★☆アドベンチャー狂詩曲★☆


  第一話 [坊主憎けりゃ袈裟まで憎い?]  


 「おい!」
「なんだ?」

聖魔の塔に一番近い村、トムート村。そこへ着く早々、通りを歩いていたフィーを睨むようにして一人の男が不意に声をかけた。
男はフィーには答えず、しばらくフィーとそしてミルをじっと見つめていた。
「いやな奴にそっくりだな・・・・」
そして、フィーをぎろっと睨んで男は吐く。
「オレに何か用か?」
来る早々いいがかりか?とフィーもそしてミルも思った。世界中から荒くれ共が名を馳せるために、又は塔での宝目当てに集まってくるトムート村。言いがかりをつけ腕を競ったり、新参者とみなすとからかったりする者はざらにいた。からかいならまだしも、腕の未熟な新参者などは、身ぐるみはがされ村を追われるといった事も間々あった。
勿論、そんな理不尽なことはしない者も、そして、親切な者もいることは確かである。が、運が悪いとどうなるかわからないのが、ここトムート村の常だった。

「・・・歳からいって本人でないことは確かだが・・・・」
男はまじまじとフィーを見る。
「まー、そんなことはどうでもいい。ちょっと顔貸しな。」
くいっと男は顎で並んだ家屋の間の路地の奥にちらっと見える空き地を指す。
剣士らしいその男の年齢はちょうどフィーやミルの親と同じくらいと思える年齢にみえた。
断るのはバカにされる元だった。仕方なく男の後をついて歩きはじめたフィーの後をミル、リーリアそしてカノンがついていく。

「なんだ、偶然傍にいたんじゃなくて、やっぱりお仲間か?」
「ああ、そうだ。」
「ふん!ますます気に入らねーな・・・・。」
ちらっと男はミルを見ると、剣を抜く。
「本気で来な、兄ちゃん。ここで通用するかどうか見てやろう。」
「何よ、後悔してもしらないわよ?」
フィーが答える前に、リーリアが男に叫ぶ。
「そういうことは、勝負がついてから言うんだな。ここじゃ「らしい」や「つもり」は通用しねーぜ?」
「『らしい』でも『つもり』でもないわよっ!」
勢いよく返答するリーリアをフィーは苦笑いしながら止める。
「結果を出せば文句はないんだろ?」
「まーな。」
にたっと笑った男を睨み、フィーはゆっくりと剣を抜く。

「そこそこできるようだな、兄ちゃん。」
男は剣の腕と自分の睨みには自信があった。それまでにもこうして新参者に声をかけているその男の睨みで逃げ帰った者は結構いた。が、意地悪でそうしているのではなく、どちらかというとお節介心からだった。その睨みにびびって逃げ出すようでは塔では全く通用しない。入り口付近の下級魔物にでさえ、その瘴気と殺気に呑まれ、どうするまでもなくあの世行きという事は目に見えていた。親切心というか相手が年下なら親心といってもいいかもしれないが、そんな気持ちからの行動だった。
が、今回は少し違うようにも見えた。その睨みは、いつもの新参者に対する睨みよりきつくそして不確かだったが憤りとも思える渦が巻いていた。

が、フィーがその程度の睨みで萎縮するようなことはあるはずはなかった。幼いときから剣士としての訓練を受けてきていたフィーは、父、カルロスの圧倒されるまでの気を全身でいつも受けてきていた。幼い頃ならまだしも、ある程度年齢があがり、腕もついてきてからは、同等の扱いでカルロスの放つ闘気を受け止めていた。普通の睨みなど、睨んでいるなどとは全く感じない。

「遠慮しないでいいんだぜ、兄ちゃん。」
「じゃ、そうさせてもらおう。」
余裕で言った男の言葉に従い、フィーは地面を蹴って男に向かっていく。例え何者であれ、決して気は抜くな。常に全力で行け!それがカルロスの教えだった。それに従いフィーは全力でぶつかっていく。対峙した時、その男の腕がかなりのものであるとは感じたが、カルロスと比べれば数段落ちる。フィーはそう判断しつつ、全力で向かう。

