Stardust Stargazer
−星屑(ほしくず) 星見人(ほしみびと)−


 
その7・マイ 



イラスト by COSMOSさん

 「イザム・・」
「マイ!」
その洞窟で待つこと数時間。約束通りマイも来た。
が、自分を呼ぶマイの姿を見て、イザムはぎょっとする。
声は確かにマイのものなのに、そして、その人物から感じ取れる雰囲気も、確かにマイなのに・・・・その外見はずいぶん違っていた。
「お前は誰だ?」
警戒の色濃くにらみつけるイザムに、その人物は少し悲しげに笑った。
「私は私。マイよ。分からない、イザム?」
「嘘だ!マイはもっとすらっとしてやわらかくて・・・マシュマロみたいでふわっとして、あんたみたいなそんな格好してない!そんな筋肉質じゃないよ。もっと柔らかくってほっそりしてて・・・」
「この身体は筋肉細胞を強化してあるの。戦闘用にね。」
「?」
「ここであなたと穏やかな時間を過ごすのなら、あのままでよかったの、少女の時のあのままで。でも、ここから一歩出ればそうはいかない。私にはあなたを守る義務がある。それにはあのままの柔な身体では役目は果たせないのよ。」
「役目?」
「イザム、手を。そうすれば分かり合えるわ。今までずっと一緒だったんだもの。2人きりの姉弟なんだもの。」
外見は別人だとも言えた。だが、その口調と雰囲気、そして、何よりもイザムの感が、どうやらマイらしいと判断しつつあった。
少し躊躇気味にだったが、イザムは差し出されたマイの両手に、自分の両手を重ねた。
確かにマイに違いない・・・手を通した意識からはっきり感じたイザムは自分の疑問を口にした。
「マイ・・・・キミは・・・何者?ぼくの為に、戦闘用ボディーに変化してくれたの?それとも、戦闘用ボディーに交換した・・アンドロイド?」
悲しげにマイは首を横に振った。
「私は私よ。あなたと同じ血が流れている。同じ父様と母様の血を受けた姉弟よ。」
「だけど、今までのマイとぜんぜん違うよ?じゃ、今までぼくと一緒だったマイの方がマイじゃなかったの?」
「彼女も私。私も私。そう・・私たちは本来一人であるべきのもの。」
「ぼくを守るために、分かれたとでもいうの?」
「いい子ね、イザム。あなたは本当に聡い子よ。」
ぎゅっとイザムを抱きしめ、それからマイはイザムを引き離すと、真剣な目で見つめて言った。
「ここもそのうち見つかるわ。この星から出るのよ!」
「え?でも・・どうやって?」
「全ては最悪の場合に備えて準備はしてあるの。・・・こんなことにならないようにとは祈っていたけれど。あのままあのマイと静かな時を過ごせていたらどんなによかったかしれないのだけど。」
「マイ?」
不安そうに見つめるイザムに、マイはふっと笑いかける。
「大丈夫、そう簡単には掴まらないわ。次の目的地も決まってるし。」
「でも、なぜ?なぜこんなにしてまで逃げないといけないの?」
「・・・それは・・・・・あなたが大きくなったら分かるわ。それまでは、お願い、言うことを聞いて?」
「マイ・・」


そして、その洞窟をその奥に続いていた地下通路から抜け、原住部族の1つの居住地へと逃げ延びた彼らは、そこから数キロ離れた岩山の地中深くに造られた秘密ポートから
スターシップに乗り込み、その星を緊急脱出した。


