Stardust Stargazer
−星屑(ほしくず) 星見人(ほしみびと)−


 
その5・小さな冒険 

  

 だが・・・IDカードが必要なドアの前で、イザムの探索は敢えなくおわってしまった。
(マイ・・・どうしよう・・・・戻れないよ・・ぼく、どうしたらいい?)
泣きたいのを必死に我慢しつつ、それでも、絶望感から来る悲嘆は抑えきれない。イザムはここまで来る時にはあった注意力も無くしていた。

「おい!そこのチビ!どこから入った?」
不意に聞こえたその声で、とぼとぼと歩いていたイザムは、自分が侵入者だったことを思い出し、びくっと体を震わせる。
今更走ったとしても、子供と大人。逃げ切れるわけはない、と全身を硬直させ、イザムは振り返りもせずその場に突っ立つ。
「ああ、少尉、ついさっきの基地内見学ツアーのBグループが通っていったところですから、迷子じゃないでしょうか?」
別の男の声がし、イザムに近づいてくる足音がした。
「そうだろ、坊や。」
にっこりと笑いかけてくれたその若い男に、気が抜けたのか、イザムの瞳から涙がこぼれ始める。
急いで涙を拭こうとしたイザムは、本能から、このまま泣いた方がいいんじゃないかと判断した。
「おいおい・・・・なんだ、今まで泣いてなかったのに・・・」
「ははは、人に会ってほっとしたんだろ。人気のない通路で心細かったんだろ?な?」
少尉と呼ばれた少し年配の男もイザムに歩み寄り、頭をぐりぐりと撫でて笑いかけた。
「悪かったな、いきなり怒鳴って。ツアーグループのことをすっかり忘れてたよ。ん?おじさんが怖いか?ははは、こうみえてもおじさんにもちょうどキミくらいの子供がいるんだよ。女の子だが。」
「おじさん・・にも?」
「ああ。」
泣きはらした顔で、イザムはようやく言葉を口にした。
「ここは宇宙ステーションだ。キミくらいの背でも、大人の場合もあるんでな、きつい言葉で呼び止めて悪かった。」
「ぼくくらいでも大人の人なんているの?」
「ああ、そうだ。宇宙にはいろんな種族が存在する。背格好で一概に子供だと判断できなくてね。」
「ふ〜〜ん・・・」
「はは、どうやら落ち着いたようだな。ケイン二等兵、親御さんも心配しているだろう。見学グループまで連れていってやれ。」
「はい、少尉。」

ケインと呼ばれた若い男に付き添われながら、イザムは必死になって考えていた。
(どうしよう・・このままだと見学者の中の子供だってことがばれちゃう。それに・・・戦闘機は・・・・)
「あ、あの・・見学コースにスターシップ格納庫は入ってるの?」
「ああ、そうか、坊や、スターシップが好きなんだ?」
2人は目を見合わせ、にやりとする。
「しかも・・キミが一番好きなのは・・・戦闘機・・だろ?」
「うん!ぴんぽ〜〜ん!」
「ははは、そうだよな、カッコいいもんな。かくいうオレだって戦闘機に憧れて軍に志望したんだからな。」
「そうなんだ。」
「見学コースには入ってないはずだ。坊主、格納庫を探して見学コースを外れてうろちょろしてたのか?」
「う、うん・・ごめんなさい。だって、ぼく、どうしても見たくって。」
「う〜〜ん・・そうだな〜〜・・・・気持ちは分からないでもないが・・・そうだ!」
「なに?」
「見学グループにキミを送っていくついでに、ちょっと寄り道してあげるよ。」
「え?いいの?」
「内緒だぜ?」
「う、うん、ありがとう、お兄さん。でも、・・お兄さん、怒られない?」
「大丈夫さ、ちょっと覗くだけだからな。キミのパパやママが心配してるだろうし。」
「ありがとう。」
「じゃ、寄り道していく分、連絡だけはしておかないとな。パパかママの名前は分かるか?」
「あ・・・・」
一難去ってまた一難。どうしようかと急いで考えを巡らせていたイザムの脳裏に、軍の受付でそのツアーの参加者の一人と思われる人のカバンについていた名札が鮮明に写った。
「スミス・・・・マイケル・スミス」
「マイケル・スミス・・よっしゃ♪いい子だ。」
ケインはリストバンドの通信機をオープンにして、受付と連絡を取り、送っていくから心配しないようにと伝言を頼んだ。
「よし、これでパパもママも安心して見学を続けられる。キミは、あこがれの戦闘機を見られる。」
「うん!」
「オレの名前はもう分かってるよな、ケインだ。キミは?」
「あ、ぼく、イザム。」
「イザムか。よし!あんまり寄り道に時間を食うとオレも怒られてしまうからな、急ぐぞ!走れるか?」
「うん!」

そうして、イザムは、ケインに連れられ、戦闘機の格納庫へと来ていた。
(でも、これからどうしよう?)
いかにも嬉しそうな表情をつくり、時には感嘆の声を上げ、わざとケインに注意されたりもして、イザムは戦闘機を見てまわりながら、考える。
「よ〜〜し、さー、気がすんだだろ?じゃ、パパんところへ行こうぜ。」
「う、うん。」
イザムはまだいい案を思いつかないうちに、見学ツアー参加者の一団が視野に入ってきた。
「なんだ、ケイン、こんなところにいたのか?班全員で飲みに行こうって話が決まってさ、探してたんだぜ・・・って・・あれ?」
と、ちょうどタイミング良く、同僚らしい若い男がケインの姿を見つけて走り寄ってきた。
「あ、あの・・・後はぼく一人で大丈夫ですから。ありがとうございました。」
ぺこりと丁寧にお辞儀をしたイザムの頭をケインは少し乱暴に撫でながら言った。
「おっし!みんなから離れたことは、きちんとパパとママに謝るんだぞ。もう一人でぶらつくんじゃないぞ!」
「うん!」
にっこりと笑い、見学者の団体に走り寄っていくイザムを見送ると、ケインと男はそこを立ち去っていった。

(もう大丈夫だろうか?)
2人が立ち去ったのを最後尾付近の見学者の間に割り込んだイザムは、そっとそれを確認すると、きょろきょろと周囲を見渡す。
(ぼくが最初行った方は格納庫の方向じゃなかった。見つかったのは運が良かったと言えるけど、これからどうしよう?)
しばらく見学者の一団と一緒に進んでいたイザムは、そうしているうちに休憩を取ったカフェルームで、隅の一角にあった空調ダクトの口に気付く。
(ひょっとしたら、格納庫へもつながっているかも知れない。)
そう思ったイザムは、後先の事も考えず、周囲の様子をうかがいながら、誰も見ていない瞬間そっとその中へ身を滑り込ませた。



イラスト by COSMOSさん



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