【その3】姉妹

 

 元の世界への戻り方など分かるわけもなく、二人はそのままスパルキア軍と共に行動していた。が、傭兵というわけでもない二人は、軍の組織下には入らず、常にセクァヌの近くにいた。セクァヌがそれを望んでいるのに、誰が反対するだろう。
そして、育った環境こそは違うが、ミルフィーとセクァヌはすっかり意気投合していた。旧知の友人であるかのように、そして姉妹であるかのように、親しくなっていた。お互い女同士だからこそ、そして同じくらいの歳だから感じる事など、セクァヌは初めて見つけた同性の友人にあれこれ話していた。


「なんだ、アレク、また蚊帳の外か?」
「・・・・・」
セクァヌとミルフィーが楽しそうに話しているのを、少し離れたところから見ていたアレクシードは、不意にかけられた声に、渋い顔をする。
「分が悪いというか、なんというか。」
「そうだな。ああしていると本当に仲の良い姉妹のようだしな。」
「ああ。」
アレクシードには見せたことのない笑顔がそこにあった。それは女同士、しかも歳が近いから自然に浮かんでくる笑顔。
勿論女性兵士の中にはミルフィーくらいの兵士もいる。が、セクァヌはスパルキアの族長。彼女たちが気軽に接することが出来る人物ではない。公私混同しない。普段は関係ないと言われてもどうしても気にしてしまう。
が、森の中で偶然出会ったミルフィーには関係のない事だった。

「本当にどういう人物なんだ、彼らは?」
時々アレクシードとシャムフェスは同じ話題を持ち出していた。
敵とも味方とも分からない軍の中に気軽に来た。剣の腕が、己の腕に自信があるからと言えばそうかもしれないが、多勢に無勢、もしもの事があるとは考えないのか?そして、一族の軍を率いるセクァヌに対しても、ミルフィーは何も特別に感じていないようだった。可愛い妹、そんな感じで最初から接している。

「鈍感なのか、はたまた彼らがそれ以上の人物なのか?」
「どっちにしろ普通の暮らしじゃなかったんだろ?」
ミルフィーの剣の腕をみればそれは当然だと思えた。普通の訓練や修行で、身に付く腕とは到底言い難かった。
「まさか、どこかの姫君と、騎士というわけでもあるまい?」
「さて、どうかな?」
ふと思いつき口にしたアレクシードのその言葉に、シャムフェスは考え込む。
「奴は、単なる戦士とは言い難い。戦士というより、やはり騎士と言うべきなんだろう。洗練されていてしかも全くすきのない身のこなし、あの腕。奴からにじみ出ているあの雰囲気は、出そうと思っても出せられるものじゃない。生まれつきなんだろう。」
「そういえば、・・・女兵士共も色めき立っているらしいぞ。」
「ほっといても女の方から寄ってくるといった感じだしな。」
「なんだ、さすがのお前もたちうちできそうもないか?」
「ははは・・・」
アレクシードに指摘され、シャムフェスは苦笑いを返す。
「まー、プレイボーイと女殺しの差なんだろ?」
「なんだ、そりゃ?同じじゃないのか?」
「いや、それが違うのさ、微妙にな。」
「オレには同じだと思えるんだが・・・。」
「お前にとってはそうなんだろう?」
からかうかのようなシャムフェスの視線に面白くないと感じたアレクシードは、ふとカルロスを思いだして口にする。
「そうは言っても、奴は彼女しか見てないだろ?」
「そうだな、まるでどこかの誰かさんみたいにな。」
「悪かったな。」
にやりとしたシャムフェスに、アレクシードは背中を見せる。
「おい、どこへ行くんだ?」
「誰かさんが見つめている誰かのところだ。」
「は?・・・お、おい、どっちの誰かさんなんだ?」
「・・・お前の前にいる誰かさんでない方・・だな。」
「お、おい!どういうことなんだ、それ?いいのか?」
「心配するな。騎馬戦は苦手だからコツを教えてくれ、と頼まれただけさ。」
ぎょっとしたような表情のシャムフェスに、アレクシードは振り返りながら笑っていた。
「そんなことならオレでもいいんだが・・・」
「お嬢ちゃんからの頼みだ。それに、彼女は歯の浮いたような事を言うプレイボーイは嫌いなんだとさ。」
「は?」
「お嬢ちゃんが笑いながら言ってた。どうもそこがひっかかってるらしいってな。」
あれほどの男が一筋に想いを寄せているのに、なぜあんなに徹底した素っ気なさでいられるのか?とふとこぼしたアレクシードにセクァヌが答えたそれが、素直にカルロスを見つめられない原因らしいということだった。
「なるほど・・・・」
苦笑いと同時に小さく呟き、何やら考え込んでいるシャムフェスを残してアレクシードは、2人のところへと近づいていった。

**青空#130**


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