「今日はこの辺で野宿だな。」
少し薄暗くなってきていた。これ以上進むのは無理みたい。私たちは大木の下に野営の後を見つけると、そこで野宿をする事に決め、薪を拾ってきて火を起こした。
「港町まて三日かかるってことは、もう一晩野宿ってことよね?・・馬でもいれば楽なのに。」
「そんな事言っても馬なんか乗れないだろ?」
「・・その時はその時。何とかなるわよ。」
「ったく!気楽な奴だ。」
「暗くなってるよりいいでしょ?」
「まぁな。そこが操の唯一いいところだからな。」
「唯一ですみませんでしたね。」
「そこがいいんだって。」
少し気を悪くしていた私は、じっと私を見ている功史に気がつき、慌てて俯いた。
「と、ところで・・黒龍の事なんだけど。きっと他の封印も解いて完全復活を企んでいるでしょうね。」
「そう思うのが普通だな。この5年間で幾つ探し出しているかで強さも違うだろうし。まだ1つも見つけてはいないかもしれないし、ほとんど見つけているかもしれない。」
「まだ1つも見つけてないはずよ。」
不意にハニーがその姿を現した。
「だって、それぞれ神龍の神殿の奥に封印されているもの。黒龍自身では行けない筈よ。」
「もう、びっくりした!いきなり出てくるんだもん!」
「えへへ、ごめんなさい。でもあたしはいつも操の周りにいるのよ。」
「ふ〜ん・・・それはいいとして。でも、よくあるじゃない、その神官が悪い心を起こして、魔王の手先になるっていうのが。その心配は、当然あり得るんでしょ?」
「そうねぇ・・・そう言われると、人間なんて欲望に駆られやすいから。で、本当に巧くそこに付け入るのよね、奴らは。人間なんて愚か者ばかりなんだから・・・あっ、ごめんなさい。」
ハニーは私の顔を見て謝った。
「別にその通りなんだから、そう言われれば言い返す言葉もないわ。」
「でもそんな奴ばかりじゃないぞ。」
「それはそうなんだけどね。前の時も一応勇者は人間だったし・・・でもねぇ、その繰り返しばかりしてるのよ・・・。」
ハニーは大きなため息をついた。
「・・・・・」
私も功史も言い返せれなかった。
「街についたら、その事も聞かないといけないわね。」
「そうだな。神殿でおかしな事が起きてないかどうか・・・だけど、分かるようにはやらないだろう?」
「う〜ん・・・それもそうね。ばれちゃ元も子もないから・・・。」
「悪賢いからね、奴ら。」
「うん・・・。」
そんな事を考えていたら、だんだん気分が重くなってきてしまった。
「そろそろ寝ろ、操。俺が火を見張ってるから。」
功史は大きな荷物の中から毛布を出して、私と自分をくるんだ。大きめな荷物はほとんど功史が背負ってくれている。私は身の回りの最低の物を小さなリュックに背負っているだけ。
「いい?功史。手を出すと雷よ!」
功史の側の私の肩に止まったハニーが功史を睨みながら念を押した。
「分かってるよ。」
苦笑いしながら功史は答えると、私を見、それから火に目を移した。
「功史、途中で代わるから、その時は起こしてね。」
「ああ。」
私は功史にもたれかかるようにして、眠りについた。
「ん?」
目を覚ますともう夜が明けかけていた。東の空が少しずつ明るくなってきていた。横を見ると功史が眠っている。お互いもたれ合って寝ていたらしい。ハニーも私の肩で寝ている。
「火が消えかけている。」
私は細くなった火に薪を加えた。パチパチと音をたてて燃える薪を見ながら、今まであった事を思い出していた。そして、いつの間にかまた寝入ってしまった。
その日起きたのは、結局お昼近く。太陽がほとんど真上まで来ていた。
だいたいそんな感じで旅は続き、港町に着くのに5日もかかってしまった私たちだった。
港町、カシーナに着く早々、私たちは黒龍の事と神殿の事を聞く為、寺院に行ったり、バーに行ったりして、手当たり次第聞き回っていた。
「疲れた〜・・・もう歩けない・・・」
「そうだな、ずっと歩きずめだもんな。少し休もうか。」
私たちは港が見える丘の上に座り、休憩する事にした。
「いい天気だ。操、ちょっと。」
功史は私がいいとも言わないうちに、勝手に膝枕で寝てしまった。
