★☆アドベンチャー狂詩曲★☆


  第六話 [空元気も元気のうち]  


 「だけどさ、不思議だな。偶然だとしても、なんか・・・」
「な、なにがだ?」
翌日、全員で朝食を取っている時、フィーはミルフィーにそう言われて、どきっとする。
「だって、そうだろ?あんたはフィーって言うんだろ?で、あんたはミル。」
フィーからミルに視線を移してミルフィーは続ける。
「で、オレがミルフィーだろ?でもって兄妹かと思うくらい似てるし。」
「そ、そうだよな?」
ミルが少し焦り気味で答える。
「世界には2人か3人似た人間がいるっていうが・・・世界が違えばもっとその確立は増えるんだろ?」
レオンが笑いながらその話題に乗る。
「だけど、ホントに似てるな〜。見た瞬間ミルフィアかと思っちま・・・あ・・・・悪い・・」
「いや、別にいいよ。」
明るく笑っていたミルフィーがすっと横を向き、急に思い出したようにレイミアスを見る。
「ところで、レイム、計算できたのか?」
「う〜ん・・それなんですけどね・・・・同じ条件の爆発を起こさせるとしたら、ものすごい量の爆薬が必要になるんですよ。」
「オレの火球じゃだめなのか?」
「勿論、レオンの火球もあっての事なんですよ。それに加えてかなりの爆薬が・・・。それと、ミルフィーの剣技による風圧。」
「無理だぞ、それ?」
「え?」
「あの時使ってた剣は、風の大陸で手に入れた風神の剣だからな。あれだけの風を起こすのは・・・普通じゃ無理だって。」
「え?・・・じ、じゃー・・・・・」
「同じような剣を見つけるか・・・腕をつけないとならないってわけだ。できるならの話だけど。」
「ミルフィー・・・」
「あの・・、ミルフィーは魔法は使えないの?」
リーリアが気になったことを聞いてみる。剣で風を起こさなくても、もし風術が使えるのなら同じ条件は出せるのではないかと思った。
「あ?・・無理無理!」
レオンが笑いながら答えた。
「術を使うってのは、繊細な神経が必要なんだ、剣しか知らないこいつのようながさつな奴が、んな高度な技術使えるわけないだろ?」
「誰ががさつだって?!」
ぎろっと睨んだミルフィーに、レオンは焦ったように手でその視線を遮る。
「ノーコンだったくせに。」
「んにお〜?それはもう直ってるだろ?」
「誰のおかげで直ったんだよ?え?」
「やるってんのか?」
「やってやろうじゃないか?」
「ち、ちょっと、待ってくださいよ、2人とも・・・。」
「レイムは黙ってろ。」
「そうだ、坊さんはおとなしくしてな。目上の者に対する礼儀ってもんを一度かっきり教えておくべきだと思ってたんだ。」
「な〜にが目上だ?目上なら目上らしく、オレの後ろに控えてないで、先頭切って行けばいいだろ?」
「ミ、ミルフィー・・レオン・・・・ち、ちょっと・・・・」
顔をつきあわせて睨んでいる2人に、レイミアスはどうすることもできずおどおどする。そして、その3人を呆れて見つめるフィーたち。
「目上を鼻にかけるんなら、それらしい力を見せてくれよ。」
「おおー、いい心がけだ!剣がなくてオレ様に立ち向かえるってんならかかってこいってんだ!」
−ヴン!−
「へ?」
「悪かったな・・・ショートソードくらいにはなるんだ。」
ペチペチと片方の手を気で練りだした短剣で叩きながら、ミルフィーはレオンを見る。
「う・・・・・な、なんだ・・そんな小さな剣をオレ様が怖がるとでも思ってんのか?・・・お前がそれなら・・お、オレは・・・・」
−ゴアッ!−
レオンはいつもの火球を剣の形で出して手に持つ。
「火の剣だっ!」
「上等だ。」
くいっとミルフィーは、手にしていたショートソードを持ち直す。
−ブン!−
そのショートソードが、鋭い太刀筋を描いてレオンを襲う。
「わっわっ・・・ち、ちょっとたんま!やっぱたんまっ!」
「男だろ?一回言ったことをひっこめるなよな。」
−ブン!−
「おわっ?!・・・・お、お前、本気か?」
「オレはいつも本気だぞ?」
−シュピッ!−
「小さくても切れはいいだろ?」
レオンの顔のすぐ横、彼のフードの端はきれいに切り離されていた。
たら〜〜・・・・レオンの表情が変わる。
「ちょっと待て、ミルフィー!待てってば〜・・・・。うわわ〜〜・・・・」
レオンは必死の思いでミルフィーの攻撃を交わしつつ、走り出していた。

