-第一章・迷宮の孤独な探索者-
*** その8・剣士との出会い ***

k1tさんが絵板に描いてくださった絵と私の絵を合わせました。
k1tさん、ありがとうございました。m(__)m


 迷宮で出会った魔女を使い魔にして始めた宝石の探索は順調に進んだ。宝冠は1つ、そして、また1つとそのぽっかりと空いた穴に宝石が填るたび、輝きを増していった。(すみません、探索話はまたいつか/^^;)

そして、それら全ての宝石がそこへ戻ると、リュフォンヌは、イーガとヨーガにそれを渡し、精霊王の風穴への入口まで送った。

「ずいぶん遠回りしてしまったわ。この洞窟が広がる空間のあちこちにずいぶん歪みができてしまってる。闇世界をこの世界へと呼び込めるのもそう遠くはないわ。完全に道がつながってしまわないうちに私はディーに会わなくてはならないの。ここからはあなたたち2人で行けるわね?前も行ったんだし、宝玉の探索で力も以前より増してるはずよ。」
「ああ。世話になったな。」
「伊織を助けたら、おれ達もあんたに合流していいか?」
「あら、そんな事言って大丈夫?魔女とは金輪際一緒に行動しないんじゃなかったの?」
「あ・・いや・・・しかし、世界が闇に覆われ、破壊されてしまっては、元も子もないからな。」
「確かに、あんたのその力は人間のものじゃない。しかし・・・心は・・人間だろ?」
イーガとヨーガの言葉に、リュフォンヌは少し悲しげな笑みを見せる。
「そう言ってもらえるとは思わなかったわ。」
そして、少し間を置いて彼女は言った。
「そうね・・・間に合うのなら・・ね。」


そして、2人と1人はそこで別れ、リュフォンヌは再び地下へと向かう。
地下洞窟を伝わってくる空気の流れが、不気味な音をたて、徐々に歪みが広がりつつあることを物語っていた。

そして、久しぶりの迷宮10F。そこがどうしても突破できずに彼女が苦労していた場所。強力な魔族が犇めくそこ。
そこへ降り、彼女は周囲に注意を払いながら暗い道を突き進む。

「あっ!危ないっ!」
誰もいないはずの暗闇に、ふいに剣士のような格好の男の姿が浮かびあがり、その背後に巨漢を誇る大熊、グリズビーの姿が見え、リュフォンヌは咄嗟に叫ぶと同時に男に駆け寄った。

「なにボサーっとしてるのっ?!殺られるわよっ!」
男はリュフォンヌのその声にハッと我を取り戻したようだった。
が、その瞬間、グリズビーの鋭い爪が男を遅う。
「火精よ・・・・我に従え!」
反射的に男がその爪を避けたことに安堵しつつ、リュフォンヌは呪文を唱える。
そして、その炎を受け火だるまになりながらも暴れるグリズビーの眉間に、間髪入れずに、態勢と整えたその男の剣が深々と刺さる。

−ズ・・ズン!−
プスプスプスと焼けこげる臭いを辺りに漂わせながら、グリズビーの巨体は地響きをたててその場に倒れた。

「なかなかの腕ね。」
「そうか?キミの呪術も大したものだな。」
男の動きから相当腕の立つ剣士だと判断したリュフォンヌは、久しぶりに笑みを見せ、男はそんなリュフォンヌに爽やかな笑顔を見せる。
「でも、危なかったわね。こんなところでぼんやりしてるなんて、いくつ命があっても足りないわよ?」
「え?・・・あ、ああ・・・そんな危険なところなのか?」
今更ながらといった風情でキョロキョロと周囲を見渡す男に、リュフォンヌは少し呆れかえる。

