★☆アドベンチャー狂詩曲★☆


  第八話 [ライバルは、母親?!]  


 −がやがやざわざわ・・・・−
2つのパーティーが出会ってから3日後、一行はようやく町へ着いていた。
山の中腹の盆地にあるその小さな町は、旅人の拠点となっているらしく、結構にぎわっていた。

「カノンったらすっかりミルフィーになついちゃったわね?」
「みたいだな。」
2人ずつ部屋を取り、フィーとターナーの部屋に来ていたリーリアが、隣の部屋から聞こえてくるミルフィーの声と、カノンの笑い声に微笑んでいた。
「ああいう面倒見のいいところは、やっぱり、おばさまかな?と思うんだけど。」
「そうだな。」
「でもね、カノンったらお兄ちゃんだって言ってるのよ?」
「・・・子供だからな、分からないんじゃないのか?」
「顔は似てるが、髪型も服装も違うからな。雰囲気だって全然違うしな。」
ターナーもフィーの意見に同意してにやっとする。
「そうよね。あの前髪だとミルと似てるっていうのもあまり分からないし。」
「だけど、ひょっとすると男かもしれないだろ?」
「え?」
部屋に入るなり会話に入ってきたミルに3人は注目する。
「だって、確かオレの父さんによると、兄妹だって言ってたんだ。どっちがどっちを探していたかは・・・知らないけどな。だけど、確か妹が病弱だってことだったし・・・。」
「だとしても、キミのお父さんは男だったんだろ?」
「当たり前だろ?」
当然の事を聞かれたミルは、フィーをばかにしたような顔で見る。
「だから、身体を悪霊に取られたのは兄の方じゃないのか?」
「あ!」
それもまた当然だった。
「当然、その病弱だった妹が身体を治して、兄を探すってことじゃないのか?」
「だけど・・・じゃ、兄の身体はいいとして、兄の心は?」
「あ・・・・・」
「だからさ、オレ思ったんだ。」
「何を?」
自分の思いつきに目を輝かせるミル。
「カノンじゃないけど、オレもどうしても同性とは感じられなくてさ。で、ひらめいたんだ。つまり、兄が妹の身体に入って自分の身体を探してるんだよ。」
「で、その妹の心は?」
「う・・。」
フィーに突っ込まれ、そこまで考えていなかったミルは戸惑う。
「ど、どこなんだろうな?」
「だろ?それに、母さんの名前はミルフィーなんだ。妹の名前はミルフィアだろ?おかしいじゃないか?」
「そ、そうだな・・・そう言われれば・・・・」
しばらく全員考え込む。
「聞いても・・・教えてくれないよな?」
ミルがぼそっと口を開いた。
「・・・たぶんな。妹の名前だって、彼らの会話を聞いて・・そうじゃないかと勝手に思ってるだけだしな。」
「だから、只単にこうなんでしょ?」
「何?」
「何だ?」
じっと考えていたリーリアが口を開く。
「兄の身体を妹が探してたってこと。そして、身体が見つからず、どこかに留まらせていた兄は亡くなって、妹は兄の名前を名乗ってる。」
「なぜ?」
「そんなことする必要性があるのか?」
フィーとミルのつっこみに、リーリアは答えにつまる。
「そ、それは・・・・忘れたくないから、とか・・い、いろいろ・・・」
「じゃー、忘れたくないその兄の事を、なぜ黙ってたんだ?あらたまってオレたちに話すことはないにしても、何かの拍子に話題に上ってもいいだろ?そこまで思っていた兄なら特に。」
「・・・・そ、そうよね?・・・・」
「でも、やっぱり男のような気がするんだけどな〜・・・」
「それはあの徹底した態度のせいだろ?どうみても男にしか見えないからな。オレたちだって当分そう思ってたんだからな。」
ターナーが笑う。
「顔をつきあわせて悩む事じゃないさ。ミルフィーは女でお前のお袋さんで、今オレたちといる彼女は、兄の身体を探してるんだ。男の振りをしてな。女でいるより何かと都合がいいからな。それはミル、お前にはよく分かってることだろ?」
「あ、ああ・・・それはそうだけど。」
同じように男の服装と口調でいるミルとは同じじゃないか、とターナーは指摘した。
「ついでに兄の名前を使っていて、それが定着してしまったから、そのままになってるだけじゃないのか?」
「あ!そうか!」
その言葉に、全員納得する。
「だけどな〜・・・・」
「なんだ、ミル?それでもまだ男だって言うのか?」
「なんとなくだけどな。」
自信も確証もなかったミルは、言葉を濁らす。
「あぶねーな、ミル。」
「何が?」
にやけたような顔をして言ったターナーを、ミルはその意味が分からず見上げる。
「ひょっとして、お前、惚れたか?」
「ええ〜っ?!」
「な?!」
座っていたイスをガタっと蹴るようにしてミルとフィーが立ち上がる。
「だから、無意識に男と思いこみたいという感情が働いてだな・・・」
−ドン!−
「ターナー!冗談もほどほどにしてくれよ!」
にやけていたターナーを睨みながら、テーブルを両手で勢い良く叩き、ミルは部屋からすたすたと出ていった。彼女の顔は、明らかに赤く染まっていた。

