-続・創世の竪琴-
 その十八:最下層にて   

 

 「で・・どうしましょう?」
渚がイオルーシムに連れられて行った偽の光の神殿のあった、最下層。そこへ行く必要があるという結論には達した。が、そこからが皆目見当がつかない。
バッコスの情報によれば、そこにいられるということは、闇王に匹敵する魔力の持ち主だということである。闇王との違いは、闇を作り出す力を持っていないこと。ひょっとしたら違いはそれだけなのかもしれなかった。味方ならば心強いが、敵だとしたら、かなり手強い相手となる。
「闇世界の魔族も、人間界と同様、いろいろな種族と、そして様々な考えを持つ者がおります。なかには闇王を良く思っていないものもいることでしょう。ただ・・・闇王様を倒しては、世界そのものが存在しなくなる。そのたった一つの理由で、それほどの力があってもじっとしているのだと思います。ですから、もしかしたら・・・」
「もしかしたら?」
渚はバッコスをじっと見つめる。
「そのイオルーシムとかいう人物を傀儡の闇王としようとしたのかもしれません。」
「傀儡の・・・」
「恩を売って逆らえないように。」
「イルを・・・・」
「そして、おそらく月姫様も。」
「でも、イルは闇を滅ぼすって言ってたのよ?光の使徒に頼まれたって。」
「・・・・ふむ、そうでしたな。」
バッコスは顎に手をあてて考え込む。
「オレ、思うんだけど。」
洋一が遠慮がちに口を開く。
「つまりその魔族は闇王になれないから、力があっても支配者になれないんだろ?」
「そうです。」
「だからさ、そいつにとっては闇世界なんて滅んでもいいんだ。」
「いい?」
「ああ。」
洋一は渚を真剣な表情で見つめて続ける。
「闇世界が滅んだら人間界へ出ればいい。そこで、自分が君臨するんだ。」
「あ・・・・・」
全員の表情が硬くなる。
「でも、闇世界が滅んだら人間界だって・・・」
「まーな。それも考えられるんだ。だけど・・たぶん、そいつは、そうは思ってないんだろ?晴れて自分が支配者にってことだ。」
「そ、そんなの・・・自分さえよければいいなんて?」
「まー、そういう奴もいるってことさ。」
渚に苦笑いをみせ、洋一は吐き捨てるように言った。
「ともかく、その魔族を見つけだして、話し合ってみなくっちゃ!」
「話し合いですむと思うか?」
「部長・・・・」
「場合によってはどちらかが死ぬ。オレたち全員か、その魔族か。」
「その点なら、私たちの方に利があるでしょう。」
リーが静かに口を開く。
「私たちには渚がいるんですよ。しかも女神のイヤリングがあるのです。ゼノーを倒すことができたそれで、その魔族が倒せない事はないでしょう。それに私も多少は術が使えます。」
「リー・・・」
ゼノーを倒した。それはリーの双子の兄。渚はその言葉に、心に痛みを感じた。
「ともかく行ってみませんか?その最下層とやらへ?」
「あ・・じゃー、その前に優司と部長は一度帰って・・・」
「なんでだよ、姉貴?オレが帰ったら困るんだろ?」
「あ・・」
優司とリー、2人がいるから崩壊は一時的に止まっていたことを渚は緒も出して青くなった。
「ということで、山崎さんは?」
「は?そ、そりゃー、オレは役にたたないかもしれないけど・・。」
渚が苦労してるのに、自分だけ帰っても落ち着くはずはない、が、ここにいても何もできない自分では、足をひっぱるだけかもしれない、とも思う。
「2人一緒に来られたのでしたら、2人一緒でないと戻れませんが。」
「そうなの?」
渚も優司も、そして洋一もバッコスに注目する。
「はい、残念ながら・・・」
「でも、私とイルは・・」
「月姫様は別でございます。私がお送りしたのですし。」
「そ、そう。」
「大丈夫。オレ、後ろに控えてるよ。」
好きな女の前では言いたくない言葉でもあった。でも、それは事実。ここではなんの役にもたたない。


