ゼノーは第七層の大地に下りていた。
人間界にもっとも近い第七層は、戦いに巻き込まれる事が多く危険だとシアラから聞いてきたゼノーは、緊張していた。
それは、時に、人間界から霊力の強い戦士や修業僧、魔導士などが己の名を馳せる為に魔物狩りに来る為だった。
中にはそれを商売にしている者もおり、丈夫で寿命の長い魔物はかっこうの獲物となったのだ。
闇王さえいれば、例えいくら霊力が強くても、人間ごときが結界を越えて来るようなことはないのだが、ここ数年の間に、第六層まで下りれるようになってきていた。それは、人間の霊力が上がったという訳はなく、とりもなおさず。闇の世界事態が弱まってきていることを示していた。
(ルチアから、よく魔王に立ち向かって世界を救う勇者の話を聞いたけど、まるっきり反対じゃないか。)
ゼノーは自分たちだけが正しいと思い込んでいる人間が憎く思えた。彼らは何も悪いことをしていない、害を与えていない魔物まで、わざわざ修業をし霊力を高めてまでして、殺しにやって来る。確かに人間界に行き、悪いことをする魔物もいる。が、その事を口実にし、わざわざ自分たちの世界ではない所まで来て、静かに暮らしている魔物まで殺すことはない、狩ることはない、とゼノーは思った。
闇の世界にとっては人間こそが害を成す者、侵略者だった。
灰色の葉をつけた黒い木、黄色の土、灰色や茶の草、色は違ったがその形は人間界と同じであり、間違いなくこの世界ではれっきとした植物なのだから。人間界とは少しも違わず。
「キーキーキー!」
「何だ、こんな雑魚か・・これじゃ、高く売れねぇな。」
「そんな罠じゃ、それくらいのもんだぞ。」
「ペットくらいになるんじゃねーか?」
「そうだな、近頃貴族様の間じゃ、変わり種を飼うのが流行ってるらしいからな。」
何かの叫び声がして、そっちに駆けつけたゼノーの目の前には、ハンターらしき男が三人と、罠にかかり泣き叫び続けるプチデビルがあった。
少し様子を見ることにしたゼノーは、近くの木陰に身を潜めた。
「こんなもん飼ってどこがいいんだか・・・高貴な方のやることは、あっしらにゃ理解できねぇな。」
男の中の一人が逆さに吊るされたプチデビルを、棒でつっつきながら言った。
「キーッ!」
プチデビルは歯を剥いて怒ったが、どうする事もできない。
「全くだ!けど、そのおかげで商売が成り立つってもんだけどよ。」
「そうそう!・・・ところで、あのくそ坊主は何処に行きゃーがったんだ?あいつがいねぇと帰れねぇんだけどよ。」
「どうせその辺の岩影で呑んでいるんだろうよ・・おっ、来た来た!」
ゼノーがいる方と反対方向から僧侶らしき男が千鳥足で歩いてきた。脇には、自由になろうとばたばたと暴れているダークエルフをしっかりと抱えて。
「あの生臭坊主!・・・だけどダークエルフとは・・それもメスだし。高く売れるぞ。」 一人が呟く。
「おい、旦那、結構な獲物じゃないか。どうしたんだ?この辺りにゃいねーんだろ?」
他のもう一人が近づいてくる僧侶に大声で言った。
「ああ・・さっき勇者ご一行様ってのに会ってな。下の層で捕まえてきたんだそうだ。が、やはり下には強い魔物がいて、回復魔法のできる奴が死んでしまったとかで、命からがら逃げてきたらしい。そこで、私がこのエルフと引き換えに回復してやった、と、こういう訳だ。」
この上なくご機嫌な僧侶は、得意気に言う。
「さっすがあ!」
「他にはなかったんですかい?」
「ああ、回復すると、すぐまた下の層に行ったよ。」
「はははっ!懲りなぇ奴らだな。」
「全くだ!」
わーっはっはっは、と全員で大笑いすると、エルフをからかい始めた。
「ちょっと若いが、あと二、三年もすりゃー値打ちがでるぜ。」
