「おい操!しっかりしろ、操!」
私は功史の声で目が覚めた。
「えっ?あ・・こ、功史!」
私は心配そうな顔をした功史に抱き抱えられていた。
「よかった、目が覚めて・・・ここで倒れてる操を見つけて・・目を開けなかったらどうしようかと思ってたんだぞ。だけど・・俺とはぐれてる間に何があったんだ?この格好?」
はっとして私は自分を見た。そう、私は人魚の格好のまま。胸が半分くらい出ているんだった、と気づいて慌てて両手で隠す。
「最初見つけた時は人魚姫かな?と思ったんだ。操だと分かった時はびっくりした。」
功史は上機嫌だった。
「ハ、ハニーは?」
「うん・・・操が落ちた時何処かへ飛んで行ったみたいで・・・結局はぐれてしまったんだ。」
「いけない!貴石は?」
私は急にがばっと起き上がって、自分が倒れていた辺りを見回した。
「これか?」
功史が手に持った石を見せてくれた。
「うん、そう、それ!」
私が貴石に指輪をかざすとすうっと吸い込まれて行く。黄水晶の中に・・・・・。
「ふう・・・・」
ため息をついて落ちつくと、着替えがあった事を思い出した。
「わ、私のリュックは?」
「ああ、俺が持ってる。」
功史からリュックを渡してもらうと私は洞窟の影で功史を気にしつつ、着替え始めた。
「いい?見ちゃ駄目よ!」
「分かってるって!」
そして、私は功史に今までの事を話した。
「ふ〜ん・・大変な事になっちゃったな。」
「でも、これでこそ、RPGでしょ?」
「ああ・・まあな。」
功史はため息を付くと私に笑いかけた。
「とにかく・・あとの神龍の神殿に行かなくちゃならないんだけど・・・どこにあるのかしら?」
「ハニーでもいれば分かるんだろうけどな。」
「もう!ハニーったら何処へ行っちゃったのかしら?」
「ハニー!ハニーーー!」
私たちは手分けしてハニーを探した。勿論迷子にならないようにあまり離れずに。
大岩のトリックはほとんど功史が作動させてしまっみたい。洞窟の至る所に大岩がぶつかって止まっていた。でも本当に迷路。これじゃ、ハニーを探すのも一苦労よ。
「ちょっと休まない?」
「ああ、そうだな。」
休憩する事にした私たちは、行き止まりの洞窟で、持っていた道具で火を起こすと食事にした。
「空気は流れているのよね?」
「ああ・・・窒息しないし、こうして火が点くからな。」
サガ村での御馳走のあと、はっきり言っておいしくはなかったけど、とにかく食べていた。と、突然目の前に銀色の光が現れ、見ているうちにそれはハニーの姿になっていった。
「わあーっ、おいしそう!いっただきまあーす!」
ハニーは火であぶっている干し肉に飛びついた。
「ングング・・モグモグ・・・」
私と功史は呆気に取られてハニーを見ていた。
「あ・・あら?あたしとしたことが・・おほほほほ・・・・」
私たちの視線に気づいたハニーは、照れくさそうに笑う。
「ハニー、今までどうしてたの?」
「えっ・・・?そ、それはね・・・・」
「それは、どうしたの?」
もじもじしていて、なかなか話そうとしないハニーに少しきつい顔をして言った。
「あ・・あのぉ・・操を助けようとしたんだけどぉ・・・蜘蛛に掴まっててぇ・・」
「ハニーもなの?でも今まで?」
「ごめんなさーい。ようやく説得して放してもらったんだけどぉ・・その時は、操の気は感じなかったし・・・洞窟に戻ったんだけど功史とは会えなかったの・・で、ようやく感じた操の気を辿ってここまで来たってわけ・・エヘヘヘヘ・・」
「私の気じゃないでしょ?食べ物の匂いでしょ?」
「おほほほほっ!」
ハニーはパッとその姿を消した。
「ふう・・・・」
私と功史は顔を見合わせてため息をついていた。
眠くなっていた私たちは、そのままそこで毛布にくるまると、もたれ合って眠った。
そして、翌朝(と言っても洞窟の中だから朝だかなんだか分からないけど。)ハニーを呼び出し、神殿に案内してもらう事にした。先ずは、火龍の神殿!
