☆ その7・襲い来る守護獣 ☆

「イル・・・・あとどのくらいなの?」
「その角を曲がれば扉があるはずだ!それが地下神殿への入口だ!」
ここまで来るのにどのくらい時がたったのだろう・・2人は、ただひたすら、群がってくるモンスターを倒しながら、通路を駈け続けていた。
イルの精神力も、もう底を尽きかけていた。いい加減モンスターから開放されたい気持ちの二人だった。
が、次から次へとどこからともなく出てくるモンスター。目的の扉を目の前にしていても、そこまでがすごく遠く感じられた。
渚はまだ玉の魔法さえ発動できるようになっていなかった。
イルの後ろに隠れながら、イルの攻撃を避け襲ってくるモンスターに目を瞑って短剣を振り回しているくらい。
もっとも洗礼を施された短剣なので触れただけで結構ダメージは与えられたのだが。

「走れ、渚っ!その短剣を扉の中央でかざせば開くはずだ!モンスター共は俺にまかせろっ!早くっ!」
扉のある方向のモンスターを最後の精神力を振り絞り、魔法で一掃するとイルは叫んだ。
反対側からは別のモンスター集団が近づいてきている。
「で、でも・・・」
「早くしろっ!」
「チュララッ!」
イルの援護をするとでも言うようにララが渚の肩からイルの肩へ飛び移り、渚に早く行くように叫んだ。
「イル・・・これ!ララも頑張ってね!」
「チュチュラ!」
いくらなんでも年下のイルをモンスターのまっただ中へ置いて自分だけ中に入る事に気が引けたが、そんな事を思っていること事態が甘いんだ、と判断し、渚は魔法の玉の入った袋を手渡すとイルの背中から離れ、扉に向かって走った。
扉の中央で短剣をかざす。すると、音もなく扉が開く。
「イルっ・・・・早くっ!」
渚は扉の中へ駆け込むと同時にイルの方を振り向き叫ぶ。
イルはまだ小山の様に群がるモンスターと戦っている。
「早くっ!」
再び渚がそう叫んだ時だった、扉はイルが入るのを待たず、開いた時と同じように音もなく閉まった。
「ど、どうして?どうして閉まっちゃうの?開けて、もう一度開けてよお!」
短剣をかざしても扉は二度と開く気配は全くない。渚は必死の思いで扉を叩いた。
が、扉は固く閉ざしたままびくともしない。
「イルッ!イルッ!」
扉を両手で叩きながら叫ぶ。
「渚っ、行けっ!行くんだ!俺は・・大丈夫だっ!」
「イルッ!」
「早くっ!地下神殿で眠る守護獣を眠りから覚ますんだ!そうすればモンスター共は一瞬にして消え失せる!急げ、渚っ!」
「イルゥゥゥゥッ!」
意を決して渚は泣きながら暗い通路を奥へと走り始めた。
引き返す事はできない、自分の出来ることは奥へ行く事のみ。女神の武具を手にいれ、守護獣を目覚めさせなければ!
渚は自分に言い聞かせながら通路の行き止まりにあった階段を駆け下り始めた。

「どうやら・・・おじいは大丈夫じゃなかったらしいな。封印に気力も生命力も使い切ってしまったみたいだ。杖に宿った力も僅かなんだろう・・・身体がおかしい・・・扉が閉まってしまったという事は・・・・。」
扉の前でモンスターと必死で攻防を繰り返していたイルは、考えたくない結果を予想していた。
「う、うわあーっ!」
突然、イルの身体から閃光が走り出、辺りは光に包まれた。


「はあ、はあ、はあ・・・・いったいどこまで続くんだろ、この階段?」
その螺旋階段はいくら下りてもきりがなかった。暗闇のなか、手すりを頼りに、渚はとにかく必死の思いで駆け降りていた。

「も、もう駄目、これ以上走れない・・。」
もう足の感覚がなくなってきていた。まるで棒のようだ。心臓も今にも止まりそうに大きくそして、これ以上早く打てないほどの早さで鼓動している。口もからから、足がもつれて今にも転びそうな感じでようやく歩いている状態。
「ま・・・まだあるの?」
手すりにもたれかかり目の前に続く階段を見つめた渚は、もう少しで終わることに気づいた。
「あ、後少し・・・・・」
息も切れぎれ、できたら少し休みたい渚だったが、イルの事を考えるとそうもいかない。渚は歯を食いしばり、硬直したように感覚のなくなった足を踏みだした。
「き、きゃああああ・・・・」
残りの階段をその最後まで滑り落ちた。
「い、いったあ〜い!・・・・・でもおかげで下へ着いたみたい・・・・」
渚は回りを確認し、階段の終わりと反対の壁に扉を見つけると、急いで駆け寄る。
但し足は相変わらずだし、息も上がってるので、彼女の意思とは反してよろよろと、だが。
−カチャ−
鍵はかかっていなかった。
扉を開けると一本の通路が真っ直ぐ延びていた。そこは、それまで暗い階段を下りてきた渚には眩しく思えたほど明るかった。床、壁、天井、全て淡い光を放っている。
「光り苔がびっしり生えてる!それに、これって・・水晶・・エメラルド?・・・・・きれい・・・。」
渚はしばらく全ての事を忘れ、壁、天井など辺りを見渡しながら、その美しい光の中をゆっくり歩いていた。
「扉だわ。・・あっあの紋章!竪琴と剣の・・・きれい・・・」
行き止まりのそこは水晶でできた大きな扉があった。渚があけようと手をかけると、扉はひとりでにまるで渚を迎え入れるように開く。
ゆっくりとそして引き寄せられるように渚は部屋に入る。

