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## その11・崩壊の跡 ##

 「操!」
いつの間にか御影石の扉の前に戻っていた私は、功史とハニーの同時に呼ぶ声で目が覚めた。二人にその山が噴火する事を伝え、私たちは無我夢中で神殿を走り出た。
−ゴゴゴゴゴ−
「きゃあっ!」
「大丈夫か、操?」
「う、うん。」
ものすごい地響きがし、今にも噴火しそうな気配。私は急な揺れで転びそうになり、横にいた功史に掴まった。
「山を下りる時間はなさそうだぞ!」
「神殿の中じゃ転移できないけど、もう大丈夫のはずよ、操!」

ハニーが私の目の前で言った。「そ、そう?」
ードドドドド!−
ついに山が噴火し始めた。
溶岩が流れ出し、火山弾が辺りを襲う。私たちは、火山弾が来ないようなところに身を隠す。
「ハニー、また同じようでいいのね?」
「ええ、そうよ。でも今回は水龍と火龍、共に頼むのよ!」
「OK!」
私はハニーに確認すると、再び手を合わせて祈った。
「水龍、そして火龍よ、私たちを風龍の神殿へ運んでちょうだい!」
手で作った三角に水龍と火龍の重なった姿が写り、それが消えると、両腕に絡み合った青と赤の龍が浮き出る。
その4匹の目が同時に輝き、次の瞬間、私たちを取り巻く景色は違ったものとなっていた。

「ここは?」
私たちは、吠えるような冷たい風が吹く小高い山の崖の上に立っていた。
「ハニー、この近くに風龍の神殿があるの?」
「う〜んとぉ・・何も感じないのよね・・」
「じゃ、分からないの?」
「まぁ・・そんなところね。」
私と功史はため息をついて、顔を合わせた。
「まぁ、溶岩に流されないだけいいけどな。」
「それは、そうだけど・・・でも、ここに転移したってことは、この近くにあるはずよ。風龍は既に黒龍との戦いに破れ、眠ってるから・・きっと神殿は跡形ないでしょうね。」
「じゃ、どうしたら・・・?」
「とにかく、その辺を探してみましょう。何か建物の跡らしいものが見つかるかもしれないから。」
「そうだな。ハニーなるべく高く飛んで探してくれないか?」
「オッケイ!」

でも夜になっても見つからなかった。
「本当にこの辺なのか?」
「そんな事言ってもぉ・・・」
かがり火を囲みながら、私たちは相談していた。
「そう言えば・・・」
「何?ハニー?」
「思い出したんだけど、風龍の神殿は、普通では目に見えないって。」
「それ、どういう事?」
「確か風の目を探して、そこから入る、とかだったわ。」
「風の目?どうやって探すの?」
「風が一瞬止んだ時・・・だったかしら?」
「・・・・・」
結局、その日は諦めて寝ることにした。

翌日、再び私たちは神殿探しに出掛けた。
「でも、風の目ってどこにあるの?」
「さあ・・それが分からないから探してんだろ?」
「そうには違いないけど・・・」
「み、操っ!」
ハニーが慌てふためいて飛んできた。
「どうしたの、ハニー?」
ハニーは私の手に乗ると、しばらく呼吸を整えていた。
「ねぇ、ハニーったら!」
「あ、あのね、見つけたの!」
「見つけたのって・・風の目?」
「そう。この山のある谷間に風が左右から吹き込んでくる所があったの。それってある一か所で無風状態になるのよ。最も条件が揃えばなんだけど。もしかしたらって思って私はその風に飛ばされるままにしていたの。そしたら・・あったのよ!神殿が!ちょうど無風状態の所に、その入口があったの!ちらっとだけど、見えたの、透き通ったエメラルド色の神殿が!」
ハニーは興奮状態で話していた。