−キン!ガキンッ・・ザッ・・−
フィーはあくまで男の剣に目標を定めた攻撃をしていた。刃こぼれせんばかりに勢いよくお互いの剣を交差させると同時に、すばやく離れ、間合いを取りながら、相手の隙を狙う。
−キン!・・ギギギ・・・−
「なかなかやるじゃないか、兄ちゃん。」
「おじさんもな。」
ぐっと力を入れ、男の剣をはじき飛ばすと、再び間合いを取る。
男はその間合いを取ろうとするときを狙っていた。が、フィーのその隙はない。
−ガキッ!キン!−

−グギギギギ・・・・・−
いつの間にか男の顔色が変わってきていた。最初の時の余裕は徐々になくなっていく。が、それとは反対にフィーには、全く変化はない。いやそれどころかその動きはますます加速されていく。男の剣にかかる力も、衰えるどころかますます強くなってくる。

−キン!・・ザスッ!−
(しまったっ!)
弾き飛ばされた男の剣が地面にぐっと突き刺さる。
それを確認するとフィーは、すっと剣を鞘に納める。
「文句ないよな?」
フィーは男に声をかける。
「あ、ああ・・・・・」

「ふ〜〜ん・・・若いのになかなかの腕だな、兄ちゃん。」
路地の方から声がし、全員そっちを向く。
「ザドガをそこまで振り回すとはな。」
「ターナー!」
「よう!ミル!しばらく見なかったが国へでも帰ってたのか?」
「ああ、そんなところだ!」
パン!と勢いよく手を合わせる二人は、見知った顔だと判断できた。
ターナーと呼ばれた男も、フィーと剣を交えていたザドガという名らしい男と同じくらいの年齢だと思われた。

「雨降って地固まるだ。どうだ、お近づきに一杯?」
ターナーは、ミルから視線をフィーに移すと、にまっと笑う。
「あ、ああ。オレは別にいいんだが・・・」
ちらっとフィーがザドガを見ると、ばつの悪そうな笑みをザドガはフィーに返した。
「オレもいいぜ。久しぶりにいい手応えだった。」
が、その笑みの中には、まだどこか面白くないといった感じの視線があった。


−ざわざわざわ・・・・−
冒険者でごった返しているターナーの行きつけの酒場。なんとか人数分空いているテーブルを見つけ、全員そこへ座る。
「じゃー、まー、お近づきの印に、乾杯といくか?」
カノンにはミルク、残りの全員の前には黒ビールのグラスを置き、ターナーは、上機嫌で自分のグラスを持ち上げる。
「じゃ、再会と出会いを祝して!」
「おう!」
−チーン!−
ミルのかけごえで、全員一気にビールを喉に流し込んだ。

「しかし・・・やっぱり面白くねーな・・・・」
それぞれ自己紹介でもしようかと思っていたところに、ザドガが呟く。
「まー、そうだな・・・確かに面白くない。」
「な、なんだよ、ターナー?」
ザドガに賛同するターナーに、ミルが仲間を代表して聞く。
「何が面白くないってんだ?オレ達のどこが面白くないんだよ?」
「あ、いや・・・お前はいいんだがな、ミル。」
「はん?なんだそりゃ?」
そう答えたターナーとそしてザドガの視線の先には、フィーが座っている。
「なんだよ、フィーはオレの従兄弟だ。文句を言われる筋合いはないぜ?」
「従兄弟?」
「ああ。あとは、フィーの両親の知り合いの娘と息子。フィーとは身内同然ってとこだ。」
「で、お前とは?」
「だから〜、従兄弟で顔見知りでこれから一緒に探検する仲間だって。聞いてなかったのか?」
それを聞いても二人の視線はあくまでフィーに向けられており、押さえてはいたようだが、敵意さえもが感じられた。

「オレ、何か気に入らないことでもしたか?」
思わずフィーは、ミルにそう聞いていた。
「いや、別に。だってさっきここについたばかりだろ?・・それとも前来たときここで悪さしたとか?」
「まさか!そんなことするわけないじゃないか?それに、あの時はフィアと来てたんだし、村にも立ち寄らずに真っ直ぐ塔へ行ったんだぞ?」
訳がわからなかった。なぜそんな風に睨まれなければならないのか。


