功史の言った通り、魔方陣で転移した先は漆黒の地下神殿。
そして、目の前には、巨大な黒龍が座っていた。
今までの神龍もそうだった。でも何か異様な雰囲気と共に物凄い圧迫感を黒龍から発せられていた。
黒龍が静かにその目を開ける。
「ついにここまで来たか。己の力量も知らず愚かなことよ。」
突如、熱風が私たちに襲いかかってきた。
「きゃあっ!」
「わあっ!」
−バン!−
私たちは壁にいやと言うほど叩きつけられた。
「い・・痛ぁ・・・・」
「ま、負けるものか!」
「やあああっ!」
功史が剣を構え直して黒龍に襲いかかる。
「ふん・・・黄金龍の剣か・・だが、まだまだだな。」
−キン!−
「わあっ!」
前足の爪で簡単に避けられ、功史は剣と一緒に壁にぶつけられた。
「ま、前足・・・手がある?」
「そうだ。つい今し方水龍から返してもらってきたところだ。」
「な、なんですって?じゃあ、水龍も?」
私は愕然とした。黒龍は完全に復活してしまっていたの。
「忘れ去られた神龍の力など少しも怖くはないわ。」
−ゴオオオオ!−
その口から漆黒の炎を吹く。
「きゃあっ!」
その真っ黒な炎に包まれると思った時、ギャシーの持っていた黄龍の像が輝きを増し、その光で私たちを包む。炎の攻撃はその光で遮られた。
「黄龍か・・・そのようなところで何をしている?懲りもせず、またしても私に楯突くというのか?」
黄龍の像が黄色の光を放ちながら、少しずつ大きくなってくる。
「おお・・・」
ギャシーはそっと大きく変化しつつあるその像を床に置くと、そこから離れた。
そして、黒龍と同じ大きさになると、その前に立ちはだかった。
「黒龍よ・・お前の気持ちも分かる。が、それは神龍として、決してしてはならない事なのだ。」
「な、何をするつもりだ?」
黒龍の叫びと黄龍が黒龍と一体化するのと同時だった。黄水晶の黄龍は黒龍の身体に重なり合うようにゆっくりと溶け込んでいった。
「グオオオオ・・・お・の・れぇ・・・!」
−ビュオオオオオオ!−
「きゃあっ!」
「うわっ!」
苦しみ始めた黒龍はその目を剥き、大きく羽ばたいた。身体を切り裂くような疾風が私たちを襲う。
「地に住まう妖精よ、われらを守れ!『保護壁!』」
−ザザザザザ!−
黒龍と私たちの間に壁ができる。
「あ、ありがとう、ギャシー!」
「なんのこれしき!ほれ、回復じゃ!『痛いの痛いの飛んで行け〜っ!』」
「な、何だそれでも呪文なのか?」
功史が呆れ顔で言った。勿論私も少し呆れていた。
「じゃが、傷は治っておるじゃろ?」
そう言えばそうだ、と私も功史も思って顔を見合わせた。ま、呪文はカッコ悪いけど、要は効き目があればいいのよね。
「お前たちの攻撃など、何とも思わぬ。が、にっくきは黄龍・・・おとなしく眠っておればよかったものを・・・グオオオオ!」
黒龍は明らかに激怒しているようだ。身体の内部で黄龍が苦しめているらしい。
黒龍が叫ぶと再び漆黒の熱風が襲ってきて、壁はいとも簡単に崩れてしまった。
「伏せろ!」
私と功史はその場に伏せた。
「い、いかん!」
「よ、止せ、ギャシー!」
功史が止めるのも聞かず、ギャシーは私たちの前に走り出た。
「保護壁っ!」
−ザザザザザ!−
「わあーっ!」
ギャシーは出来かかっていた壁と一緒に吹き飛ばされ、壁に激突した。
「ギャシー!」
私はギャシーに駆け寄ると、彼を抱き起こす。
「み、操・・信じるんだ。神龍たちの力を。・・・分かったな?」
「はい。・・今、回復してあげるから。」
「いや、いい。奴が苦しんでいる今、功史と一緒に攻撃するのじゃ。黄龍がわしにそう言った。時間が立てば黒龍に完全に吸収されてしまうだろうと。やはり、力が違い過ぎたんじゃ。今しかない。今しか・・・」
