Stardust Stargazer
−星屑(ほしくず) 星見人(ほしみびと)−


 
その4・少年イザム 

  

  「で、戻ってどうする気だ?」
「助けるんだ!」
「誰を?」
「マイを・・・ぼくの姉さんを!」
「マイ・・・姉さんをか?」
「そうだ!早くしないと船ごと破壊されてしまう!」
「いやだと言ったら?」
「そんな事、言わせない!」
ぐいっと少年はベルトを引くのと同時に、くくくっと小さな笑い声がイガラから漏れた。
「な、なんだよ?」
「ははは・・・・それで締め上げてるつもりか、小僧!」
イガラの大きな手が、少年の頭をわしづかみした次の瞬間、少年の体は空に放り投げられていた。
「度胸だけは認めてやろう。だが、度胸だけじゃ世の中渡っていけねーぜ。」
床に全身を打ち付けられた少年の目に、巻き付いているそのベルトをほんの少し力を入れただけで簡単にぶち切ったイガラの顔が写っていた。
「オレの首を絞めるつもりなら、せめて水牛用のぶっとい金属チェーンにでもするんだな。まー、それでも、通用するかどうか保証はしないが。」
にやっと笑ったイガラの大きな手が、再び少年に延び、少年は覚悟を決めて目を閉じる・・・・振りをして、その手を思いっきり噛んだ。
「ぃてっぇ〜〜!!な、何しやがる、この小僧!!」
噛まれた手を大きく振り回すイガラ。が、少年は離すものかと言わんばかりの険しい目でひたすら噛みついていた。

「ったく・・・・負けたぜ、坊主。」
にやりと笑いイガラは続けた。
「だが、残念ながら戻るつもりはない。今更戻ったところで、おめーの姉貴は生きちゃいねーだろうしな。」
「生きてるよっ!マイが・・マイが死ぬもんかっ!ぼくを置いて一人死ぬなんてしないよ!ずっと・・ずっとぼくと一緒にいるって・・・・・・何があっても、ぼくを守ってくれるって・・マイは・・・マイ・・は・・・・・・・」
イガラの手から口を離した少年の瞳は涙を溢れさせ始めていた。
「だから、お願いだよ、船を・・船を・・・・・」
すがりつくような瞳で乞う少年を、イガラは鼻先で笑った。
「そうかい、そこまで言うならそうしてやらねーこともないが。で?報酬は?」
「あ・・・そ、それは・・・・・・」
一瞬喜びで輝いた少年の表情が再び陰る。
「話にならねーな、坊主。オレは正義の味方じゃねーんだぜ。どっちかというと、そのまるっきり反対でな。」

『艦長、ステーション・キオノスを4時方向に補足したにゃ。』
インターフォンからフェムーンの声がした。
「よし。寄港許可が下り次第、ポートに入る。」
「艦長?あなたは艦長さんなの?・・なら、命令できるよね、寄港しないで、船首を来た方向に・・・」
「坊主、頭に乗るのもいいかげんにしとけ!貴様に指図されるいわれなんてこれっぽっちもねーんだぞ。命を助けてやっただけでもありがたいと思え。そうだな・・・どうしても助けたきゃ、船でも1隻ぶんどって自分で行くんだな。キオノスには軍施設もある。自動操舵システム搭載の小型戦闘機なら行き先を言うだけで目的地まで飛んでくれるぞ。後、敵と立ち向かうにはパイロットの腕が必要になるが。出来るか、坊主に?」
「出来なくてもやらなくちゃならないんだ!!」
「ほう・・・なかなかいい面構えだ。さっきといい、今といい。」
きっと彼を見据えて叫んだ少年を、イガラは面白そうに見つめる。
「いいだろう、キオノスに着いたら降ろしてやろう。その後は、いいか、オレの知ったこっちゃない。軍施設に忍び込むなんざ、命がいくつあっても足りないんだぜ。セキュリティーロボの標的になるのがオチだ。それでも行くか?」
「行くっ!」


どうせその前に警備兵に捕まり、施設行きになるだろう、そう判断したイガラは、ステーションポートに少年を降ろすと、その辺りの店で手に入るような簡単なガイドマップを少年に手渡して、軍エリアへの方向を教えて別れた。
これで厄介払いができ、ちょうどいいとばかりに少年を放った。


それから数十分後、そのイガラの思惑は大きく外れ、幼いゆえに、少年は簡単に軍施設内に入っていた。
感がいいというのかなんなのか、立派な身なりの人物を見計って、そのすぐ後に付き従い、少年は堂々と警備兵に敬礼までして入ったのである。
当の人物は、平行して歩いている同僚との会話に集中していて、後から、さも息子のような顔をしてついてきている少年に気付かなかったのである。


そして、少年の探索が始まった。
施設内のことはガイドマップになど描いてあるわけはない。少年は自分の感だけを頼りに、スターシップの格納庫へ急いだ。
「待ってて、マイ。最新鋭の戦闘機でキミのところへ戻るから!」


感が頼りだから、果たして格納庫へ向かっているのかどうかも分からなかったが、複雑に延びている通路を兵士に見つからないよう身を潜めながら、ひたすら進み、とあるエリアまで来た少年は、自分の感に間違いないことを確信した。(その確信も感なのだが)



イラスト by COSMOSさん



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