★☆アドベンチャー狂詩曲★☆


  第七話 [最大瞬間風力]  


 「レオン。」
「ん?なんだ、フィー?」
2つのパーティーは一緒に移動していた。道しるべにあった町はまだ見えてこず、一行は再び野宿の予定で、準備をしていた。
「ミルフィーに頼みがあるんだけど・・・いいかな?」
「ミルフィーに?」
「あ、ああ・・・・そ、そのちょっと・・・」
言いにくそうに言ったフィーに、レオンはぴん!と来た。
「手合いか?やっぱり同じ剣士としては、腕が気になるってか?」
「あ、そ、そうだな・・・・。」

事実そうだった。ここへ来る前に母、ミルフィーには圧倒的な差を見せつけれられてきた。そして、昔のミルフィーにここで会った。魔龍との戦いや、未だ自分では全く無反応の神龍の剣を、最初こそできなかったが、簡単そうに(?)出していることで、フィーは不安を覚えていた。年齢は1つしか違わないのに、剣の腕はそうまでもあるのだろうか、だとしたら、どうすればそれに追いつくことが出来るのか。そして、その差はどれほどのものなのか。気にならない方がおかしいと言えた。

「だけど、ミルフィーは不器用だからな。」
「は?」
「ん。不器用だから手加減できないってことさ。だから、やるなら気を引き締めてやれよ。」
「それはそのつもりだ。」
にこにこ顔だった表情をレオンは引き締めてフィーに話す。
「歳が近いからって、一般常識からの腕を想定してかかっていくと酷い目にあうぞ?」
「酷い目に?」
「そうだ。あんたもかなりの腕らしいとは思うが、それでもミルフィーとは差があるとオレは思うのさ。」
「多少はあるだろうが、しかし・・」
「だから、歳で判断してほしくないって言ったのさ。オレたちは・・・普通の人の一生分は冒険を経験してると言っても自惚れじゃないと思ってるのさ。」
「一生分を?」
「そうだ。なんせ異世界やらなんやら、回り道ばかりしてるからな。それも生きるか死ぬかの瀬戸際の冒険ばかりだし。」
「生きるか死ぬか・・・。しかし、それはどんな冒険でもそうなんじゃないのか?」
「まー、そうだがな。ま、それはいいとして・・・あんたはいかにも騎士っていう感じを受けるんだが、正規の剣士として訓練を受けてきたんだろ?」
「そうだな。」
「やっぱりな。型と言い、正攻法の戦闘方法と言い、そうだもんな。だけど、ミルフィーは違うのさ。」
「違うって?」
「確かに基本はきっちりとたたき込まれたらしいが、後は自己流だ。無我夢中というやつでな、だから・・・・」
ちょいちょいとレオンはフィーに耳をかせと合図する。
「良く言やー、本質を見分けて攻撃するって事なんだが、事実は、例え卑怯だろうとなんだろうと、相手の弱みにつけ込んですかさずそこを突く!利用できるものは何でも利用するのがミルフィーの戦法だ。」
「は?」
意外なことを言われ、呆然としているフィーに、レオンは、はははっと笑って付け加える。
「剣士の心なんてものは、持ち合わせてないからな。そこんところを承知して向かって行けよ。」
「と、ということは?」
「つまりだな・・・剣で手合いをしていても、もし、あんたが石か何かに躓いたとする。」
「あ、ああ・・。」
「そうすると、剣士同士なら体勢を整えるまで待つんだが、奴は違う。」
「違う?」
「奴にとって戦いは生きるか死ぬか、倒れるか倒されるか、そこには剣士の名誉とか誇りなんてものはありはしない。カッコ悪かろうが、卑怯だろうが、勝てば・・つまり、生き残ればいいんだ。だから・・・なんでもするぞ。自分が有利に、そして、その戦闘を短縮できる方法を思いつけば、迷うことなくその手段をとる。」
「だから?」
「だから、石に躓けば、背中を押されるとか、その隙に剣を払うとか、だな。」
「そ、そんな・・・・」
「きれい事じゃ片づけられない場ばかり踏んでいるからな。」
「・・・・・・・」
「それから、あんたが期待してるだろう100%の力はみられないと思う。」
「なぜ?」
「なぜって、当たり前だろ?奴にとって戦う相手は魔物類などの敵だ。まー・・時には人間のときもあるが、ともかく命を懸けた戦闘だ。生死表裏一体のな。だから、人間との手合いなど、そんな緊張感がわくわけない。必然的に集中力も落ちているってもんさ。」
「つまり、手加減はしないが、全力もだせないということか?」
「まー、そういうことになるかな?」
押し黙ったフィーに、レオンはすまなさそうに付け加える。
「剣士としてはバカにされてる気を受けるだろ?ミルフィーは相手を決してバカになどはしないが・・・結果的にはそうなんだ。剣士としての手合いを望むなら止めておいたほうがいい。」
「じゃー・・・冒険者としての手合いなら?」
「あ、ああ・・・それなら、あんたがそのつもりならいいんじゃないか?」
フィーの提案をレオンは笑った。
「お堅い剣士様かと思ったら、結構柔軟性があるってか?」
育ちの良さそうな純粋な剣士、フィーをそう感じていたレオンはそういって笑った。


