S O S!


*そ の 1*



   

 『緊急警報・非常事態。繰り返します、非常事態。B級宇宙嵐と遭遇、回避不能。これよりディバイド航行に移ります。各自ポッドに着席の事。繰り返します・・・』
宇宙船ラーミア号内の各非常警報がけたたましく鳴り響き、ランプが点滅する。コンピュータによる女性音の警報が繰り返し船内に響き渡る。ラーミア号船長ハラドは遭遇してしまったガス塊の宇宙嵐を最短距離で横切るべく、その巨大な船体を各パートに別れて航行することを決断した。

 ナース見習いとして初めてこの船に乗り込んでいたサーヤ・コルハートは焦った。彼女にとって憧れの宇宙に出たその最初の航海で、最も危険とされる宇宙嵐と遭遇してしまったのだ。それも、ディバイド航行に移らなければならない程強力な宇宙嵐に。何もかも初めてでこんな事など予想だにしていなかったサーヤはメディカルルームで呆然としていた。

「何してるんだ、サーヤ?!早くこっちへ!」
丁度治療に来ていたエンジニア助手のニムルが彼女の手を引っ張りメディカルルーム奥にあるポッドへと駆け込んだ。
「ぼやっとしてるんじゃないぞ!」
「ご、ごめんなさい。」
ポッドは二人用となっている。サーヤはシートに腰掛け、ベルトをかけながら謝った。キリーもシートにかけその身を固定していた。「気を引き締めろ。ポッドの中とはいえ、ガス塊を回避する時の回転によるGは、生半可なもんじゃないぞ。」
「はい。」

サーヤは緊張していた。宇宙嵐と遭遇したとき、その被害を最小にするためにこの航行が取られるときがある、それは、巨体な船体そのままだともろに受けてしまうガス塊を、各ユニットに別れてやりすごそうというものだ。
そして、宇宙嵐を無事通過できた時点で再び各ユニットは合体し再び一隻の宇宙船となる。
とは言っても予定通りには行かないもので、全てのユニットが無事合体できるとは言えなかった。各ユニットはお互い信号音でその場所を確認し合いながら自動制御で航行するのだが、嵐の為コースを逸れる場合もある。それ以外は、それら楕円形の細長い繭形をした小艇はガス塊を避けながらひたすら直進するのである。乗船している人間はその衝撃や重圧を最小限に抑える為のポッドに入っている。それがなければとても人間に耐えられるものではないのである。

「ぐっ・・・」
回転による、そして衝突時のスピードダウンによる重圧は次々とサーヤたちを襲った。
(なんで、こんな事にならなくちゃいけないのよぉ?初めての航海で宇宙嵐なんて、運が悪すぎるぅ・・・・)
サーヤは、押し潰され、失神してしまいそうな重圧と襲ってくる吐き気と戦いながら、運の悪い自分を呪っていた。
(き、筋肉が、身体がバラバラになりそう・・・も・・もう・・・・・ダメ・・・)
いつしかサーヤは気を失っていた。

「大丈夫か?」
サーヤが気がついた時、その目には心配そうに覗き込んだニムルの顔があった。
「ニ、ニムル・・も、もう抜け出たの?」
サーヤは慌ててベルトを外しながらニムルに聞いた。
「あ、ああ。嵐からは出たんだが・・・」
ニムルは覗き込んだ顔をポッドの外に向けた。その顔は困惑した顔つきだった。
「じゃ、もういいんでしょ?」
まだ少し吐き気を覚えながらサーヤは立ち上がる。
「いいんだが・・・・」

