★☆アドベンチャー狂詩曲★☆


  第十話 [お手をどうぞ♪]  


 「子爵のパーティー?」
宿の裏庭でミルフィー、レオン、レイミアスそしてミルの4人が話していた。
「そうなんだ。その闇屋が言うには、どうやら経済的に火の車の子爵が偽造師を匿っているらしいんだ。子爵の顔や伝で客を得るって寸法らしい。」
「で、その子爵とはどうすれば会えるんだ?」
「ああ・・・それが問題なんだ。」
「問題?」
「つまり、子爵は人相の悪い奴を屋敷へ入れて、疑われてもいけないということでな・・・その交渉から取引まで舞踏会でするそうなんだ。」
「舞踏会・・・・。」
レオンとレイミアスは顔を見合わせる。
「武器は一切持ち込み禁止だそうだ。」
「なるほど・・・。」
「必ず女性同伴。」
「そこまでしなきゃらならいのか?」
「ダンスの時、パートナーが代わるだろ?」
「あ、ああ。」
「その時第一回目の交渉があるんだとさ。」
「つまり・・・パートナーは・・・いわゆる人質?」
「多分な。」
「そこで相手が信用できるかどうかみて、話にのるかどうするかを判断するんだろ?」
「だけど、そのパートナーの女性もそれなりの心得があったら?」
「多勢に無勢だろ?武器もないんだし。」
「あ・・そうか・・・・。」
「ちょうど2週間後にあるらしい。その機会を逃すと2月後だって言ってたな。」
「で、それに出席するには?」
「一応招待状はもらってきた。」
レオンはミルフィーが差し出した封筒を開けて中を見る。
「・・・なるほど・・・で、それはいいとして、誰が行くんだ?」
「ん。・・それで考えていたんだけどさ。向こうもこっちを用心してるかもしれないが、こっちだって向こうを100%信用してるわけじゃない。」
「そうだよな。」
「そうなんですか?」
レイミアスの言葉に、ミルフィーとレオンはぎょっとして彼を見つめる。
「あ、あは・・・だって、こっちが信用しなければ、信用してもらえるものももらえないと思ったんですけど・・・・・・・違ってます?」
は〜っとレオンが大きくため息をついてレイミアスに言う。
「いいか、相手は海千山千の闇屋と偽造師とそのスポンサー、いや、大家だ。何を考えてるかわかりゃしないんだぞ?」
「そう。そういう名目で客を招待し、女だけ拐かして男は用無し、ってこともありうるさ。」
「あ・・・」
ミルフィーの言葉でレイミアスはようやくはっとする。
「そ、そうですよね・・・・そういうことも、確かに考えられます・・・ね。」
「だから、問題はそこなんだ。」
「だよな?」
「男の方はいいとして・・・・」
「お前が行くのか?」
「当たり前だろ?」
当然と言った表情のミルフィーをしばらく見ていたレオンにいい考えが浮かぶ。
「いや、それよりいい組み合わせがある!これならどっちも心配いらない。」
「なんだ?」
レオンはミルフィーの顔を見てにやっと笑う。
「ば、バカ言えっ!な、なんでオレが女で行かなきゃならないんだよ?!」
その表情で、レオンが何を言いたいのかすぐ分かったミルフィーは顔を赤くして怒鳴る。
「あんたなら相手がどんな奴だろうとねじ伏せるだろ?で、フィーと一緒なら、心配なしだろ?」
「ターナーは?」
「・・・あいつが踊れると思うか?」
ミルフィーとレイミアスとミルはレオンのその言葉に、ふるふると首を振る。いざとなった時、武器なしで戦うにはターナーがうってつけの役だとは思うが、ダンスができるとは思えないし、舞踏会とは到底合いそうもない。
「まー、そういう事もあって舞踏会なんだろ?ある程度その時点で人物を限定できるからな。」
「なかなか知能犯だな。」
「まーな。即、品評会で品定めができるしな。」
「品評会?」
「女のな。」
「あ、・・・・そ、そっか。」
ミルフィーに言われ、ミルは顔が熱くなるのを感じて、慌ててうつむいた。
「だから、その気なら、即取引に持ち込むことにできるわけだ。・・・客が期待した取引ではなく・・・・そっちの方のな。」
「じゃー、ますますあんたが行くべきだろ、ミルフィー?」
「だから、行くって言ってるだろ?」
「男としてじゃーダメなんだって!」
「なんでそうなるんだよ?」
怒鳴るミルフィーに、レオンは涼しい顔をして笑みを見せる。
「ミルフィーなら何人かかってこようとやられやしないだろ?」
「ああ、もちろんだ。」
「剣だって・・・小さいが、いざとなりゃ出せるよな?」
「ああ。」
「踊れるだろ?」
「あ、ああ。」
「じゃ、決まり!」
「おい!」
「男の方はやっぱりフィーだよな?どう考えても?」
それはここまで一緒に旅をしてきた途中での魔物や獣との戦いで分かっていた。
「あ・・私じゃだめ?」
「は?」
「私だってフィーには負けないわ。だから、ミルフィーと私でちょうどいいでしょ?」
「・・・・と・・・」
3人は、じっと見つめてミルフィーの返事を待っているミルをじっと見つめていた。
「君の腕は認めるけど・・・」
「大丈夫!いざとなったら相手の武器を奪ってやるから。それに、そうなると決まってるわけでもないんでしょ?」
「だけどなー・・・・」
「ミルフィーが一緒だし。大丈夫!絶対!・・そうでしょ、ミルフィー?」
「そ、そりゃ・・・何があってもオレがそんな事にはさせないけど・・・」
「じゃ、私とミルフィーに決まり!」
「だけど・・」
「え?・・ミルフィーは女の子一人も守れないの?守れる自信がないの?」
「そ、そんなことはないっ!」
・・・・決まったな・・・、とレイミアスとレオンは顔を見合わせて苦笑いをしていた。
「なかなかやりますね、彼女。」
「ああ、そうだな・・・・ツボを心得てるっていうか、なんて言うか・・・。」
「ああ言われてミルフィーが引き下がるわけないですもんね?」
「そうそう。ついでに女装しなくてもいいことだしな。」
「な、なに、2人でこそこそ言ってんだよ?」
「あ、いや、別に。」
少し顔を赤くして小さく怒鳴ったミルフィーに、2人は涼しい顔で答えた。
「ぼくたちも屋敷の外で待機していてはどうでしょう?」
「外、なんて言わずに忍び込んでいればいいのさ。」
「あ!そ、そうですよね?そうですよ!」
目を輝かせてはっとしたように言ったレイミアスに、3人は笑っていた。