「でも、どうやってこの洞窟を出るの?」
意気込んで計画を立てたのはいいけれど、この洞窟の出方を知らなかった。
「操、水龍の貴石を貰ったのよね?」
「え、ええ、そうよ。」
「その時、水龍の血が操に流れ込まなかった?」
「え・・・多分・・」
私はあの時の青い血を思い出していた。
「じゃ、簡単よ!両方の腕から流れていったのね?」
「そうよ。」
「じゃ、腕を前に延ばし、手の平を外に向けて、丁度三角形ができるように両手を合わせて。」
「こ、こう?」
私は意味が分からなかったけど、とにかくハニーの言う通りに手を合わせた。
「そ!それで、水龍に願うの。ここから出してくれるように。火龍の元へ、と。あっ、ちょと待って、その前にあたしたちが操の身体に触れてないと・・・」
慌てたように、ハニーは私の肩に留まり、功史も私の肩を抱いた。
「じゃ、やってみるわよ、いい?」
「ええ、OKよ。」
「ああ、いいぞ。」
じっと手で作った三角形を見ながら、私は水龍の姿を頭に描き願った。
「水龍よ、私たちをここから出して下さい。火龍の元へお連れ下さい。・・・・」
すると、三角形の真ん中にあの水龍の姿がふっと浮かび上がり、そして、すうっと消えた。
おかしいわ、失敗?と思っていると、私の両腕に水龍の姿が浮かび上がってきた。
ちょうど手の甲が頭の部分、そこからずっと肩の方まで続いている。
ちょっと異様な感じもする・・・でも、少しも嫌悪感はしない。
「お、おい・・・」
功史も驚いているようだった。
そして、その2匹の龍の目が輝いたと思った次の瞬間、私たちは見たことのないジャングルに立っていた。
私の腕の水龍は徐々に消えていった。
「転移完了よ。」
ハニーが嬉しそうに私の肩からまだ合わせたままの手の先に飛び移ると、にこやかに微笑んだ。
「ジャ、ジャングル?」
水龍の姿が消えた腕を下ろしながら、私は辺りを見渡していた。正に熱帯のジャングル、鬱蒼と絡み合うように生い茂っている木々、むっとする熱風。
「暑〜ぅ・・・」
汗がどっと出てきた。
「どうせなら火龍の神殿に転移してくれればよかったのにな。操の集中力が足らなかったんじゃないのか?」
功史が上着を脱ぎながら言った。
「多分、そうじゃないと思う。」
私も上着を脱ぐと功史に渡した。
「そうじゃないって何なんだ?」
自分のと私の上着をバッグに詰めると、それを背負いながら功史が言う。
「多分、RPGで言うレベル上げの為よ。このままじゃ、いくら武器や防具を手に入れても豚に真珠だもん。到底使いこなせないと思うの。だから、このジャングルで使い方を習えって事なんじゃないのかしら?」
「へーへー、さいでっか・・・さすが、RPGおたくの操、考える事が違うな。」
功史は呆れたような顔をして私を見た。
「だって・・そうとしか・・・でなくちゃ、きちんと神殿へ着いてるはずよ。」
「そうよ!」
ハニーが助け船を出してくれた。
「このジャングルには凶暴な動物が多いの。神殿は向こうに見える山の中腹にあるわ。そこまで頑張るのよ!」
ハニーが指した山は、遥か遠くに、小さく見える。
「あそこまで行くの?」
「そう!頑張りましょう!」
「でも道もないぜ。」
「操、指輪を山の方向に向けてみて。」
私はハニーの言う通りに指輪をその方向に向けた。すると、指輪から青い光が出、木々が邪魔して入れなかったそこに一本の道が出来た。まるで、木がどうぞお通り下さいと言って避けているようだった。
「ね、大丈夫でしょ?」
「ん・・・・すごい!」
「ああ・・すごいな、その指輪。」
「この指輪じゃなくて、多分水龍の貴石のせいよ。青い光だったから。」
「そうか・・・」
頷く功史の前にハニーは飛んでいくと、まるで命令するように言った。
「猛獣は功史が魔法剣で倒すのよ!」
「ふう・・結局、重労働は俺の役目か。」
「当たり前でしょ?ナイトなんだから!」
「ん?、俺が操のナイトだって認めれくれるんだ?」
「そ、そういう訳じゃないわよっ!ただ、あたしは操が危険な目に合わないようにと・・」
ハニーの焦った様子を見て功史はくっくっと笑った。
「まぁいいや。行こう!」
そして、私たちは神殿のある山へと向かった。
ジャングルは、とにかく猛獣の住処だった。覚悟はしてたけど、もうくたくた。もっともハニーが回復してくれるので、随分助かったけれど。勿論、私も指輪の杖でやっつけたわよ!それと一つ発見、その杖の銀製の柄の部分、そこに青い龍が巻きついていた。一番上の月と太陽を形取った黄水晶の細工に頭を向けて。多分水龍の貴石を指輪に吸収したからなんだわ。
そして、それから3日後、私たちはようやく神殿に着いた。
「ふうううう、やっと着いたぁ・・」
黒曜石で出来たその神殿の前、さすがの功史も石畳に座り込む。
「随分戦い方も様になったわね。」
先頭を行くハニーが振り向いて感心したように言った。
「ハニーはいいだろ?あっちだ、こっちだって言ってるだけなんだからな!」
