★☆アドベンチャー狂詩曲★☆


  第十五話 [ミルフィーは歌姫?]  


 「でも、かっこよかったわよね、さっきの。」
「ああ。」
海岸の傍の村。集会所として使っているという大きめの家で、一行は同じ囲炉裏を囲み食事を取りながらあれこれ話していた。
水蛇に斬りかかって行く前、雷を全身に浴び、手で回すその火花の輪の中のミルフィーは、とにかくかっこよかった。
その目に映った光景に相乗効果をもたらすかのようなピンと張りつめた空気と闘気。それは、フィーたちが知っている母、ミルフィーのものに間違いはなかった。
多少、そのあと、ずっこけた会話もあったとしても、出会ったときの印象から、おつりは十分くる。
「ねー、でも、カルロスおじさまだけでなく、レオン・パパやレイムもいないのね?」
リーリアがきょろきょろしながら小声で言った。
「だよな。・・・・だけど、お袋って冒険はだいたいそのメンバーだったんだろ?」
「いや、オレが知ってるミルフィーならそうだったんだが・・・」
「え?」
「なんだって?」
ターナーの言葉にフィーとリーリア、そしてミルは驚く。またしても違うミルフィーが?
「ああ、そうじゃなくてだな。」
ははは、と笑い、ターナーは続けた。
「さっきお互い自己紹介した時に言ってただろ?」
「なんだ?」
「だから、歳の話。」
「あ・・・・・・」
ターナーの言葉に彼らは全員気付く。ターナーの知ってる最後のミルフィーは、確か国から迎えに来た時。当時18歳後半〜19歳くらいのはずだった。
「20はすぎているって言ってたよな?」
フィーの言葉にリーリアとミルがこくこくと頷いて答える。
「ということは〜・・・・」
「よくあることだが、こことオレ達の世界とは時間の流れが違ってるっていうか・・・つまり、奴が向こうで一人沈んでいた時の彼女・・・か?」
奴というのは、勿論カルロスの事である。
そうならつじつまが合う。一旦は国へ帰ったものの、何らかの理由でこの世界へ来た、仲間とも別れて。
「銀龍か・・・・。」
フィーが呟くように言った言葉に、全員理由はそれなのだろうと悟る。銀龍がミルフィーの腕を欲し、この世界へ引き寄せたに違いない。


翌日、自分らが探検していた世界に帰る方法が分かるはずもなく、フィーらは、一旦ミルフィーのパーティーに加わることにして、その村を出発した。
勿論、神龍の守護騎士ラード(笑)が立ち去る事を、村人たちはこぞって残念がったが、神龍から次の目的地の命を受けた言ったラードに、反対の意を唱えられるはずもなかった。


