☆★ その97 レイミアスの脅威 ★☆
-- ミルフィーは不可侵の藍の巫女・・ --


 「こんにちは、ミルフィー!」
「あら、レイム、こんにちは!元気だった?」
「はい!勿論!ミルフィーも?」
「ええ、元気よ。フィーもフィアも。」
それからも時々大僧正の使いとして、レイミアスは藍の神殿を訪れていた。
勿論、お互い公式には改まった態度で接し、私室では今まで通りで接している。
「レイムだー!」
「レイム、レイム!」
そして、時々しか訪れないのに、フィーとフィアはやさしいレイミアスによくなついていた。
「やー、フィアにフィー、元気だった?お利口にしてた?」
走り寄って首に抱きつくフィアとフィーを、レイミアスはそっと抱きしめる。
「うん!」
「はい、おみやげ!」
「わーい♪」
「悪いわね、レイム。いつも。」
「いいんですよ、ぼくがそうしたいから。ね、フィー、フィア。」
「うん!ありがとう!」
口をそろえて返事をする2人が、レイミアスには本当にかわいく思えていた。
そして、その2人は、常に一緒にいるカルロスよりもレイミアスになついていた。

「まさか・・・故意に手なずけてるんじゃ・・・・」
「何馬鹿なこと言ってるの?レイムは神官の中でも特にきれいな心の持ち主なのよ。そんな事思うわけないじゃない?」
カルロスのやきもちに、ミルフィーはそう言って笑ったが、カルロスは気になって仕方がなかった。
「将を射んと欲すれば馬を射よ、じゃないだろうな?」
が、あまり言うとミルフィーに馬鹿にされるので、カルロスは二度とはその件に関して言わなかった。
ミルフィーの自分に対する気持ちには一片の疑いも持ってはいないカルロスだったが、レイミアスに対するその気持ちも彼女の中で揺らぐことはないと感じていた。
「きれいな心の持ち主か・・・そういえば、レイムにもらったという聖龍の法力を封じたペンダントは・・・今でも身につけていたな。」
確かにミルフィーは自分のものだと確信もしていた。が、カルロスの心配もつきなかった。


「そう・・・村の教会は他の神父様に任せて大聖堂にお勤めする事になったの。」
「ええ、大僧正様から是非にと乞われまして。」
「そうよね、レイムほどの人物を田舎に引っ込ませておくのももったいないから。」
「そ、そんな、私など・・・」
「控えめなところは変わらないけど、でも、レイムもすっかり祭司長様が板に付いたわね。」
レイミアスの口調に、ミルフィーはふふっと笑う。
「あ・・い、いえ・・・か、からかわないでくださいよ。」
「でも本当の事よ。・・いつのまにか背も高くなっちゃって。」
「え?ええ、そうですね。」
その日、レイミアスは正式に祭司長として大聖堂に務めることになった事を報告に来ていた。

奥庭をミルフィーと一緒に散歩しながらあれこれ話していた。
同じくらいの背だったレイミアスは、いつの間にかミルフィーより頭一つ高くなっていた。カルロスとあまり変わらなくなったのだが、やせ形のレイミアスはともすれば、彼より高く見えることもある。
「ミルフィーもすっかり巫女様らしくなって。」
「え?そ、そう?」
「以前の鎧姿が信じられないくらいですよ。」
「すっかり用無しになってしまったから。」
「でも、フィーに剣は教えてるんでしょう?時々はカルロスとも手合いなどしてるんでしょう?」
「そう。フィーにはほとんどカルロスが教えてるけど、私も時々ね。」
「ミルフィーが剣を忘れられるわけないですからね。」
「そうなのよね・・・・時々たまらなく冒険が恋しくなるのよ。」
「わかりますよ、それ。でも、結構忙しそうにあちこち飛び回ってるらしいですね?」
「そうね。いろいろあって。・・・だから、脱走せずにすんでいるんだと思う。」
「だ、脱走ですか・・・」
「ええ、そう。だってたいくつよ、ここ。」
「ははは・・・ミ、ミルフィーらしいですね。」
レイミアスには巫女姿のミルフィーがたまらなくまぶしかった。フィーとフィアという子供ができたせいだろうか。すっかり女性として落ち着いた感じになったミルフィーは、レイミアスにとってますます憧れ的な存在となっていた。・・・カルロスと相思相愛だということが分かっても。

「きゃっ!」
「危ないっ!」
泥濘に足を取られもう少しで転んでしまうところだったミルフィーを、レイミアスは慌てて抱き留める。
「あ、ありがとう、レイム。」
「あ・・・・い、いえ。」
ミルフィーの体温を感じて、どぎまぎしながらレイミアスは慌てて彼女を自分の身体から放す。
「雨でぬかるんでますからね、気をつけないと。」
「そうね・・・。」


「ミルフィー・・レイム・・・」
ちょうどそんな場面をカルロスが目にしていた。
祭司長の僧衣を身にまとった長身のレイミアスが巫女衣装のミルフィーをその胸に抱いているところ・・・それは1枚の絵画から抜け出た光景のように似合っていた。大聖堂を訪れる少女たちの胸をときめかしている穏やかな笑顔と風に柔らかくそよぐ長い髪、そして優しい物腰のレイミアス。カルロスにはないものを持ってい

箱さんからいただきました。
いつもありがとうございます。m(__)m
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「カルロス・・」
2人に見とれ、呆然としたように突っ立っていたカルロスの姿に気づいたミルフィーが、微笑みながら歩み寄る。
夢から醒めたような感覚を覚えながら、カルロスはミルフィーに手を差し伸べる。
「カルロス、おじゃましてます。」
「あ、ああ・・・レイムか。」
下心があってそうしたのではないことは、カルロスにも十分分かっていた。そしてさわやかなレイミアスの微笑みに、思わず嫉妬心を抱いてしまったことを恥じる。


が・・・・
「巫女の座はいつ譲れるんだ?」
ミルフィーの気持ちが変わるとは思ってはいなかった。が、時々訪れるレイミアスに、確かに嫉妬と、そして、焦りを覚えている自分をカルロスは否定できなかった。
「ミルフィー・・・・・」
もっと確固たる実感がほしい!カルロスは以前より増して煩悩と激しく戦わなくてはならなくなっていた。
「いつ爆発するか・・・保証できないぞ?」
苛立ちと焦りが募るカルロスだが、そんなカルロスに気づく気配など全くないミルフィーは相変わらず忙しそうに飛び回っている。


「ねー、カルロス、たまには2人で息抜きに聖魔の塔へ行かない?」
「せ、聖魔の塔って・・・ミ、ミルフィー・・・?」
フィーとフィアも少し手が離れてきた頃、お付きの神官にしばらく任せて2人だけで行こうというミルフィーに、カルロスは戸惑う。
(2人きりなんかで行ったら・・・・たとえ塔内だろうと魔物に囲まれていようが・・オレは・・・・オレはミルフィーを襲ってしまうぞ?)
「ねー、カルロス・・・だめ?」
あくまでそっち方面には疎いミルフィー。そんな男心に気づく様子もなく、期待に瞳を輝かせてカルロスをじっと見つめていた。
(そ、そんなに見つめたら・・この場で押し倒したくなるだろ?!)
心の奥で、理性と本能が・・・天使と悪魔が最終決戦を始めそうな気配だった。しかも、分が悪いことに・・悪魔の方がかなり優位とみられた。
「ミ、ミルフィー・・・・」
ミルフィーの無垢な残酷さに、カルロスの心の叫びが聞こえてきそうだった。



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