★☆アドベンチャー狂詩曲★☆


  第三話 [スーパーヒロイン?(1)]  


 −ざわざわ、がやがや・・・・・−
それから2週間ほど・・・、村へ来た当初の騒ぎも一応治まり、それなりに依頼をこなして酒場の借金を(爆)返していたフィーたちがその酒場で食事をとっていた時、突然、数人の男たちが一人の老人を連れて入ってきた。
「どうしたんだ?」
「い、いや、塔で倒れているのを見つけてな。」
一人の男が質問に答え、今一人の男が店内を見渡して大声をあげた。
「この中にミルフィーっていう剣士はいないか?知ってる奴でもいい!」
その途端、店内はざわっと声があがる。
フィーはターナーの目配せを受けながら、ゆっくりと立ち上がって、老人を店の隅においてあるベンチへ寝かせている男のところへ歩み寄っていく。
「あんたがそうか?」
男の質問に、フィーは警戒しながら答える。
「いや、ミルフィーはオレのお袋だ。」
「お袋さん?」
その男は驚きと落胆の表情で聞き返す。
「じゃー、違うだろ。凄腕の剣士だと、このじーさんは言ってたからな。」
全員20代半ばくらいのその男たちは、昔ここにいたミルフィーの事は知りようがないし、偶然(?)その情報も耳に入れてはいなかった。
「回復魔法は?」
衰弱しきって弱々しく息をしている老人をのぞき込み、フィーは男に聞く。
「いや、魔法類は一切利かないんだ。薬も・・飲もうとしないしな。」
「ミ、ミル・・ミルフィー・・・は・・・?」
「だから、誰か知らないか?ミルフィーと言う名の剣士!こっちの酒場なら・・本人はいなくても知ってる奴くらいいるだろうと思って連れてきたんだが。」
再び叫んだその男に、店内にいた猛者たちの視線は、フィーを指して答えていた。
「・・・あんたがそうなのか?」
老人をのぞき込んでいるフィーに、男は信じられないといった顔つきで聞く。凄腕の剣士がこんなに若いはずはない、それにミルフィーは母親だと答えたはずだ、と男は考えながらフィーを見つめる。
「いや、さっきも言ったが、ミルフィーはオレのお袋だ。」
「お袋って・・・・」
「ごふっ!」
「おい!大丈夫か?」
まさか前の前の若い剣士の母親が凄腕の剣士などであるはずないと、半ば呆れたような顔をしているその男たちを無視し、フィーは血を吐いた老人の手をぐっと握りながら気遣う。
「ミ、ミルフィーに・・・ミルフィーに会わせてくれ・・・世界が・・世界が大変なんじゃ・・・・」
「世界が?」
「救えるのはミルフィーしかおらん・・・神龍の剣を持つミルフィーしか・・・。」
「神龍の剣・・・・・・」
小さく呟くとフィーは、くるっと振り向く。
「リーリア!サラマンダーの国へ帰って君のお袋さんに頼んで、母さんを連れてきてくれないか?」
「え?・・・わ、私が帰って?」
「手紙などで連絡とってる時間はない。君のお袋さんならできるんだろう?」
「そ、そりゃそうだけど・・・」
その会話に、そこにいた全員の視線がリーリアに飛ぶ。
「・・・ち、ちょっと待ってよ。あたしにここで姿をさらせっていうの?あの・・・」
「時間がないんだ。頼む、リーリア!」
ここでは美少女で通していたリーリアは、自分がサラマンダーであることを誰にも教えていなかったし、その姿をみせたこともなかった。
「しかたないわね!いいわよ!そのかわりこのせいでお嫁にいけなかったら責任とってよね、フィー!」
「せ、責任って・・・・」
ふくれっ面をしたリーリアのその言葉に、フィーは焦る。
「覚えておいてね!」
「お、おい!ちょっと待てよ!」
慌てたフィーが前言撤回させる為、リーリアに近づこうとした時、ボン!と彼女は変化をといて、サラマンダーとなる。
「わっ!」
当然近くにいた男たちは驚いて見つめる。
「じゃ、行って来るから。」
ごあっ!と一気にその炎を燃え立たせると、彼女は姿を消した。
「サ、サラマンダーだったのか・・・・・」
店内はしばらくの沈黙後、小さくざわめいていた。
「まさか、サラマンダーだったとは・・・やっぱりミルフィーの息子はただものじゃない?」
「おい、とするとミルフィーが来る・・のか?・・ここへ?」
「奴も一緒なんだろうか?」
「さてな・・。」
「で、どうなるんだ?あのじーさんは何者だ?」
等々・・・・あちこちで男たちは小声で囁き合っていた。


リーリアの一族、火龍は、炎と化して一瞬にしてどこへでも移動できた。だが、それは望むところへどこでもできるというわけではない。そして、自分以外の者も一緒に移動もできるのだが、それには決まり事があった。というよりしたくてもできないのだが、ともかく移動できる場所は、そこに自分が知っていて正確にイメージでき、その上でそこに炎がなければならなかた。もしくは、そのサラマンダー自身が真実心を寄せている者の元、あるいは、その人物が移動しようとしている先(そこに炎があれば)への移動も可能である。
例としては、育ての親や恋人などだが、他人に心を許すことはないと言われているサラマンダーは、そういった事は滅多にみられなかった。
そういった理由で、リーリアは生まれ故郷でもあり、自分の両親の所、そして、どういうわけかフィーのところには転移できた。が、フィーを伴ってということは、二人の間柄が不確かなため不可能だった。勿論、ミルフィーをここまで連れてくることも彼女には無理ということとなる。

