★☆アドベンチャー狂詩曲★☆


  第九話 [初恋狂想曲・ミル&ミルフィー兄(2)]  


 −ざわざわ、がやがや・・・・−
町の一角にある朝市の通りを、カノンを肩車したミルフィーとミルは歩いていた。
「食料品だけじゃないんだな。」
「ああ、テントは食料品だけど、だいたいが店屋の通りだからな。」
しばらくそのにぎやかな通りを歩き、そして、少し奥まったところへと進んだところで、ミルフィーが立ち止まる。
「悪いけど、この辺りで待っていてくれないか?」
すとん!とカノンを降ろし、ミルフィーは、テントとテントの間から見える細い路地を指さした。
「この先の奥に行くんだ。」
「わかった。カノンとこのあたりの店屋でもみてるよ。」
「そんなに時間はかからないと思うから。」
「うん。気をつけてね、ミルフィー。」
「ああ。」
にこっと笑ってからミルフィーはカノンに視線を移す。
「カノン、あんまり遠くへ行くなよ?このあたりにいるんだぞ?」
「うん!」

路地に入っていくミルフィーを見送ってから、カノンは、軒先にテントを張り出し、軽食が取れるようになっている店でおやつタイム。そして、ミルは、近くの店をみて歩いていた。
「あ・・・これ・・・・・」
その店の軒先に下がっていた服に彼女の目がとまった。
ドレスではないが、淡いピンクの女物のそれは、男物しか身につけたことがなかったミルの気をひいた。もっとも以前の彼女なら目にも留めないだろうが。
「お!これにプレゼントか?背はどのくらいなんだ?好きな色は知ってるか?」
小指をたて、店の主人がすかさずミルに声をかける。
「あ・・・・」
ミルの顔が赤くなった。鎧はつけてないにしても、短い髪に少年の服装のミルがそう思われても当然だと思われた。
「何言ってんだよ、あんた!」
少女に見られなかったことと、彼女へのプレゼントか?と言われたことで、恥ずかしさのあまり走り去ろうとしていたミルの肩に手をかけた声があった。
「どこに目をつけてんのさ、あんたは!」
「あん?」
「あん、じゃないよっ!だから、お前さんは目がないって言うんだよ!この子が着るに決まってるだろ?ね、お嬢さん。」
「あ・・・・あの・・・・」
店の女将だったらしいその中年の女性の勢いに、ミルは押されていた。
お嬢さんと呼ばれ、ますます顔が赤くなる。
「なぜわかった、っていうような顔してるね?」
女将はミルににこやかに笑う。
「うちの宿六にゃ到底分からないだろうけどさ、そこは、ほら、女同士さ、当たり前だろ?」
そして、ミルの耳元へ口を近づける。
「いい人ができたんだろ?」
「お、おばさん・・・・」
ますます赤くなるミル。
「いいから、いいから♪あたしにも経験があるからね。ばっちりそのへんはわかるんだよ。女の子はね、誰しも恋をしてある日突然変わるのさ。」
「お前のどこがある日突然変わるような女の子だってんだ?」
「うるさいね、お前さんはあっちに行ってりゃいいんだよ!」
店の主人に睨みをきかせて追い払うと、女将はミルににっこりと笑った。
「これ、だったかい?」
ミルがみていた淡いピンクの服に手をのばす。
「あ・・・は、はい。」
「うーーん・・いいね、お似合いだよ。奥で着てごらん。」
ミルにその服をあててみた上機嫌の女将に言われ、彼女は店の奥へ入っていった。


「フィア・・・・・」
そして、用を終えて約束した場所に戻ってきたミルフィーは、女物の服を着たミルに驚いて立ち止まる。ミルフィアがいる・・・目の前に、会いたかった誰よりも愛しい妹がいた。ミルフィーはその姿に胸を熱くして見つめていた。
「に、似合わない・・・かな?」
じっと自分を見つめたまま、それ以上近づこうとも、口を開こうともしないミルフィーに不安になったミルは、小声で呟くように聞き、その瞬間、ミルフィーははっとする。
(そうだ・・・フィアじゃなかったんだ。ここに・・目の前にいるのは・・・。)
「あ、いや、似合ってるよ、とっても。」
気持ちを入れ替えてミルフィーは微笑む。
「わ〜♪ミル、きれい〜。」
「カノン。」
お腹がいっぱいになり満足して店を出たカノンが、2人を見つけて近づいてくる。
「そ、そお?」
「うん!ミル、女の子みたいなの〜。」
−がくっ・・・・−
(お、女の子なんだけどな・・・・)
思わずミルは心の中で呟いていた。
「はははっ!カノン、女の子にそんな失礼な事言っちゃだめだぞ?」
「えー?・・・じゃー、ミル、女の子だったの〜?」
「なんだ、知らなかったのか、カノン。まー、今までの格好からすれば、そう思うかもな。」
「ミルフィー、分かってたの〜?」
「あ・・そ、そうだな・・・オレは一応。」
ははは、とミルフィーは頭をかいて照れ笑いしていた。会ったときからミルフィーはミルにミルフィアを重ねてみていた。それの事から、ミルは少女なんだろうと感じていた。思いこみというものかもしれなかったが、それは、レオンやレイミアスも同じだった。

