★☆アドベンチャー狂詩曲★☆


  第五話 [驚愕の戦法・トリプルプレイ]  


 「悪いな、いきなりおしかけてしまったみたいで。」
「あ、いや、オレ達は別に。」
「そうそう、仲間は多い方が楽しいわよね?」
野宿しようと決めた場所に3人を伴ってきた彼らは、レオンとレイミアスにも興味はあったが、やはり一番はミルフィーだった。フィーとリーリアは、無意識にミルフィーをじっと見つめてしまっていた。
「だけど、爆発で飛ばされたなんて・・・帰る方法ってわからないんでしょ?」
「うーーん・・・・、同じ様な衝撃ってのかな?ここに来た時と同じ条件を整えればなんとかなるかもしれないんだけどな・・・・そんなのはっきり分からないし。」
「そうよね。」
目の前のミルフィーはどうみても男に見えた。口調も態度も。全員その意外性に戸惑っていた。
「どうなんだ、ターナー?お袋ってあんな感じだったのか?」
ターナーに小声で聞くフィーに、リーリアもミルも彼に注目してしまう。
「いや・・オレの知ってる彼女は、もう少し少女らしかったな。・・・多分・・村でよくみかけるようになる前なんじゃないのか?」
紹介しあったときにレオンが20すぎ、ミルフィーが17、そしてレイミアスが16だと聞いた事もあり、おそらくそうなのだろうとフィーたちはターナーの言葉に納得した。

「それはいいが、ミルフィー?」
「なんだ?」
「お前、剣はどうした?」
「ない。」
「ない?」
「粉々になってなくなった。」
「へ?」
手を握ったり開いたりして、その拳への気の集中を試し続けているミルフィーに、レオンは気の抜けた声で再び聞き返す。
「な、なくなったって?お、お前?」
「なくなったものはなくなったんだから仕方ないだろ?」
あきれ果てた顔で自分を見つめているレオンに、ミルフィーはぶすっとして答えた。
「剣士が剣を持ってなくて、どうしようってんだ?」
思ってもみなかった答えに、思わず立ち上がって叫んだレオンに、全員の注意が注がれる。
「だからさ・・あのチビが言ってたように、剣を出せないかな〜と思ってさ。」
「チビって・・・光ってたあの玉の中に浮いてた?」
「ああ、剣聖だかなんだか知らないけどな。言ってただろ?強くイメージすれば剣になるとかなんとか。」
「あ、ああ。」
「だからさ、そう思ってさっきからやってるんだけど・・・ぜんぜん出やしない。」
「出やしない、じゃーねーよっ!これからどうすんだよ?!物理攻撃しか通用しない魔物だっているんだぞ?剣がなくてどうすんだ?」
「うーーん・・・そのうちどこかの迷宮かそこらで適当なのでも拾えばいいだろ?」
その言葉に、レオンは呆れる。
勿論フィーたちも目を丸くして話を聞いている。
「適当なのって・・・お前、剣士だろ?」
「まーな。」
「まーなって・・・・剣は、剣士の心じゃないのか?」
「普通はそうらしいな。」
「らしいなって・・・」
ぐいっとレオンは人ごとのように座ったまま、まだ手に集中しているミルフィーの襟元を掴んで立ち上がらせる。
「お前は剣士じゃないのか?剣がなくてどうする?よくそんな呑気な・・・・」
「オレは、好きで剣を握ったんじゃないっ!」
「・・・ミ、ミルフィー・・・・」
「オレは・・・・・」
勢いよくレオンの手を払い、レオンを睨みながら言い切ったミルフィーの表情に、悲しみがあった。それは、とりもなおさず、ミルフィアの事があったからやむおえず剣を握ったのだ、と、その思いを表情から読み、レオンは自分が言ってしまった言葉を悔やんだ。