ギャシーの全身からゆっくりと力が抜けていく。そして、ピクリとも動かなくなった。
「ギ、ギャシーっ!」
「操っ!」
功史の声ではっとした私の目の前に黒龍が立っていた。
「この私をこれほどまでに苦しめるとは。殺しても飽き足らぬわっ!」
−ゴオオッ!−
暗黒の炎が私とギャシーを包み込んだ。私はギャシーを庇うように丸くなる。
「操ーっ!」
功史が駆けつけてくるような気がした。
「ギャアアッ!」
炎が消えると、そこには翼を切られ、真っ黒な血を流して苦しんでいる黒龍と、肩で息をする功史の姿が目の前にあった。
「操、大丈夫か?」
功史は黒龍を警戒しつつ聞いた。
「うん。この黄金の鎧と兜のお蔭みたいよ。」
私はどこも火傷をしていなかった。でも、ギャシーはそうはいかなかった。
「功史・・ギャシーが・・・」
後は涙で声にならなかった。
その時、翼の切れ目から黄色の翼が出、そこから声がした。
「功史、操・・・私が黒龍の一部になるのは時間の問題だ。その剣で止めを刺してくれ。・・早く!」
黄色の翼は少しずつ黒味を帯びていく。
私は涙を手で拭うと立ち上がった。
「功史!」
「操!」
見つめ合いお互いの意を確認すると功史は黒龍に向かって突進し、私は杖を構え直した。
「聖龍波っ!」
杖から出た黄金の光が黒龍を取り巻いた。その中でもがく黒龍の影が見えている。
「水龍、火龍、風龍、力を貸して!」
杖を両手で持ち、その先を黒龍に向けた。
両腕に3匹の龍が浮かび上がる。私は手の先端に気を集中して叫んだ。
「神龍翔来!」
薄れてきた黄金の光の中、黒龍の周りに水龍、火龍、風龍の姿が現れる。3頭はガシッと黒龍を掴み、その動きを封じた。
「ヤアアーッ!」
功史が黄金の剣に全精神を注ぎ込み、黒龍に切りかかる。
「ギャアアアアアーーーーー・・・・・」
眉間に黄金の剣を受け、黒龍は辺りに響きわたる叫びを残してその場に崩れ落ちる。
それを確認した水龍、火龍、風龍は、満足げに微笑むと、その姿をゆっくりと消す。
「ありがとう、神龍たち・・・。」
−カアッ!−
急に功史の持つ剣から黄金の光が発せられ、辺りはその光に包まれた。私と功史はその眩しさに思わず手を翳し、目を瞑った。
「真っ暗だわ・・・」
目を開けると、そこは何も見えない暗闇だった。
「あ、あれ?」
私の服装はパジャマに戻っていた。
「功史、いるの?」
私は目を凝らして辺りを見た。
ふと、前方に功史がいると気づき、声をかけようとして、止めた。功史の前には黒龍が立っている。私はその異様な雰囲気に飲まれ、そこでじっと見ていた。
「何故私を倒したのだ、功史?私を倒せば操は元の世界に戻ってしまうのだぞ。」
「な、・・・なんですって?」
その言葉に驚いた私は、思わず声に出して言ってしまうところだった。
「私を倒さなければお前たちはこの世界にいつまでも一緒にいられたものを。」
「俺は、死んだ人間だ。そして操は生きているんだ。この世界に閉じ込めておく事はできない。」
「お前がこの世界を、そして私たちを作ったのではないか?コンピュータという箱の中に。いや、異次元に・・・・。意思の力とは、時には、思いもよらぬ事をするものだ。ここで、この話を終わりにせずともいいだろう?」
「思いもよらぬ意思の力で、お前はこの世界を存続させるつもりか?闇に包んで?」
「ゲームは終わった。だが、私はこうしている。自我に目覚めたのだ。これはお前の意思ではないのか?お前の本当の気持ちではないのか?再びゲームを始める為の。」
「そ、そんな事はない!俺は、俺はもう未練はない!」
功史と黒龍の話を合わせて考えると・・つまり、これは、夢なんかじゃなくって、功史の思いが作り上げた世界・・それってTVでやったりする『世にも奇妙な不思議な世界』って事?・・になるのよね?
