザムだけは・・・守る!)
−ドクン!−
「あ・・・・ああーーーーーーーっ!」
不意に全身が熱を帯び、筋肉がまるで呼吸をするように鼓動し始め、マイは自分の身体の急激な変化に叫びを上げた。


−カンカンカンカンカン!−
その数分後、引き留めようとを襲いかかってくるスターシップのクルーたちを倒しつつ、ステップを駆け上がるマイの姿があった。

彼女の頭に響いたのは、遠き星の制御室で眠りに就いているマイ本体からの声だった。遠隔操作ともいえるだろうか、クローンである彼女だが、ごく普通のクローンではなかった。なぜなら、普通のクローンには、どうしてもそれ自身の感情が生まれてしまう。
クローンとは名ばかりの、いや、元はクローンだが、それ自体一個の人格を持つ全く別人ともなりうるのである。
それ故、マイの本体は、完全には自分から切り離してはいかなった。イザムの為、もしものことを考えてのことであった。
彼女は自分の意志をクローンに伝達することにより、ある程度の操作もできたのである。
そして今回、彼女の声は、非常事態にあるクローンの肉体のある種のスイッチを押した。
そして、クローンは、それまで母親代わりにやさしく接していた女性らしい彼女とうってかわり、勇ましいほどに筋肉が盛り上がった戦闘用ボディーに変化したのである。


「イザム!今いくわ!待ってて!無事でいるのよ!」

敵から奪ったレーザーナックルで、かかってくる者は誰彼かまわずなぎ倒し、マイは、小型艇があるだろう格納庫を目指し、走り続けた。


「こっちだわ!」
精神能力もまた全開。
マイは、機械思考の流れを読み取り、真っ直ぐに格納庫へと向かっていった。



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