-第一章・迷宮の孤独な探索者-
*** その7・マジ切れ? ***

 

 「ふん!魔女じゃない・・か・・・何か曰くありげなパーティーのようね。でも、そんなことあたしには関係ないわ。」
視線を少し落としたリュフォンヌを、ふん!と小馬鹿にしたように鼻で笑ってから女は冷たくいい放った。
「あたしから情報を得たければ、さっさとこの2人の男をミンチにするんだね。あんたならたやすいだろ?どうやら恋人ってわけじゃなさそうだしさ?」
ためらっているのか何なのか、しばらくリュフォンヌは下を向いたまま押し黙っていた。そのリュフォンヌを息を殺して見つめるイーガとヨーガ。
「そう。どうあってもそれが条件?」
しばらくして顔をあげ、女に視線を向けたリュフォンヌは異様なまでに静かな表情だった。感情を押し殺した声色で静かに聞く。
「ああ、そうだよ。」
当たり前だろ?と軽く答えた女は、その瞬間ぞっとするような悪寒を感じる。
「譲歩してくれないというのなら、仕方ないわ。それじゃ本末転倒なのよ。」
「え?」
静かな口調のリュフォンヌから発せられるそのぞっとする気に、女は恐怖を覚える。
(う、うそ・・こ、このあたしが恐怖を感じるなんて・・・・こ、こんなかよわそうな女の気に?)
静かな威嚇、いや、怒りだろうか、それとも絶望感からくる気迫なのか、女の全身に震えが走り出した。
「伊織はこの2人を救いたくて炎龍に捕らわれた。そして、私たちは伊織を助ける為、宝石を探す。・・でも、本来ならこのどちらも私にとっては、どうでもいいこと。」
「え?」
「私がすべきことは、少しでも早く迷宮の最下層にいるディーを見つけ、正気に戻すこと。でなければ、世界は滅びてしまう。」
ぎゅっと握りしめたリュフォンヌの拳が震える。
「でも、ディーに人としての心を取り戻してもらいたいと思ってる私が・・その私が、伊織の頼みを無視するわけにはいかない・・・・彼女は2人の無事を願い、2人は彼女さえ無事ならば、と命も問わない。誰か一人命を落としても、それは、決して解決したことにはならない。」
「じゃー、どうするのよ?言っておくけど、お涙ちょうだい話をしたって無駄よ?お互いかばい合って命をかけるなんてばかばかしい!」
「そうよね、そうだと思うわ。」
にっこりと笑ったリュフォンヌの鬼気迫る笑顔に、女は一層青ざめる。
「だから、もっとも最短距離でいくわ。『魔女』なら魔女らしくね。」
「え?」
凍り付いた女の耳に、リュフォンヌの言葉が響く。
「女よ、選択を強要されるのは私ではない。」
「な、なによ・・・・」
小さくそう抵抗するのが女には精一杯だった。
「宝石の行方を正直に話すのならそれだけでいいわ。でも、もし話せないと言うのなら、今この時点で息の根を止めてあげる。」
「リュフォンヌ!」
イーガとヨーガは驚いて叫ぶ。が、リュフォンヌは2人の言葉など耳に入らないとでもいうように、静かに言葉を続けた。
「そして、死神があなたの魂魄を手にする前に、私がその肉体から取り出してあげるわ。」
「え?」
「そして・・そうね・・・・」
−キキッ−
岩壁の穴から魔法でネズミを引きずり出し、リュフォンヌはそれを女の目の前に突き出す。
「このネズミにでもその魂を入れてあげる。そうすれば、情報など簡単に手にはいるわ。そして、あなたはこれより先永遠に、私の人形になるの。忠実な使い魔にね?」
「リュ・・・・」
恐怖に染まり女は声も出さずに固まる。
「私にはそれだけの力がある。そうでしょ?あなたなら知ってるわね?」
「あ・・・・・」
「ひょっとしたら、これはディーが謀った私への足止めなのかもしれない。私は宝などには心は奪われないから。」
にっこり笑ったリュフォンヌの笑顔は悲しみに染まっていた。

「さー、選びなさい!全てを吐いて自由になるか、あるいは、私の人形になるか?」
「そ、そんなの決まってるでしょ?誰が好きこのんで自由のない人形になるってんのよ?!」
「ありがとう。でも、そうね、あなたが今から教えてくれることが事実だとは限らないわよね。」
「な、なによ?まだあたしを脅す気?」
「誓約なさい。全ての宝玉が見つかるまで、共に探索すると、あなたの魂をかけて!」
「魂をかけてって・・そんな一方的な話・・・」
「でなければ・・・」
「・・・わ、わかったわよっ!わかったから、そのネズミ、ちらちらさせるのはやめてくれない?」
「商談成立ね。」
リュフォンヌはネズミを穴へ返すと、完全に警戒は解いてはいないものの、一応にっこりと笑った。


(まったく、魔女を脅すなんて、とんでもない女と出くわしちゃったよ。)
後悔先に立たず。最初からすんなり宝石を飛ばした場所を教えていればよかったと悔やむ迷宮の魔女と、このことでやはり魔女に違いない、しかも恐ろしい部類のそれ、と思ったものの、今後一切リュフォンヌに対して魔女という言葉は口にしないことをイーガとヨーガは心の中で誓っていた。
  

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