「何処へ行く、ミルフィー?」
レオンに背を向けて歩き始めたミルフィーに、彼は慌てて聞いた。
「・・・その辺に落ちてないか見てくる。」
「見てくるって・・・剣がそこらに落ちてるわけないだろ?」
「それらしい棒っきれでもいいさ。木の枝でも・・・」
「・・ミルフィー・・・」
「ついてくるとぶっとばすぞ?」
ぎっと睨んだミルフィーに、レオンは思わず足を止める。その瞳には、悲痛な色があった。
彼らは魔王の居城の内部まで進んでいた。あと少しだったところで、罠が作動したのかなんなのか、魔龍との戦いの最中にここへ飛ばされた。魔王にされたサンタクロースを倒せば、自分たちの世界へ帰れるはずだった。あと少しで帰る事ができ、探索を再開できる、その思いが大きく裏切られていた。そのことから、ミルフィーがどれほど落胆し、追い込まれた心境にいたかを忘れていた。その上、それに輪をかけるような事を言ってしまったと、レオンは、悔やんだ。
「すまん・・オレが・・・」
悪かったと続けようとしたとき、異様な気が辺りをおおった。
「追って来たみたいだな?」
ミルフィーが静かに呟いた。
「ミルフィー、ど、どうすんだ?」
「どうすんだって・・売られた喧嘩は買わなきゃ男じゃないだろ?」
「どう買うって言うんだよ?」
剣もないのに・・・という言葉をレオンは飲み込んでいた。
−ザッ!−
その2人の横に、フィーとミルが肩を並べた。
「オレ達に任せてくれないか?」
「あ、いや。気持ちは嬉しいが、オレ達を追ってきたんだ。オレ達で片を付けるべきだろう。」
「し、しかし!」
「大丈夫!なんとかなるって。」
が、素手でなんとかならせてくれるような気配ではなかった。
−ズズン!−
「ほら、おいでになったぞ。どうすんだ、ミルフィー?」
前方の山の中腹に、朱くぎらついた瞳の魔龍がこちらを見ていた。
「お?」
「どうしたんだ?」
「ほら、これ。」
嬉しそうにミルフィーがレオンの目の前に自分の手のひらをみせる。そこには、果物ナイフほどの小さな剣があった。
「我、剣を手にせん。」
「手にせんって・・・・」
呆れていた、レオンもフィーもミルも、ただあきれ果ててミルフィーを見つめていた。どこからそんな気楽さが出てくるのだろうと感心もしていた。
「ミルフィー・・これ。」
どうあっても自分たちで片を付けるというのなら、とフィーは、自分の剣をミルフィーに差し出した。が、ミルフィーは笑ってそれを断る。
「いや、オレの剣ができたことだし。大丈夫だ。」
「だけど、そんな剣では・・・。」
「ん?・・・そうだな、多分まだ緊迫感が足らないんだろ?」
「緊迫感が足らない・・・・」
「そ。だから・・・・レオン、いつもの行こうぜ!」
「いつものって・・・本当にやるのか?」
「当然だろ?夜はきちんと睡眠取らなくちゃいけないんだぞ?美容によくない。」
「美容にって・・・・」
「健康にも害があるしな。」
「ま、まー、それはそうだが・・・。」
「だから、さっさと片付けて寝ようぜ。」
「寝ようぜって・・・。」
「レイム!」
「は、はい!」
「レイムはいいか?」
「ぼ、ぼくはいいですけど、でも、その・・・・・」
小さな剣ではどうしようもないというか剣と呼べれそうもないそのナイフに、レイミアスも不安を覚えていた。いや・・・そこにいた全員。
「大丈夫!あいつの前に行けば大きくなるさ!」
「本当ですか?」
「信じる者は救われる、って言わなかったか?」
「それはそうですが。」
「レイム、お前、坊さんだろ?坊さんが信じなくてどうすんだよ?」
「で、でもですね・・」
これとそれとは、場面が違いすぎるとレイミアスは続けたかったが、ミルフィーの真剣な表情を見て、その言葉を飲み込んだ。言っていることはめちゃくちゃだが、冗談などではなく、それにかけているのだ、と感じた。
「というわけで・・・いくぞ!」
レオンとレイミアスは見合って肩をすくめた。こうなったらミルフィーが引くはずはないことは二人は百も二百も承知である。いちかばちかやるしかない。
「ったく・・・・・」
早くも魔龍に向かって突進していくミルフィーを見つつ、レオンは苦笑いした。が、その瞳は真剣そのものだった。
「あんたたち、ちょっと下がっていてくれ。」
「あ、ああ・・・」
何が始まるのだろう、とフィー達は少し控えたところで、じっと見つめる。
−ボン!−
レオンが翳した手の先に大きく炎が踊る。
−ゴアッ!−
それは人間より大きく燃えさかっていく。
そして、その横でレイミアスがじっとミルフィーを見つめ、瞬き一つせずに気を集中し、なにやら呪文を唱えていた。
「いっくぞーーー!」
−ごおおっ!−
レオンの手から放れたその巨大な火球は、勢いよく彼が狙いを定めたところ、魔龍に向かっていく。・・・と思っていたフィー達は、その火球がミルフィーを飲み込むのを見て焦る。
「なっ?!」
思わず声をあげ、駆け寄っていこうと歩を進めた彼らを、レオンは手で制止する。
その真剣なレオンの視線の先で、ミルフィーは炎に包まれたまま魔龍に斬りかかっていく。・・・小さな剣で。
大きく開けた魔龍の口、鋭い牙がミルフィーの目の前にあった。
「くそっ!ダメか?」
小さな剣を握りしめ、それでもミルフィーは諦めず、魔龍に一撃を加えようと剣を振り上げる。
が・・・・一向に変化の兆候はない。
「だめなのか?・・いや、そんなはずは・・・・」
鋭い牙がそう思うミルフィーを寸断しようと閉じかかっていた。が、その周りにレオンの放った炎を浴びている為、その熱さで魔龍はそれを断念する。
スタッ!と着地すると、ミルフィーはレオンを振り返る。
「もう一度ってか?」
既にミルフィーの周りから炎は消えていた。それに気付いた魔龍も次の攻撃をしかけてくる。レオンはすぐさま火球を飛ばす。
「今度こそ!」
再びレオンの炎をその身に帯び、ミルフィーは大きくジャンプする。
そして、再び魔龍を目の前にしたその時、祈るような思いで握りしめていた小さな剣が、一応剣と呼ぶことの出来る大きさになった。
−ブン!−
「やったっ!これならいける!」
−ザン!−
「ぐぎゃあああああ・・・・・」
炎を帯びた太刀を受け、魔龍は叫び声をあげる。
「レオン!」
ミルフィーのそのかけ声にあわせ、レオンは次々と火球をミルフィーに飛ばした。