「もう!」
一応、ふくれっ面したものの、私は嬉しいような照れくさいような気がしていた。
ハニーも横になるなり寝入った功史に呆れていた。真っ青な空と海、港を行き交う帆船。私がその光景に見とれていると、不意に後ろから声がかかった。
「もしもし、お嬢さん。」
振り返ったそこには、僧侶らしい人が立っていた。
「何でしょう?」
功史が寝ている為、立ち上がれない私はそのまま尋ねた。
「先程寺院に訪ねてみえた方とお見受け致しますが。」
「え、ええ、そうですけど。」
「当寺院のカスロー神官がつい先程お帰りになられ、あなた方と是非お会いしたいと申しております。私と一緒にいらして下さらないでしょうか?」
「え、ええ。喜んで。」
私は慌てて功史を起こすと、彼と一緒に寺院へ向かう。
カスロー神官は当分この寺院に泊まっていろいろ聞き回ればいいとも言ってくれ、私たちを大歓迎してくれた。少し話が上手くいきすぎとも感じたけど、とにかく当分お世話になる事にしたの。もちろんハニーは私と功史だけの時しか姿は現さない。
1日、3日とたったけど、それらしき情報は全くない。この町では無理かと思い、港から出る船に乗せてもらい、次の町に行くことに決めた。
「じゃ、カスロー神官にその事とお世話になったお礼を言わなきゃ。」
「そうだな。」
私と功史は、祭殿にいるカスローに会いに行った。
祭殿の扉の前、カスローと誰かの話し声が聞こえ、私たちは開けるのをやめ立ち止まる。
「ここ数日様子を見てきましたが、あの2人にそのような力があるとは思えません。」
「しかし、我が主は例え小さな芽でも見逃すなと仰せです。一生ここに足止めするか、さもなくば殺せとのご命令なのです。」
「しかし・・・」
「よろしいですか、カスロー殿、元々この寺院は地龍である黒龍の寺院なのです。それがいつの間にか風龍の寺院となってしまった。それは、遥か昔、火、水、風、それぞれの神龍に裏切られ、地底深く封印されてしまったからなのです。が、今再び地龍は復活しました。既にカスロー殿も祈りの泉にある神殿でお会いし、納得されたはずです。我等が仰ぐべきは風龍ならず、地龍つまり黒龍なのだと。黒龍に従ってこそ、この地に本当の平和が訪れるのです。今こそおとなしくしていますが、いずれ、神龍同士の勢力争いが起こる筈です。その前に、我等が主、黒龍の完全復活を実現させなければ。各地にある元地龍の神殿は、次々に本来の神である黒龍を祭り始めてきています。」
「しかし、表だってそうしないという事は何かやましいことが・・」
「何をおっしゃるのですか?それは、他の神龍と対抗できる力、本来の黒龍の力を手に入れるまでの事。それ以前に分かれば、彼ら神龍は再び封印しようと図るでしょう。裏切り者の烙印を押された黒龍はその誤解を解く為にも、そうなる事を避けなければならないのです。」
「ですが、別にあの2人を殺す必要もないでしょう?」
「ですから、ここに足止めさせておけばいいのです。そうですね、一生が無理ならせめて黒龍が完全復活するまでですね。」
「しかし・・・」
「あなたがそんなに話が分からぬ方とは、思いませんでした。残念ですが・・・」
「な、何を?」
「こ、功史!」
「ん、操!」
私と功史は顔を見合わせ、扉を開けようとした。その時、
「そこで何をしていらっしゃるのですか?」
私と功史は、背後からの声にびくっとして振り向いた。
「あ・・あの・・」
私はどう説明しようか困った。
−バタン!−
扉が開きカスローが顔を出す。
「操!功史!」
「カスロー神官!大丈夫だったのですか?」
「大丈夫?何がですか?」
その落ちついた顔のカスローと扉との隙間から中が見え、私たちはそこにジャービーを飲み込んだのと同じ黒い渦が消えていくのを見た。
しまった!カスロー神官はもうだった。そう悟った私たちは逃げようとした。でも後ろにも僧侶がいる。
「シャマ、二人を捕らえなさい。」
カスローが静かに命じた。
私たちはその僧侶シャマの隙をつき、その場は逃げる事が出来た。
でも、出入口を閉められた私たちは、逃げ場を無くし、最後には僧兵に捕まってしまった。 |