勿論私たちはそこへ直行した。でも、風に乗って行った為、正確には位置づけできない。風はかなり強い、風に飛ばされていくハニーを追いかけていくのは不可能だったから。
いろいろ考えているうちに、私はジャングルでの事を思い出した。何故今まで気がつかなかったのかと思いつつ、試して見ることにした。
ハニーが言った谷間の入口の崖に立つと、私は指輪を谷の奥に向けた。
「えっ?な、何?・・・・?」
予期していた反応とまるっきり違っていた。でも、とにかく上手くいきそう。指輪を向けると赤い光が私を包み込んだ。そして、風がやさしくなり、私の身体が持ち上がった。
−ピュウッ!−
「キャアッ!」
「み、操っ!」
木々より高く上がったと思ったら、急にそのスピードが増し、私は一気に谷の奥へと飛ばされ始めた。
気分はスーパーマン!回りの景色が後ろに飛んでいくように見える。少し速すぎる気もするけど・・・でも、私はジェットコースターは大好き!もうごっきげん!!
(そんな場合じゃないっていうのに!)

「えっ?何?」
不意にその風が止む。
−ヒュウウウウウ・・・−
私の身体は下へ落ち始めた。
「きゃああああっ!」
落ちていく途中、私の目にエメラルド色の神殿が飛び込む。
「ゆ、指輪よ、お願い!」
私は思わず指輪を神殿の見える方向に向け、叫んでいた。
−パアッ−
指輪から青と黄の光が混ざり合いながら出て私を取り巻くと、落下は止まり、そのまま空に浮く形になった。
指輪のその光はゆっくりと緑色に変わってくる。そして、その光の色が神殿の色と同じになった。
−ビュウッ!−
「も、もう少しだったのに、また風が吹き始めたの?」
神殿の見えたところは、風にかきけされたようになくなっている。
「まったくぅ・・・」
緑の光の中で浮きながら私はがっくりしていた。
その時、風が吹いていくその中心から一筋の緑色の光が射してきた。その光は徐々に大きくなると指輪の光と一体化した。
「きゃあっ!」
私はその中心にものすごい勢いで吸い込まれて行った。