一段上がったその部屋の中央の台座の上で、クリスタルが光輝きながら宙に浮いている。もう一段上がると、その後ろの壁には女神ディーゼと思われる女神像が純銀で描かれてあった。その右横の台座の上には銀の竪琴がついたイヤリングが、左横の台座には銀の長剣がついたイヤリングがそれぞれクリスタルの入れ物に入れて置いてある。
「竪琴と剣で一組のイヤリングになるわけよね。女神様の装身具ってところね。で、肝心な『武具』はどこにあるのかしら?それと守護獣はどこに?」
渚は部屋のあちこちを見ながらクリスタルの横を通り女神像に近づいていった。
「とってもやさしそうな顔をして・・素敵な女神様・・・。」
他の出口はどうやらなさそうだ。渚は女神像やイヤリングを見てから、クリスタルを見に近づいていった。
クリスタルをよく見ると、中心に小さな動物らしき物がいることがわかった。
「何なのかしら、これ?」
渚は恐る恐るクリスタルに触れてみた。どうやら何ともないらしい。顔をぴったりとクリスタルにくっつけてよーく見る。
「犬?それとも狼?・・・?でもこれも銀色だなんて・・・あっ、もしかしたらこれが守護獣?・・寝てる・・のかな?・・・。」
クリスタルを揺すってみたり、コンコンと叩いてみたりしたが、一向に中の犬は起きる気配がない。
「おーーい、守護獣様あ!起きてよおっ!」
「こんにちわあっ!」
呼びかけても無駄のようだ。渚は溜息をつくとそこに座り込み、女神像、イヤリング、クリスタル、と交互に見入っていた。
ふと何気なく立ち上がると、渚は竪琴の方のイヤリングを手に取った。
よく見ると金属かと思われた竪琴の弦、それは光輝く見事な銀糸だった。
「鳴らないかしら、これ?」
そう思った渚は、小指で爪弾いてみた。
−ピン、ピン・・・・・。−
「やっぱりこんなおもちゃのようなものじゃ鳴らないみたいね・・・。」
と、突然、クリスタルの光りが増し、眩しくて目が開けていられないほどになった。
『竪琴を弾いたのは、お前なのか?』
部屋中に轟き渡るその声に、渚が恐る恐る目を開けると、そこには部屋一杯の大きさの銀色の狼がいた。
「そ・・・・そうです。」
『何しに来た?』
そのきつい口調と視線は、どう思ってもこちらに好意を抱いているとは思えない。
守護獣に会えさえすれば、全て旨くいくと思っていた渚は焦った。
「な、何しにって・・・・・女神様の武具を貸してもらおうと・・・・」
『我が主、ディーゼ様の武具を・・・だと?人間如きが?』
「黒の森が現れたのよ!このままだと人間は滅ぼされてしまうわ!」
『ふん!黒の森・・・か。だいたい黒の森が現れたのもお前たち人間が、神を忘れ去ったせいだろう?言わば自業自得だ。見よ、この荒れ果てた神殿を。祈りを捧げてくれる巫女一人もいないではないか!我等に人間を助ける義務はないわ!』
「で、でも・・・忘れていない人がいるからこうして・・・」
『困った時の神頼みというわけか・・・・。千年前も手助けをしたが、結局この有り様だ・・・。』
「・・・・・で、でも・・・・。」
『だが・・・・・そなたは、その竪琴を弾いた・・・。』
しばらく考えてからそう呟くとその狼は低く唸り声を上げた。
すると、一瞬目の前の空間が歪み、気づくと部屋はなく、渚の目の前には無限の空間が広がっていた。
女神像とイヤリングの置かれた台座が、だだっ広い空間にぽつんと置かれている。
『行くぞっ!』
その声と共に狼は渚目掛けて襲いかかってきた。
「きゃあっ!」
避ける間もなく渚は地面に打ち倒される。
「ちょ、ちょっと待って・・・・。」
全身を地面で打ち、その痛みを堪えながら渚はなんとかその狼と話そうとする。
だが全く聞く耳は持たない。
狼は体当たりで、鋭い爪で、そしてその口から吐く業火で攻撃を繰り返してきた。
「そ・・・そんな・・・魔法の玉はイルにあげてきちゃったし・・・地下神殿にさえ入ればもう大丈夫だって、モンスターはいないからって言ってたのに・・・」
たった一つの武器である短剣も狼は物ともしない。簡単に渚の手から振り落とされてしまった。
「な、何で私がこんな目に会わなくっちゃならないのよお?何で?・・・おかあさん・・おとうさん・・・・助けて・・・・誰か・・・・・」
渚は、立ち上がる気力もなく、火傷と怪我の痛みで動くこともできなくなっていた。
『渚ーっ!』
もう駄目だ、と諦めかけた時、イルの渚を呼ぶ声が聞こえた。自分だけモンスターの集団の真っ只中に残ったイルの悲鳴にも似た叫び声だった。
「そうだ・・・こんなとこで死んじゃ・・・死んじゃいけないんだっ!」
渚は台座にもたれてなんとか立ち上がると、クリスタルの箱からイヤリングを取り出した。
「こ、これ・・・・ロングソードのイヤリング・・・・ゲームならこれが本物の剣になったりして・・・本当にただの装身具だったらやばいけど・・・。」
渚はそのイヤリングを自分の耳に着けるとその小さな剣の柄をぐっと摘んだ。
そして、剣を抜くべく、祈るような気持ちでそれを引っ張った・・・・


♪ to be continued ♪


前ページへ 目次へ  次ページへ