「悪いが・・オレは席を外させてもらう。」
「は?」
「別に兄ちゃんが悪いわけじゃないことは、オレでも分かってる・・・分かってるが・・・・悪いな・・・どうにも収まらん・・・・」
ガタッと席をたつと、ザドガは店の奥へと姿を消した。

「どういうことなんだ、あんたなら知ってるんだろ、ターナー?」
「あ?・・・ああ、まーな。」
少しきつい口調で言ったミルに、ターナーは苦笑いする。
「その前に一つ聞きたいことがあるんだ。」
「オレに?」
「ああ。」
ぐいっとフィーを見つめたターナーに、フィーは目で答える。
「フィーとか言ったな。」
「ああ。」
「親父の名は?」
「親父?親父がどう関係あるんだ?」
怪訝そうな表情でフィーは軽くターナーを睨む。
「いや、ちょっとな。それが重大なのさ。」
フィーは、ミルと顔を見合わせると、ターナーに言う。
「親父の名はカルロスだ。」
その一瞬、男は動揺したような笑みをみせる。
「そうか。やはりな・・・・その顔はどうみても奴だよな?」
「父さ・・・親父を知ってるのか?」
「知ってるも何も・・・」
両手を大きく広げ、ターナーは肩をすくめた。
「若いもんは知らないだろうがな・・・古くからいる奴なら知ってるさ。それから、もう一つ、気になることがあるんだが・・・」
「ああ。」
聞いても構わない、とフィーが答えると、男は真面目な表情をフィーに見せた。
「お袋さんの名は?」
「・・・・」
一体両親がどうしたのだろう?とフィーはしばらくターナーの顔を見て考えていた。その昔、冒険者としてここにいたことは知っていた。が、別に悪いことをしていたとは聞いたことはなかったし、人に恨まれるようなことをするとも考えられなかった。
「まさか、ミルフィーって言うんじゃないよな?」
男が低い声で言ったその言葉に、フィーはぎくっとする。
「そ、そのまさかなんだけど・・・・。」
一体昔何があった?と心配になってきていた。
「・・・そうか、で、念のため聞くが、お袋さんは、ここにいるミルに似てるか?いや、お袋さんにミルが似ているといった方がいいかもしれんが。」
うっすらとだが、ターナーの表情に少し悲痛さがあるようにも思え、3人はますます訳が分からなくなる。
「ああ、そうだ。オレは親父似だから、実の子共のオレより、ミルの方がお袋に似ている。」
「そうか・・・・・やはり・・・・そうか・・・・・」
−ダンッ!−
不意にその拳をテーブルにたたき付け、その大きな音に、カノンでさえも驚いて目を丸くした。もちろんあとの3人も当然驚いてターナーを見つめる。
「で、元気なのか・・・お袋さんは?」
「ああ。」
「うん!元気なの〜。ミルフィーおばさんもカルロスおじさんもとっても元気でアツアツのラブラブなの〜。ぼくのパパとママもなの〜。」
「カ、カノン!」
なぜだか言ってはいけないような気がし、慌ててカノンの口を塞いたリーリアだが、すでに遅かった。

「ははは・・・元気で・・・アツアツのラブラブか・・・・・そ、そいつはいいや・・・・・ははは・・」
力無く笑ってから、ターナーはくるっと向きをかえると、勢い良く怒鳴った。
「やろう共っ!今日はこいつらのおごりだ!じゃんじゃん飲めっ!」
「おおーーーー!」
「悪いな、兄ちゃんたち。遠慮なくいただくぜ。」
「地獄に仏とはこのことだな。ごっそさん!」

「ち、ちょっと!」
ミルが慌てて立ち上がる。
「ターナー?どういうことだよ、これは?」
ミルが声をかけても、しばらくターナーは背を彼らに向けたまま黙っていた。
わいわいがやがやとその場にいたほぼ全員がその気になって飲み始めていた。

「いいじゃないか、それぐらいおごれ。オレたちの失恋祝賀会だ。」
「なんだ、それ?」
ふっと自嘲しながらようやく振り向くと、ターナーは話し始めた。フィーの両親であるミルフィーとカルロスが冒険家としてここにいた時のこと、その昔ここであった出来事を。


**【青空に乾杯♪】[#127ミルフィー伝説]**



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