そして、2人は剣を構え、残りの全員が見守る中、対峙していた。ミルフィーは精神力の無駄遣いはしたくないからと言ってミルの剣を借りていた。普通、この時点で、カチカチの剣士(騎士)なら頭にきて放棄する。全力を持っての手合いを申し入れたのに、それはなんだ?!というわけである。

それはともかく、フィーはレオンの言ったことを承知でミルフィーに手合いを申し込んだので、気にはなったが、目を瞑ることにした。そう、剣士にとって剣は心であり分身。他人の剣を借りてなどということは、もってのほかなのである。非常事態でもない限り。
一方ミルも、剣は持つが剣士の心は持っていない。ミルフィーと違う点は、好きで剣を習ったことなのだが、それでも、正規の訓練を受けた剣士(騎士)のような心は持ち合わせてはいなかった。それに相手がミルフィーなのである。気軽にというより、喜んで貸したと言った方がいいかもしれない。


「いつでもいいぞ?」
なかなか攻撃をしかけてこないフィーに、ミルフィーは声をかけた。
(いつでもって・・・・)
フィーは戸惑っていた。緊張感包まれる手合いだと思っていた。が、対峙してみても全く緊張感の『き』の欠片もなかった。体勢こそ剣を構えてフィーを見つめてはいるが、殺気どころかなんにもない。普通の時と全く変わらない。
銀龍の守護騎士としてのミルフィーと対峙したときの圧倒されるまでの闘気、そこまではいかなくとも、すでに神龍の剣の柄も手に入れている、それなりに圧倒させられるものがあるだあろうと踏まえていたフィーは愕然とする。
(なぜ、こんないい加減で神剣が出せるんだ?)
事実、闘気も真剣さもフィーとミルフィーとでは雲泥の差があった。そこまで真剣にフィー挑まれれば、その闘気に飲まれ、柔な剣士など腰を抜かすはずだった。そして、それに対抗できる剣士なら、同じように真剣な闘気を返して手合いに挑むはずだった。
だが、ミルフィーは・・・フィーのその気に飲まれてはいることもない。ないが・・・それに呼応して気を発するわけでもなかった。ミルフィーは、普通の時のようにそこに立っている。

「かかってこないんなら、やめるぞ?時間の無駄だ。寝た方がいい。」
「な?!」
ミルフィーのその言葉にカッときたフィーは、思わず剣を構えて突進する。
−キン!・・ザシュッ!−
それは一瞬だった。ミルフィーの剣への攻撃を目標として向かっていったフィーは、その剣に自分の剣が触れる直前、その一瞬、ミルフィーの恐ろしいまでの闘気を感じた。そして、次の瞬間に、フィーの剣ははじき飛ばされ、近くの木の幹に突き刺さった。
「あ・・・・」
そして、フィーの喉元に、ミルフィーの剣があった。
「継続は金なりって言うけどな、闘気なんてものは、その一瞬でいいんだ。気の無駄遣いは、後々の戦闘に響く。限りがあるものは、有効且つ最大限に使わないとな。」
それはミルフィーがそれまでの戦いで得た教訓だった。
「・・・・・」
「腕を競うだけならいいが、魔の迷宮を探索するつもりなら、考えた方がいい・・・なんて・・オレのガラじゃないな・・・人それぞれなんだし。」
すっとその剣を引き、ミルフィーは笑う。
「あんたはあんたの戦い方があるんだろうし、どっちが正しいかなんてわからないしな。」
それでもまた呆然としているフィーに、今一度にこっとすると、ミルフィーはミルに近寄って剣を返す。
「ありがとう。」
「あ、・・うん。」
フィーだけでなく同じようにその結果に呆然としていたミルは、はっとしてそれを受け取る。
「何を思ってオレを試したか知らないけどな、要は瞬間最大風力だとオレは思ってる。必要な時に必要なだけ。無駄使いは勿体ないお化けに取り殺されるぞ?」
「ぶっ!」
シリアスに言っていたというのに、最後の言葉で、リーリアとターナー、そしてレオンとレイミアスは吹き出していた。
「勿体ないお化け出るの〜?」
「そう。ものは大切にしないといけないんだよ。」
無邪気に聞いたカノンに、ミルフィーは微笑みながら答えた。

それとこれとは違うだろ?・・・カノン以外全員そう思いつつ、カノンを肩車したミルフィーを呆れ顔で見つめていた。





♪Thank you so much!(^-^)♪

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