「な、なんという、むちゃくちゃな戦法なんだ・・・・。」
ターナーは思わずあきれ果て呟いた。
「だが、すごいといえばすごいな。絶妙なタイミングというやつか?」
精神力の無駄遣いはできない。浴びせるようにかけ続ければ楽だが、精神力が問題となってくる。術が効いているぎりぎりまで我慢をし、次の術をかける。ミルフィーとレオン、そして何もしていないように見えて、実は、ミルフィーに防御と回復魔法を送っているレイミアス。その3人の絶妙な呼吸があるからできる方法だった。

「ぐぎゃーーーーー・・・・・」
数回の繰り返しで、魔龍は断末魔の叫びと共に地響きをたてて地に伏した。

「ふゅ〜・・・・・」
「よっ!ごっくろうさん!」
「へいへい。」
「大丈夫ですか、ミルフィー?」
「大丈夫・・・と言いたいけど・・・・・今日は・・・・」
「え?」
「あ!おいっ!ミルフィー?!」
ふら〜〜っと横に倒れかかったミルフィーを、レオンとレイミアスが受け止め、フィーらも慌てて駆け寄った。

「精神力の使いすぎ・・・みたいですね。」
「あの剣か?」
「たぶん。」
ミルフィーの手にはすでに剣はなかった。
「どれ、オレたちのテントへ運ぼう。」
そう言ってミルフィーに近づこうとしたターナーを遮るようにレオンが立ちはだかった。
「気遣いは感謝すべきなんだが、オレたちの大将はオレたちで面倒を見る。あんたの手を借りる必要はない。」
「なんだと?」
筋肉質の大男のターナーと比べると、背の高い方であるはずのレオンも小さく見えた。加えて細いレオンは、尚一層頼りなげにみえる。が、そのターナーに一歩も引かず、睨みを利かしてそこに立っていた。

(あ、あれが・・・レオンおじさん・・・・・・いつもげらげら笑ってるか、酒を呑んでばかりいるあの・・・・)
フィーはそのレオンの睨みに驚いていた。リーリアも母親であるミリアから一見頼りなげにみえるが、実はすごい実力を持った頼りになる人物だと聞いてはいるものの、普段のレオンからは信じられず、目の前のレオンに、やはり驚いていた。

「レ、レオン・・・・」
ターナーを睨んでいるレオンの裾を引っ張り、レイミアスは彼の気をターナーからミルフィーに向けさせる。
「す、すみません、親切におっしゃってくださったのに。」
レオンがミルフィーを抱き上げるのを後ろ目でみつつ、レイミアスはターナーに謝っていた。
「あ、いや・・・オレも・・考えが足らなかった。」
ミルフィーが女だったことに、ターナーは焦りを感じながら照れ笑いをしていた。
「え?」
「あ、いや、別に。何か手伝えることがあったら言ってくれ。」
「あ、はい。ありがとうございます。」
男にしか見えないミルフィー。触れない限り女だと分かるはずはないと思いつつ、ターナーの言葉と態度が気にはなったが、今はその事よりミルフィーが気がかりだったレイミアスは、そのままぴょこんとお辞儀をして、ミルフィーを運ぶレオンの元へ急いだ。





♪Thank you so much!(^-^)♪

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