「う〜〜ん・・・ミルの気持ちも分かる気がする。」
「え?」
リーリアの言葉に、フィーはぎくっとする。
「だって少し口が悪いけど・・・さっぱりしてて感じいいのよね・・腕も確かだし・・結構かっこいいと思うのよ。ちょうどさ・・・なんて言ったっけ・・・そうそう!」
「なんだ?」
「男役の色気があるっていうか?」
「男役の色気?」
「う〜〜ん・・男には分からないんじゃないかな?あれで、前髪をもう少し短くすれば、もてそう。」
「もてそうって・・・・」
リーリアの言葉に、ますますフィーは焦る。
「そっかー・・・ちょっとファザコンの気があるミルとしては・・・やっぱりあの手の顔に弱いんだ。」
「ファザコンって・・・ち、ちょっと待てよ、リーリア!」
「その上腕も確かなら言うことないわよね。彼女も強い人が好きらしいし。」
「だけど、確かおしゃべりな男は嫌いだって・・。」
フィーは、すっかり話の人物が母親であり少女であることを忘れてしまっていた。
「あら、フィー、知らないの?」
「な、なにを?」
「確かにレオンとよくぎゃーぎゃーやってるけど、一人の時って、すっごく渋いのよ?」
「し、渋い?」
「やっぱり苦労してるのかしら?年齢以上に落ち着いた雰囲気っていうのかしら・・・一人で木にもたれてじっと夜空を見上げていたあの姿なんて・・・もう・・・・ときめいちゃうわ♪」
「と、ときめいちゃう、って・・・リ、リーリア・・・」
その時の事を思い出したのか、胸の腕で手を組んで、頬を染めて興奮したようなリーリアを、フィーは呆れが混ざった焦りと共に見つめる。
「だってそうなんだもん。ね、ターナー?」
「な、なんでオレに振るんだ?」
不意にフィーから自分に視線を向けられたターナーは焦る。
「あら、昔恋いこがれた人がすぐそこにいるのよ。知らん顔してるわけないでしょ?」
「う・・・・」
ぎくっとしたのはターナーだけではなかった。それに気づいたフィーも危機感を覚える。
「様子ぐらい見てるわよね?」
「そ、それは・・だな・・・・」
焦りを隠しきれないターナーを、フィーは思わずぎろっと睨む。
「あたしたちから見ればそんな感じでも、ターナーみたいな大人が見ればまた違うでしょ?」
「お、おい、いい加減にしないか、リーリア?」
「やーね、いいガタイして照れちゃって。」
ふふっとからかうようにターナーに笑いをみせたリーリアは付け加える。
「父性本能っていうのかしら?保護本能?・・・思わず駆け寄って抱きしめてあげたくならない?」
「リーリアッ!」
「そうよねー・・・おじさまが惚れたきっかけもそこなのかしら?・・過酷な運命に耐える少女が一人心寂しげにたたずんでいる・・・。ね、男としては守ってあげたくなるわよね?」
「いい加減にしろっ!・・だ、だいたい、オレが会った頃はそんなんじゃなかったんだ。いつも元気で笑っていて・・・」
「あら・・・じゃー、知らざる彼女の過去を知ったということで、じ〜〜んときてない?」
「リーリアッ!オ、オレは・・・。・・・も、もういいっ!」
ターナーは顔を赤くして部屋を乱暴に出ていった。
「ターナーって、歳の割に結構純情だったのね。」
「リーリア!少し言い過ぎだぞ?」
フィーにたしなめられたリーリアは、悪びれずにぺろっと舌を出す。そして、睨んでいるフィーに意地悪そうな輝きを含む視線を向ける。
「残念だったわね、フィー。おばさまに似ていれば、簡単に手に入ったかもしれなくてよ?」
「・・・・・・・・。」
どう答えたらいいのか分からず、フィーは押し黙っていた。

ミルの事も気になったが・・・ミルフィーの事も気になり始めていた。
まさか、こんな形で母親の危機感を覚えるとは思いもしなかった。
(父さんの代わりに母さんを守らないと!!・・あ!それから、ミルは・・・・)
若かりし頃の母親がライバルで、その母親を狙う・・もとい!母親に心を寄せる男が一人。体格などからいって、いくら本人に剣の腕があるといっても、時と場合によっては危ない?・・・。そして、もし、そうなり、過去が変わってしまった場合・・・フィーたち兄弟の存在は・・・?

(それでも父さんが母さんを奪ってくれれば、オレたちはいいんだろうけど・・・)
無意識にそんな考えが浮かんだフィーは、自分のその言葉にはっとする。
「じゃーないだろっ?!父さんがここにいない今、オレが母さんを守らなくてどうする?」

なんともややこしいこの展開に、一人、フィーは、頭を痛めていた。





♪Thank you so much!(^-^)♪

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