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## その8・難と運のフーガ ##

「う、う〜ん・・・また助かったの?」
つくづく私は運がいいのか、まぁ、夢だからなんでしょうけど、などと思いながら目を開けた。
「ここは・・魚のお腹の中?・・・」
薄暗いその中には、いろいろな物があった。蠅や蜘蛛などの昆虫、小魚等。その中にはまだ息をしている物もあれば、その半分、またはほとんどが溶けかかっている物も。それと、小石や水草など。明らかにここは気を失う前にちらっと見た大きな魚の胃袋の中だと判断できた。
私が胃酸に溶かされずにすんでいるのは、黄水晶の指輪のおかげらしかった。指輪の淡い光が私を包み込むように輝いている。その光のおかげで周りも見え、溶けずにすんでいる。でも、蜘蛛の糸はほとんで溶かされたようだった。服の所々に溶けかかった糸が付着しているし、服も溶けかかったところがあった。多分、私の皮膚に酸がかかる直前、指輪が守ってくれたんだろうと思う。
「とにかく・・出口を見つけなくっちゃ。」
魚の胃から出るとすれば、当然口か肛門しかない。あるいは切って出るか、なんだけど。切ると、やっぱり血飛沫が嫌だし、肛門も排泄物が当然身体に付着するだろうから、という事で、口から出る事に決めた。胃の中の様子から、口への出口は多分斜め上のトンネルだろうと思った私は肉の壁をよじ登る。大きさは人一人、なんとか這って身体がすり抜けれるくらいのトンネル。そしてその真っ暗で細長いヌルヌルの肉のトンネルを必死で這い上がって行った。

「もうちょっと・・・」
まるで芋虫、ううん、この場合は寄生虫というべきなのか・・とにかく、そんなような物になった気分・・少しでも早く出たい。気ばかり焦る。そうするうちに、トンネルの終点と思える出口が見えた。きっとそこが魚の口の中なんだろう。
−ゴバアッ!−
もう少しで口に出れると思った時だった。物凄い勢いで、水とゴミのような物が流れ込んできた。
「きゃああっ!」

数秒後、私はその水と共にまたしても胃袋の中に戻っていた。
「ったくもうっ!」
でも、ダメージは全くなかった。私は指輪に感謝しつつ、再び寄生虫になり、肉のトンネルを進み始めた。

「ふーっ・・・今度こそ口に出れたわ。」
私は口の中でため息をついていた。次はどうやってこの口から出るか、が問題となった。どうしよう・・口の真ん中に座って考え込む。
と、急に上下左右に激しく揺れだした。私は魚の歯に必死でしがみついていた。
「な、何よう?安全運転してほしいものだわ!
聞こえるわけはなかったが、文句を言わずにはいられなかった。
どのくらいその乱暴運転(?)が続いただろう。私は船酔いならぬ、魚酔いになっていた。
「も、もう駄目・・・吐きそう・・・」
私は胃の中の物を全てそこに吐きだしてしまった。それは魚の喉に吸い込まれて行った。歯を掴んでいる手も、もう痺れてきていた。
「あ〜ん、もう!いいかげんにしてよぉっ!」

と、突然、揺れがおさまった。
「あれ?静かになった・・・私の声が聞こえたのかしら?」
私は恐る恐るしがみついていた歯を離すと、口の中を歩き始めた。のんびりしてはいられない、また水を飲み込むかもしれない。もう胃に戻るのは懲り懲りだから。私は、その口の先を調べる事にした。
「触っても大丈夫かしら?」
私はそうっと触れてみた。でも反応なし。
「運動しすぎで疲れて眠ったのかしら?」
思い切ってその口を開けてみる事にした。
「う〜んしょ・・・・よ〜いしょっと!」
渾身の力を出して、私はなんとかその口を広げた。
「な、何よ〜?これ?」
その口から外に這い出た私は呆然とそこに突っ立っていた。
そこは、私が必死で這い出た胃袋の光景とほとんど同じ。違っている事は、そこにある犠牲者(?)が前のより一段と大きいという事。
「という事は・・また別の魚に飲み込まれたって事ね・・・さっきあんなに暴れたのは必死で逃げようとしていたんだわ。」
私は大きくため息をつくと、出てきた口に寄り掛かった。
今度は、一段と大きくて広い・・向こうの壁が見えないくらい。ショックと落胆で魚酔いも一変に醒めた。
・・・それどころじゃないんだから・・・。

しばらく呆れ返って辺りを見回していた私は、気を取り直すと、胃の中を歩き始めた。指輪が守っていてくれているおかげで、私はここでも溶けずにすんでいる。
今度のトンネルは私が立って歩けるくらいの大きさだった。
「寄生虫ごっこしなくていいのはいいんだけど。このぐにゃぐにゃした所を進まなくちゃいけないっていうのは同じなのよね。」
肉のトンネルを進むのは、何度通っても慣れそうになかった。でも、とにかくトンネルを見つけると奥へと進んだ。
「功史とハニー、今頃何してるのかしら?探しててくれてるのかしら・・・?」
私はいろいろ考えながら、薄暗いトンネルを歩いていた。

