★☆アドベンチャー狂詩曲★☆


  第十三話 [炎の中の再会と別れ(1)]  


 町中を探してもレオンたちの泊まっている宿が分からず、いい加減諦めてその町を離れようかと決めたその日の昼頃、宿を出ようとしていたフィーたちがいるところに、一人の男が息を切らして駆け込んできた。
「大変だ!子爵邸でなにやらどんぱちやってるぞ?!」
「本当か、それは?」
「あ、ああ。」
咄嗟にその男に駆け寄って聞いたフィーに、彼は多少驚きながらも答えた。
「子爵って、あの胡散臭い?」
「ああ、そうだ。腰の重いお役人がようやくその気になったらしい。」
フィー、リーリア、そしてターナーの3人はぎくっとして視線を合わせた。
−ダダダッ−
言葉を交わすわけでもなく、彼らは宿を飛び出す。
「すまん!後で返す!」
ちょうど通りかかった通行人から無理矢理馬を借りると4人は子爵邸へと跳ばした。


その数時間前・・・・子爵邸の中へ入っていくレオンとミルフィーの姿があった。
勿論ミルフィアと再び入れ替わったミルフィーであり、それは、レオンの決死の覚悟による荒療治のたまものだった。(謎)

「本当に大丈夫だろうな?途中でミルフィアに替わったなんてことになっちまったら?」
「大丈夫だって。そんなことは・・・たぶんない。」
女装したミルフィーが、心配そうに聞くレオンに小声で答えていた。
一時的にミルフィアと入れ替わったきっかけは、ミルとのことに悩み、終わりにした方がいいと決心した事から、どういうわけかそうなったのだとミルフィーは判断していた。
終わりにした方がいいという自分と、全て話してしまおうとする自分との間で、迷いに迷っていた弱い自分が、ミルフィアに頼ってしまったのかもしれない、と思っていた。


会場に案内され、踊りの輪の中に入り、パートナーが変わる。そして、曲が終わると同時にそれぞれのパートナーと一緒にその場を離れた。
レオンは、3人ほどの男たちが待つ広間の一角に設けられたテーブルに。ミルフィーは一緒に踊った男に庭へと連れ出されていた。


「あの・・・私の連れは・・・」
「ああ、彼でしたら、今頃話が進んでいるのではないでしょうか?」
その庭の奥にあった2部屋のみの小さな建物の中の1室に案内されたミルフィーは、そこまで来る途中、コシューマン子爵と名乗ったその男に聞いてみる。
子爵はミルフィーと同じテーブルに付くと、ワインをすすめ、しばらくじっとミルフィーを見つめていた。
「あの・・・何か?」
「あ・・いえ、あなたがあまりにもお美しいものですから。」
ぞぞ〜〜・・・ミルフィーの全身を悪寒が走った。子爵の外見が悪いというわけではなかったが、ともかくミルフィーは男なのである。そんなことを言われていい気がするはずはない。

「あ・・・でも、少し時間がかかりすぎなのでは?」
じっとミルフィーを見つめたまま、何も言わないコシューマンに、それ以上じっとしていられなくなったミルフィーが聞く。
「ああ、そのようにお急ぎになられなくとも大丈夫ですよ。話はきっと上手くいっていることでしょう。」
「それならいいのですけど・・・・。」