「っとっと!」
宿へ戻るため通りを歩いていたミルフィーたちの傍を、早馬が勢い良く駆け抜けていき、ミルフィーは思わずミルを壁際に移動させて庇う。
−バカラっ!バカラっ!バカラっ!−
そのすぐ横を通り過ぎていく早馬。
「なんだあれ?こんな人が多いところをあれほど疾走させなくても。」
文句をいいながら、走り去っていった馬の方角を見ているミルフィーを、ミルは頬を染めながら見つめていた。顔は通りを向いているが、ミルフィーの腕はまだミルを覆っていた。
「まったく・・・危ないよな?」
「あ、そ、そうよね。」
ミルに覆い被さるような格好になっていたにもかかわらず、ミルフィーは何事もなかったように彼女から離れる。
「あ、ありがとう。」
「は?」
「い、いま・・・私をかばってくれた・・でしょ?」
「あ、ああ・・そだっけ?・・・・あ、あはは・・・無意識ってやつだ、あはは。」
「・・・・」
少し照れているようでもあったが、明るく爽やかに笑うミルフィーに、全く意識されてないのかも?とミルは少し悲しげな笑みを返していた。


そして、その無意識のダンディー振りは・・・ミルだけでなく、フィーたちの感心も買っていた。
その日の夕方、先に宿に戻り、その食堂にいたフィーたちのところに、ミルフィーがカノンとミルを連れて戻った早々、フィーの目は、そして、意識はミルに集中した。
まず第一にミルの服装、そして、第二に、ミルフィーに少しはにかみながら話しかけている点。それはフィーの前では絶対あり得ない光景、ミルフィーの前でミルは完璧に少女していた。
−グアーーーーーン!!!−
「ちょっと、フィー!いいの?!」
そのショックは、リーリアの声も耳に入らないほど。
そして、少女のミルに対するミルフィーの無意識且つさりげない気配りが目に付いた。
彼女を守るかのように、通路側を避けさせ、それでも人とすれ違いそうになると、すっとミルを引き寄せる。そして、イスを引くことまではしないが、彼女を座らせてから横のイスに座る。それがまたなんとも自然で嫌味がなかった。

「ん?なんだ?オレ、何かしたか?」
いつものようにみんなと一緒のテーブルについたミルフィーは、自分が注目されていることに気づいて言った。
「あ、い、いや・・・別に。」
慌てて答えるフィーは・・・・焦りまくり。
が、ミルフィーはそれ以外にはいつものミルフィーだった。
レオンやレイミアスといつものように笑いながらあれこれ話している。ミルとは特別なこと、もしくはそれらしい進展はなかったんだろう、とフィーはそれで判断して、一応胸をなで下ろしたが・・・心配が消えたわけではなかった。