「あ・・・・・・・」
そして、呆れてものも言えないフィーたち。
「す、すみません・・・・」
ため息をつき、逃げるレオンと彼を追いかけるミルフィーの姿が小さくなってから、レイミアスがため息をつき、照れ笑いしながら言う。
「うるさくて。」
「あ、いや。」
フィーはあきれ果てすぎて、返事が思い浮かばなかった。
「いつもはあれほどじゃないんです。まー、にぎやかなことはにぎやかなんですが・・・。」
「今日は特別なのか?」
「あ、そ、そうですね・・・・・たぶん、レオンはミルフィーを慰めようとして・・。」
「慰める?」
レイミアスの言葉に、目を丸くして聞く。
「あ・・・そ、そうはみえませんけどね。レオンなりのその・・・励まし方っていうか、元気づけっていうか・・・。普通の慰め方じゃ反対に怒り出してしまうんです。それに、ミルフィーもそれは分かってるはずです。」
怪訝そうな表情でじっと見つめる彼らに、ごまかし笑いでは収まりそうもないと判断し、ミルフィーの姿がみえないのを確認して、レイミアスは話し始めた。

「あなたたちは、何か特別に旅の目的があるんですか?」
「あ、、い、いや、特にこれと言ったことは何も。」
確かに母、ミルフィーの代わりに銀龍に呼ばれた事にはなっていたが、現在のところ目標というものはなかった。
「気ままな冒険の旅?」
「そういえば、そうかな?」
「いいですね。」
短く答えたレイミアスの表情は少し沈んでいた。
「ぼくたちは・・・い、いえ、ミルフィーは・・・ミルフィーにはせっぱ詰まった目的があるんです。それがあるのに、なぜだか遠回りばかりしてしまっていて。」
『せっぱ詰まった目的』という言葉にミルはびくっと大きく身を震わせた。それは明らかにミルの父、キートが奪った身体を探していることだと判断できたからだった。
「遠回り?」
フィーはそんなミルの肩にやさしく手をおくと、レイミアスに聞く。
「トラブルメーカーというわけでもないと思うんですが・・・向こうの方が放っておいてくれないというか・・・あれこれいろんな事に巻き込まれてしまうことが多いっていうのか・・・運が悪いと言ったらいいんでしょうか?あちこち飛ばされてばかりいて。」
「つまり、目的地はすぐそこなのに、なかなかそこへは行けないということか?」
「あ、ええ、そうです。」
ターナーの言葉に、レイミアスは苦笑いをして続ける。
「ここへ飛ばされてくる前も・・実はぼくたちの世界じゃなくって、やっぱり飛ばされたというか、あそこへは引きずり込まれたんですけど。そこで魔王を倒せば元の世界へ戻れるはずだったんです。魔王の居城まで入って、後少しだったのに・・・」
「ここへ飛ばされた?」
「あ・・はい、そうです。ですから、かなり気落ちしているはずなんです。・・・明るく振る舞ってはいますけど。ミルフィーはいつもあんな感じで、ぼくたちを引っ張ってくれるんです。自分のことよりもいつもぼくたちのことを考えてくれて。でも、今回のことはぼくたちよりミルフィーの方がショックを受けているんじゃないかと思うんです。帰る方法も今のところない状態なんだし・・・。」
「・・・・・・」
「ミルフィーがいつもより明るく騒いでいる時は・・・・その反対なんです。」
「・・つまり、空元気も元気のうちってやつか?」
「空元気・・・」
「そういう言葉があるのさ。落ち込んだときそうやってわざと自分を元気づけるというか、周りを元気づけるというか。」
「なるほど・・上手いこといいますね。」
ターナーにレイミアスは、小さな笑みを送った。
「寂しがり屋なんですよ、ああーみえて、ミルフィーは。」
「・・・・」
「ぜんぜんそうは見えないでしょうけど。」
思わずフィーたちは、レイミアスのその言葉に心の中で頷いてしまっていた。