「それよりも・・・」
(きたきたっ!)
立ち上がったコシューマンに、思わず心の中で叫んでミルフィーは全身で警戒していた。つくづくミルフィアでなくてよかったと思いながら。
「あなたのような方が身分証明の偽造を求められるとは・・・・」
にこっと微笑んだコシューマンに、ミルフィーは再び悪寒を感じて身震いする。
「我が国は大事ないのですが、ここのところあちこちで戦が起こっているとか耳にします。もしや、あなたは、そのどちらかかの国から亡命される王族の姫君なのではありませんか?」
「え?」
ミルフィーにとっては突拍子もない考えだった。が、どこから見ても貴婦人に見えるミルフィーを見てそう思うのも当然と言えた。
偽造書を依頼するのでなければ、蹴り上げて逃げたかったが、そうもいかない。ミルフィーはどうしたものか、とすっかり困っていた。
「どうでしょう?私に良い提案があるのですが。」
「提案?」
王族の姫などではないと言っても全く信用せず、コシューマンは良策というものを口にする。
「海を渡って見知らぬ土地などへ行かれるより、ここに留まられては?」
「え?」
「身分証明も偽造ではなく、本物を手に入れられてはいかがでしょう?」
「本物?」
「そうです。本物です。」
そっと横のイスに腰かけると、コシューマンはミルフィーの手を取る。
「私の妻としてここに。」
(げげーーー・・・・・)
悪寒が駆け抜け、蕁麻疹がどばっと出た。
(ま、まだ話はついてないのか?・・いつまで待てばいいんだ?)
ミルフィーは困惑していた。
「どのような追っ手が来ようとこの私が必ず守ってさしげます。ですから・・・」
ざっと勢いよく立ち上がり、ミルフィーはコシューマンの手を振りほどいて数歩離れる。
「わ、私にはすでに夫がございます。」
「ご夫君が?・・・・もしや、ご一緒にいらした男性が?」
「そ、そうです。」
コシューマンはにっこりと笑いを浮かべると、ミルフィーにゆっくりと近づく。
「あなたほどのお美しい方に、ご夫君がいないという方がおかしいというものです。しかし、私は一向に構いません。」
(こ、こっちは構うんだっ!)
夫がいるといえば、引くだろうと思っていたミルフィーは焦る。
(やっぱ、この手の男はそのくらいでは諦めないか・・・。)
考えが甘かった、とミルフィーの焦りは増す。


と、その時外が騒がしいことに気づき、ミルフィーはバルコニーを通して外を見る。
(なんだ?・・・・舞踏会の賑やかさとは違うな・・・これは、ひょっとして・・・?)
コシューマンはにやりとして外に気を取られているミルフィーに数歩近づく。
「レディー、今日から私があなたの夫として・・・」
−パッコ〜〜ン!−
「いっ?!」
「そのまま死んでろ!この、すけべ野郎!」
予想通り、しっぽを現した一味とフィーたちが一騒動起こしたのだと判断したミルフィーは、コシューマンに勢いよくヒールを蹴りつけていた。
「・・・とはいえ・・この格好じゃーな。」
コシューマンが完全に気を失っているのを確認したミルフィーは呟く。
剣は念じれば出すことができるが、ドレスでは動きにくい。ミルフィーはもう片方のパンプスをぽいっと脱ぐと隣の部屋へいく。
「げ・・・・寝室じゃないか・・・。」
(あっぶね〜〜・・・・こうやっていつも女を餌食にしてるのか?)
そう思いながら、ミルフィーはそこにあったドレッサーに男物の服を見つけてほっとする。

−コトン−
ミルフィーが着替えようとした時、すぐ外で物音がした。
「ん?」
着替えの最中に飛び込まれでもしたらちょっとやばいかも?と思い、ミルフィーは念のため外へとでる。
「あ!ミルフィー!」
「なんだ、レイムじゃないか?」
「よかった、ミルフィー。他の女性が閉じこめられていた部屋に姿が見えなかったので心配したんですよ。」
「誰を?」
「誰って・・ミルフィーを・・・あ、あは・・・そんな必要ないですよね?あはは・・」
「ったりめーだ!・・・って、やっぱここは悪党の巣窟だったってわけか?」
「そうなんですよ。やはり人買いもやってたみたいですよ。男は殺すかいいとこ奴隷でしょうね。」
今の貴婦人の姿に、その口調は全くあわない、とそのギャップに心の中で苦笑いしながら、レイミアスは答える。
「なるほどな。だけど、やっぱ、そうこなくっちゃ面白くないよな?」
「面白くないって・・・ミ、ミルフィー・・・・」
「・・・あ!危ないっ!」
−スッコーーン!−
レイミアスを追いかけてきた男に、ミルフィーは少し前に脱ぎ捨てたパンプスを勢いよく投げつけた。
「ナイス!」
倒れた男をみて、あはは、とレイミアスは笑う。
「お!そうだ、ちょうどいい。」
「え?何がです?」
屋敷の方ではまだ大騒ぎしていた。
「役人の手入れでもあったのか?」
「ええ、そうらしいです。」
「楽しそうだな。オレもこうしちゃいられないな。」
「ミルフィー!」
「固いこと言うなって!じゃー、ちょっとここで見張っててくれ。」
「え?見張る?」
「そうだ。覗くんじゃないぞ?」
「あ・・・・・・」
中へ入っていったミルフィーのあとについていこうとして、振り返ったミルフィーに睨まれて何をするのか分かったレイミアスは真っ赤になって立ち止まった。

