軽い眩暈がした後、目の前には功史が立っていた。私は谷間の入口に戻っていた。
「こ、功史。」
「お・・驚いた、操。急に現れるんだからな。」
功史はまだ涙が乾ききっていない私の目頭をそっと手で拭いてくれた。
「あ、あのね、ハニーが・・・・」
私は風の神殿であった事を功史に話した。
「そうか・・でも風龍が言ったように、それがハニーの使命だったんだ・・・」
「うん・・。」
「俺たちも行こう!黄金龍に会いに!」
「うん!」
私は指輪を高くかかげて叫んだ。
「神龍の貴石よ、私たちを黄金龍の元へ!」
指輪から三色の光が出、私たちを包む。そして、次の瞬間、私たちは辺り一面黄金でできた空間に立っていた。
「すごい、これ・・・木も草も、地面までの黄金よ。」
「そうだな、目が眩む・・こんなにあるのも問題だな。」
「でも、少しでも持っていけたらお金になるのに・・・・」
「操って食いしんぼだけじゃなくって守銭奴でもあったのか?」
草を引っ張っている私に笑いながら功史が言った。
「お金はどれだけあってもいいの!でも、夢じゃしかたないわよね。持っていく事なんてできないもん。」
「まぁな。行こうぜ、寄り道食ってないで。」
「うん!」
私と功史はその空間の中心にある球体へ向かった。
「これが、黄金龍?」
その球体の中に黄金龍はいた。眠っているらしくそこにうずくまっている。
じっと見ていると、気配を感じたのか、黄金龍はゆっくりと首をもたげ、瞳を開くとじっと私たちを見つめた。
「黒龍を倒せるのか?」
低く辺りに響く声で言った。
「はいっ!」
夢なんだから上手くいくに決まってると思った私はきっぱりと言い放った。
「頼もしい事だ・・・。」
黄金龍は目を細めて私を見た。
「そこの男は?」
「はい、できます。」
再びその目を閉じると、黄金龍は何かを考えているかのように、しばらく黙っていた。
そして、目を開けると言った。
「いいだろう。水龍、火龍、風龍がそなたたちに賭けたように、私もまたそなたたちに賭けてみるとしよう。この世が闇に染まるか、救われるかはそなたたち次第だ。」
黄金龍は私たちをじっと見つめていた。
「ドワーフの細工師から手に入れた剣と指輪を見せるがよい。」
「は、はい。」
功史は慌ててポケットからそして私は指から外すと黄金龍の前に差し出した。不思議と今までどう引っ張ってみても抜けなかったその指輪が簡単に抜けた。
魔法剣と指輪はゆっくりと私たちの手を離れ、黄金龍の目前に浮き上がっていった。
「なるほど・・・黄水晶の細工か。地龍の正しき心がここにある。」
「地龍の正しき心?」
「そうだ。黒龍は黄龍が変じたもの。真の地龍は黒龍でなく黄龍なのだ。地龍の負の心がそうさせたのだ。黒龍は地龍であって地龍ではない。」
−ブン!−
魔法剣の鞘から光の刃が現れた。
−ピカッ!−
指輪は杖へと変化した。
そしてそれらはゆっくりと黄金龍の顔の前から胸へと移動して行く。
−グシュッ!−
そして、私たちの見ている前で、2つは黄金龍の胸に深々と刺さった。
「な・・・何を?」
黄金の血が滴り落ちる。そして、ゆっくりと胸から出てきたそれらの先には黄金の心臓があった。声も出ず、ただじっとその様子を見つめ続けている私たちの前に黄金の血に染まった杖と剣はゆっくりと浮いてきた。
「受け取るがよい、私の心臓とそなたたちの武器を。」
私も功史もまるで操られているように、両手を差し出す。
−カーッ!−
私が杖を、功史が剣を掴むと同時に、黄金の貴石がその光を放つ。その光に包み込まれた私たちは、意識が遠くなるのを感じていた。
「う、うう〜ん・・・・」
私が目を覚ますと、そこはあのドワーフの細工師ギャシーの部屋だった。そこのテーブルのイスに座っていた。横を見ると功史がテーブルの上にうつ伏せになっている。
−ガチャリ−
奥のドアが開き、ギャシーが入って来た。持っているお盆の上にはカップが3つ、ハーブティーのいい香りが部屋中に漂う。
「気がついたようじゃな、操?」
「ギ、ギャシー?」
私はキョロキョロと見回していた。
「ゆ、夢だったの?」
「いいや、夢ではない。」
「ギャシー・・・」
私はギャシーの顔をじっと見つめた。
「お前さんたちは、少し前、黄金龍の元からここへ戻って来たんじゃ。」
ギャシーはカップをテーブルに置くと、功史をつついて起こした。
「う、うう〜ん・・・あ、あれ?ここは?」
功史は目を擦りながら私を見た。
「夢だったのか?」
・・・私と一緒の事を言ってる。
「夢じゃないの。黄金龍のところからここへ転移してきたみたい。」
「どうしてだ?俺たちは黒龍のところへ行くんじゃないのか?」
私からギャシーの方に視線を向け、功史は言った。
「まあ、お茶でも一杯飲んで落ちつくといい。話はそれからじゃ。」