一人がその顎をひょいと持ち上げると、しげしげと顔を見ながら言った。
「いいや、このままでもロリコンのすけべ親父なら高く買うぜ。こりゃ、上玉だ!」
「んー、んー!」
手を後ろ手に縛られ、猿ぐつわをかませられているそのエルフは、それでも必死に抵抗していた。その紫の瞳は涙で潤んでいる。
「なかなか生きがいいな!」
男たちは代わるがわるエルフをからかっていた。
「くっそー!」
それ以上我慢できなくなったゼノーは、男たちの前に躍り出る。
「いいかげんにしろっ!」
「な〜んだぁ?このガキ?」
「おい、どうやってここまで来たんだ?」
男たちは小さなゼノーなど相手にもせず、笑った。
「エルフたちを放せ!」
「おいおい、俺たちの上前を跳ねようってのかい?」
「はははっ、こりゃーおもしれぇや!」
「仲間でもいるんかい?」
男たちは横目でゼノーを見ただけで、相変わらずエルフをからかっている。
「私一人だ。」
ゼノーは男たちを睨みながら言った。
「はっ!いっちょまえに、『私』だとさ。」
「おい、こんなガキの相手しておっても仕方ねーよ。早く帰ろうぜ。思ってもみねーいいもん手に入れたからな。」
ぎゃーっはっはっは!と笑う男たち。
「放せと言っただろう?」
ゼノーの瞳は熱くなってきていた。身体の周りから闇の気が立ち上がってくる。
「欲しけりゃとってみな!」
「じゃ、旦那、頼んます。」
完全にゼノーを馬鹿にしてかかっていた男たちは、そんなゼノーにも気づかず帰り支度を始め、僧侶はエルフをその中の一人に渡すと魔方陣を描くため気を集中し始めた。
−カーッ−
と、ゼノーの手から放たれた閃光が、エルフとプチデビルを避けて男たちを直撃し、一瞬にして彼らの姿はそこから消え失せた。
「大丈夫?」
ゼノーは慌てて駆け寄ると、プチデビルとエルフを自由にする。
「キーキー」
「あ、ありがとう。」
自由になったエルフとプチデビルはゼノーに礼を言うと、慌てて逃げるようにその姿を消していった。
「・・・なんかあっけないんだな・・。」
少しは話したりしていってもいいのに、とも思いながら、でも、やっぱりあんな事があったばかりだから、急いで仲間のいる所に帰りたいのも無理ないか。と、一人納得し、ゼノーは溜息をつくと、当てもなく歩き始めた。
しばらく明るさを遮るようにうっそうと繁る森の中を進むと、前方の木々の幹に明かりを見つけたゼノーは一目散に走って行った。
「うわー、ふっとい木!」
それぞれ直径が三メートルから五メートルあるだろうか、その大木の上の方に明かりはついていた。
「何か用かね?」
ゼノーが一番近かった木の根元でその明かりを見上げていると、後ろから声がした。
振り向いたそこには、プチデビルを肩に乗せたダークホビットが立っていた。
「ここは、ダークホビットの村。余所者は残念だけど、入れませんよ。最近は特に人間がうろうろしていて、物騒だから。」
ちょうどゼノーと同じくらいの背のそのホビットはそっけなく言うと、ゼノーの横を通りすぎようとした。
「キーキー!」
「な〜んだ、それならそうと早く言いなさいって!」
ゼノーが何の事だか分からず、突っ立っていると、そのホビットは、かぶっていた帽子をぬぎ、丁寧にお辞儀をする。
「先程はこのペペが助けていただいたそうで、ありがとうございます。私はホビット村のギコギコ、よろしく」
「ゼノーです、よろしく。」
そのプチデビルは先程のデビルだった。ギコギコの案内で、ゼノーはホビット村に入ることができた。それは、何本かの大木の上の家々だった。
「ま、ま一、杯。しかし、ペペを助けてくれた時といい、迷いの森を難なく通ってここへ着いた事といい、あなたはただ者ではありませんね。」
ギコギコがゼノーを連れてきたのは彼の家ではなく、酒場。
