S O S!


*そ の 2(完)*


バナーナ星人とオーレンジ星人

 「な、なんだってんだ?急に?」
「ど、どうしたの?」
つい先ほどまでの友好的な雰囲気は何処へやら。バナナたちはらんらんと目を輝かせながら2人を取り囲んだ。
「サーヤ、どうやら逃げた方がよさそうだぜ?」
ニムルがサーヤに目配せする。
「うん!」
ただならぬ気配を感じていたサーヤも、そのつもりだった。このくらいの囲みなら抜ける事はできる!
2人は回りを取り囲んだバナナたちを蹴散らし、そこから逃げる事にした。
だいたい大きさが違うのだ、簡単に振り払う事が出来た2人は船に戻ろうと走りかけた。
と、その時、船の方向から1人のバナナが駆けてきて、何やら老バナナに手渡す。
老バナナはにやっと笑うと手にした物を2人に向けた。
「待ちたまえ。」
−ビビビビビ!−
逃げかけた2人の間をレーザー光線が横切り、その先の木に命中し、それは一瞬にして消滅した。
「な、なんだって?」
確か武器らしき武器は持っていなかったはずだ、と老バナナを振り返った2人は釘付けになった。その手にあったのは船のキャビネットに入っていたはずのレーザー銃。
「な・・・そ、それは、私たちの。」
2人は焦った。どうやら、ここで大騒ぎしていた間に仲間が偵察に行っていたらしい。
「こんないい物がこの世にあるとは。これでオーレンジ国だけでなく、この大陸以外の国も支配下にすることができるというものじゃ。ふぉっふぉっふぉ!」
不敵な笑いを浮かべレーザーのボタンに指を充てながら言った。
「い、いつの間に?」
その狡猾さに呆れている2人を、老バナナの合図で他のバナナたちが縛り上げる。
「連れて行け!」

2人は縛られたまま草原を通り越し谷を渡り、彼らの寺院らしい石造りの建物の中の一室へと連れてこられた。
礼拝堂のような広い部屋の中央にある大きな円形の台の上に、2人は並んで寝かされた。
「ど、どうしようってんだ?」
さすがのニムルも緊張しているようだった。
「こんないい武器とそして実験動物。最高じゃ。」
老バナナは嬉しそうにレーザー銃を見ていた。
「な、何よ?どうするつもりなの?」
サーヤは老バナナをぎっと睨み付けた。
「おやおや、そんなに怖い顔をしなくても。ただわしらバナーナ人の未来を明るくする為に、お前さん方の生殖機能や方法を研究するだけなんじゃ。オーレンジ人たちはこれ以上研究しても仕方ないからの。あの一度に複数の子供をという事はどうしてもバナーナ人には無理のようなのじゃ。その点、お前さん達は一度に1人のようじゃから、なんとかそれをわしらに応用できないものかと、の。」
「そ、そんな事、絶対無理よっ!」
サーヤは叫んだ。バナナと人間とでは違いすぎる。
老はその冷たい表情にぞっとするような笑みを浮かべて言った。
「やってみなくては分からんよ。何事も実験あるのみじゃ。ふぉっふぉっふぉっ!」
「卑怯物!ろくでなし!この・・くさったバナナ野郎っ!」
サーヤは思いのたけ罵ったが、老バナナは気にも止めず、涼しい顔をしていた。
「さてと・・男と女に別れ、その結合によって子孫を作るなどという、変わった種族は見たことがない。どのようになっておるか、じっくりと見させてもらおうかの。」
老バナナが壁のボタンを押すと、ガタンと音がし、2人を乗せた台が少しずつ下りていった。

 そこは薄暗い地下室。どうやら実験室のようだった。部屋の周囲には標本となったオーレンジ人のホルモン漬けがずらっと並んでいる。
その名前の通り直径80センチくらいの大きさのオレンジの側面一杯に顔がある。
小枝を思わせるこげ茶の細い腕、それとその丸い身体を支える為、像の足を思わせる太い足がそれぞれ2本。
が、ある者は上から半分に、ある者は真横半分に切られている。中には丁度オレンジの実のようなその赤ん坊だけのもあった。
台の上に縛りつけられた2人はどうすることも出来ない。明かりがつき、震えるサーヤの視野に、老バナナの手が延びてくるのが見えた。
「んー・・んーっ!」
麻酔薬を含ませた布が彼女の口と鼻を塞ぎ、サーヤはどうする術もなく眠りに落ちていった。


「よっ!サーヤ!」
目が覚めたサーヤが見たのはご機嫌そうなニムルの顔。
「えっ?あ、あれ?私たち助かったの?」
サーヤは慌てて回りを見渡した。そこは、バナーナ人の実験室ではなく元のメディカルルーム。
サーヤはぼんやりした頭で考えていた。あれからどうなったのだろう?
「ニムルが助けてくれたの?」
「ぷっ、わーっはっは!」
面白くて仕方がないといった感じでニムルは吹き出し大声で笑った。
「な、何よ?」
まだ訳の分からないサーヤは、不思議そうにニムルを見ていた。と、扉が開き、ドクターであるミス・ヘンリーが入ってくる。
「どお、サーヤ。気分は?」
「気分はって?えっ?いつ母船に回収されたの?」
驚いて目を丸くして聞くサーヤにドクターとニムルは顔を見合わせてくすっと笑った。
「な、何がおかしいんですか?」
真っ赤になってきつく尋ねるサーヤにドクターが笑いを堪えながら言った。
「ああ、ごめんなさい。それね・・・全部夢なの。その機械のせいなの。」
「は?」
サーヤはドクターの指した頭の上のベッドに取り付けられた機械を見た。
「こ・・これって、精神波増幅装置・・?」
「そう、またの名を仮想世界体験装置。」
ドクターは謝るように顔の前で手を合わせて言った。その横でニムルはまだ笑っている。

