-第一章・迷宮の孤独な探索者-
*** その6・宝石の行方 ***

 

 「すまん・・・どうしようもなかったということは、あいつも分かっているんだが・・・。」
なんとかヨーガを説き伏せたイーガが、離れた岩場に黙って座っているヨーガを見つつ、リュフォンヌに謝る。
「いえ、いいんです。私でも同じ立場だったら・・・。」
「ともかく一刻も早くここを出て、宝石の行方を調べよう。」
「ええ。」
言い過ぎた事を謝るイーガの拳が、やはり怒りと自分に対する不甲斐なさで震えているのをリュフォンヌはめざとく見つけていた。
ヨーガが感情にまかせて悪態をリュフォンヌにぶつけたからこそ、彼自身までそうならないよう抑えることができたのだということがそこから彼女にはよくわかった。
その言葉がどれほどリュフォンヌを傷つけるのか分かっていながら、それでも、恋する女性を犠牲にしたことに対しての憤りが、とばっちりだと自分自身でもわかっていながら、抑えられなかったヨーガ。
そして、イーガもまた口にしないだけで、その思いはあった。
ヨーガがそうしなかったら2人の立場は反対になっていたかもしれなかった。

『魔女』・・・聞き慣れたその言葉。が、展開が展開だけに、今回のヨーガのその言葉は予想以外にリュフォンヌには堪えていた。
が、それでも探さなければならなかった。いや、だからこそ、何がなんでも探し出さなければならなかった。

3人は急ぐ。狭い風穴を、そして、ダンジョンを駆け抜ける。襲いかかる魔物と戦いながら。ひたすら出口を目指し、必至の思いで。


その途中、無惨にも複数の肉塊に変わり果てた新鮮な死体(/^^;)を3人は発見する。

「待ってください!」
魂を呼び戻そうにも、身体を修復しようにも、手の施しようがないそれらに、黙祷をあげて立ち去ろうした3人を王冠の精が止めた。

「彼女たちの気を感じます。」
「死体から?」
「はい。」
3人は思わず顔を見合わす。が、できることなら血が滴り落ちているような新鮮な死体は触りたくない。
しばらく考えていたリュフォンヌは、氷結花の呪文を唱え、それらを凍らせた。

「これは・・?」
イーガが小さなピンク色の丸い玉を拾い上げた。
「あら、そんなところに落ちてたの?」
不意に女の声がし、3人は振り返る。
「誰だ?」
「誰?・・・あら、あたしを知らないの?」
ぞくりとする笑みをみせ、女はイーガに手を差し出す。
「まー、いいわ、そんなこと。それはあたしの宝石なの。返してくれない?」
「お前の宝石だっていう証拠がどこにあるんだ?」
女の全身から妖気を感じ、イーガも、そして、ヨーガ、リュフォンヌも身構える。
「あらあら・・・だから人間なんて嫌いよ。外見で判断するんだもん。」
「この宝石は、こいつらが持っていたはずなんだ。これだけじゃない、他にもいくつかあったはずだ。」
「お前が奪ったのか?」
イーガに続いてヨーガがきつい口調で聞く。
「奪った?・・・・・あはははは!」
女は大笑いする。
「この迷宮でそんな風に言われる覚えないわ。だいたい迷宮にある宝物を勝手に持っていくのは、あんたたち人間の方じゃないの?」
「し、しかし、だからといって、持っていた持ち主から奪ったというのは、そういうことなんじゃないか?」
「あら。あたしは彼女たちを助けたのよ。」
「助けた?」
「そう、彼女たち宝石をね。そこの王冠!」
つい!とリュフォンヌが手にしていた王冠を指さし、女は吐くように言った。
「彼女たちはね、みんなそれぞれの故郷へ帰りたがっていたのよ。知ってて縛り付けて!・・ああっ!だから身勝手な男なんて大嫌いなのよっ!」
「故郷?」
リュフォンヌが聞く。
「そうよ。だからあたしは、こいつらの手から彼女たちを奪い取って、それぞれの生まれ故郷へ帰してやったのよ。それのどこが悪いっていうの?」
「その事事態は・・確かに悪いことじゃないわね。」
そうだろ?といった視線をなげかける女を見つめ、リュフォンヌは続ける。
「でも、あたしたちは彼女たちを見つけて、王冠に戻さなくちゃいけないのよ?お願い、彼女たちの故郷はどこ?教えてくれない?」
「ふん!なによ、身勝手な男の肩を持つっていうの?」
−ヒュォーーーッ!−
不意につむじ風が3人を襲った。
「あっ!」
その風に乗ってイーガが手にしていた宝石は女の手の中に飛んでいく。
「聞きたいっていうんなら、そうね・・・そいつら2人、そこの肉塊と同様にしてごらん。」
「え?」
あごで氷付けになっている肉塊を指し、女はリュフォンヌに言った。
「男も嫌いだけど、男に媚びうってる女も嫌いなのよ。」
「あ、あたしたちはそういうんじゃ・・」
「そういうでも、ああいうでも、関係ないよ。」
「彼女がそうしたら、教えてくれるのか?」
棒立ちになってるリュフォンヌを横目でみて、イーガが言った。
「なーに?自分からなるって言うの?」
にまりと笑う。
「オ、オレ・・オレたちは一度死んだも同然だ。それで彼女が助かるのなら。」
「彼女?・・・・そこの女のことじゃなさそうね?」
「もちろんだ。こんな魔女じゃない。」
ヨーガが叫んでいた。

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