★☆アドベンチャー狂詩曲★☆


  第十二話 [目覚めたミルフィア・・ミルフィーは?]  
カルチャーショック第2段

 翌朝、フィーたちは全員いつものように朝食を取るため食堂に集まってきていた。
「あれ?珍しいですね、ミルフィー、いつも早いのに。」
レイミアスが不思議そうに食堂内を見渡す。他の宿泊客に紛れ込んでいるというわけでもなかった。確か庭にもどこにも姿はみえなかったと思い起こす。
「昨日市場で剣を出しすぎたんだろ?」
「え?」
その事を知らなかったレオンとレイミアスにターナーは笑いながら簡単に話した。
「ターナーたち・・・見てたんだ。」
「ああ・・いい雰囲気だったんでな・・・声をかけそびれた。」
「あ・・」
意地悪っぽく笑ったターナーの言葉に真っ赤になってミルはうつむいた。
「それで、疲れてまだ寝てるんでしょうか?」
「そうじゃないか?まったく、あいつの後先考えずに行動するのは、今更始まったことじゃないが・・・・」
見てこようとレオンが立ち上がった時、戸口にミルフィーの姿が見えた。
「ようやく寝ぼすけのご登場か?」
笑ってミルフィーを見たレオンの表情が、少しずつ変わっていった。
そこにいたミルフィーは、いつもと様子が異なっていた。元気はつらつのオーラというのだろうか、自然と人の目を引き、その明るさと元気さが見ている方に流れ込んでくるような気はなかった。
心細そうに立っているその姿は、いつものミルフィーと全く違う人物にもみえた。
(まさか!)
焦りながらレオンはミルフィーに近づく。そして、それを見ていたレイミアスもガタン!とイスを蹴るようにして立ち上がって走り寄っていく。
そして、フィーらは、おかしいと思いながらもそのままじっと3人を見つめていた。

「レオン・・・・さん?」
「・・・まさか・・・ミルフィア・・・?」
「そうよね?フィーのお友達の・・・」
頷くレオンにミルフィアはほっとして微笑む。
「あ・・・よかった・・・・・・知らない人ばかりでどうしようかと思ってたの・・・・私・・・・。」
夢幻の館の夢の中で一度会ったきりのミルフィアとレオン。それでもミルフィアは少しだけだったが、レオンの記憶があった。
「で、ミルフィーは?」
小声で聞いたレオンに、ミルフィアは力無く首を横に振る。
「とにかく食事を・・・お腹すいてるだろ?」
「あ・・・え、ええ・・・。」
テーブルに着かせようとしてレオンはフィーらの顔を見て一瞬戸惑う。
「レオン・・・」
「ああ。」
レオンは、やはり心配そうな表情で近づいてきたレイミアスを、ミルフィーと自分の友人であり冒険仲間だと簡単に紹介し、レイミアスに他のテーブルに彼女を連れていかせた。

「ふ〜っ・・・・」
まだ共に行動するようになってから日は浅い。できれば話さずにおきたかったが、この展開だとそうもいかなかった。レオンは大きくため息をつくとフィーらの待つテーブルへと重い足を運んだ。


「で?結局妹の身体に2人の心が混在してて、今までは兄のミルフィーで、どういうわけか目覚めたら、妹のミルフィアと入れ替わってたってわけか?」
それまでに、ミルフィーの事はいろいろ憶測していたので、その事は承知していたが、知らないことになっている為、ターナーが代表してレオンの話をまとめて確認する。
「ああ、そうだ。信じられないような話だが。」

全員、レイミアスがミルフィアの世話をあれこれやいているところを見ていた。
はにかみ、戸惑いながらもレイミアスに微笑みながら食事を取っているその様子から、その小さな仕草一つとってもまるっきり別人だった。いかにも華奢な少女といった形容があっていた。