「ねー、あのマイはどうなったの?」
そのコクピットでイザムは、操作パネルを操るマイに聞く。
「・・・・・・」
「ねー、あのマイも無事だよね?なんだかマイ、一緒にいた男の人と争っていたようだったけど・・・・大丈夫だよね?」
そう聞きながらも、イザムは、大丈夫なら今ここにこのマイがいるはずがない、とも感じ、思わず身震いする。そして、返事のないことに、その心配は裏付けられる。
「ねー・・マイ!あのマイがキミに変化したのなら何も心配ないよ。だけど、キミはマイで、今までのマイもマイだけど、今までのマイじゃないんだよね?」
悲痛な面持ち、それでも、事実を知ろうと真剣な瞳。そのイザムの瞳にマイは負ける。
「死んではいないと思うわ。」
ほうっと胸を撫で下ろすイザム。
「でも、おそらくあの男に掴まってるわ。」
「え?」
ぎょっとして一旦安堵感を浮かべたイザムの表情が再び強張る。
「あの男・・・そう、すっかり忘れてたけど・・・自分の方に向かないとよけい躍起になる性格だったのね。ちょっとまずいかもしれない。」
「まずいって・・どうまずいの?」
「狂信的なコレクター癖があるみたいだわ。」
「どういうこと?」
「つまり・・・こんなことまだ小さいあなたに教えたくはないんだけど。」
苦笑してマイは続けた。
「ちょっと狂ってるっていうか・・変態コレクター?気に入ったものを収集するの。相手の意志など関係なく。」
「じゃー、マイは?」
「たぶん、彼女は自由を奪われた籠の鳥?」
「キミもマイなんだろ?助けないの?」
「・・・・あなたのことは何よりも最優先される。彼女は・・・運がなかったのよ。」
「そんな!キミだってマイなのに!」
「そう、マイよ。でも・・・どうしようもないのよっ!」
どうしようもない憤りをマイの口調に感じ、イザムはそれ以上言葉が出なかった。


そして、問題の戦闘が始まった。


不意にけたたましくなる警報機。せわしくパネルを操作しつづけるマイ。
「ダメだわ・・こんなにも早く捕捉されるとは思わなかった。これは、ひょっとしたら、あのマイの記憶を誘導解析したのかもしれない。」
「え?」
「イザム、いいこと?あなた、今、籠の鳥になってしまったあのマイを助けたいと思ってるでしょ?」
「うん!」
イザムは力強く首を縦に振った。
「じゃ、私の言うことを聞きなさい。いいこと?何がなんでも生き残るのよ!」
「うん!」
今一度力強く返事をしたイザムを、マイはしっかりと抱きしめる。
そして、しばし船の操作と敵との攻防を補助ロボットに任せると、彼女はイザムをコクピットの横の部屋に連れて行く。
「これは?」
「脱出ポットよ。」
「え?」
「私が敵を引きつけてるから、これであなたは逃げなさい。」
「で、でも・・」
「大丈夫♪万が一の為よ。敵を片づけたら迎えにいくわ。ポッドの軌跡は辿れるから。」
「う、うん。」
「いいわね、もしも私の身に何かあっても、私など振り返らず進むのよ。あなたを今まで慈しみ愛してくれたあのマイを助けるのよ。いいわね?」
「で、でも・・キミも、マイなんだろ?」
「私はいいの。私なら大丈夫よ♪見て、この筋肉♪あのマイと違って、簡単には倒れない♪そうそう倒されやしないわ♪操縦の腕も見たでしょ?」
「だけど・・」
「じゃー、こうしましょう。あなたはポッドで一旦この船から離れる。そして、ここに味方になってくれる船を見つけて連れて来てちょうだい。」
多勢に無勢、おそらく、そんな船と遭遇しても、助勢として駆けつけてくれる頃にはおそらく大破しているだろう、マイはそう思いつつ、イザムに提言する。
容赦なくレーザー銃を撃ってくる相手のその攻撃方法から、今敵対している相手は、リカルドと一緒にいた手のものとは別グループだと思えた。彼らはイザムの捕獲?を計略していたようだが、目の前の敵はそうではなさそうだとマイは判断していた。
ならば、ここは自分はどうなっても、イザムだけはなんとしても無事に脱出させるべきなのである。
「うん!わかった!」
マイとイザムは、にこっと笑い合った。そして、それが彼女との最後だった。



はっ!
力強いそのマイの瞳に見つめられ、起きなさい!いつまで寝てるの!と叱咤された気がして、イザムは目を開けた。
「ここは・・・・そうだ・・空調ダクトの中だった。」
泣き出したくなったその気持ちを堪え、イザムはぎゅっと唇を噛む。
「マイ、あのマイの居場所はぜんぜんわからないけど、キミの居場所は分かってる。キミは、自分のことはどうでもいいと言った。でも、キミもマイだ。そして、ぼくは・・・そのマイに酷い事を言った。キミは命がけでぼくを守ってくれたのに、マイなんかじゃないって言ってしまった。」
筋肉女なんかマイじゃない!そう言ったときの悲しげな顔と、そして、コクピットでの真剣な表情の彼女の顔とが、交互にイザムの脳裏に浮かんでいた。


「どっちだろう?右?左?」
感を頼りにイザムは狭いダクトを再び進み始めた。




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