ドアを開けメディカルルームに出た。が、そこからは出れなかった。ドアはしっかりロックされたままだ。ということは、とサーヤは考えながら後ろにいるニムルを振り返った。
「そうなんだ。俺たち2人は、どこかの星に漂着したって事。」
「え、えーっ!」
思わず彼女は大声を上げた。つまり、それは元の艦には戻れず、このユニットだけ迷子になった事を意味するのだった。
「大気は異常無い。外には出れるが・・」
「が・・?」
「場所が分からない。加えて通信装置は着陸のショックで壊れている。」
「な・・・・」
サーヤは言葉が出なかった。
「母船がこいつの軌跡を辿って、何とか見つけてくれればいいんだが・・・。いつの事だか。只でさえ予定より遅れていたからな。商売の方を優先するだろう。メディカルルームだって第1と第2があるんだ。1つくらいなくてもどおって事ないからな。多分後回しになるだろう。」
「じゃ、じゃ・・・・」
サーヤは焦りまくっていた。ニムルと2人きりだというのに、それもいつまでなのかわからない、通信手段もない、外に出れるのはよかったとしても、絶望的だった。
「ちょうど地球のような感じの惑星でよかったよ。太陽は2つあるけどな。」
「ニムルはもう見てきたの?」
「ああ、一応、近くをな。」
「人類は?」
「いや、まだ分からない。とにかく食料もそうない事だ。こうしてても何も始まらない。付近の探検とでも行こうか?」
「う、うん。」

ニムルはサーヤと同じようにまだ見習い、本人はこの言い方を嫌い『助手』と言えとサーヤには言っていたが、エンジニアの助手で、サーヤより一航海先輩だった。が、彼女が乗船してきた時から何かに付けてはからかいに来ていた彼を、サーヤは一番嫌い苦手としていた。
「よりによってニムルと一緒なんてぇ・・」
溜息をつきながらハッチを開け外へ出たサーヤの目に飛び込んだのは、緑一杯の森とさらさら流れる小川だった。小艇は小川を横切るように、小川のほとりの崖にその頭を突っ込んでいた。

「わあ・・・綺麗!」
思わず胸に手を組み、サーヤは感嘆の声を上げた。
「綺麗だろ?まるで、大昔の地球みたいだ。緑の森、透き通った小川、真っ青な空。空気も旨いし、何とも言えない、いい気分だろ?」
サーヤの後に続いて小艇からでてきたニムルが回りを見渡しながら言った。
「うん。」

サーヤはつい先程の文句も忘れ、その気持ちのよい空気を胸一杯に吸い込んだ。
「本当にいい気持ち。ビデオデータライブラリでしか見たことないような所が本当にあるなんて。私の育った星、キルホフは荒れ地と砂漠ばかりだったから。」
「そうだったな、サーヤはキルホフのドームコロニー出身だったな。俺も似たようなもんだ。ジュール星だからな。」
ニムルもサーヤと同じようにその新鮮な空気で胸を満たすと、故郷を思い出すように言った。
「そう、何にもない所だけど、やっぱりこうして宇宙に出ると懐かしく思うわ。思い出が一杯あるから。」
「何だ?ホームシックか?」
ニムルが少し馬鹿にしたような顔つきをしてサーヤを見た。
「ち、違うわよっ!ただ・・ただここと比べて思い出しただけよっ!」
慌ててサーヤはニムルの視線を避けると森に入ってみようと足を進めた。
「そう・・・でっか・・・」
ニムルはそんなサーヤににやっとすると彼女の後をゆっくり追うのだった。

−ガサガサッ−
森を進んで行くと前方で何やら音がした。
「な・・何かしら?」
サーヤはびくっとして足を止める。
「待ってろ、俺が見てくる。」
彼女の後を歩いていたニムルが真剣な表情で音のした所の様子を見に行った。
「な・・・」
「どうしたの?」
一言何か言いかけて止めたニムルにサーヤは何があったのだろうと近づいた。
「な・・なーに、あれ?」

ニムルの肩ごしにサーヤが見たものは、なんとバナナの一団だった。が、ただのバナナではない。その大きさはサーヤの身長の半分くらい、それぞれ細い手足が2つずつあり、そしてその下から3分の1くらいの所に顔もあった。
黄色い身体(顔)に小枝のように細い真っ黒の手足に、同じように真っ黒い眉、鼻筋、目、そして、唇だけが赤い。
「ぷっ・・・お前ってこういう趣味?」
笑いを堪えきれず、ニムルは笑いだした。
何故ニムルがそんな事を言うのか分からないサーヤは、一瞬何を言ってるのかとは思った。
が、そんな事より目の前に広がる光景にすっかり気を取られ、ただ呆れ返ってそのバナナたちを見ていた。