「んー・・・つまり、なんだな・・・」
「なんだ?」
食事を終えた後、フィーとターナーとリーリアは話し込んでいた。
「ミルの推察通りだったってことかな?」
「中身は兄?」
ターナーの言葉に、フィーが少し恨めしそうな表情で言った。
「・・・多分な。さりげない態度だが・・・女ならあんな事はしないだろ?」
「そうだよな。」
母のミルフィーはそんな事はなかったとフィーは思い出す。どちらかというと、父、カルロスはそんな感じだった。その気配りは確かに紳士の淑女に対するものだと思えた。
「だが、あの様子じゃ奴はまだ意識してないな。」
「意識してないって、ミルを?」
「ああ。」
ターナーは意地悪そうににたっとフィーに笑みを送る。
「無意識にしてるんだろうが、それはそれで、ミルを少女だと認めてる証拠だよな?」
ぎくっ・・・・フィーの全身を危機感が走る。
「お前の親父なら、ああいった態度の後に色気があるんだが、奴はさっぱりしてるというかなんというか・・。」
「い、色気?」
「そうだ。奴(カルロス)なら、引き寄せたあとじっと熱く見つめる。ぶつかりそうになったときなら、そうしたあと、大丈夫か、と囁く。そういう色気のおまけがつくんだ。」
「お、おまけ・・・」
思わずその場面を想像して納得してしまうフィー。
「普通の奴がそんなことすりゃ、滑稽だけなんだがな。」
がっはっはっ!とターナーは笑って続ける。
「ミルフィーのも嫌味が全くないからな。自然に出るってことは、やはり育った環境からなんだろうな。」
「育った環境?」
「そうだろ?お前のお袋さんが王女様なら、その兄は当然・・・」
当然王子・・・・。
「今はああして冒険者やってても、やっぱり身に付いたものはにじみ出るってことなんだろ?例え口調や態度を回りに合わせて崩したとしても。」
「だ・・だけど・・・」
「だけど?」
ミルの事ばかり気になっていて忘れていた重大な事を思い出したフィーは、はっと顔をあげる。
「今いないってことは・・・・結局、死んだんじゃないのか?」
その言葉でターナーとリーリアはぎくっとする。
「何かがあって、兄の魂がお袋の身体から離れ、お袋がそこへ戻って・・・・」

3人とも続ける言葉がないまま、そのうちターナーは寝ると言ってそこを離れた。
「フィー・・・あたしね・・」
「何?」
「もう一つ、重要なこと思い出した。」
「もう一つ?」
「そう。つまり・・・今はおばさまの身体の中にいるわけよね?」
「あ、ああ。」
「でも、本当なら男の身体があるわけよね。」
「そうだな。だから、それを探してるんだろ?」
「だから、よ。」
「え?」
「ミルの・・・お父さんってさ・・・」
「あ・・・・・・」
そこまで聞いてフィーにもようやくリーリアが何を言いたいのかが分かって青ざめる。
ターナーが立ち去ってから口を開いたのには訳があった。そこまでは彼に話してなかったのである。
魂のつながりで考えれば、ミルの父親はミルフィーとは赤の他人のキートが父親である。母親も全く関係ない。それは問題はないが、肉体、つまり一般的に血筋というもので考えると、兄ミルフィーの身体を奪って生きていたキート。彼の娘は、当然その血を引いているということになる。その証拠に、羊飼いの娘であるにもかかわらず、出会ったとき、すでにミルの剣の腕は我流で覚えたとは思えないほどのものだった。
「2人は・・・父娘?」
ややこしい話だが、事実だった。
「だけど、その事はミルだって知ってるはずだろ?」
「・・・・無意識に考えまいとしてる・・とか?」
「父親像に憧れてるだけというのは?」
「肉体は同じでも、キートさんとミルフィーって性格は違うんでしょ?・・それに、どうみても父親像を追ってというわけじゃないと思うわ。年齢から言ってそうは感じないもの。確かに顔つきはそうなんだろうけど。」
それもそうだ、とフィーも思っていた。ミルと2つしか違わないミルフィーに、父親の影を見ているはずはないだろう、と思う。たとえ、彼が過去の人物で、実際に今いれば父親と同じくらいの年齢だとしても、ミルフィーからそういうことは感じられない。それに、顔が似ているといっても、惹かれるのはやはりその心に惹かれるのだろうと2人も思っていた。きっかけはそれだったかもしれないとしても。
「でも、そうすると・・・・」
結局肉体が見つからないミルフィーは死に、ミルの恋はそこで悲しい終止符を打つことになる。たとえ、ターナーが言ったように、過去へ一緒に行ったとしても。それとも、その前に時が2人を分かつかもしれない。彼ら3人は元の時代へ戻り、ミルはここへ残る。
「フィーがぼやぼやしてるから・・・」
「そんな事言ったってだなー・・・・」
一方的な想いの押しつけはミルに嫌われる元だった。そして、まさかこんな事が起きるとも思わなかった。当分は冒険の仲間としてゆっくり時間をかけていくべきだと、そう思っていたフィーには、どうしようもないことだった。
時の女神の悪戯。肉体的には父娘である2人の魂は惹かれ合い、その先は・・・どう考えても明るくはなかった。
ターナーが言ったように、即行動に移す彼女が珍しくしばらく考えていたのもそのことなのだろうと判断できた。
時にしろ、死にしろ、どちらが2人を分かつかは分からないが、ミルはそれまで自分の心に正直に行こうと決心していた。後悔しないために。

−ダン!−
「・・・フィー・・・」
やりきれない憤りをテーブルにぶつけたフィーを、リーリアはじっと見つめていた。





♪Thank you so much!(^-^)♪

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