(母さん・・・)
それが本当の母なのだろうか?と思わずフィーは考えていた。そして他の誰もがそう思っていた。今までのミルフィーとだけでなく、フィーの母、ミルフィーとも全くの別人のように感じられていた。確かに笑顔は面影はあったが、全体的な雰囲気はまるっきり異なっていた。そこに絶対的な自信があるという事と、それがまだないという事からくる違いなのか?とも彼らは考えていた。
が、確かに、今目にしている少女には、とてもではないが、剣を持って戦うと言うようなことは考えられなかった。それだけでなく、こうした生活でさえ、耐えられないのではないか、と思われるような感じを受けていた。
そして、それでもその運命に立ち向かっていかなくてはならない?・・・今日がそのきっかけだったのか?とフィーは思う。そして、では、兄の心はどこへ行ったのか?再び戻ったのかあるいは・・・?

−ガタン!−
「ミル!」
ミルも同じ思いだった。目の前のか弱い少女が兄の身体を探し、慣れない剣を手にして魔物に立ち向かっていく、それを考えたらたまらなくなっていた。ミルフィーが消えた事にショックを感じていたが、それよりも、その事に対するショックの方が大きかった。
立ち上がってそこを離れようとするミルをフィーは止めようと同じく立ち上がる。

「フィ、フィー・・・?」
その彼女の前に、レイミアスが少し目を離したすきにレオンの傍に行こうとしていたミルフィアがいた。
ミルの顔を見て、ミルフィアはその瞬間嬉しさで顔をほころばし、次に、どうやら違うらしいと感じ、ゆっくりと青ざめていった。
「ミルフィア。」
慌てて近寄ったレオンを見上げ、ミルフィアは小さく呟く。
「違う・・・のね?・・・」
悲しみで震えていたその声は、それまでの声より少し高いように思えた。おそらく、それまで兄の心が影響していたのだろうと彼らは思った。
「あ・・・」
瞳にたまってきた涙をそれでも堪えようと、ミルフィアは両手で顔を覆う。
「ミルフィア。」
慌てて駆け寄ってきたレイミアスと共に、レオンは、ミルフィアの肩にそっと手を添え、彼女を包み込むようにして部屋へと連れていった。


残ったフィーらに言葉はなかった。ミルも力無くイスに座り、じっと考え込んでいた。いや、何も考えていなかったと言った方があっていたかもしれない。


それから、2、3日、レオンら3人とフィーら4人は行動を別にしていた。が、どうしてもミルフィアをフィーらの目は追ってしまっていた。
まるで壊れ物でも扱うかのようにミルフィアに接するレオンとレイミアス。そして、やはり彼女は大切に育てられた王女様なのだ、と再認識していた。どう考えても剣を持って立ち向かっていけるとは思えなかった。


「王女様?」
「あ、ああ・・そんな感じを受けるんだが。」
一人でいたレオンを見つけたフィーとリーリアは聞いてみる。
「うーーん・・・あまり話したくないんだが・・・・」
ぼりぼりと頭をかくレオンを2人は真剣な表情で見つめていた。
「内情はあまりオレも詳しくは知らないんだ。だけど、幼いときから2人だけだったということと・・・・・山奥の田舎の領主の子供だったような事は聞いたな。」
話さずにおくことはできそうもないと判断したレオンがしぶしぶ口にした。
「どこの国なの?」
レオンは肩をすくめてリーリアに苦笑いしながら答えた。
「さ〜?オレもそこまでは。あまり話したがらなくてな。」
冒険家とはそんなものだろ?と付け加えたレオンに、2人はそれ以上聞くことは断念した。
様々な人種が様々な過去を背負って世界各地を渡り歩いている。例え気があった者とでも、簡単には話さないし、聞くこともしない、それが、冒険家でもあった。
必要なら、そのうち話してくれる。無理矢理聞き出すことはしない、それが常識だった。