「で、何処へ行くの?」
ガタガタガタと揺れる荷馬車の中、リーリアがミルフィーに聞く。幌はなかったが、大きめのその馬車は、ミルフィーとセイタ、そしてリーリアとミルとカノンが乗っても裕があった。勿論ターナーとラードは前に座り、交代で馬を御している。そして、シモンは別行動で同じ目的地を目指していた。
「ガンデリアと言ってね。シゼリアの国都。そこで情報を仕入れようと思ってるの。ちょと行き詰まっちゃってね。」
「調べている怪しい動き?」
「そう。何と言っても国都だから、情報の量が違うのよ。」
「国都ではね・・ううん、国都附近でもね、お姉ちゃん有名なのよ!」
「え?有名?」
「守護騎士ってばれてるのか?」
焦ったように言ったリーリアとフィーに、セイタはふふっと笑って答える。
「ううん。ミル・・あ、えっと・・・ミルフィーお姉ちゃんはねー・・・」
ミルの事を思い出し、セイタはふふっと笑った。ミルお姉ちゃんでは話が分からなくなってしまう。
「セイタちゃん?」
得意げに話そうとしたセイタをミルフィーは軽く睨んで止める。
「いいじゃない、悪い事じゃないんでしょ?ね、教えてよ、セイタちゃん?」
リーリアがいつものとごく好奇心で目を輝かせながらセイタに聞く。リーリアにとってはフィーの母親であり、あこがれているミルフィーの自分がいや、もしかしてカルロスでさえ知らないと思われる過去。せっかくこうして出会えたのに聞かない法はない。
「あのね、お姉ちゃんはねー・・・・」
ちらっとばつの悪そうなそして、恥ずかしそうな表情をして、森へと視線を流したミルフィーを見、セイタは続けた。
「歌姫なの。」
「え?」
思いがけない言葉に、頭の中が真っ白になるリーリア、そしてフィー、ミル、ターナー。
「すごいのよ〜。もうおっかけのファンがいるくらいなのよ。」
セイタは、彼らが驚くのは分かると頷きながら、くすくすっと笑って続けていた。
昨夜見た剣士としてのミルフィー、そして、今の服装や態度からは、どうあっても歌姫とイメージはあわない。それは誰でもそう感じるだろうと思えた。
「昨日や今のカッコからは、とてもじゃないけど想像できないだろうけどな。」
はっはっは!と大笑いしてラードが背中を見せたまま付け加えた。
「シゼリアは金銀宝石が眠ってるような怪しげな洞窟なんてないしな・・・魔物退治なんかの仕事だってそう大した金にならないんだ。旅を始めた当時、偶然知り合った旅芸人一座と一緒に行動しているうちにそうなっちまったんだ。・・・まったく・・・ひょうたんから駒っていうのかなんなのか・・・新天地開拓の心境だったよな、ミルフィー?」
「私もまさか歌姫なんてやるとは思わなかったわよ。・・・一座の一員としてやっても、ナイフ投げとか居合い切りなんかのつもりだったのに。」
「そうそう。団長がいやがるミルフィーにドレスを着せたんだよな。でー・・あとは、開き直ったが勝ちってやつで・・。」
「そ、それで歌姫に?」
「最初、団長が考えたのは、美女(ミルフィー)標的にしたナイフ投げだったんだけど、偶然ミルフィーの鼻歌聞いたらしくて、即変更!そういうことには目利きのいい凄腕の団長だったよな?」
「・・・・・」
面白そうに話すラードをミルフィーはその反対の不機嫌そうな顔で軽く睨んだ。
旅芸人はどの街でも村でも歓迎された。そして、胡散臭い貴族の屋敷などにもそれなりに名が通っていれば、呼ばれることもある。内情視察にはもってこいだった。

「オレ、知らないぞ?小さい頃子守歌なら聞いた覚えがあるけど・・・」
フィーを意味ありげな目つきで見たリーリアに、彼は焦ったように答えた。
「そうよね。・・・私も聞いたことないし・・・お母さんもそんなこと話してくれたことがないわ。ふふっ♪」
ミルフィーの意外な事実をまたしても知ったとリーリアは満足気に笑った。


そして・・・・
「ハイ!」
「ハ〜イ!ジャミン!どう様子は?」
「撒き餌は上々。あとは本家本元のご登場を待つばかりよ。ということで、これ!」
「え?これ?」
「そ、着替えのドレス。」
「街で調達するんじゃなかったの?」
「ダメよ、そんなんじゃ。街に入る前からそれなりにアピールしなくっちゃ。」
「そ、そんなーーー。」
「まったく!ドレスを着たがらない女の子なんて、ミルフィーくらいのものよ?」

ハコさんからいただいたジャミンです。
ようやく使える場面が・・・/^^;
いつもありがとうございます。M(_ _)M


馬車で移動を始めた4日後、街道沿いを進んでいた彼らを街の少し手前で待っていたのは、一人の女性。それは、水龍の守護騎士、通称龍騎士と呼ばれる剣士のジャミン。彼らの知っている彼女より勿論若いが、彼女を知っていたフィーとリーリアにはすぐ判断できた。ただ、騎士姿しか見たことのなかったジャミンのごく普通の女物の服装であっても目新しかった。
「ほら、そこで着替えて。そしたら、歌いながら街まで行くのよ。」
「ええ〜?」
しぶしぶ受け取ったドレスを手に、ミルフィーが嘆く。
「世の中宣伝なんですからね。多少パフォーマンスというものもしないと。」
街道脇、旅人用にところどころにある小屋で、ミルフィーは仕方なく着替えることにした。

