★☆アドベンチャー狂詩曲★☆


  第十一話 [剣聖、憤死?]  


 「さ〜、寄ってらっしゃい♪見てらっしゃい♪不思議なくらいよく切れる包丁だよ、見てらっしゃい♪」
−ざわざわがやがや・・・・−
朝市、数多く出ている出店の一つのテントの中にミルフィーは立っていた。
「そして、取り出したるは、朝露したたる取り立てのキュウリ。ついさっき取れたばかりの新鮮キュウリ。これがまたおいしいんだよ、お嬢さん♪」
バチっとサクラとして店の前に立っているミルにウインクする。
「サクッと包丁を入れると、みずみずしさがまた一段と分かるんだよね、お客さん?!」
トトトトト!とミルフィーは軽やかにキュウリを輪切りにしていく。
そして、目にも留まらない早さでそれを前列で見ている客の口に投げ込む。
−シュシュシュッ・・・ぱくっ!もごっ!むぐっ!−
「どう、お客さん、お味は?」
「うん・・もごもご・・おいしいよ、とってもジューシーで・・・カリ・・・」
「だろ?なんといってもハンナ農場の野菜は最高だからね。愛情たっぷり、お日様たっぷりで最高な味さ♪」
「にーちゃん、オレに10本おくれ。」
「にーさん、私も5本ばかり。」
「ありがとうございっ!」
「にーちゃん、こっちも!」
「はいよ、注文は横にいるハンナばーちゃんに言ってくれ。オレは宣伝担当だからな。」
「にーちゃん、他には?」
「そうだな、じゃ、お次は、やっぱり取り立ての甘くておいしいトマト!ハンナ農場の特級品だよ?このツヤの良さ!栄養もたっぷり♪」
ストトトトと切ってまた客の口に投げ込んでいく。
その見事さに、いつの間にかテントの前には黒山の人だかりができていた。
時には高くジャンプして、時にはくるっと回転しながらのそのパフォーマンスに、見物人たちはやんややんやの大喝采。


その日の早朝、野菜を満載した荷車の車輪がぬかるみにはまって困っていた老婆を、通りかかったミルフィーとミル、そしてカノンが見つけ、ついでだからといってミルフィーが手伝いを申し出たことから始まった。

「にーちゃん、にーちゃん・・・・」
「ん?」
隣のテントの初老の男が、一息ついているミルフィーに声をかける。
「すまんが、オレのところのもやってくれんか?」
木こりらしいその男の店は、山で拾ってきた小枝や、薪などちょっとした木材などが置いてあった。
「暖かくなったらさっぱりで・・・・」
それでも煮炊きには、必要となる薪。細めのものは売れていたが、太いものとなると、家で割らなくてはならない。その手が掛かることが面倒なのか、売れ残っていた。
「おっけー♪お安いご用さ。」

そして、再びミルフィーの口上(?)が始まった。
「さ〜、寄ってらっしゃい。見てらっしゃい。薪は生活の必需品!煮炊きにお風呂に暖房・・・あ、それはもうよかったな。とにかく必要な薪だ!これがなくっちゃ、お風呂がなくっちゃ1日は終わらない。・・・あ!そこの奥さん!薪はまだ買ってないと見た!どう?一縛り?」
「それはわかるけどさー・・もう太いのしかないじゃないか?・・・面倒なんだよねー。あたしにゃ無理だし、亭主もちょっと腰を悪くしてね。」
中年の女が、丸太をちらっと見て呟いた。
「そういういお客さんの為に、今日は大奮発!お好きな大きさ太さに割る大サービス付き!」
そして、ぽいっと空へ丸太を1つ空へ放り投げる。
−シュパッ!−
斧の形に練りだした剣(?)で、それを真っ二つに寸断する。
そして、ヒョイッ!スパン!、ヒョイッ!スパン!、と鮮やかに割り続ける。
あっと言う間に丸太一縛りが、薪の小山となる。
「おお〜〜〜!!!」
手にしていたのは柄も含めて20cmほどの小さな斧。それなのに、その切れ味もさることながら、ひょいひょいっと踊るように、そして、お手玉でもしているように割っていくミルフィーのその技に、人々は目を丸くして感心していた。

「・・・・・剣聖が、泣いてる・・よな?」
「ああ・・・泣いてるなんてもんじゃないだろ?」
「憤死してるかもよ?」
ちょうどそれを目にしていたフィー、ターナー、そしてリーリアは、あきれ返ってため息をついていた。
神龍の剣を使って店屋の呼び込み・・・そして、ついには、やんややんやの喝采と共に市場の一角での大道芸となっていった。
ある時はナイフ、ある時は包丁、ある時は斧、そして、ある時は短剣と、手品のようにミルフィーの手から出現するそれらに、人々は目を丸くし、見事な剣(?)さばきに感嘆の声をあげ、拍手喝采していた。
ちなみに、糸を売ってくれ、と頼まれたときには・・なんと針として練りだし、前列にいた男の裾のほつれを縫ったりした。

