☆★ その96 不思議な夫婦 ★☆
-- 時は藍の里へ帰って2年後あたり --
-- 藍の神殿へ来たばかりの頃の事を一人思い出しているカルロス・・・/^-^;
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 神殿を取り囲んでいる森。神殿の散歩道から少し森の奥へ入ったところに、その神殿の一角を真似て小規模に造ったような建物があった。そこは、ミルフィーたちの住まい。そのサンルームで、親子はおだやかな一時を過ごしていた。
「きゃっきゃっ・・あはははは・・」
2歳になったばかりのフィーとフィアが、純真な笑顔で楽しそうに遊んでいる。
にこやかに微笑みながら2人の相手をしているミルフィーを見て、カルロスはふとこの地へ来たばかりの頃のことを思い出していた。


「ミルフィー、いるか?緋の神殿から書状が来ているんだが・・」
そう言いながら部屋のドアをさっと開けて中に入ったカルロスは、目に入った光景に心臓が止まりそうになる。
「あ・・す、すまん。」
そして慌てて外に出てドアを閉める。

それは、ミルフィーたちが藍の里へ帰ってきてからまだ間もない頃の事。フィーとフィアがまだ乳児だったときの事。

いつもの調子で部屋へ入ったカルロスは、授乳中だったミルフィーに慌てて外へ出る。そして、突然入ってきたカルロスにミルフィーも驚いて声もでなかった。

「旦那様?」
ちょうどそこを通りかかった世話係が不思議そうにカルロスを見る。
「どうかなさいました?」
「あ・・い、いや・・・・ちょっとな。」
「巫女様は、お部屋にいらっしゃいませんでした?」
「あ、いや、・・・いたが。」
カチャリとドアを開けて世話係は今一度不思議そうにカルロスを見つめる。
「巫女様・・温めたタオルをお持ちしました。」
「あ・・ありがとう。」
入口に背を向けて座っていたミルフィーは真っ赤になりながら、小さく答えた。

−カッシャーーン!−
不意に廊下の奥で何かが割れる音がする。
「あらあら・・・また入ったばかりの巫女見習いね。本当にしょうのない。」
部屋へ入ろうとしていた世話係は、まだそこにいたカルロスにちょうどいいとばかりにタオルを渡した。
「申し訳ございません、旦那様。私ちょっと見てまいりますので、巫女様が授乳を終えられましたらこれで拭いてさしあげてくださいませんか?」
「は?」
「よろしいですね、お願いいたしますよ。」
バタバタバタと、彼女はカルロスの返事も待たずに小走りに立ち去ってしまった。
「あ・・・あの・・だな・・・オ、オレは・・・・」
勿論部屋の中まで彼女の声は聞こえている。中ではミルフィーがやはり硬直していた。

普通の夫婦ならどうということはない当たり前の事かもしれなかった。が、ミルフィーとカルロスは実際にはまだ肌は重ねていない。しかも、ともすると暴走しそうになる自分を必死で押さえているカルロスにとって、それは拷問のほかの何ものでもない。それでなくても、一瞬だったが、ミルフィーの胸をまともに見てしまい、目の前にちらついているというのに・・・・。
そして、ミルフィーにしても、まだカルロスの目に触れさせたこともないのに、そんな恥ずかしいことはできるわけはなかった。
そう、夢の中でのことはやはり夢なのだからとミルフィーは思っていた。

「あら・・旦那様・・・」
戻ってきたその中年の世話係は、タオルを持ったまま外で立っていたカルロスからすっとそのタオルを取ると中へ入っていき、ため息をつきながら、ミルフィーの世話をしはじめた。
「このくらいして下さっても罰は当たらないと思うんですよ、私は。女一人で子供ができるわけじゃないのですし・・・半分は殿方にも責任があるんですから。そうお思いになられません?巫女様?」
「あ・・あの・・・・」
消え入るような小声のミルフィーの声が聞こえた。
「巫女様はお優しいから。でも、これも夫婦とそれから親子の触れあいでもあるのでございますよ。お子さまは双子なのだし、お一人にお乳をあげている間は、もうお一人の面倒を見てくださってもよいと・・・そうする事が家族という絆を紡いでいく為にとても大切なのだと私は思うのでございますが・・・。」
「で、でも・・・・」
「本当にご夫婦なのかと疑ってしまうくらいでございますよ?」
「あ・・あの・・・」
「でも、そうですわね、私どもと違って、巫女様というのはそうなのでしょうか?たとえ旦那様にでも人前では肌を見せることはできない・・とかなのでしょうか?」
「え?・・あの・・・・」
ミルフィーはどう答えようか困っていた。
「ああ・・そうでございました。こうして巫女様がお子様を授かったのも、それに、旦那様がいらっしゃるということも、代々の巫女様としては初めてだとかでございましたわね?」
「え、ええ、まあ・・・・」
「特別とかお聞きしましたが・・・それでは戸惑われるのも無理はないですわね。」
にっこりと笑うと、世話係はミルフィーからフィーを受け取りベッドへ寝かせる。
「お二人ともお腹いっぱいになって、よく眠ってらっしゃること・・・。」

そして、部屋の外にそのまま立っていたカルロスをちらっと見ると、世話係は冷たく言ってからそこを立ち去っていく。
「お待たせ致しました。」


「しかし・・・一体いつになったら普通の夫婦になれるんだ?」
その時の事と世話係の冷たい視線を思い出したカルロスの脳裏をそんな考えが浮かんだ。
2人からは、父母とお互い呼ばれながら・・・その実、まだ完全な夫婦ではなかった。心から愛し合って、お互いを必要としているのに、である。
「オレは今すぐでもいいのに。ミルフィーがほしいのに・・・。ミルフィーの全てが・・・。」
あと何年こうして待たなければならないのだろう?・・一生我慢し続けなくてはならないと思っていた頃と比べれば雲泥の差があるのにも関わらず、いや、その必要がなくなったからこそ、気が遠くなる思いをカルロスは感じていた。
「何歳になれば巫女の座は務まるんだ?」

藍の巫女、ミルフィーの夫として、そして、神殿の守護騎士の長として、また、2人の子供の父親として、日々平穏に過ぎていく毎日は幸せだった。が・・・カルロスの願望は・・・まだ果たされていない。それはいつなのか・・・・ミルフィーだけが知っていると思われたが、そのミルフィーは・・・そんなことはまるっきり頭の中にないようにも思えた。

「女を通り越して一気に母親になってしまい、それで満足してしまった・・とか、じゃーないよな?」
カルロスの苦悩はなかなか尽きそうもなかった。



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