そして、浮遊城で最下層へと転移し、その地を踏みしめる。
「本当に真っ暗だな。」
「そうね。部長と優司はお城にいた方がいいんじゃない?」
「そうだな。」
最悪でも足を引っ張るようなことはしたくなかった。洋一と優司は目配せして城へと戻ろうとした。その時・・・

−ズズン!−
「わあっ!」
暗闇の向こうから突如放たれた爆風で、全員吹き飛ばされる。
「渚、大丈夫かい?」
「優司、部長、大丈夫?」
「あ、ああ・・なんとか。桂木は?」
「私は大丈夫よ。」
「オレも・・ちょっとぶったくらいで。」
「あたいはなんてことないさ。」
「私も大丈夫です。」
暗闇の中でお互いを確認しあい、声を頼りに渚たちは集まる。
「誰が?」
「やっぱ、例の・・魔族?」
「とにかく、バラバラにならない方がいいみたい。」
「うん。」
「そうですね。」

が、その爆風は連続して襲ってきた。しかも方向がバラバラで次はいったいどっちから来るのか分からない。
「渚、こうなったら竪琴だよ!」
「そ、そうね。」
イヤリングに手をあて、竪琴を手にし、渚は弾き始める。
−ポロロロロ・・・ポロンポロロ・・・−
「あ・・周囲の闇が・・」
完全には明るくはならないが、暗闇も薄らぎ、数歩離れたところまで確認できるようになってきた。
「な、なんだ・・あれ?」
「げ・・・・」
周囲は、見るからに恐ろしげな水牛が5体。2本足で立ち、敵意むき出しの真っ赤な瞳が全身に恐怖の旋律を走らせた。

かざしたその大きな片手から、爆風は渚たちを襲ってきていたらしい。鋭く長く伸びた爪のあるその手も全身も闇色で、バッコスよりはるか巨体であり、そして、彼から感じられるようなやさしさや温かさは、当然のごとくまるっきりない。

「来るよっ!」
ファラシーナが叫んだ。
その弾道を読み、リーは渚と優司を、そしてファラシーナは、洋一を移動させる。
が、5体が交代で放つそれを完全に避けきるのは無理というものだった。
「リー!お願い!」
「分かりました!」
リーが方円守護の術を唱える。渚はその中央で竪琴を奏でる。

が・・・・黒水牛に変化はみられない。
魔族と話し合いに来たつもりの渚は、確かに黒水牛を倒そうと思って竪琴を弾いたのではないが、それでも、攻撃を止めてくれるようにと願いながら弾いたつもりである。
「なぜ・・女神の竪琴が効かないの?」
竪琴の音に乗り、光玉が彼らに向かって飛んでいくのに、彼らに触れると同時にそれはまるでシャボン玉がパチン!とはじけるようにに消えてしまう。
「な、なぜ?」
焦る渚たち。