そして・・・・・話が決まってから、実は踊れない事を言いにくそうにうち明けたミルの猛特訓が翌日から始まった。
踊れるのは、ミルフィーとフィーの2人のみ。レオンの最初の提案通りの組み合わせでいけば、すんなり収まることだったのだが、どうしても女装はいやだというミルフィーと、何が何でも踊れるようになるからミルフィーと行かせて!と譲らなかったミルに押し切られた形となった。


「フィーったら!」
「・・・・・・・」
話が決まったその日から早々裏庭でダンスの稽古をする2人を、いや、ミルを、フィーはじっと窓から見つめていた。そのフィーをリーリアが横からからかう。
「まったく・・・・誰よ?他の男なんて見つめさせないって言ったのは?」
「・・・・仕方ないだろ?」
「もう!」

「でも・・・お似合いよね。リードも上手だし。動きに無駄がないっていうのかしら・・・ううん、洗練されてるっていうのかしら?どことなく気品が感じられて、・・・やっぱり王子様だからなのかしら?」
しばらくじっと2人を見つめていたリーリアが呟く。
ミルの手をとり、軽やかにステップを踏みながら、彼女に注ぐその視線はやさしく暖かかさに充ちていた。
「私も教えて貰いたくなっちゃった。」
「・・・・・」
フィーは、じっと2人を見つめたままのリーリアをそのままにして、そっと窓辺から離れた。