「ちょっとジャミン!これって露出度高すぎない?」
「何言ってるのよ、国都ではそれが普通よ。それでもミルフィーの事を考えておとなしいデザインを選んできた方よ。歌姫ならもっとぐっとはだけてる方がいいとも思ったんだけどね。」
「・・・・」
返事のないミルフィーに、ジャミンは愉快そうに笑って続けた。
「それに、今回鍵を握ってるのは貴族中の大貴族なんだから、屋敷に招待したくなるようにさせなくちゃならないのよ。ぐっと迫らないと、ぐっと♪」
「楽しんでるでしょ、ジャミン?」
「きゃははっ♪ばれた?」
「もう!ジャミン、やれば?」
「あら、だめよ。私の歌なんかとても国都の男性たちを魅了しつくしてる歌姫ミルフィーのとは比べ物にならないわ。彼らが気に入ってるのは歌だけじゃないんだし?」
「・・・・・・」


(か、母さん・・・)
(ミ・・ルフィー・・)
小屋から着替えて出てきたミルフィーのその姿に、フィーもターナーも戸惑いを覚えていた。
「素敵!ミルフィー!」
「ちょっと前も後ろも開きすぎじゃない?」
「ううん、ミルフィーお姉ちゃん、とっても似合ってるよ。」
「ね、ああ言ってくれてるし。」
リーリアとセイタの言葉ににっこりとミルフィーに笑みをみせたジャミンを彼女は思わず睨んでいた。
「いつみてもこの差には脅かされるよな〜?」
「悪かったわね。いつも色気がなくて!」
「悪いと思うんなら、もう少し女らしくしろよ。」
「あなたの前で女らしくしても仕方ないでしょ?」
「なんだよ、それ?オレだってあんたなんかよりだな〜・・・」

「2人ともいい加減にしなさい!」
顔をつきあわせて怒鳴り合っていた2人は、ジャミンのきつい言葉にはっとした。
「ほら、今をときめく歌姫がそんな怒鳴ってたんじゃだめよ?そろそろ街道も人が増えてくるから。ほら、乗って乗って!出発するわよ!」
ラードは頭をかきつつ御者台に乗っているターナーの横に座り、ミルフィーは手を差し伸べたフィーの手をとって荷馬車の中に乗り込んだ。

「お姉ちゃん、歌って!」
セイタにせがまれ、ミルフィーは明るく元気な歌を唄う。
青空に溶け込んでいくような澄んだ声。聞いているだけで元気が出てくるような気がしていた。が、歌い始めたミルフィーを、ジャミンはため息をついて止める。
「ミルフィー・・・そういう歌もいいんだけど、やっぱり歌姫っていうなら恋歌よ。こ・い・う・た!それともしばらく唄わなかったから、唄えなくなったのかしら?」
ジャミンに言われ、ミルフィーは苦笑いをしてから、後ろに置いてあった胡弓を手にし、そっと目を閉じた。

−ポロン・・・−
ゆっくりと胡弓をつま弾き始め、しばらく胡弓の優しげな音が辺りに響く。そして、ゆっくりと目を開け、ミルフィーは歌い始めた。
それは、確かに愛の歌。恋しい人を想い、せつなく熱い想いを唄った乙女の恋のもの。風にのってどこまでも響いていくのではないかと思われる澄んだミルフィーの歌声に、フィーたちもいつしか引き込まれていた。

−ざわざわざわ−
街が近づくに連れ、荷馬車を遠回しにしてついてくる人々が増え始めていた。
「あれは・・歌姫のミルフィーじゃないか?」
「そうだ、ミルフィーの歌声だ。」
「帰ってきたのか?今までどこへ行ってたんだろう?」
「今回はいつまで街にはいるんだろうか?」
ぼそぼそぼそと人々の囁き声が聞こえてくる中、馬車はゆっくりと都の入口へと向かっていた。