「器用ね〜・・・ミルフィーって、お買い得かも。」
「え?」
「だって、あの包丁さばきからいくとお料理もできそうじゃない?それから裁縫も、勿論薪割りだって・・・その他あれこれ任せられそう。ぐいぐい引っ張っていってくれそうだし。食べるには困らないみたいだし。」
見物している人々の間を回り、ご祝儀を受け取っているカノンの帽子は・・・硬貨や紙幣で山盛りになっていた。
「世間ずれした王子様だな・・・。」
「ぷっ・・・・あはははは!」
リーリアはターナーのその言葉に、思わず吹き出していた。


そして、その日の市が終わり、ミルフィーとミルとカノン3人は後片づけをしていた。
「今日は本当に助かったよ。ありがとう、兄ちゃん。」
「あ、いや、オレも楽しませてもらったから。」
「あんたたちのおかげであのままだったら腐ってしまうところだった野菜もすっかり売れたよ。」
にこにこ顔でハンナは礼を言った。
「毎週日曜日にでも来たらどうだい?普段より人手が増すから実入りもいいよ。」
「あ・・・そ、そうだね。」
頭をかいてミルフィーは照れる。
「それから、これはみんなからのお礼。」
「あ!い、いいよ、オレ、結構儲けさせてもらったからさ。」
お金が入っていると思われた紙袋を差し出したハンナに、カノンの持つ袋を目で指してミルフィーは笑う。それはカノンの帽子山盛りになっていた見物人からのご祝儀を入れた袋。
「ああ、そう言うと思ってね。こっちはほんの気もちだけなんだわ。」
「こっちは?」
にこっと笑ったハンナは、ミルフィーの横を指した。
そこには、ミルフィーが手伝った人たちからのお礼。そこで取り扱ってるものをそれぞれ少しずつ乗せた小さめの荷車があった。
「荷車は明日にでもここの総元締めのところへ戻しておいてくれればいいから。」
翌日は市場は休みだったが、市場の総元締めはそこの商店街に店を構えている。
「あ・・でも・・・」
「いいから、いいから!みんなからのお礼だよ。それじゃー、これは・・・・」
ミルフィーに断られた紙袋を、ハンナは、カノンの手をとって渡す。
「これで何かいいものを、パパとママに買っておもらい。」
「うん、ありがと〜。」
「え?」
「は?」
その言葉に、ミルフィーとミルは目が点状態になった。
(『パパ』と・・・『ママ』・・・・)
思わず2人とも頭の中でその言葉を反復する。
「あ、ばーちゃん、違うんだって!」
慌ててミルフィーが言い訳をする。
「照れなくってもいいんだよ、兄ちゃん!人を好きになるのに年齢は関係ないってね。若くたって本物は本物なんだから。その証拠にあんたは立派に家族を養ってるじゃないか?」
「だ、だから・・ばーちゃん!」
訂正しようとしたミルフィーの言葉には全く耳を傾けていないハンナはミルににこっと微笑む。
「若いのになかなか見上げた兄ちゃんだ。苦労も多いだろうが、離すんじゃないよ?」
そして彼女の耳元で、ハンナは小声で付け加える。
「どうだい?この町に落ち着いて、そろそろ二人目なんてさ?」
答えに困り、ミルは真っ赤になったまま突っ立っていた。


市場の人たちの目に、3人は、若い夫婦と子どもに見えたらしかった。
一緒に食事をと誘われたが、家族だと頭から信じ込んでいる彼らに、ミルフィーは這々の体でそれを断って、市場を後にした。何度訂正しても、「照れなくっていいんだって!」という言葉とともに、ミルフィーはバンバン!と勢いよく背中を叩かれた。それは、頑張るんだよ、という彼らからの励まし。

「ご、ごめん・・・・」
「う、ううん・・・・」
カノンを上に乗せ、ミルフィーは荷車を引きながら、並んで歩くミルに言いにくそうに話しかけた。
「いったいカノンのこといくつだと思ったのかな?」
「カノン、ばーちゃんに4つ?ってきかれたの〜。」
「そ、そうなのか?」
「うん、そうなの〜。」
「で、カノンはどう答えたんだ?」
「うん。ばーちゃんのにこにこ顔みてたら、カノン、うんっ!って言っちゃったの〜。」
「お・・おいおい・・・・・」
カノンを振り返ってミルフィーは苦笑いする。
「でも・・・4つとしても合わないわよね?」
「そ、そうだよな・・・いくらなんでも・・・あはは・・。」
かと言え、年齢など外見で正確に判断できるものでもない。市場の人たちが、そう思ったのもうなずけることでもあった。
そうして3人で帰る姿は、どうみても仲の良い親子の光景だった。


「オレは・・・どうしたいんだ?・・・どうすれば・・いい?・・・・・・」
その夜、みんなが寝静まった後、一人裏庭で考え込むミルフィーの姿があった。




♪Thank you so much!(^-^)♪

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