★☆アドベンチャー狂詩曲★☆


  第九話 [初恋狂想曲・ミル&ミルフィー兄(1)]  


 それから2週間後、一行は山を下り、海辺の町へと来ていた。
「朗報!朗報!」
「なんだ?」
「どうしたんだ?」
宿の食堂で夕食を取ろうとしていたフィー、リーリア、ターナー、そしてレオンの元へ、カノンを連れたミルフィーがレイミアスと共に、目を輝かせて駆け込んできた。
「異世界じゃなかったんだ!」
「え?」
「何?」
「ぼくたち異世界へ飛ばされたんじゃなかったんですよ!」
「ホントか、それ?」
レオンがガタッと立ち上がって叫ぶ。
「ああ、港で船員に聞いたんだ。地図を見せてもらってら、見知った大陸があったんだ。町も村も・・地名も同じだ。」
「ホ、ホントか?」
レオンの問いに、ミルフィーとレイミアスはこくこくと頷く。
「よ、よかったな、おい!」
勿論フィーたちは顔を見合わせていた。それは、確かに異世界ではなかったかもしれない。が、時が違う。その事はミルフィーたちは知らない。自分たちが未来へ来てしまっていることを。
「ん?なんだ・・・喜んでくれないのか?」
「あ、そうじゃなくて・・・・。」
「だって、そうするとお別れでしょ?」
「あ・・・・・」
リーリアの言葉にミルフィーははっとして、顔を曇らす。が、思い直す。
「だけど、別に目的はないって言ってただろ?一緒に行けないか?・・・と言っても、オレたちは魔王を倒しにいかなくちゃならなかったんだ・・・一緒は・・・無理か。」
「一緒に行くの〜。カノンも魔王を倒しにいくの〜〜。」
「オ、オレも行くっ!」
ガタッと立ち上がったのはミルだった。
そのミルは真剣な表情でミルフィーを見つめていた。
−つん!−
「な、なんだよ?」
「しっかりしなさいよ、フィー?!」
その様子に、リーリアが隣に座っていたフィーの脇腹をつつく。
「ちょっと待ってくれ。はっきりとした目的がないと言っても一応オレたちは・・」
「じゃー、オレはミルフィーと行く!」
フィーの言葉を遮ってミルが断言する。
「悪いとは思うけど・・・オレがいなくちゃいけないって事はないんだろ?なら、オレは・・・」
真剣な瞳でフィーを見つめながらミルは言った。懇願するような彼女の瞳は、明らかに人を想う輝きがあった。そして、その相手はフィーではないことは、確かだった。
「オレ・・・」
ミルフィーがフィーの母親の若い頃だということは、ミルも百も承知していた。が、それでも、もしかしたら男かもしれない、そして、うち消そうと思っても消えそうもないその心を抑えることができなかった。いつかは別れなくてはならない、そうは分かっていても、それが今だとは思いたくなかった。できるなら、今であってほしくなかった。別れの時を少しでも避けたいと彼女は思っていた。
「まー、そんなに結果を急がなくてもいいんじゃないか?」
フィーがどう答えたらいいのか迷っていると、ターナーが助け船をだした。
「オレたちの目的もそこにあるのかもしれないしな。」
「じゃー・・・」
ミルの瞳が輝いた。
「どう思う、フィー?」
「あ、ああ・・・・・」
今は時間が必要だ、というターナーの視線に、フィーは決心した。
「そうだな。そういうこともありうるよな。」
「わ〜い♪、一緒なの〜♪カノン、ミルフィーと一緒〜♪」
「はははっ。」
はしゃぐカノンの頭をなで、ミルフィーは真剣な瞳をフィーに向ける。
「ホントにいいのか?無理はするなよ?」
「目的がないよりあった方がいいからな?リーリアもいいだろ?」
「もちろんよ。」
「良かった。」
短く答えてからミルを見たミルフィーと、そのミルフィーをじっと見つめているミルに、フィーは焦る。
「あ、あの・・・と、ともかく食事にしないか?」
「何、言ってんのよ、フィー?」
もっと他にミルの気をひく言葉はないの?と再びリーリアがフィーを軽く睨む。
「他にどう言えってんだよ?」
それもそうだ、と彼女も思った。
「そうだな。そうするか。」
食事にするため、カノンの世話を焼き始めたミルフィーを見ながら、フィーは、ミルは、それぞれ自分の思いに浸っていた。
ミルはほっとし、フィーは、これからどうしたらいいのか、と困惑していた。