私たちはギャシーに勧められるままお茶を飲んだ。
「わしの一族が犯した過ちのお蔭で、お前さんたちには、えらい苦労をかけて・・」
「ギャシー、知ってるの?」
「ああ・・黄水晶を通して全てな。」
ギャシーはしばらく天井を見たまま黙っていた。
「わしが、もっと強く反対すれば良かったんじゃ・・いや、最初見つけたとき、隠してしまえば良かったんじゃ・・・あの時、まさかこれ程の事になるとは思いもつかなかったんじゃ。考えが足りんかった。」
「ギャシー・・・」
「じゃから、わしはお前さんたちと共に黒龍に立ち向かおうと思ったんじゃ。」
「た、立ち向かうって言っても・・・」
功史も私も驚いて目を見張った。
「分かっておる。お前さんたちの力には到底及ばん。じゃが、そうでもしなけりゃ、わしの気が収まらんのじゃ。昔・・遥か昔、ドワーフの僧侶と人間の勇者と女エルフの魔法使いとが黒龍を倒したように、わしも力になりたいのじゃ。もっとも操はエルフじゃないがの。わしも僧侶ではない、ただの細工師じゃが。」
「ギャシーの一族とそのドワーフの一族は違うの?」
「そうじゃ・・その一族が滅んだ後わしらがここに移り住んだのじゃ。黄水晶が豊富なこの土地にの。」
「そうだったのね、やっぱり・・・」
「わしが、その事をあの香炉の黄水晶から聞いたのはずっと後の事じゃ。そして、その時から黄水晶の心を感じる事ができるようになたんじゃ。・・・全ては遅すぎたがの。」
ギャシーは部屋の隅から三十センチ程の箱を持ってきて、それをテーブルに置いた。
「見てくれ、黄龍の心が宿った龍の像じゃ。」
箱の中には、淡い黄色い光を放つ黄水晶でできた像が入ってた。
「綺麗・・・透き通ってる・・・」
「ここに封印するんじゃ。」
「ここに?」
「そうじゃ、黒龍は本来、黄龍の一部。黄龍は自分の不甲斐なさを悔やんでおる。そして、自分で決着をつけたいと言っておるんじゃ。それでも尚、悪しき心に負けるようなら黄金龍の力を借りた者たちに倒してほしいと。」
「でも黒龍は物凄いパワーだって水龍が言ってたわ。」
「そうじゃ。じゃからこそ、お前さんたちがいるんじゃ。おそらく黄龍は・・自分が勝つとは思っていないのじゃろう・・・」
ギャシーは、像を見つめながら悲しげに言った。
「じゃ、そんな事しなければいいのに。」
「そうはいかんのじゃよ。黄龍にも意地がある。それに龍王や他の神龍にも合わせる顔がないじゃろうし・・。」
「行くしかないのね?」
「そうじゃ・・・」
「だけど、どうやって行くんだ?」
じっと黙って話を聞いていた功史が不意に言った。
「黄水晶の鉱脈の奥に転移の魔方陣がある。多分お前さんたちがそこに立てば作動するじゃ。わしでは駄目だったがの。神龍と黄金龍の力を授かったお前さんたちなら・・・。」
ギャシーの目は、何があっても私たちと共に行くと語っていた。
黄水晶の鉱脈の奥、そこには淡い黄色の光を放つ魔方陣があった。
私たちは黙ったままその上に乗る。
−ピカーッ!−
黄金の光が私の指輪と功史の魔法剣から出、光がなくなった後、私と功史は黄金の鎧兜を身に着けていた。
「す、すごぉーい!」
カッコいい!でもちょっと金ピカすぎて趣味悪いかな?私としては銀の方がいいな、などと勝手な事を考えているうちに、その魔方陣が輝き始めた。
−カーッ!−
眩いその光に一瞬目を瞑った。そして、目を開けた時には、洞窟の中に立っていた。
そう、あの大岩のトリックばかりの洞窟に。最後の決戦だ、と意気込んでいた私はずっこけた。
「な、何で、ここになるの?」
「さ、さあ・・・ここから黒龍の神殿が近かったって事か?」
功史も気落ちしたみたい。そりゃそうよね、この洞窟は散々迷ってた所なんだもん。黒龍に近いなんて少しも思わずに。
「こっちだそうじゃ。」
黄水晶の黄龍像を持ったギャシーが言った。私と功史はギャシーの後をついて行く。
「全ての仕掛けを作動させてから、紐を引っ張るんじゃそうじゃ。」
しばらく進んだ所で立ち止まったギャシーが言った。仕掛けは、功史が全て作動させた後だから、再び大岩に追いかけられるという事はない。
−グイッ−
ギャシーは壁に埋め込まれていた紐を見つけ引っ張った。
−ギギギギギ−
壁が持ち上がり、中の部屋には魔方陣があった。但し今度のは漆黒の魔方陣。
「これに乗るの?何だか気持ち悪い。」
「多分これで黒龍の元へ一直線だろうな。」
功史が魔法剣を出しながら言う。その魔法剣は黄金の剣になっていた。
私も指輪を杖に変えて握りしめる。これも魔法剣と同じように黄金の杖になっている。そしてその先端の黄水晶を囲むようにして、青、赤、緑の龍が絡み合っている。
「行くぞ!」
功史に続いて、私とギャシーは魔方陣の上に乗った。
−ブーーン!− |