「あ、あの・・ぼ・・わ、私は・・・。」
「遠慮しなくていいんですよ。ペペを助けていただいたお礼です。」
ギコギコはグラスに酒をなみなみと注ぐとゼノーに勧めた。
「あっ、ほら、ピンクデビルのラインダンスが始まりますよ!」
ゼノーはギコギコが舞台を見た時、空になった彼のグラスと自分のをそっと交換した。
が、それから数分後、ゼノーは、ピンクの蛍光色のデビルダンスに眩暈を覚え、グラスを交換したせいでいける口だと思われた為、それからじゃんじゃん呑まされ、死にそうな苦しみを受けていた。
胃のなかの物を全部吐きだしても、吐き気は無くならない、心臓は今にも破裂しそうに打っている。
闇王がこんな事では、と思いながら、ゼノーは真っ青になって長イスの上に転がっていた。
いつの間にか眠っていたゼノーは、ふと、話し声で目を開ける。
「な〜んだ、てっきり人間の道具かと思ったら、夜中に銀の玉を使ってテニスだなんて。全く、人騒がせな!」
「だろ〜?いつまで落とさずにできるかってんだから、ようやるよな!」
「あ・・あの、その銀の玉って?」
がバッと起き上がるとゼノーは、話しているホビットに聞いた。
「痛っ・・・あ、頭が、割れそうに痛い・・・・。」
ゼノーは、動いた途端、頭の中をまるで稲妻が走るような痛みを感じた。
「はっはっは!呑みすぎたな、あんた。」
「あの、今の銀の玉って?」
「ああ、ここへ来る途中フェアリーの姉妹がテニスをしてたんだ。俺はてっきり人間のランプだと思って、ぎくっとしてしまったんだ。
ほら、よくランプを左右に振って合図してるだろ?遠目にはおんなじ様に見えたんだ。」
「で、さっき青い顔して駆け込んで来たってわけさ。よく見れば分かるのにさ、おっちょこちょいなんだから、こいつ!」
もう一人のホビットがからかうように言った。
「それ、どの辺ですか?」
「う〜ん・・・南へちょっと行ったとこくらいかな?なんせ飛びながら続けてるからなあ・・・。西に向かってたよ。」
「ありがとう!行ってみます。」
ゼノーは勢い良く部屋を出た。その途端、平衡感覚を失って危うく木から落ちそうになる。
「わっ!」
「ほらほら、気をつけなくっちゃ、ここは木の上の酒場なんだからな。」
もう少しで落ちるところを、話をしていたホビットが助ける。
「ど、どうもありがとうございました。」
ゼノーは礼を言うと、一段一段階段を確認しながら下りた。
「ほほほほほ・・・」
「ふふふふふ・・・」
二日酔いの頭痛に悩まされながら、20分ほど南西に走ると、笑い声が聞こえてきて、空中で飛び交う銀の玉が見えた。その輝きは確かにムーンティア。
「す、すみませ〜ん!」
ゼノーは下から大声で呼びかけた。が、二人は気づかないのか相変わらず笑いながら、玉を打ち続けている。
「すみませーーーんっ!」
「なあにぃ?」
ゼノーの声を聞いた二人は玉を打ち合いながら下りてきた。ゼノーの手の平程の大きさの姉妹だった。
「何の用ですの?私たち、忙しいんですのよ。」
「あ・・あの、その銀の玉を・・・」
「銀の玉を?」
「あの、もらいたいと思って。」
「もらいたい?まぁ、せっかく私たちが楽しんでいるのに。その楽しみを奪うおつもり?」
「で、でもそれがないと・・・・」
ゼノーは困った。どう言ったら分かってもらえるのだろうか、と考えた。
「それに大事な物なんですもの。例え、この変わりの物を用意して下さっても、差し上げられませんわ。」
「だ、大事なものって?」
「な〜いしょ!」
二人は口に指を充てシーっと言うと再び上空に上がり、テニスを続けた。
「待って!待ってください!」
ゼノーは上を見上げながら、二人を追いかける。
どれほど走っただろうか、酔った時にお腹の中のもの全て出してしまっていたゼノーは、空腹と疲れで倒れそうになっていた。それでもフェアリーはテニスを続けている。