「あなた、剣士?」
「ああ、そうだ。」
「そう。お仲間は?」
「あ、いや・・今は1人だ。」
「ふ〜〜ん・・珍しいわね。魔の迷宮に1人なんて。」
「そういう君もそうじゃないのか?」
男はリュフォンヌを改めて観察する。いかにも魔術に長けている感じを受けつつ、どこそこ上品さのあるリンとした女性だと思った。
その男の態度と表情に、彼女を恐れているような様子はないことに、なぜかリュフォンヌは満足感を覚える。
「ふふっ♪そうね・・・なかなかここまで降りてくる仲間は見つからなくてね。」
「で、いつも1人で?」
「そう。ここに巣くう魔物くらいのスリルがなくっちゃつまんないわ。」
「相当な自信だな。」
「自信はいつもないわ。ここへ降りてくるまでガタガタ震えていたりしてね。でも、自動移動箱が止まり、扉が開くと、震えもどこかへいっちゃうの。きっと震えてる暇もないからなんでしょうね。緊張感の方が高まるっていうのかしら?」
「なるほど。しかし、そこまでしてスリルを求めるとは?君のような美人なら、こんな危険なところで魔物狩りなどしなくても、十分遊んで暮らせるんじゃないか?」
「男にこびを売って?」
「あ、いや・・・気にさわったのなら許してくれ。君があまりにも美人だったものだから。」
(久しぶりに聞いた賛辞だわ。)
リュフォンヌは思わず笑いがこぼれそうなのをこらえ、話を続ける。
「お上手ね。そういうあなたも、腕もそれから容姿もかなりのものよね?もてるんでしょ?こんなところで魔物を相手してなくても、貴族様かお金持ちのお嬢様でも落とせば、いい暮らしができるんじゃない?」
「あ・・いや・・・・それは・・・」

−ぶっ・・・あはははははは・・・−
しばらく見合っていた2人は、同時に吹き出していた。

「私、リュフォンヌ。」
「オレはカルロスだ。」
そうこうしている間にも魔物は襲ってきていた。その襲撃を交わし、隙を見て攻撃を返しながら、2人の息は徐々にあってきていた。
「たいした精神力だな。どれもミラクル級の術だぞ。」
「人間じゃない?」
「なぜ、そうなる?キミは人間だろ?」
「そうは思ってくれない人たちが多くてね。あなたは・・・そうは感じないの?」
「あ、いや・・・オレが今までつき合ってきた奴らも、どいつも技や術には信じられないくらい長けた奴らばかりでな、人間が身に付けても不思議はないと思うんだが・・・そうか・・普通は違うのかもしれないな。」
カルロスと名乗った男は、それまで共に冒険してきた仲間達のことを思い出しながらリュフォンヌに笑顔で言う。
「へー・・・そうなの。で、そんな仲間達と離れてどうして一人でここへ来たの?」
そう聞かれた途端、ふっと沈んだ表情に替わったカルロスを見て、リュフォンヌは話題を変える。どうやら触れない方がよさそうだ。
「でも、あなたの剣術も大した腕よね。その腕ならもう1つ下に降りてもよさそうだわ。」
「もう1つ下?オレの腕なら?」
「そう。ここみたいにいざというとき、術で助けてあげられないから。」
「ということは、この下は魔術の類は効かない奴らなのか?」
「そう。頼みは己の腕だけよ。」
−シュンシュンシュン・・シュシュッ!−
「おおっと・・・・」
−ギン!−
持っていた杖らしきものを勢い良く回転させたと思っていた次の瞬間、その先にある鋭い矢じりがカルロスを襲った。もちろん咄嗟に剣で跳ね返したし、リュフォンヌも本気で攻撃したわけではない。
「ヤリを象った杖じゃなかったんだな?」
「そうよ。どちらかというと、杖を装ったヤリね。」
にっこりとリュフォンヌは笑う。
「腕の方も確からしいな。」
「ありがとう。あなたほどの腕の剣士に褒められるのは悪くない気分ね。」
「しかし、なぜこれほどまできたえて下を目指すんだ?この迷宮にはそんなにいいお宝があるのか?」
「まーね。」
「教えてはくれないのか?」
「普通の人が求める宝物は、ここまで来なくてもそこそこ手に入るわ。私が求めているのは・・・特別なの。」
「特別?」
「そう。おそらく私にしか価値がないもの。」
「君にしか?」
ふふっと笑い、ちょうど襲いかかってきたデビルに火炎を放りながら、リュフォンヌはじっと前方を見つめた。
そこには暗闇の中、小さな松明に照らされた下へと続く階段があった。
「本当に世界を危惧している勇者様なら進むかもしれないけど。それでも私が求めているものとは違うわね。」
どうやらお互い、立ち入った話をするには、まだ早そうだ。
そう判断したカルロスは、それ以上聞くのはやめ、リュフォンヌもそれきり口を閉ざし、2人は、薄明かりに照らされた狭い階段を下りていった。



 「カルロス!」
「おーーしっ!とどめは任せとけ!」


それから何度と無く共に迷宮に挑んだリュフォンヌとカルロスは、いつしか気心知る者同士になっていた。
2人は、絶妙なる阿吽の呼吸で迷宮を進む。


−End−

参:『金の涙銀の雫』

-Back-
 -Labyrinth-INDEX-