「認めるがいい、お前の本当の心を。」
黒龍はその手で功史を掴み上げた。
「こ、功史!」
うっかり声に出した私に、功史と黒龍が気づいて振り向いた。
「操・・・?まだここにいたのか?」
驚いたように功史は言った。
「ここにって・・・どこに行けっていうの?」
功史は自分を掴んでいる黒龍を睨んだ。
「お前は、悪魔なのか?人を惑わす悪魔なのか?」
「かもしれん・・・」
黒龍は嬉しそうに目を細めた。
「お前の一部だ。」
「そ、そんな・・・」
「お前の心の一部だ・・・この世から、操から離れたくないというお前の心だ。」
「そ、そんな馬鹿な!」
下に下ろされた功史は頭を抱えてそこに座り込んだ。
「功史!」
私は功史に駆け寄り、顔を覗き込む。
「なんなの、これ?どういう事なの?夢なんでしょ?」
「操・・・・」
功史は悲しそうな顔をして私を見た。まるで助けを求めているような目で。
「そうだ、功史。そうしていたいというお前の心だ。」
黒龍は満足そうに私たちを見つめていた。
功史はしばらく私を見つめていた。そうするうちに、その目は少しずつ落ちつきを取り戻してきたようだった。
功史はにこっと私に微笑むと、すっと立ち上がった。
「それは望んではいけない事なんだ。操の為にも、そして俺の為にも。」
功史が剣を構える格好をすると、ふっとその手に剣が現れた。
「お前は死んだんだっ!」
功史は剣を構えなおし、後ずさりする黒龍に突進していった。
−パアアッ!−
その剣を黒龍の胸に刺したのと同時に、眩しい光が辺りを包み、そして・・・消えた。
後は、再び暗闇が包む。そこには功史も黒龍もいない。
「操・・・あの光が見えるか?」
1人ぽつんと立っている私に功史の声が聞こえた。
「ど、どの?」
ふと振り向くと一筋の光が見える。
「あ、あれ?」
「そうだ。その光に向かって行くんだ。」
「で、でも功史は?」
「俺は死んだ人間だ。道が違う。」
「どこにいるの、功史?」
私は功史を探して暗闇を見つめた。
「操、行くんだ。その光に向かって。」
「で、でも・・・」
「そうしないとゲームが終わらない。俺もここから離れられない・・・」
私はゆっくりと光に向かって歩き始めた。
近づくにつれ、光の中に私の部屋が見えた。
そして、光の入口に立つ私に、再び功史の声が聞こえる。
「操、今度生まれ変わった時は・・・」
「生まれ変わった時は?」
私はドキッとした。
「お前より長生きするからな。」
ガクッ、私はずっこけた。お前と一緒になるとかなんとか、言ってくれるのを期待していたのに。
「元気でな、操。」
「またね、功史。」
後ろ髪を引かれる思いで、私は光の中に飛び込んだ。
その眩しさに私は一瞬目を瞑った。
そして、目を開けた時、パソコンの前に座っている自分に気がついた。窓からは陽が射している。もう夜は明けていた。
パソコンの画面には『complete・おめでとう!』の文字と、三等身大のミニ功史があっちこっちで飛び跳ねていた。
「功史ったら!」
私はそのひょうきんな功史の顔に大笑いしていた。でも涙は止まりそうもない。
「操?起きてるなら早く支度しなさい。もう9時よ!」
階下でママがが叫んだ。
「はーい!」
「そうだ、今日は功史の四十九日の法要の日だったんだ。・・・死者の魂があの世に旅立つ日・・・。」
返事をしたものの、私は画面から目が離せなかった。
「功史・・・・」
私は今まであった事を思い出していた。一つ一つ、噛みしめるように。
「操!功史君の法要に遅れるわよっ!」
「はーい!」
よーし!・・・自分に号令をかけて立ち上がる。
「迷わずあの世に行くのよ、功史!」
「ああ・・・」
功史の返事が聞こえたような気がした。
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