「大丈夫なのかな、ミルフィーは・・・」
その日の夜、フィーとリーリアと同じようにミルフィーの事を心配している人物が2人、裏庭でこそこそ話していた。
「どうなんでしょう?・・・ぼくは、まだミルフィーは気付いてなくて、ミルフィアに接している感じでいるのだと思うんですけど。」
「そうとも思えるけどなー・・・。」
とりもなおさずそれは、レオンとレイミアスだった。
「いいムードだろ?」
ダンスの練習の時の2人を思い出してレオンは言う。
「そ、そうですね・・・それは確かに。」
「彼女・・本気みたいだしな・・・・」
「そうですね、はっきりしてるっていうか、はっきりさせないと気が済まないような性格みたいですよね?いくら鈍感なミルフィーでも気付きますよね?」
「気付かない方がおかしいってもんじゃないのか?あそこまでミルフィー一筋なんだぞ?」
少女であるミルが行くことに心配するメンバーを、断固として説き伏せたときのミルの瞳を思い出す。そこには、誰に何と言われようと譲らないといった固い決心の光があった。
「ただ、本人に自分の気持ちを言えないところが・・・やっぱり女の子なのかな?と思うがな。」
「そうですね。ミルフィーの態度がいまいちはっきりしないし。彼女としてはきがかりですよね?」
「う〜〜ん・・・・ミルフィアとして見てるのか、それとも一人の少女として見てるのか・・・オレでもいまいち確証がないからなー・・・。」
「どっちで見てるにしてもどうしようもないだろ?」
「え?」
「は?」
不意にミルフィーの声がして、2人は横の木の茂みを見つめる。
ガサッとその茂みをかきわけると、その奥に立っていた大木にミルフィーが一人もたれていた。
「ミ、ミルフィー・・・・」
「お、お前、聞いてたのか?」
「レオンたちが後から来て話し始めたんだよ。人聞きの悪い事言うな。」
ぶすっとした表情で、ミルフィーは2人の前に出てくる。
「ミルフィー・・・お前・・・」
レオンは思わず聞こうとして口をつぐんでいた。
「気にしなくっていいさ。・・・・オレは・・・そうだな、たぶん・・・・・・・」
しばらく目を閉じていてからミルフィーはぽつんといった。
「彼女に惚れてる・・・・。」
「な?」
「え?」
悲しそうな笑顔を2人に向け、ミルフィーは付け加えた。
「意外だってんだろ?直情型のオレが思いを告げないなんて?・・・しかもそのチャンスはごろごろしてるってのに・・・。」
あ、ああ・・・とレオンは目で応えていた。
「思いを告げてどうなるんだ?」
寂しげに言ったその言葉に、2人ともぎくっとした。
「オレは・・・・今のオレはオレじゃない。・・・女の身体に男だなんて・・・・・・気味悪く思われて・・・即嫌われるだけだろ?」
「ミルフィー・・・・」
「でも、彼女はミルフィーの事を・・・」
「それがどうだってんだ?・・・・そんなの一気に冷めるさ。」
「分からないじゃありませんか?彼女も冒険家としてあちこち探検してるんです。事情を話したら、ひょっとして、一緒に探してくれるかも?」
「レイム!」
突然怒鳴ったミルフィーにレイミアスはぎくっとする。
「いつ男に戻れるか分からないんだぞ?あるのかどうかも・・・」
「で、でも、ミルフィー・・・・」
「そんな不確かなことで、彼女を引きずり込むのか?」
先の全く見えない冒険に?と悲しげに語るミルフィーの目に、レイミアスは口にしたことを後悔していた。
「・・・まだ若いんだ。先があるかどうかも分からないオレなんかより、あいつの方が・・・」
「あいつって・・・フィーか?」
フィーの態度で、彼もミルが好きなんだと3人とも気づいていた。それをぐっと押さえてミルを見守っているのだと分かっていた。
「オレより年下のくせに、なかなか出来た奴じゃないか?・・・剣の腕もそうだが、人間としても・・・。」
「年下って言っても・・・」
「ああ、1こだけだけどな。だから、オレはよけい・・・」
フィーがミルの事を思って自分の気持ちを抑えているのに、年上のミルフィーが彼女の事より自分のことを考えるわけにはいかない。同じ一人の少女を好きになった。もう一人に落ちる愛し方はしたくない、ミルフィーはそう考えていた。何よりもミルの事を考えて行動するべきだと。

「それにしては、ダンスといい、結構一緒にでかけることといい、言ってる事としてる事と違やしないか?」
レオンに指摘され、ミルフィーはばつの悪そうな顔をして言った。
「仕方ないだろ?オレは聖人君子様じゃないんだ。頭ではそう思っていても、そこはやっぱり・・・・・」
ミルと・・・彼女の傍にいたい、その気持ちは抑えきれなかった。
「だけど、そこまでだ。・・・・オレは・・・・・・フィアだと思って接するように心がけてるんだ。妹だと・・・・妹なら・・・オレは・・・・」
「・・ミルフィー・・・・」
レオンはいつもの調子でつい言ってしまったその言葉を後悔していた。言うべき言葉ではなかったとレオンはミルフィーの苦しみと悲しみが混ざったその表情を見て、気配りの足らなかった自分自身を責めていた。

いつもの彼ではないミルフィーに、レオンもレイミアスもとまどっていた。それでなくとも重荷を背負っているミルフィー。一際大きい重荷を背負ってしまったようなミルフィーに、2人はかける言葉が見つからなかった。




♪Thank you so much!(^-^)♪

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