「何、しんみりしてるんだ?」
「え?あ・・ミ、ミルフィー?」
し〜〜んと考え込んでしまっていたところに、不意にミルフィーの声が聞こえ、全員びくっとする。
「あ・・い、いえ、べ、べつに・・・レ、レオンは?」
「ああ、奴ならあっちで気絶してる。」
「気絶って・・・ミ、ミルフィー?」
「ちょっとやりすぎてしまってな・・・」
「や、やりすぎたって・・・・?」
「心臓をついたんだ。」
「ええっ?」
「レオンの身体に突き刺さる直前に剣を縮めた。」
「え?」
レオンは完全に心臓を突かれたと思ってそのショックで気絶していた。
「ミ、ミルフィー・・・・・」
「ま、そのうち気が付くだろ?」
「だけどさ、これ、なかなかいいアイテムだぞ?」
「これ?」
「だから、これ!」
そう言ってミルフィーは、気を少し集中して小さな剣を練り上がる。
「形も自由自在なんだ。いいか?」
−ブン!−
「包丁だろ?」
−ブン−
「カッターナイフ」
−ぶん!−
「斧・・・小さいけどな。」
その手品さながらの様子に、全員目を丸くして見入っていた。
「ただし、あんまり面白がってやってると疲れるってとこが、欠点かな?」
「そりゃそうでしょう?精神力が元なんでしょ?」
「まーな。」
あははは、とミルフィーはレイミアスに明るく笑っていた。

「し、失敬なっ!」
「へ?」
その笑いの中、声高の怒鳴り声がきこえ、全員周囲を見渡す。
「仮にも神龍の神剣なんですよ、それをなんだと思ってるんですかっ?!」
そして、ミルフィーが捻出した剣から聞こえてくるのが分かり、全員の注意はそこへと注がれる。
−ぼわ〜〜−
果物ナイフだったそれは、淡い光を放つ剣の柄に戻り、声はそこから聞こえていた。その口調は明らかに怒っていると判断できた。
「なんだと思ってる、って・・・神剣なら、神剣らしくもっと強力な剣になれよな?」
しれっとしてミルフィーは言う。
「それは、あなたがまだ力不足なんですよ。いいですか?仮にも・・」
「うるさいんだよ。」
「え?」
「うるさいってんだよ。」
「な・・な・・・・・・」
剣の柄は、思っても見ないことを言われ、傷ついていた。
「だいたいだな・・オレは仕方ないからいいって言ったんだぞ?これ以上宿主なしでいると消滅してしまうから、宿らせてくれってお前が頼んだから、仕方なく許可したんじゃないか?」
「で、ですが・・・いいですか?私は剣聖、しかも神龍の・・」
「神龍だろうがなんだろうが、オレには関係ないって言っただろ?」
「か、関係ないって・・・・」
「神龍がどう偉いってんだ?神龍の守護騎士になれるのがどう誇れるってんだ?」
「あ・・・い、いえ、ですからね・・・・」
「神龍ってんなら、オレたちを元の世界に戻せよ。」
「あ、い、いえ・・・」
「それができたら、守護騎士だろうが、あんたの言いなりだろうが、なってやるさ。」
「あ、あの〜〜・・・・」
「できないんだろ?」
「あ、あの・・・・」
「なら、ごちゃごちゃ言わず、包丁なり斧なり、役に立つものになってりゃいいんだよ!」
「・・・・・・」
完璧に小さな剣の柄の形の剣聖の負けだった。己自身から放っていた光も弱々しくなってしまい、すっかりミルフィーに押されて萎縮されているのがわかった。