そして、リーリアの母親であるミリアは、育ての親である魔導師レオンと、そして、自分の名前の由来であり、姉のようにしたっているミルフィーとは、確かな心の交流がある為可能なのである。しかも、サラマンダーの王族が持つ赤玉の宝石を填めた指輪をミルフィーには渡している。それは絶対の信頼関係を表していた。そうすることによって、育ての親であるレオンしかできないミリアの召喚がミルフィーもできるわけなのである。


−バボン!−
「リーリア!」
数分後、戻ってきたリーリアにフィーはつい先ほどの事など忘れ、彼女の母親であるミリア、そして自分の母親と連絡がついたのかどうか、そしてその様子を聞く。
「今、祭儀中らしいの。中断するにもできないらしいんだけど、なんとか抜け出して来るって言ってたわ。」
「そ、そうか。」
老人の様子を気にしながらフィーは連絡が取れたことに、一応安堵する。連絡さえつけば、後はリーリアの気を辿ってミリアがここへ連れてきてくれるはず。

そして、酒場のあちこちで小さなざわめきが続いていたその数分後・・・

−シュゴゴゴゴーー!−
リーリアのすぐ横に、不意にぽっと現れた炎が大きく踊り、その傍にいた男たちは慌てて場所を空ける。
そして、全員の見つめる中、天井まで立ち上った炎と共に姿を現したのは、ミルフィー・・その場にいたほとんどの猛者たちがその昔憧れた少女の、数年の歳月を経た姿だった。
男たちが知っている頃と比べて服装や髪型、そして年齢のせいでぐっと女性らしくはなっているが確かにミルフィーだと、男たちは思いながら見つめていた。
青緑色の薄衣を幾枚か重ねて身に巻き、金糸銀糸の細い糸を寄り合わせてものでゆったりと止めてある。長い髪は後ろで一つにまとめ銀糸を絡ませて軽く編まれている。その姿は、男たちにとって、神聖な女神のように映り、思わずごくんと唾を飲み込んで見入っていた。

が、当然ミルフィーの方はそんなことは全くおかまいなし。事情が事情でもある為、彼女の目は酒場に着くと同時にフィーの姿を探す。そして、その横で横たわっている小さな老人を見つけて叫ぶ。
「エルフィーサ!」
ミルフィーのその声に、ぐったりしていた老人の身体がびくっと反応し、目が、突如カッと開く。そして、ゆっくりと声のした方向に顔を向け、その先にミルフィーを見つけて弱々しく微笑む。
「ミルフィー・・・・」
「エルフィーサ!」
駆け寄ったミルフィーは弱々しく延ばした老人の手をしっかりと握る。
「ミルフィー・・・こ・・これを・・・」
自由なもう片方の手を上にあげ、老人、エルフィーサは、小さく呪文を唱える。
「エルフィーサ・・・・」
エルフィーサの指先に形作った光玉。その光玉の中に、剣の柄と思える小さな金属があった。それが何を意味するのかを知るミルフィーの顔色が変わる。
「・・・エル・・・・フィーサ?!」
「・・・世界は・・・神龍の騎士の、裁決を・・・待っておる。・・・・生か死か・・・存続か滅亡か・・世界に問うのじゃ。・・・その目で確かめ・・。」
「でも・・」
「それがお前さんの役目・・・神龍の剣に選ばれた・・お前さんの・・・な・・・・・」
「エルフィーサ!」
「確かに・・返したぞ・・・・ミルフィー・・・・・神龍の・・剣士・・・・」
目を閉じると同時に、ぐっと握りしめていたミルフィーの手を握り返していたエルフィーサの手から力が抜けた。
そして、ゆっくりと彼の身体は砂のように崩れ始め、そして、とけて消えるように消滅した。


「母さん・・・・・。」
後に残った光玉を、その中の剣の柄をじっと見つめているミルフィーに、フィーはそっと声をかける。
「あ・・・な、なんでもないの。」
そう答えたものの、未だにじっと見つめ続けているミルフィーを、フィーだけでなく、そこに居合わせた全員、声も上げずにただじっと見つめていた。

「母さん・・これは?」
「あ!待って、フィー!」
その光玉に手を伸ばしたフィーを止めようとミルフィーは声をあげた。が・・・それは一瞬遅く、フィーの指先は光玉にこそ触れてはいなかったが、それが放つ光の裾に触れてしまっていた。
−パアアーーーッ!−
「え?」
慌てて自分がそれを手にしようと、光玉に手を差し伸べたミルフィーは不意に輝きを増したそれに目を見張っていた。

「な・・なんだ?何が始まるんだ?」
そして、その光はそこにいた全員の驚きを伴いつつ、徐々に増し、最後には酒場全体を包み込んだ。


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♪Thank you so much!(^-^)♪

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