「何か動いてる?」
私は前方に何かが蠢いているのに気づき、目を凝らして見た。
「ほ、本物の、き、寄生虫だあっ!」
どうやら私は肛門の方に向かっていたらしく小腸と思われるそこの壁にはぎっしりと寄生虫が張り付いていた。二重三重に蠢いている。
「ぎ、ぎゃあああっ!」
そのおぞましい光景に、私は全身が逆立つ思い、硬直してしまいそうだった。多分顔は真っ青だろう。
「シュシュシュ・・?」
彼らは私を認めたようだった。一斉に私に向かって這ってきた。
「き、きゃあああ!こ、来ないでっ!・・・ファ、ファイアーッ!!」
私はその寄生虫に指輪を向けると、叫んだ。
ーゴオオオオッ!−
物凄い火炎が指輪から出、そこにいた何十匹という寄生虫は一瞬にして焼き尽くされた。と同時に宿主である魚の身も。
「きゃあああっ!」
生身で焼かれた魚は、当然の事ながら大暴れ、私は掴まるところもなく、そこらじゅう転がり回る。衝撃は指輪の光が吸収してくれるので助かったけれど、いつの間にかまた胃袋に戻っていた。
でも、まだまだ魚は暴れ続けている。
−ドバアッ!−
「きゃああっ!」
大量の水を飲み込んだらしく、もの凄い勢いで流れ込んできた。私はなす術もなくその水流に押し流されていった。

−プシュウーっ!−
「えっ?えっ?」
青空が見えた。
「ど、どうなってるの?」
私は吹き上げられた海水の上に乗っていた。ちょうど鯨の潮吹きといったところ。
役目を終わったと判断したのか、指輪の輝きは徐々に失せ、そして無くなった。
「と、とにかく、外へは出れたのよね!?。」
でも、どうやったらここから下りられるのかしら?それにここは?海の真っ只中じゃないのよぉ?どうしたらいいの?」
周りを見ても陸地は一つも見えない。
いつのまにか地底湖から海に出ていたらしい。
−ブシュウーッ!−
魚は一際大きく潮を吹くと、海の中へ潜っていき、私、一人海に放り出されていた。
「ど、どうしたらいいのかしら?」
指輪がほわっと光、その光の中、私は水面に浮いていた。
もう、指輪に感謝!指輪がなかったらあまり泳ぎが得意でない私は、すぐに沈んでしまっただろう。
でも、こうして指輪があるかぎり、何があっても大丈夫!
「でも・・何とか陸地に着かなくちゃ。陸地はどっちなのかしら?」
キョロキョロ見回していると、魚の背鰭が目についた。
「さ、鮫?」
一難去ってまた一難・・それも鮫だなんて。私は焦った。その背鰭はどうみても間違いなく鮫のものだ。
「キャアーッ!」
私は必死に泳ぎ始めた。でもさすがそこは鮫、泳ぐスピードが違いすぎる。みるみる間にその差は縮まってくる。
またしても私の頭は真っ白、顔は蒼白。全身は恐怖に震え、硬直してしまいそう。
でも、必死になって泳いでいた。
「こ、これ以上泳げない・・手も足も動かない・・・ゆ、指輪よ、お願い、何とかして、ス、スピード、アーーーップ!!」
−バシューーーーーン!−
鮫の鋭い歯に引き裂かる直前、海面につけていた指輪がまるでホバークラフトのように海原を蹴って疾走し始めた。
「やっりーっ!」
−シュババババババ・・・・−
まるでジェットスキーでもしてるみたい。私は上機嫌だった。
「うう〜ん・・いい気分。これならきっと鮫も追いついてこれないだろうから・・」
と呟きながら後ろを見た私の目には、あの鮫の大きな口が写った。鋭い歯が目の前に。
「な、何よ?さっきはこっちに合わせて手を抜いてたって言うの?遊んでたってこと?」
距離はどんどん縮まってくる・・・
「ゆ、指輪よ、もっとアーーーップ!!」
遠くに陸地を見つけると、私は指輪の向きを変え、そこに向かってひたすら進んだ。
「も、もう少し・・・で、でもこっちも、もう少し・・・」
前を見て後ろを見て、死ぬ思い・・・・。
−ザザザザザ!−
ようやく陸地に上がり、指輪のホバークラフトはエアカーとなった。でもすぐには気は抜けなかった。浜辺に上がった私を追いかけ、鮫も一緒に上がってきたから。「げげ〜・・・しつこい奴ぅー・・」
浜辺を五十メートルくらい進んでようやく鮫が止まった。いかにスピードをつけて泳いで来たかが分かる。
「はあはあはあはあ・・・・・」
別に自分で泳いだわけじゃないけど、もうくたくた。
体長約八メートル。ほっとした私はそこにへたへたと座り込み、気が抜けたように鮫を見つめていた。

 

###to be continued###

 
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