「レオン!」
「あ、ああ・・ミルフィア・・」
そんなところへ話題の人物が走り寄ってきていた。
「見て!私、短剣を握れるようになったの。」
「へ?」
後ろに回していた手を前に出して見せた彼女の手には、確かに短剣があった。
「すごいな。」
「でしょう?・・・これで1歩近づいたのよね、私。」
「あ、ああ・・・・。」
「私、レイムにも見せてきます。」
にこっと微笑んでから駆けていくミルフィアを、弱々しい微笑みでレオンは見送っていた。
「短剣を握れるって?」
握ることくらいできて当然じゃないか、というようなフィーとリーリアの目に、レオンは悲しげな表情をする。
「ちょっとトラウマっていうのかな、心に受けた傷だな・・・事件があって、刃物という刃物に恐怖を感じるらしくて、見るのもだめだったんだ。」
「え?」
「最初は食事の時のナイフでさえ、真っ青になって震えてたんだ。」
「そんな・・・一体何があったの?」
「兄の身体をさらわれたということもそれと関係あるのか?」
リーリアとフィーの言葉に、ふっと笑ったレオンの表情は悲しみで曇っていた。
「それでも、ミルフィアは前進しようと決めたんだ。先は長いがな。」
2人の質問には答えず、レオンはミルフィアの駆けていった廊下を見ながら言った。
今ミルフィーを失うことは、レオンたちにとってこれ以上ない痛烈な打撃だった。リーダーとも言える剣士を失い、それでも、魔王に立ち向かっていかなくてはならない。いっそ元の世界へ戻ることは諦めてここで平和に暮らそうか、という考えもおきたが、もしもの時は、と言ったミルフィーの言葉に従ってそうするのはいいとして、レイミアスの村の問題があった。そして、一言もそれを言わず、ミルフィアを第一に考えているレイミアスの心中を考えても、なんとかしなくては、とレオンは思っていた。それに、ミルフィーを見捨てることなどしたくもなかった。
そして、ミルフィアは・・・病弱で屋敷から1歩も出たこともなかったか弱い少女も、それを決心していた。たとえ、どんなにそれが険しく困難だろうと、背は向けたくない、それがレオンとレイミアスに言った彼女の決意だった。
「フィーができたんですもの・・・フィーが弱かった私の身体を鍛えてくれたんですもの・・私にもできるはずよ、きっと。だから、レオンさん・・・・お願い、力になって。足ばかり引っ張ってしまうでしょうけど・・でも、私・・・レオンさんに断られたら・・・私・・・」
決意を口にした時のミルフィアの真剣な表情を、レオンは思い出していた。そのまま抱きしめて、出来ることなら、そんな事は忘れさせてやりたかった。


男のようなミルフィー、実は心は兄だったが、それにも知っているミルフィーとのギャップにショックを受けたフィーたちだったが、今度は、あまりにも華奢な少女のミルフィア
に、また一段とショックを受けていた。
そして、そのミルフィアが本当の母ミルフィーの若い頃だと思ったのは当然の事だった。


「どうする?」
「どうするって・・・・・」
全員集まってフィーたちは今後のことを相談していた。
そして、誰もが思っていた。無視してここで別れることはできないと。彼らは、ミルフィアに今にも倒れてしまいそうな危うさを感じていた。彼女の瞳には、必至になっている想いが写っていた。誰かにすがりつきたいのを必至になって我慢しているのだ、と感じていた。痛々しいほどに。


「だいぶ根を詰めてるみたいだな、大丈夫か?」
「え?」
それから3日がたち、普通の剣を握ることができるようになっていたミルフィアは、レオンとの剣の稽古の合間、裏庭の木陰のベンチに一人座ってぼんやりしていた。
「あなたは・・確かターナーさん・・・?」
「ターナーでいい。」
ターナーは少し間をおき、ミルフィアの横へ腰掛ける。彼らフィーのパーティーの事はレオンから聞いていたミルフィアは、ターナーを見る。
「さすがだな、身体は覚えてると言うか・・。」
「そうですね。フィーが・・あ、いえ、ミルフィーがここまで鍛えてくれたおかげです。」
少し寂しそうな微笑みで答えたミルフィアに、ターナーはじ〜〜んとして見つめていた。
実際、攻撃を避ける動きは確かだった。ミルフィーの培った反射神経は、心が入れ替わっても確かに機能を果たしていた。が・・・攻撃するとなるとやはりそうもいかないようだったが。