 全部で7人(?)のバナナの一団はそんな2人に気付くと近づいてきた。
「こんにちは。ご旅行の方ですか?」
その中で一際大きく太い眉毛をした鋭い目のバナナが、明らかに男性と分かる声で言った。
「こ、言葉をしゃべった!」
ついついサーヤはすっとんきょうな声で叫んでしまった。
「言葉をしゃべったとは失礼な!」
「す、すみません。」
サーヤは自分を指さして抗議するそのバナナに頭を下げて謝った。
「ごほん・・素直でよろしい。」
「は、はあ・・・」
ニムルはサーヤとその紳士風な態度を取るバナナとのやり取りに、必死で笑いを堪えていた。
「ところでこの先に何か落ちなかったかね?」
バナナの紳士が聞いた。
「先程ものすごい大音響と共に地響きがしたので、我々がこうして調査に来たんですが。」
サーヤとニムルは目を見合わせた。ここで自分たちの船が原因なんだと言っていいかどうか思案していた。
「もしかしたら、君達の熱気球か飛行船でも墜落したのでは・・・?」
いかにも気の毒にといった表情で2人に言うそのバナナに、ごまかしは効きそうもないと判断したニムルは頷いた。
「そうなんです。俺たちの船なんです。」
船は船でも宇宙船なんだけどな。だけど、そこまで言う必要もないだろう、と思いつつ。
「そうですか。で、どうなんです?動きそうですか?私たちに何かお手伝いできる事はありますか?」
自分の推理が合っていた事で、ますます胸を(頭を)張り、バナナ氏は丁寧に言った。
「あ、ありがとうございます。」
自分たちがどういう人間なのかも分からないのに、その好意的な申し出に2人は驚きながらも胸をなで下ろしていた。
「人を疑うって事がないようだな。」
ニムルがそっとサーヤに耳打ちした。
「うん。いい人たちみたいね。」
「人って言えるならな。」
「そうね。」
サーヤはうっかり笑いだすところを、ぐっと我慢してバナナ氏を振り返った。と、その時頭を張りすぎたバナナ氏の様子がおかしくなった。

「ぐ・・・・ぐぐぐ・・・」
「た、大変だ!反り返りすぎたんだ!」
他のバナナたちが騒ぎだした。
よく見ると皮が裂けかかり、中の白いバナナの実がほんの少し見えている。
「わあーっ!」
先程のバナナ氏が後ろに倒れるとバナナたちが一斉に声を上げた。
「い、いかん・・・早産してしまうぞ!」
その中の一番小さくて髭をはやしたバナナが少し歳をとっているような声で叫んだ。
「そ、早産?」
サーヤは驚いた。バナナが、子どもを産む・・しかも確か声は男だったのにと、ただ々目の前の出来事に唖然としてニムルと突っ立っていた。
「おい、でかいの!ぼやーっとしてないで、運んでくれんかね?」
「は、はいっ!」
ニムルはそう叫ぶとバナナ氏をそっと抱き上げた。
「あ、あの、私、看護婦の卵なんです。何か私にできることは?」
バナナのお産には立ち会った事はなかったがサーヤはそう言わずにはいられなかった。
「そうか、それは好都合だ。あんたも一緒に来てくれ。」
そう言うとそのバナナの老人(?)は先に立って歩き始めた。他のバナナたちもニムルの腕の中のバナナ氏を見上げながら、小走りにその老バナナの後に続いた。

森を抜けると辺り一帯は広い草原。その草原の真ん中にある大きな木の根元まで来ると、老バナナは、そこの丁度絨毯のように生えている草の上にバナナ氏を横たえるようにニムルに言った。ニムルがそっとその上にバナナ氏を横たえると一緒にいたバナナ一同、ほっと安堵の溜息をつく。
そして2人は生まれて初めてバナナの出産に立ち会った。老バナナの指図通り、小川から水を汲んで来たり、バナナ氏の身体をさすったり、汗を拭いたり、大忙しだった。