「ホント、楽しいよ、バナーナ人にオーレンジ人だもんな!傑作だ!」
「な・・ど、どういう事ですか、ドクター?」

サーヤがベッドに起き上がりきっとドクターを睨みつけているところに、船長のハラドが入ってきた。事の次第を把握している彼は、事情も聞かず、サーヤに言った。

「すまん、すまん、サーヤ。いやぁ、これは言わばこのラーミア号の儀式となっていてだね、誰しも最初の航海の時、丁度ホームシックになった頃、やられるんだ。」
船長もバツが悪そうに頭をかきながら言った。
「はあ?」
サーヤは呆気にとられて船長を見ていた。

「俺も前の航海の時やられたんだ。だけど、サーヤの発想って面白いな!だいたい故郷の星とか家族や友人が出てくるもんなんだそうだけどさ、バナーナ人だもんな!サーヤ、いくら船には果物のストックがないからって、あんな発想するか、普通?余程果物が食べたかったんだな!全く食い意地の張った奴だ!」
ニムルがからかうようにサーヤに言った。

ようやくサーヤは理解できた。今まであった事が全て、自分自身が作りだしていた架空の世界だったことを。そして、初めの頃、どうしてニムルが『お前ってこういう趣味?』と言ったのか。

「ごめんなさいね、この機械があなたの脳波と同調した時、その世界の設定ができあがるようになってるの。で、危険な事態に陥らないように、もう一人あなたと一緒にこの世界を体験できる人がいるわけ。それと言うのも、精神的圧迫だけで、時としては死亡するケースもあるからなの。で、今回のサポーターはニムルだったけれど。これも慣習に従っているのよ。」
すまなそうにドクターが謝る。
「な・・何でこんな慣習があるんですか?」
恥ずかしさで真っ赤になりながらサーヤは船長を睨んだ。
「ま、まぁ、何でと言われても困るんだが、定着してしまっていて・・だな・・」
船長は一つ大きく咳払いをすると続けた。
「つ、つまりだね・・宇宙はとてつもなく広い、そしてその航海は非常事態とならない限り単純な物なんだ。任務に付いている限り、気を抜くことはできない。が、その単調さでついつい気が緩んでしまったり、里心がついて何も手に付かなくなる事もある。だから、時には・・その・・ピリッとした刺激が必要なんだ。それを・・」
「つまり、気分転換ってわけなんですか?で、でもそれって・・・ほ、他のみんなも見てたって事ですか?」
サーヤは真っ赤になって焦った。
「そういうことになる。」
サーヤは呆れ返っていた。それまで畏敬の念を抱いていた船長が、その船長のイメージがガラガラと音をたてて崩れていく。

「悪気はないのよ、サーヤ。」
ドクターヘンリーが苦笑いをしながらサーヤの肩を軽く叩いた。
「わ、悪気はないって・・そ、そんなあ・・わ、私は必死で・・・そ、それをみんな面白がって見てたと言うんですか?」
「それを言われると・・・言い訳のしようがないけれど・・でも活性剤にはなるのよ。誰も笑う人はいないし、かえってあなたの事を受け入れやすくなるのよ。つまり・・これであなたも完全にこのラーミア号の一員、家族って事になるのよ。」

そう言えば、この船に乗る前、確か一風変わった新入りの歓迎会があるって聞いた事があったと思い出したサーヤだった。が、まさかこんなのだとは思いもしなかった。
「さあ、これからあなたの歓迎パーティーが開かれるのよ!楽しみましょう!」

サーヤがベッドから下りるのを手伝いながらドクターが微笑んだ。
「ニムルの時はどんなだったの?」
ニムルには何となくいつまでもからかわれそうで、自分が知らないなんて不公平だと思ったサーヤはニムルを睨むようにして言った。
「あ・・お、俺の時?・・・えっとぉ・・・」
焦って視線を逸らすニムルを尻目にドクターがそっとサーヤに耳打ちした。
「後で見せてあげるわ。」
「はーい、お願いします。」

サーヤはこれで平等だ、からかわれないぞ、と安心する。あの焦り方からいくとニムルの場合も結構期待できそうだと思ったのだ。
「それにね、次の時はあなたが一緒に体験できるのよ。」
それは面白そうだ、今から楽しみだ、といたずらっぽく目を輝かせながら船長の差し出したその大きな手を力一杯握り、サーヤは握手した。
「どうやら許してもらえたようだな?」
「はい!でも、できたら他の人のも見たいんですが。」
「はっはっはっ!少しずつデータライブラリから見たまえ。パスワードをそれぞれ本人から聞かなくてはならないが、なかなか面白いぞ!」
「はいっ!」
そして船長は今一度サーヤの手を握りしめるとにこやかに言った。
「改めて・・ラーミア号へようこそ!ここは君の第二の故郷となるだろう!」



** 終わり **





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