「なー、オレたちって一緒に乗ってていいのか?」
「そう・・よね?歌姫と私たちのような冒険者じゃ・・」
フィーとリーリアが心配そうな表情でミルフィーとジャミンを見つめた。
「大丈夫よ。旅芸人の馬車には用心棒はつきものなんだから。」
「そ、そうなのか?だけど・・・」
それはそうだとしても、恋歌を歌う歌姫と同じ席にいたのでは、見た感じが悪いのでは?とフィーは思う。
「いいのよ。おかげで馬車に飛び乗ってくるバカもいないし。」
「飛び乗ってくるのか?」
「そう。油断してるとさらわれてしまうかもよ?」
「さ、さらわれ?」
「それだけ人気があるってことなんだけどね。」
「ホントの姿を知らないからな、みんな。」
−スッコーーン!−
「いてっ!」
目にも止まらない早さで、ミルフィーの投げたクルミがラードの頭にヒットしていた。


確かにせつない恋心を唄っているミルフィーからは、剣士姿の彼女など全く想像できなかった。それどころか、その衣装のせいもあるのだろうが、その雰囲気は別人かと思えるほど女性のものだった。そこには、ミルフィアを思い起こさせるような頼りなげな乙女の姿・・男なら思わず駆け寄って抱きしめたい衝動に駆られるような、抱きしめてその中でいつまでもそっと守っていたいような気にさせる雰囲気があった。

そして、事実、恋歌を唄っている時はそうだった。いつもは心の奥底へ隠すようにしまってある気持ちをその時だけミルフィーは吐き出していた。恋しくてもその人はここにはおらず、その想いも叶えられそうもない。それでも恋しいその気持ちをミルフィーは歌に乗せて吐き出す。そうしないとつぶれてしまいそうなほどの想いをミルフィーは抱えていた。つい最近気づいたその恋心は、現状ではどうしようもない想いだった。
そして、ジャミンはミルフィーの気持ちが分かっているからこそ、からかうようにして接したりしていた。恋歌を唄うことが辛いことだとは知っていても、そうすることが必要だとジャミンは判断していたし、ミルフィーもまたそんなジャミンの気持ちが分かっていた。
誰にもばれないその方法・・ミルフィーはそう思っていたが、彼女の歌を聴いた者が誰しも感じる事、それは歌姫が本当に恋をしていること。歌声に乗ったその熱く切ない想いは人々の胸を打ち、だからこそ、人気は日を追うことに、歌を唄うごとにますますあがる。

−ガラガラガラ・・・−
ガンデリアの街に入るとミルフィーたちは、そのお祭り広場の片隅、旅芸人たちが集う場所に陣取った。
「久しぶりね、ここも。」
「そうだな。半年ぶりだもんな。」
見知った旅芸人と顔を合わせ再会を喜び合うミルフィーの元を、早くもお目当ての大貴族の使用人が訪れていた。

「さっそくか?」
「そうみたいよ。以前ここにいたときは相手にされなかったのに。」
「あの時よりも男殺しの腕があがったからな?」
「え?」
意地悪そうにラードは付け加えた。
「確かに人気はあったけど、前はこれほどの雰囲気はなかったもんな。」
「え?これほどのって?」
「久しぶりに聞いたからじゃないと思うんだ。歌に感情がぐっとこもってきたっていうか・・。」
考えるようにして言ったラードに、ミルフィーはぎくっとする。
「同一人物だとは思えないくらい唄ってるときは色っぽくて、ほわ〜っとして・・」
−バシっ!−
「痛っ」
「ラードのすけべ!」
「な、・・・叩かなくてもいいだろ?」
ちょうど持っていたその招待状でラードのしまりのない顔を叩き、ミルフィーは軽い微笑みを浮かべていた。それは自嘲とも言える微笑み。
が、そんなことには全く気づかないラードは、せっかくオレとしては珍しく褒めてやったのに、とぶつぶつと文句を言う。
「移動よ。屋敷へ滞在するように、ですって。」
「けっ!偉そうに。そう言えば、誰でも喜んでしっぽ振ると思ってやがるんだからな、貴族様なんてものは。気を付けろよ、ミルフィー。油断すると襲われるぞ?」
「虎穴に入らずんば、虎児を得ず!探りをいれるにはもってこいよ。」
「それはそうだけど・・・」
軽く笑い流し、さっさと荷馬車のところへ戻るミルフィーを、ラードは慌てて追いかけた。


注:この話は『金の涙銀の雫』本編とは関係ありません。
強いて言えば、パラレル金銀ワールド(笑



♪Thank you so much!(^-^)♪

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