「リー!ファラシーナ!」
それから10日後、王に探索を依頼したリーがファラシーナらジプシーの一行と共に王宮を訪れていた。
「渚。」
「もう!渚ったら、すっかり偉くなっちゃってるんだからー!」
穏やかに微笑むリー。そして、賑やかなファラシーナ。それはあの時と変わらないもの。
「名前が勝手に一人歩きしてるだけよ。私は変わってないわよ!」
確かに、不意にここから消えた時から、渚はますます神格化されていた。
「そうかい?お姫様がずいぶん板に付いてるみたいだけど?そろそろ本物のお姫様になるんじゃないのかい?」
意地悪そうな目でファラシーナは渚をからかう。それは王子とのこと。
「もう!そんなんじゃないわよ!」
「あはは・・ごめん、そうだよね、あんたにはイルが・・・あ、あれ?イルは一緒じゃないのかい?」
ふと気付いたファラシーナは渚に聞く。
通された月巫女の部屋には、渚の兄と弟と紹介された男の姿しかない。
「イルは・・・・・」
嬉しそうに微笑んでいた渚の笑顔が曇り、ファラシーナは聞いてはいけなかったと思う。何か事情がありそうだ、と。
「渚・・」
リーがそっと渚の両頬に手をあてる。
「私たちで力になれることがあったら、何でも言ってくださいね。私たちはいつでも、どんなときでも渚の味方ですよ。」
「リー・・・」
(お、おい・・・・・)
フードを深くかぶったリーの顔は見えなかったが、その声色は心に優しく響く。加えてその長身のスタイルの良さは、顔もいいのではないかと誰しも想像する。
優司と洋一は、顔を見合わせて、またしても新しいライバル出現か?と焦る。
両頬に手をあてられたのに、抵抗する様子もみせない。それはそれまでのリーとの経験と、そして、そうすることで盲目のリーが相手の気持ちを判断するということを渚はよく知っているからである。純粋に相手を心配して取るそういったリーの行動に、おかしな気持ちは微塵もないし、また感じられない。だから渚もされるままになっている。
が、そこまで知らない洋一と優司は焦る。
だが、リーを心から信用し、頼りにしていることも確かだった。そこにイオルーシムに対するような思いはないが、それでも、確かな感情ではある。
「リー・・私・・・」
「渚?」
「お願いがあるの。」
「なんですか?」
そっと渚の頬から、リーはその手を離す。
「闇の世界・・」
渚の言葉に、リーはびくっと身体を振るわせ、渚はやはり言うべきではないのか、と口を閉じる。
「ああ・・大丈夫です。少し・・そう、少し驚いただけです。」
「驚いた?」
「はい。近いうちに渚に会える。そして、渚からその話が出る。そう感じてました。」
「感じてた?」
「そうだよ、リーはね、占い師としてうちの看板でもあるんだよ。」
「リーが?」
「そう。あたしの踊りの次ぎにね。」
バチン!とウインクして微笑んだファラシーナに、渚はつられて笑みを返す。
「十中八九当たるんだけどさ、本人が意外に信用してないと言うか・・・。」
リーを見てファラシーナは笑う。
「特に自分に関して出た占い結果というか・・自分のは占わないから、ふと何かの拍子に感じた事・・かな?ぜんぜん信用しないんだよ。」
「信用しないって・・・でも、すごいのね、リー。」
「あ、いえ・・小さな事しか見えないんですよ。大きな事は・・・」
ははは、と軽く笑いながらリーは頭をかいて照れる。
「落とし物はどこか、とか、女の子が産まれるとか、待ち人がいつ現れるとか、そんなものです。ですから、国の動向など大きな事はだめなんです。」
「でもさ、それが良くてね、結構ファンがついてるんだよ。女の子の。」
「へー、そうなんだ。」
「10歳もいかない小さな女の子が、よく捜し物の依頼をしてくるんですよ。」
(10歳もいかない・・・・)
思わず渚も優司もそして洋一も思わず吹き出しそうなのを堪えていた。
そして、渚は闇世界の窮状をリーとファラシーナに話した。
「そうですね、もしも、私が闇王となれる資質があるのなら、私はかまいませんよ。」
「リー・・」
「人間界と闇世界・・・光と闇・・・相反する物。でも、双方ともそれぞれに命を育み息づいている。窮地にあるそこで私の力が役立つのなら。」
「ホント?」
渚の顔が希望で輝いた。
「じ、じゃー、一度闇世界へ・・」
「ただ一つだけお願いがあります。」
途中で言葉を遮られ、悪い予感と共にどきっとした渚の手を取り、リーは続けた。
「闇世界・・兄のいたところ。兄の魂はもう存在していないでしょう。でも、もし・・、もし、仮に私が私でなく兄のようになってしまったら、渚、あなたのこの手で・・女神様の竪琴で倒してくれますか?」
「リー!」
渚のその叫びは声になっていなかった。
「渚、それだけは約束してください。私は、人間界も闇世界も平和に、共に存続させたいという渚の意見に賛成です。でも・・・もしもの場合は。」
「でも・・・・」
−バン!−
答えを躊躇った渚の背中をファラシーナが勢いよく叩いた。
「何迷ってるんだい?渚らしくもない!そんなことあるはずないだろ?リーなんだよ?あんたやあたいがよ〜〜く知ってるリーなんだ。ただ・・・心配性が災いして言ってるだけさ。」
「し、心配性が災い・・ですか?」
渚ではなくリーが言った。
「そうだよ。まったく。・・そんなこと言われて渚がうんというはずないだろ?」
「そ、そうですね・・・・・・でも、」
ファラシーナと笑みを交わしたあと、リーは改めて渚を見つめる。
「分かったわ、リー。その時は・・・」
ぎゅっとお互いの手を握りあい、2人はお互いの決心を確認しあう。
「さてと、そうと決まったら、闇世界へ出発だね!」
が・・・王子が城を離れることを快く許可してくれるだろうか、その心配があった。
「そんなの簡単さ。帰る必要があるから、帰る。でなけりゃ二度とここへは来ないって言っておやり。」
ファラシーナの入れ知恵で、王子からまた城へ戻ることを約束に許可を得た渚たちは、闇世界へ旅立つことにした。かといえ、正直に話すのはいろいろ誤解などがあるだろうから、月へ帰るということにしてある。
「闇世界かー・・・」
優司はゲーム感覚でわくわくしていた。
そしてそれはファラシーナも同じだった。
「え?ファラシーナも来るの?」
「だって、見たいじゃない?チャンスがあれば経験はいろいろ積んでおくものなんだよ?」
いつもならし〜〜んと静まり返った闇の浮遊城。ファラシーナの同行で、賑やかにそして楽しくなりそうな予感もした。
が・・・果たしてリーは闇王の資質があるのだろうか?それも気になり、そして、そうだとしたら、この先どうなるのか、手放しでは喜べない事ばかりでもあった。 |