一体いつまで続けるつもりなんだろう、どこが楽しいんだろう?と思いながらふと立ち止まって見上げると、銀の玉がすうっと落ちてきた。
「!」
ゼノーは疲れた足で必死になってその落下地点に急ぎ、拾い上げた。
手の平のそれは、間違いなくムーンティア、ゼノーがブラコスにもらった物と同じやさしい銀色の光を放っている。
確かに間違いない、ほっとしてそれをシアラにもらった指輪に近づける。
と、銀の玉はすうっと小さくなるとその中に吸い込まれていった。
「やはり、あなたは闇王様。」
上空から声がしてゼノーは慌てて見上げる。そこには先程の小さなフェアリーの姉妹ではなく、ゼノーと同じくらいの大きさのフェアリーがいた。
彼女はゆっくりと地上に下りるとゼノーに頭を垂れる。
「失礼致しました。私はフェアリーの女王、ミスーファと申します。人間界にいる事ができなくなり、数年前からこちらに住まわせていただいております。」
ゼノーは彼女の美しさに目を見張った。透き通るような白い肌、ほんのり紅い頬、緑の目、形のいい唇、エメラルドの輝きの長い髪、そこから出ている長い耳。銀色に光る半透明の薄絹をまとった身体全体から淡い輝きを放っている。
さっきの姉妹の時はムーンティアの事ばかりに気を取られて何とも思わなかったのだが、今回は目の前に
いることもあり、その美しさに気を取られてゼノーは返事をする事も忘れ、じっと彼女を見ていた。
「闇王様?」
「あ・・す、すみません。あまりにも綺麗だったから、つい・・・」
「まぁ、お上手ですこと。ほほほほほ」
口に手を充てて笑った彼女はその美しさを一層増していた。
「その銀玉は、私たちがこちらに来る前、人間から盗み取った物なのです。そのお蔭で私たちはこちらへと逃れてくることができました。」
「人間から?」
「はい、バンパイアの娘が持っていた物なのです。彼女は私の部下に、闇の世界へ行き、今はいないが、いずれ現れるであろう、闇王様に渡してほしいと頼むと、自害しました。人間の玩具にはされたくなかったのでしょう。可哀相な娘です。」
ゼノーはミスーファからその時の状況を聞いて、心の底に沸き上がる人間に対する怒りを抑えきれなくなっていった。
「なんて奴らだ。人間が何様なんだ!屑じゃないか!」
ゼノーの固く握られた拳は、怒りで震えていた。全くどうしようもない生き物だ、人間とは、と感じていた。
「闇王様・・・」
彼女はゼノーのその手を取り、やさしく包むとじっとゼノーの目を見つめた。
「どうか、一日も早くムーンティアをお集めになり、この闇の世界を人間の魔手からお守りください。それと・・・」
「それと?」
彼女はゼノーが落ちついた事を確認すると、彼の手を離し、微笑んだ。
「ここはあなた様の世界。何人もあなた様の命令には逆らえません。もっと自信をお持ちになり、威厳を持って、お命じなさいませ。頼まなくとも命じればよいのです。」
「で、でも私はまだ・・・」
「歳も姿形も関係ありません。毅然とした態度で命じあそばせれば、あなた様を取り巻く闇の気で、誰しも分かり得るのです、あなた様が闇王、この世界の源、主だという事が。」
ミスーファはゼノーの右頬にそっと口づけをすると、空へ舞い上がって行き、ゼノーは慌てて見上げた。
「ミスーファ!」
「第六層への入口は、その姉妹がご案内致します。どうか、一日も早くこの闇の世界に平和をもたらして下さいませ。崩壊を止めて下さいませ。」
彼女の姿が遠く見えなくなり、視線を下げたゼノーの前に、飛びながら額ずく先程の姉妹がいた。
「先程は大変失礼致しました、闇王様。入口はこちらです。」