「それは、奴らが闇の大元が放った者だからさ。」
「え?」
全員が振り返ったそこに、イオルーシムが立っていた。
「イル!」
「渚。」
ばつの悪そうな笑みをみせ、イオルーシムは渚に歩み寄る。
「ちょいと、イル!今まで何してたんだよ!渚を一人にしておいて!それでよく恋人が務まってるもんだね?」
「あ、ああ・・そう言われると・・立つ瀬がないな・・。」
ファラシーナの険しい顔を見、イオルーシムは笑う。が、その片手には徐々に大きくなってきている火球があった。
「いけないっ!次が来るよっ!」
そんな事を言ってイオルーシムを責めている時ではなかった。
弾道を見極め移動しようとしたファラシーナを、イオルーシムはとめる。
「イル?」
「渚。」
まだ呆然としてイオルーシムを見つめていた渚をぐいっと手元に引き寄せ、イオルーシムは襲いかかろうとしている爆風弾を睨む。
「神龍ファイラとの盟約に基づき、我、全てを焼きつくさん・・・『赤龍焦炎!』」
ゴゴ〜〜〜ッ!とイオルーシムの片手の火球から2頭の真っ赤な龍が飛び出す。それは、交互に交差しながら、目標に向かっていく。
「す、すげぇ〜・・・」
「特撮みたいだ・・・。」
闇を裂き飛んでいく火龍。それは映画のスクリーンで見た魔法。いや、現実に目の辺りにしているそれは、迫力が違っていた。
「よし!もう一発!ファイラとの盟約に基づき、我、全てを消滅させん・・・・『赤龍雷撃!』」
火花散る黄玉がイルの手のひらから躍り出、それは雷龍となって現れ、黒水牛に襲いかかっていく。
「グオ〜〜〜・・・・」
もだえ苦しむ黒水牛。確かに効果はあった。
「イル?」
その様子を見ながら、渚は自分を片手で抱えているイオルーシムを見上げていた。
「大丈夫だったか、渚。」
多少これで敵の攻撃も止まるだろうと判断し、イオルーシムは渚を見つめて微笑む。
「あ、うん。」
「悪かったな。遅くなって。」
「あ、ううん・・私は・・・・。」
「オレさ・・・渚にひっぱたかれた頬がいつまでも痛くて・・いや、たぶん痛みを感じていたのは心だったと思う。」
「え?じゃー、やっぱりあれはイルだったの?」
「ご、ごめん・・・。」
イオルーシムはばつの悪そうな表情で、渚から視線を避ける。
「だけど・・渚だけだから・・」
「え?」
「オレには、渚だけだから・・何があっても。」
「イル。」
少し赤い顔をして渚と見つめ合ったイオルーシムは、再び前方を睨む。
「だから、オレから離れるな。オレの傍にいるんだぞ。いいな、渚!?」
「あ・・何よ、その命令口調?!」
「なんだよ、渚はオレのことが好きなんだろ?あの時の怒った顔、すごかったぞ?」
渚の口調を受け、イオルーシムの口調も自然と荒くなっていた。
「イル?!・・だ、だって、あ、あれは・・・イルが悪いんじゃない!何よ、女の子に囲まれてでれでれしちゃって、みっともないったらっ!」
「しょうがないだろ?記憶がなかったんだし。」
「記憶が無いときはその人の本性が出るのよ、知ってた?」
「なんだよ、それ?渚はオレが女たらしの方がいいって言うのか?」
「そんな事言ってないでしょ?」
「じゃー、なんだよ?」

「ぷぷっ・・あ、姉貴らしいや・・・・・」
「か、桂木・・・・」
周囲を敵に囲まれている中、渚とイオルーシムは言い合っていた。それを見て優司も洋一も呆れ返っていた。
ファラシーナとリーは、見慣れた光景なので呆れてはいるが、あんなものだろうと思っている。
「なんだい、いないと思ったら、渚を向こうの世界まで追いかけていったまではいいとして、記憶を無くして、女の子たちとよろしくやってたってのかい?」
優司から説明してもらって、あきれ果てた顔をしたファラシーナに、優司と洋一はこくんと頷く。
「でも、イルならもてたんだろうねーーー。」
再び優司と洋一は、うんうん!と頷く。


「・・っと・・・・どうやら復活したらしいな。行くぞ、渚!」
シュッと自分の耳についているイヤリングから男神のソードを取り出すイオルーシム、と同じく女神のソードを取り出す渚。
「離れるなよ。」
イルの言葉に目で答え、渚はムーンソードを持ち直す。
「行っくぞーーー!」
向かってくる黒水牛に2人は突進していく。そして、金と銀の光の筋を放ち、渚とイオルーシムの攻撃が始まった。

「あは♪こうなったらあたいたちの出番はないね。」
「そうですね。危なくなったら回復魔法でもここから送ることにしましょう。」
「そうだね。」
周囲に注意を払いながら、そして、2人に細心の注意を払いながら、リーはファラシーナに微笑む。傷を受ければ即座に治すべく精神を集中して。

「すげー・・・カッコいい、・・姉貴・・・。」
王女様ルックもいいと思ったが、こっちも断然カッコいい、と優司はひたすら感心する。
そして、洋一は、あうんの呼吸で攻防を繰り返している2人に、心が沈んでいくのを感じていた。結局、渚の心には入り込めなかった・・。

 



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