そして、それを見て焦った人物がフィー以外にもいた。それは、レオンとレイミアス。
「レ、レオン、どう思います、今の?」
ミルとの見つめあい方は?とレイミアスは目で聞いた。
「今のって・・・何だ、お前も感じたか?」
「感じたかって・・・やっぱりレオンも?」
「遅いんだよ、お前は。そんなのとっくの昔からだぞ?」
「ええ〜?!」
その席から少し離れ、小声で話す2人のその話題は、やはりミルフィーとミルのことだった。
「だって、ぼくはてっきりミルフィアと重ねて見ているものだとばかり・・・」
「まーな。オレだって最初の頃はそう思ってたんだ。ミルフィーだって最初はそうだったんじゃないのか?」
「じゃー、そこから恋に発展?」
こくん、とレオンは頷く。
「でも、これで少しはシスコンから抜けるでしょうか?」
「かもしれんな・・・・って・・・だがな、そうすっと・・・」
「あ!」
レオンのその先の言葉に気づき、レイミアスは声をあげる。
「お、女の・・ミルフィアの身体なんですよね、ミルフィーは?」
「そういうこと。・・・どうするつもりなんだろな?」
「えっと・・・やっぱりここは早急に魔王を倒して元の世界に戻って、本当の身体を見つけて・・・」
「しかし、彼女にはどう言うんだ?それまで今のままで大丈夫と思うか?」
「あ・・・・・・」
ミルも同じ気持ちなのだと2人の様子で分かっていた。お互いの気持ちがはっきりしていれば進展は早いはず。回りくどいことが嫌いなミルフィーは、自分の気持ちに気づけば、当たって砕けろの行動に出るはずだった。
「ミルフィーって、まだ、自分の気持ちには気づいてないんでしょうか?」
「うーーん・・・・行動に出ないってことは、そうなんじゃないのか?」
「ですよねー・・・で、どうしましょう?」
「どうしましょう、って言ってもだな・・・・」
直接ミルフィーに聞いて、本人が意識していなかったのに気づかせたなんてことになったら、やぶ蛇だった。ということで、こっちはこっちで、どう対処していいものか困り果てていた。
だが、未来に来ていることを知らないだけまだ良かったかもしれなかった。


異世界ではなかったことが分かり、一応明るさを見いだしたミルフィーたちの行動は、それまで以上に活発になった。船に乗るためには、身分証明が必要ということが分かり、それを入手するため、あちこち調べて回っていた。そう、正攻法では手にはいるはずはない。そして、そう言ったことのために、どこの世界でも偽造師がいる。ミルフィーたちは、怪しげなところを見つけては、それを調べていた。


「さてと、オレ、約束があるから。」
「約束?」
「ああ。」
その日、朝食を取り終えると同時にミルフィーが席を立つ。
「上手く行けば、例の人物を紹介してくれるかもしれないんだ。」
例のとは、偽造師のことである。
「ホントか?」
「ああ、うまくいけば、だけどな。」
「カノンも行くの〜。」
「来てもいいけど、用事が済むまで外で待っていないといけないぞ?」
「うん!カノン、用事が終わるまで待ってる。ミルフィーと行くの〜。」
「そっか、じゃ、行こっか。」
すっとカノンを肩車して出ていくミルフィーを追った声があった。
「オ、オレも行くっ!」
その声にフィーはぎくっとする。2,3日思い詰めていたようなミルが突然言った言葉は、彼女が何か決心したことを意味していた。
「ミルも?」
「い、いけないか?オレ・・・邪魔?」
「あ、いや、そんなことないけど。」
振り返ったミルフィーは、ミルに微笑んでかまわないと言う。
「一人で会いに来いって事だから、どこか近くで待っててもらうことになるけど、それでもいいんなら?」
「あ、ああ。オレは・・・」
ごくん!とミルはつばを飲み込んだ。
「ミルフィーがかまわないんなら、わ・・私はそれでいい。」
(わ、私〜ぃ?)
心の中で叫びながらガタっと席を立つフィー。
そして、ミルフィーと並んで出ていくのを、呆然として見送っていた。
「行動開始か。」
「開始、じゃないよっ!」
ターナーの言葉に、フィーは思わず怒鳴っていた。
「ミルはこうと思ったら即行動するタイプだからな。あれでも、考えていた方だぞ?」
ミルとはフィーよりつきあいの長いターナーが苦笑いして言った。
「たぶん・・あれだな・・・・・奴らと一緒に過去へ行くとか言い出すかもしれん。」
「そ、そんな・・・・・。」
顔色こそ変わっていなかったが、確かにフィーは焦っていた。
「お、お袋なんだぞ、あれは!」
戸口を指さして怒鳴ったフィーに、ターナーは今一度苦笑いを見せる。
「ミルは、そうは思っていないようだ。少なくとも・・・中身はな。」
妹の身体に兄が入っている・・・ターナーの言う通り、ミルはその考えをどうしても捨て切れていなかった。恋する所以かもしれなかったが、ともかく、考えた末、ミルは当たって砕けろを実行することにした。いつまでも、ぐずぐず悩まない為に。
「さてと、オレたちもそろそろ出かけるとしようぜ。」
レオンとレイミアスは、予定していた調査の為、すでに宿を出ていた。フィーたちもまた予定がある。よほどミルのあとをつけてみようと思ったフィーだが、そんなことをするのも気が引け、仕方なくその日の予定通りにでかけることにした。リーリアに『何してんのよ?!』ときつく睨まれながら。



**2へ**



♪Thankyousomuch!(^-^)♪

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