「あんたは・・・オレが怖くないのか?」
しばらく沈黙していた後、ターナーが聞く。大柄であり、剣法家として鍛えたその筋肉質の身体と、ごつい顔は、普通の少女なら引くはずだったことを彼は思い出していた。
「あ、いえ・・・ミルフィーとしばらく一緒だったと聞きましたし、そうですね、確かにすごい身体だとは思いますけど、でも・・」
「でも?」
「ターナーさんの目を見ていると、とてもやさしそうで、かわいいって言うんでしょうか?」
「か、かわいい?」
笑顔で自分を見つめながらミルフィアが口にしたその言葉に、ターナーは驚いて思わずうわずった声をあげる。
「あ・・・ご、ごめんなさい。男の人にそんな形容は失礼ですよね。」
「あ、いや。」
「分かるんです、悪い人じゃないって。」
「そ、そうか?」
「現に今、私を心配してくださったのでしょう?」
「あ・・・ま、まー・・・・」
その風貌に似合わず、ターナーは赤くなって頭をかく。

「ターナー!」
不意に目の前に飛び出してきたフィーに、ミルフィアもターナーも驚いて彼を見つめる。
「どういうつもりだよ?!」
きつくターナーを睨むフィーに、ミルフィアは驚いていた。
「どういうって・・・別に。」
フィーの言葉に弾かれたように立ち上がってターナーは言葉を濁らす。
「あ、ターナーさんは私を心配してくださったんです。えーと・・あなたがフィーさんでしたわね?」
「あ、ああ。」
ミルフィアの横に座っているのがターナーだと分かった瞬間、思わず2人の前に飛び出していたフィーは、落ち着いたミルフィアのその声にようやく我を取り戻していた。
つまり、母の一大事だ!と、かーっと頭に血が上ってしまったわけである。
「あ!」
パン!とミルフィアが手を叩いてフィーを見つめる。その瞳は期待に輝いていた。
「な、何か?」
「フィーさん、剣士でしたわよね?」
「あ、ああ。」
「私に教えていただけないかしら?」
「は?」
「本当は剣士に教えて貰った方がいいってレオンさんもおっしゃってました。下手に習うと下手が移るとかいうからって。」
別にいやではなかったが、ついなんとなく即答できなかったフィーに、ミルフィアは気を回した。
「あ・・そ、そうですよね、ようやく剣が握れるようになったばかりの私になんて・・・・」
「あ!い、いや・・そうじゃなくて・・。」
慌ててそれを訂正しようとするフィーに、ミルフィアは小さく首を横に振りながら、立ち上がる。
「いいんです。すみません、失礼な事をお願いしてしまって。」

「ミルフィア!」
「レオン!」
宿から出てきたレオンの姿を見つけ、少し悲しげになっていたミルフィアの表情が明るくなる。
「町に出ないか?」
「え?いいの?」
「たまには気晴らしも必要だからな。」
「はいっ!」
嬉しそうにレオンと並んで立ち去っていくミルフィアを見つめているフィーにターナーがぼそっと言った。
「オレとの事を心配するより、彼女の事をもっと考えてやれ。・・オレは、あんな彼女が見ていられなかっただけだ。あんたが考えてるような事は思っちゃいない。」
慣れない剣を必至になって使いこなそうとしているミルフィアに、なぜ快く返事してやらなかったんだ?というターナーの視線に、フィーはなぜ即答しなかったのだろう、と沈んでいた。


そして、ミルフィアを連れたレオンとレイミアスは、その宿へは帰って来なかった。
一緒にいると同行すると言いかねないフィーらに、レオンが遠慮しての事だった。




♪Thank you so much!(^-^)♪

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