「ぶっ・・・・」
本当にむちゃくちゃだった。剣士なら誰もが憧れる神龍の守護騎士、そして、その剣を、ミルフィーは簡単に一蹴していた。いや、全く気にもとめていなかった。そのあまりにもの度外視さと、今の剣聖とのやりとりに、堪えきれなくなって吹き出しそうになった笑いを、それでも全員必至で堪えていた。後ろを向き口に手を充てて。

「オレは今さいっこうに機嫌悪いんだ?分かってるか?」
「あ・・・あの、ですね?」
「元の世界へ戻せれるってんならよし。・・でなけりゃ・・・」
「・・・・」
「オレに断りもなしに出てくるんじゃない!」
「ひっ!」
すっと剣の柄は、ミルフィーの手の甲の中へと消えていった。
「そのうち本当の宿主探してやるから、それまでおとなしくしていろってんだ・・まったく。・・・・・」
「ミルフィー・・・・」
「なんだよ、レイム。お前も文句あるのか?」
「あ、い、いえ、ありません。ぼ、ぼくにはあるわけないです。ミルフィーとその剣聖との問題だし。」
慌てて手を振り、文句などあるはずはないと焦るレイミアス。


フィーは呆気にとられていた。死ぬ思いをして母、ミルフィーから受け継いだ神龍の柄・・・明らかにこれは母、ミルフィーがその柄を手にしたばかりなのだと判断できたが、その関係がこんなだと誰が想像しえただろう?いともあっさりと神剣を、そして、神龍を拒否するミルフィー。そして、その前に聞いた言葉、『オレは、好きで剣を握ったんじゃないっ。』・・呆気にもとられていたが、その言葉は重くフィーにのしかかってきていた。それでも、剣を握らなくてはならなかった。そして、否応がなしに戦いを重ねていった結果として身に付いたであろうあの信じられないほどの剣の腕。そこには、どれほどの戸惑いや苦しみがあったのだろう、とフィーは考えていた。
そして、そのフィーの脳裏に、ふとカルロスと一緒にいる時のミルフィーが浮かんだ。やさしく穏やかな表情のミルフィー。それは、今、目の前にいる人物が苦しみ抜いた末、ようやく得た幸せなのだと、フィーは思わずにいられなかった。

(父さん・・・聞いたときはショックだったけど、でも、母さんを見れば分かる。母さんは父さんの傍だから幸せなんだ。)
すっかりなついたカノンを肩車して笑っているミルフィーを見ながら、フィーは呟いていた。

空元気も元気のうち・・・確かにミルフィーのその笑顔は、どんな窮地に陥っていようとも、八方塞がり状態でも、そのうちなんとかなるんじゃないか?と思わせるような明るさがあった。
「だけど、その母さんの心の支えは?」
『ひょっとしたら、彼女が少女らしくなったのはカルロスと会ってからなのかもしれん。からかってばかりいたが、結局本人が意識していなかっただけで、最初から惚れてたのかもな?』と言ったターナーの言葉にフィーは納得していた。
カルロスがしっかりとミルフィーを包み込んでいるから今の穏やかな微笑みが、空元気からなどではなく本当の微笑みがあるのだとフィーは思った。

「オレは・・・なれるんだろうか?」
カノンの相手をしているミルフィーに何か話しかけているミルの後ろ姿を見つめながらフィーは小さく呟いていた。





♪Thank you so much!(^-^)♪

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