「おっ!レイム、こんなところにいたのか?」
「ああ、レオン。」
「ミルフィーは見つかったか?」
「はい、あっ、でも・・・」
レイミアスの言葉を最後まで聞かず、中だと判断して入っていこうとしたレオンを、レイミアスはすんでの所で止めた。
「殺されますよ?」
「へ?」
「待たせたな!」
その時運良く、ミルフィーが部屋から出てくる。
「あ・・・・な、なんだ。」
男物の服装のミルフィーに、レオンはなぜレイミアスが止めたのかが分かって照れ笑いする。
「あ、危ねー・・・・もうちょっと早かったら、これだったな。」
笑いながら首をすっと切るジェスチャーをしたレオンに、レイミアスも笑いを返していた。

「やってる、やってる!」
奥まったところにあったその建物から屋敷の方へ急ぐと、そこはまさに戦場。
きゅうくつなドレスに身を包んでいたミルフィーは、その窮屈さから介抱された喜びで、水を得た魚のようにいきいきと戦闘の中へと入っていった。


「あ・・・・」
「ミル・・・・」
敵との戦闘の最中、レオンたちとははぐれ、ミルフィーは駆けつけてきたミルと屋敷の一角で出会っていた。ミルフィーを見たその瞬間、ミルは、それがミルフィアではなくミルフィーだと感じていた。
2人は、しばらく戦闘中であったことも忘れ、言葉もなく見つめていた。お互い言葉が見つからず困って立ちつくしていた。

「あ、あの・・・・」
−ズズ・・・ン・・・ズン!・・・−
ようやくミルが何か言おうとしたとき、近くで爆発が聞こえ、びくっとしてその方面を見る。
−ズズン・・・・・−
続いて起きる爆発音に、悪い予感が2人の脳裏をかすめる。
「ここはやばいかもな?」
ミルフィーの言葉に、ミルはうなずく。
「でやーーー!」
−キン!−
その場を後にしようとしたミルフィーとミルに執拗に敵は襲ってくる。

−ズ、ズーーーン!ゴアッ!−
「火が!」
襲ってくる敵を払っているうちに、周りは火の海になっていた。
「ミルフィー・・・」
「大丈夫だ・・・このくらいの火なら・・・」
−ズズズン・・ドン!−
建物を、地を響かせて火の手は勢いよく広がって来ていた。
「やばいな・・・・火薬庫でもあったのか?」
ミルフィーの感が危険だと頭の中で叫んでいた。
「ともかくここから出ないと!」
−ゴゴォ〜ッ!−
ミルの手を握り急いでその場を離れようと、部屋からでたミルフィーは、その火の勢いに驚く。
「う・・・すごい火の手だ。・・・ミル、こっちだっ!」
「は、はいっ!」


火の手の少しでも弱いところを見定めて、ミルフィーはミルと共に出口を探して走っていた。


−ズズズ・・・・ン!ー
「まずいっ!」
すぐ後ろで爆発があった。ミルフィーは前を走らせているミルの事だけが心配だった。
−ズズン!−
その間も炎はものすごい勢いで膨れ上がり、そして、爆発が続く。
「う・・・これは・・・・」
炎に追いかけられ走っていた通路、その一角に火薬が積み上げてあった。
「な、なんでこんなところにあるんだ?・・・・これに引火したら・・・」
「ミルフィー!」
「急ぐぞ、ミルっ!これだけのものが爆発したらひとたまりもない!」
「はいっ!」
2人は必至に走った。迫り来る炎から逃れるため、そして、それがもうじき起こすであろう大爆発に巻き込まれない為に。
−ズズズ・・・・・・−
(ダメだっ!間に合わないっ!)
背後で火薬に引火しつつある爆発音が聞こえていた。
−ゴゴゴ・・・・−
2人を飲み込まんとその熱い手を伸ばしてくる炎の中、ミルフィーは、前を走らせているミルだけを見つめていた。
せめてミルだけでも助けたい、ミルフィーの頭にはそれしかなかった。
(剣よ・・・・頼む、風を起こしてくれ・・・風を〜〜〜〜!!!)
心の中で叫びながら、ミルフィーは必至の願いを込めて、空を大きく斬った。
−ドォ〜〜ン!・・ドド〜〜ン!・・ごごぉ〜〜〜〜〜・・・−
大爆発の中、確かにミルフィーの起こした風は、ミルの身体を勢い良く前へと押し出した。


**(2)へ**



♪Thank you so much!(^-^)♪

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