「それは言えるわね。私もくたくたよ!」
私も功史の横に座り込んだ。ハニーの魔法力が完全に無くなっていたの。
「そんな所に座ってるとまた襲われるわよ!ほら、神殿に入りましょうよ!」
「はいはい・・ほら、操。」
功史は私の手を引っ張って起こしてくれた。
「あ、ありがとう。」
神殿の外側は風雨に晒されるせいで、表面がくすみ、あまり綺麗とは思えなかったけど、内側は黒曜石の輝きを保っていた。その壁は私たちの姿をくっきりと写している。
「ねぇ、ハニー、この神殿って誰もいないのかしら?巫女や神官は?」
「この神殿は普通の人間の足では来ることができないの。ちょうど水龍の神殿もそうだったでしょ?神龍本来の神殿はどれもそうなっているのよ。その神龍にでも呼ばれない限り神殿に行き着く事はできないのよ。」
「ふ〜ん・・・」
私たちはハニーに案内されるまま、奥へ奥へと歩いていった。
「さてと・・私が案内できるのはここまで。それに、功史が行けるのもここまで。後は、操一人で行くのよ。」
真っ赤な御影石でできた大扉の前でハニーは私をじっと見つめて言った。
「ど、どうして?」
「ここからは神官か巫女、でなければ乙女しか入れないの。」
「で、でもハニーは天使なんでしょ?」
「そうなんだけど・・・今は、その資格はないの。」
「ふ〜ん・・・じゃ、とにかく行ってくるわね。」
私は功史の目をじっと見てから、そうっと扉を押し開ける。
−ギギギギギ−
その中は全て赤銅色の石で出来ていた。
私が一歩中へ入ると、扉は独りでに閉まった。
−ギギギギギ、バタン−
心細く思ったけど、仕方ない。私はゆっくりとその通路を進んだ。しばらくすると、真っ赤なたてがみと尻尾の栗毛色の子馬がどこからともなく駆けてきた。水龍の神殿の時に迎えに出てくれた龍の落し子の代わりかなと思い、それに乗る。
「ヒヒヒーーーーン!」
その子馬は嘶くと、駆けだした。
「きゃあっ!」
手綱も何もない。私は必死になって首に巻きついていた。
奥は洞窟に繋がっていた。その洞窟からは物凄い熱気と硫黄の臭いが流れてくる。
洞窟の中をどんどん子馬は駆け続け、しばらく駆けていくと広い空洞に出た。そこには溶岩の川が流れている。子馬はそのまま洞窟の壁にそった細い道を駆け続ける。
「よく落ちないものね。」
私は首に巻きつきながらチラッと川を見て呟いた。少しでも足を踏み外せば川の中に真っ逆様に落ちてしまう。道幅はなんとか子馬が通れるくらいだし・・・。
どのくらい駆けただろう、再び細い洞窟に入り、川を見ながらひやひやして乗っていた私はほっとした。
そして、再び黒曜石でできた部屋へと出る。子馬はそこに私を下ろすと、来た道を駆け戻って行った。
「あ、ありがとう!」
駆けていく子馬の後ろ姿にそう叫ぶと、その部屋の奥に向きを返え、ゆっくり歩き始めた。
ちょうど水龍がそうであったように、その部屋の奥には巨大な火龍の像があった。でも、その前の祭壇には何も無い・・・。
「これが、火龍・・・でも黒龍が封印された石が・・・ないわ・・・」
私はごくんと唾を飲み込むと、それに近づいて行った。
赤銀の鱗に覆われ、真っ赤な翼を持った火龍。
近づいても水龍の時のように目は開けてくれず、閉じられたまま、像のまま。
「黒龍と戦って、風龍のように眠ってしまったのかしら?どうすれば目を開けてくれるのかしら?」
像のすぐ前に立ち、私は思案にくれていた。そうしているうちに、その像が少しずつ光を放ち始めてきた。私は息を飲んでじっと見つめていた。
その全身がゆっくりと生き物のそれに変化していく。全身から赤銀の光を放つようになった時、突然その目がカッと開いた。
「火龍?・・・」
思わず呟いた私に気づき、火龍は私を見下ろした。
「そなたが水龍の貴石を得た娘か・・名は?」
「み、操と言います。」
「操・・・か。」
「あ、あの黒龍を封印した石は?」
「たった今、持っていかれた所だ。黒龍の力は恐ろしいほど増していた。全身揃った時が恐ろしい・・・・。急いでくれぬか・・操?黄水晶の力と黄金龍の力を併せ、一刻も早く黒龍を倒してほしい。」
「は、はい。」
−グシュッ!−
火龍は自分の手でその心臓を、貴石をえぐり出す。
「さあ、手を。」
「は、はい。」
真っ赤な血が滴り落ちるその貴石を、私は受け取った。
そして、水龍の時と同じようにその血は腕を伝い、私の内まで入っていく。
−ドクン!ドクン!−
そして、またしても気が遠くなっていく中、火龍の叫ぶような声が聞こえていた。
「一刻も早く仲間と共に、この神殿を離れるがよい。私が眠りにつくと同時に、この山はこの神殿を守る為に大噴火するであろう。そして、風龍の元へ急ぐがよい・・3つの玉を揃え、龍王の助力を得、黒龍を倒すのだ・・・・」
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