サーヤの想像した通り、バナナの中の実が赤ん坊らしかった。バナナ氏の皮が上の方から少しずつ捲れてくる、クルクルと巻かれるようにして。当のバナナ氏は真っ赤になりながらそれでも頑張っている。

「頑張って!頑張って!」
サーヤも苦しそうなバナナ氏の汗を拭きながら必死で励ましていた。そして、ほぼ真ん中、バナナ氏の目の上辺りまで剥けてきた時、老バナナと他のバナナたちがその実を、つまり赤ん坊を引っ張り出した。その赤ん坊は真っ青でちょうどまだ熟れていない青いバナナの実のよう。その手と足はもやしのように細く、だらりと垂れていた。目も開かず、産声も上げない。そして、真っ赤だったバナナ氏には少しずつ黒い斑点ができてきた。老バナナによると、それは死の兆候だと言った。
結局、サーヤたちの必死の努力も虚しく、死産とバナナ氏の他界という最悪の結果となってしまった。

「仕方のない事なのじゃ・・・わしらはやれるだけの事はした。あんたもな。」
バナナ氏とベビーバナナの横で沈んでいるサーヤの所に来て、老バナナは言った。
「わしらバナーナ族は減る一方じゃ。隣のオーレンジ族と違って一人しか産めぬしの。最近ではわしのように産まぬまま歳をとってしまう物が多くなっておるし・・・」
「バナナ族?」
思わずサーヤが呟いた。
「バナナ?・・いや、ちょいと違うかの?」
老バナナはチッチッチッと舌鼓を打つとサーヤに訂正させた。
「バナナでなくバナァーナじゃよ。分かるかね?この違いが?」
「は、はあ・・・。」
「言ってみなされ。」
「は、はい。え、えーと、バナァーナ。」
「よろしいですじゃ。なかなかすじがいいようじゃの。」
にこにこして話す老バナナにサーヤは呆れ返っていた。

老の話によると、この星にいる種族は全て性別はなく子供を産み、そしてその者は死を迎えるという事だった。隣国のオーレンジ族もやはり自分の死と引き換えに子供を産むが、一人でだいたい少なくても4人、多くて8人という事だった。それとバナーナ族のように何かの拍子で折れて死産してしまうという事も少ないらしかった。

「おかげでわしらバナーナ族はこのレッドイエーロ大陸の片隅に追いやられてしまってのぉ・・オーレンジ族が増えるばかりじゃ。」
老バナナは大きく溜息をつくと悲しそうな顔をしていた。
「ふ〜ん・・次はオレンジ・・か。」
ついつい呟いたサーヤの声が老バナナの耳に入ったらしく、またしても大きく首を振り、何かを言いかける。そしてそれに気づいたサーヤも言う。

『オレンジではなく、オーレンジじゃ。』

「うん?」
同時にサーヤが言ったので、老バナナは一瞬その目を丸くして驚き、そして大きな声で笑いだした。
「なかなかやるのぉ、お主。ふぉーっふぉっっふぉっ!」
サーヤとニムルもお互い顔を見合わせると一緒に笑った。
「ところで、お前さんたちの種族はどうなのじゃ?身体はわしらより倍以上も大きいが、わしらバナーナ族の半分くらいの大きさのオーレンジ族がああなんじゃから・・・逆を考えてじゃなー・・もしかすると、お前さんたちは、2人で一人の子供を産むんじゃないかの?」
笑い終えると老バナナの顔は興味津々の表情でサーヤに聞いた。
「え、ええ・・・まぁ、そう言えば、そういう事になるの・・・かな?」
サーヤは何と言っていいか分からなかったが一応、そうに違いないかと思い答えた。
「といっても、一生に1人でなくて、数人は可能ね。・・もっともほしくても1人もできない人もいるけれど。」
「な、何と!産んでも死なずに済むというのかの?」
老バナナは驚きで眉毛を上げ、その目を大きく見開くと叫んだ。
「え・・ええ。余程の事がないかぎり死ぬような事はないわ。」
「おおーっ!」
老バナナと回りにいたバナナたちが一斉に叫んだ。そして何やらその老バナナが目配せすると、わらわらと2人を取り囲んだ。

バナーナ星人とオーレンジ星人



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