風の目の中の神殿、そこは完全に破壊しつくされていた。私やハニーが垣間見た物は、ほんの一部崩れずに残った屋根の部分だったらしい。美しく輝くエメラルドの破片があたり一面に飛び散っていた。
「風龍はどこにいるのかしら?」
私は今一度指輪をかかげた。でも駄目、指輪は何の反応も示さない。
私は神殿の跡を歩き回っていた。
と、突然、全身を悪寒が過る。ちょうどジャービーの時のような妖しい気配を背後に感じて振り返った。
−バーンっ!−
ここの風とは違った風圧で私は神殿の壁に叩きつけられた。
そう、これはジャービーだと私は確信した。でも姿が全然見えない。私は壁伝いにじりじりと歩いていた。
−グサッ!−
宿での出来事を再現するかのように、私の顔の横にナイフがいきなり刺さる。でもどうやら離れたところから投げたみたい。ジャービーの息がかからないから。
「グシュシュシュシュ・・・・」
明らかにジャービーは喜んでいる。姿は見えないけど、私にははっきりそれが分かった。
−ジャリッ、ジャリッ・・・−
細かく砕けたエメラルドを踏み、ジャービーが近づいてきている。私は壁に刺さったナイフを抜くとジャービーに投げつけた。
−キンッ!−
それは簡単に避けられた。
「指輪よ、杖に!」
あの時の私とは違うんだから、レベルアップしてるんだからね!思い知りなさい!
淡い光を放ちながら杖になったそれは、青い龍に加えて赤い龍も柄に絡みついている。
「ファイアーッ!」
−ボアアアアアッ!−
「グシュシュシュシュ!」
「な、何でダメージがないの?」
姿が見えないので、よく分からないけど、とにかくジャービーは平気のようだった。相変わらずジャリジャリ音をさせながら、近づいてきている。
「よーし、今度こそ!フリーズ!」
淡い黄色の光がジャービーを取り巻く。ジャービーはあの時と変わらず少年の姿のようだ。でも、しばらくして光が消えたと同時にジャービーの姿も再び見えなくなった。
「き、効かないの?」
私は壁に張り付いて焦っていた。ジャービーとの距離が少しずつ狭まって来る。
−ジャリ・・ジャリ・・・−
−ブンッ!・・・・グサッ!−
またしてもナイフが投げつけられた。
「こ、今度は・・・サンダーッ!」
私は杖を高くかかげると叫んだ。
−ピカーッ・・ゴロゴロゴロ・・ドッシャーン!−
空を裂く雷鳴と共に、物凄い勢いでジャービーの上に雷が落ちる。
でも全くダメージは受けていないみたい。
「ディスペルアンデッド!」
これも駄目。何で?どうしてぇ?私はもう恐慌状態!思いつく限りの呪文を唱えていた。
「ふうっ・・・ふうっ・・・」
でも、一向にダメージは受けていない。ジャービーの荒い息づかいが聞こえてくるほどの距離になった。
ーブン、ブンッ!・・・グサッ!・・グサッ!・・グサッ!・・グサッ!・・グサッ!
「ヒ、ヒェーーー・・・」
私は完全にナイフでその動きを止められていた。
「捕まえた・・・」
「ジャ、ジャービー?」
「グシュシュシュシュ・・お前の身体は、さぞ居心地いいだろうなぁ・・・グシュシュ」
ジャービーは私の目の前にいた。ナイフに囲まれた私は身動き一つできない。目の前にいるだろう見えないジャービーを私はじっと見つめていた。
「グシュシュシュシュ・・・」
私はジャービーの嬉しそうに細めた目が見えるような気がした。そして、何かの刃の切っ先が私の頭の上高く上げられた。
もう駄目っ!私が目を瞑ったその瞬間・・・
「キャアッ!」
「えっ?」
その声に驚いて目を開けた私の前に、ナイフでその胸を深々と刺されたハニーがいた。
「操・・・」
ハニーは弱々しく私に微笑むと、羽ばたく力を失くしたのか、そのナイフをしっかと両手で握ったまま、ぽとりと地面に落ちた。
「ハ、ハニーッ!」
私は壁に刺さったナイフで傷つくのも構わずハニーを抱き上げた。
「グシュシュシュシュ・・・何かと思ったら、あの間抜けな天使か・・・グシュシュ・・」
「こ、こんな事・・こんな事ないわ・・・ハニーっ!」
「グシュシュ・・・今度は間違いなくお前の番だ・・・グシュシュ・・・」
そこに座り込みハニーを抱いている私の上に鋭い刃が振り下ろされてきた。
今度こそ駄目!
私はハニーを抱きしめ、そこにうずくまった。
その途端、銀色の光がハニーの身体から発せられ、私は驚いて手を緩めた。すると、気をうしなったハニーの身体がゆっくりと空中へ浮いていった。
「ハ、ハニー・・・?」
「ウ・・・ウオオオ・・・」
ハニーの放つその銀色の光を浴び、ジャービーの動きが止まった。
「操・・・」
ゆっくり目を開けたハニーの頭の上には銀色に輝く天使の輪がはっきりと見えていた。
「あたし、操と離れたくなかったの・・でも、もう行かなくちゃ・・・ありがとう、操。楽しかったわ。」
ハニーはにっこりと微笑むと、ジャービーの身体の中心へと入って行った。
「グオオオオ・・・・・」
透明のジャービーの身体の真ん中で、ハニーは輝き続け、徐々にその輝きは増していった。
−カアッ!−
最後にものすごい光を放ち、私はその眩しさで思わず目を瞑る。
そして私が目を開けた時には、そこには、ハニーもジャービーもいなかった。
「ハ、ハニーーーーッ!」
私は力なく、そこに崩れると泣き伏した。

「泣くではない、娘よ。あの者は己の役目を果たしたのだ。」
急にやさしい響きを持った低い声が聞こえ、私ははっとして声のする方を見上げた。
空中に、うっすらと風龍らしい姿が写っている。そしてその中心、ちょうど胸の辺りに、緑色の血が滴る緑銀の貴石が浮いていた。
「ふ、風龍・・・?」
「娘よ、私の心臓を受け取るがよい。そしてそなたの責を果たすがよい。」
ゆっくりと下りてくる貴石に、私は引き寄せられるように手を差し延べながら近づいっていった。
−ドクン!−
緑の血が私の中に入ってくる。
−ドクン!−
「さあ、娘よ。龍王と会って来るがよい。そして黒龍を倒すのだ。」
やさしく微笑む風龍の顔が徐々に薄れていく。

 
###to be continued###


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