二人同時にそう言うと、彼女たちはゆっくりと飛び始め、ゼノーはその後に付いて歩き始めた。
歩きながらゼノーはつい先程までの空腹感も疲労感も失せている事に気がついた。
ミスーファがいつの間にか回復してくれたんだ、そう思ったゼノーは足取りも軽く歩き始めた。
第六層でゼノーはダークエルフを捕まえた自称勇者ご一行様と、ばったり出会った。なるほど、第六層まで来れるだけあって、自称とは言え、その力は尋常ではないとゼノーは感じた。
戦士と修業僧のその十分に鍛練された身体には無数の傷痕があった。がそれにも増して、恐ろしい程の闘気が立ち上がっていた。魔物たちが恐れるはずだ、とゼノーは思った。そして、もう一人、女の魔技がいた。この魔技も相当の魔力を持っている事が彼女を取り巻く気で分かった。
「何だ、何だ、坊やじゃないか、よくこんな所まで来れたな?仲間とはぐれたのかい?」
戦士がゼノーを見るとすぐに言った。
「ちょっと待て!こんな所にこんな子供が一人でおれるわけない!こいつは、人間の皮をかぶったモンスターじゃないのか?」
修業僧が叫んで、ゼノーに近づこうとした戦士を止めた。
「違いないよ!お気をつけ!見てごらん、あの目を!」
魔技はゼノーの瞳を指し示してそう叫ぶと、両手を胸で合わせ呪文を唱え始めた。
「ファイラとの盟約に基づき、我、全てを焼きつくさん・・・『赤龍焦炎!』」
真紅の炎龍がゼノー目掛けて突進する。
「ダークフラウ!」
魔技が放った炎龍がゼノーを覆わんとした時、暗黒の炎がゼノーの全身を包み、次の瞬間、赤い炎は消え去った。
「な、な・・・」
驚いて呆然とする勇者たちとは反対にゼノーは落ちついていた。
「返すよ。」
ぽつりとゼノーが呟くと、暗黒の炎は巨大な黒龍となり、あっと言う間に魔技を包み込んだ。
「きゃあ!」
戦士と修業僧に行動を起こす時間は全くなかった。一瞬後、その黒い炎は彼女の姿と共に消えた。そして彼女が立っていたと思われる場所には、小さな玉が光っていた。それを見たゼノーは嬉しそうに微笑んだ。
ゼノーは第七層と六層を繋ぐ異次元空間を通る為に、その前に闇の力を自由に制御できなくてはならなかった。そして、その入口の前で数日間精神を集中し続けた結果、完全に身につけたのだった。
「ガ、ガキだと思っていたら、とんでもない奴だ!」
勇者はその大剣を構え、修業僧は身構える。
「偶然の賜物、願ってもないこの素敵な贈り物に、闇王自ら、お前たちに祝福を与えよう。光栄に思うがいい!」
闇王としての自覚と自信がゼノーの内に生まれ始めていた。
「うるさいっ!人間の敵めっ!」
一瞬にして魔技を倒した事と、その闇の闘気に闇王ではないにしても、強大な力を持つ魔物だと確信した勇者は燃えた。
「やあああああっ!」
勇者がその大剣を頭上高く掲げ、拳の技を発しようと構える修業僧と共に、ゼノーに向かって突進してくる。
「お前たちが勝手に決めつけているだけだ。私たちの世界にまで来て横柄な口は利かないでほしいな。」
ゼノーはにこりと笑うと右手を前にかざした。
その瞬間、閃光が勇者と修業僧を包み込み、一瞬にして彼らは消え去った。
「こんなものかな、人間なんて。」
呟きながら、ゼノーは、彼が手にするのを待っているかのように、輝きを発している銀玉に手を延ばした。
「これで、三つ。あと四つ・・・か。第五層への道はどこだろう?」
ふと振り返るとそこにゼノーが助けたダークエルフの少女が立っていた。その目は恐怖に脅え、全身が震えていた。
「お前・・」
ゼノーが何か声をかけようとした時、彼女は逃げるようにその姿を消した。
どうしたんだろう、と思いながらゼノーはゆっくりと歩き始めた。
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