青空に乾杯♪


☆★ その98 夢のまた夢 ★☆
-- 触れることができない神聖な巫女ミルフィー ・・ --


 「で、結局来てしまうんだよな・・・。」
つくづくミルフィーに弱いと思いながらカルロスは、聖魔の塔に彼女と2人で来ていた。相変わらず心の底では悪魔と天使が戦っている。

「カルロス?何ぼんやりしてるの?」
早くも魔物との戦闘を楽しんでいるミルフィーに、カルロスはため息混じりで加勢に入る。
−キン!シュピッ!−
「オレの手などいらないだろ?」
「でも、カルロスとこうしてるとあの頃に戻ったみたいで楽しいわ♪」
「ふう・・。」
カルロスは大きくため息をつく。
−ガキン!ズン!−
「だけど、いいのか?巫女様がこんなことしてて?」
「大丈夫よ、2、3日で帰るつもりなんだし。そんな奥まで行かないから。」
「奥までって・・・上層部だぞ、ここ。」
「私とカルロスなら大丈夫でしょ?」
「そりゃそうだが・・・万が一ということもあるだろ?お前に何かあったら世界はどうなるんだ?」
「その為にカルロスがついてるじゃない。それともカルロスは、その自信がないの?」
「ば、ばか言うな。オレがいつ自信がないっていった?」
−キン!カキン!−
余裕で魔物と剣を交えながら2人は話し続ける。
「じゃーいいじゃない?」
「そうなんだが・・一応だな・・・万が一ということも考えてこういうことは控えるべきじゃないのか?」
「大丈夫よ、その時はフィアがいるし。」
「は?」
「危ないっ!カルロス!」
瞬間的に剣を引いて気を抜いてしまったカルロスに襲いかかった魔物を、ミルフィーは慌てて倒す。
「よそ見してちゃだめでしょ、カルロス?」
「い、いや・・・」
カルロスはガシっとミルフィーの肩を掴むと、有無も言わさず転移の宝玉を使って塔から出た。
「何よ、カルロス、突然どうしたの?あそこまで行ったのに!軌跡も残さず宝玉を使ったんじゃまた最初から行かないといけないじゃない?」
「ミルフィー・・・フィアは・・フィアはもう巫女になれるのか?」
ミルフィーの言葉などまるっきり無視して迫るカルロスに、ミルフィーはどきっとする。
(い、いけないっ!思わず言っちゃった・・・。)
焦るミルフィーの肩を握るカルロスの力がぐっと強くなる。
「ミルフィー・・・分かってるはずだよな・・オレが、オレがどんなにお前が欲しいか・・・その時をどんな気持ちで待っているのか・・。」
「カ、カルロス・・・・」
すっかりスイッチオンしてしまったカルロスに、ミルフィーの焦りは増す。いや、ミルフィーだとて別にそれをさけようと思っているわけではない。カルロスの事は本当に好きだし、触れ合いたいとも思っている。が、どうも気恥ずかしくて言い出せずにいた。
「ミルフィー・・・」
「ち、ちょっと待ってカルロス・・・こんなところで・・・」
壁に押しつけられたような格好となったミルフィーに逃げ場はない。が、そこは塔の入口。いつだれが来てもおかしくないところ。
「ミルフィー・・・オレの・・オレだけの・・・・」
「あ・・・・・」
唇にそして首筋に、うなじに熱い口づけを浴びせるカルロスに、ミルフィーは全身が痺れてくる感覚を覚える。
「だ、だめ・・・・・」
「ミルフィー・・」
熱くなったカルロスにミルフィーの言葉など入るわけはない。
「だ、だめーーー!」
−ピカーッー
「う・・・・・・」
−グラッ・・−
「え?・・・カ、カルロス・・・・?」
光と共に一瞬にして眠りに入って彼女に覆い被さってきたカルロスに、ミルフィーは唖然とする。
「私・・・またやっちゃったの?・・・」
カルロスをそこに横たえながら、ミルフィーは無意識に手にしていたペンダントを見つめていた。
それは、レイミアスがくれた例の聖龍の法力を封じたもの。
「それで・・・どうしたらいいのかしら?」

しばらく倒れたカルロスを見つめていたミルフィーは、ふと思いつく、火龍の少女、ミリアからもらった指輪。
「えっと・・・でも、こんなことで呼んでいいのかしら?・・でも、一人じゃ運べないし・・・・。」
そう思いつつ、ミルフィーは扉の横で燃えさかっているランプの炎の中に、その指輪を投げ入れる。
−ボン!−
「ミルフィー♪」
「ミリア!」
「久しぶりね♪」
「そうね。」
「それで・・今日はどうかしたの?」
周囲を見ながらミリアが聞く。
「あ・・そ、そう大したことじゃないんだけど・・。」
「あ・・・そういうことね・・・。」
どう説明しようか困ってるミルフィーに、めざとく倒れているカルロスを見つけたミリアは笑う。
「相変わらずなのね、ミルフィー。もうそろそろいい頃なのに?」
「あ・・・・そ、そうなんだけど・・・」
「仕方ないわね。どこへ運んだらいいかしら?」
ミリアは顔を赤くしているミルフィーにくすっと笑った。
「そうね・・・・もう少し探検していたかったけど・・・神殿へ。」
「オッケー♪」

そして、カルロスは目覚める。神殿の一角にある小ホール、いつもミルフィーや子供たちと過ごす中庭に続く明るい部屋で。
勿論、ミリアに手伝ってもらい、鎧は外していつもの服装に着替えさせてある。
「ん・・?」
「気持ちよさそうに寝てたわね、カルロス。」
目覚めたカルロスにミルフィーはにっこりと微笑む。
「・・・・・・」
カルロスは黙って周囲を見渡していた。
「・・・夢・・か・・・」
「え?」
「ああ、お前が気分転換に聖魔の塔へ行こうと言ってな・・・塔で一緒に魔物と戦っていた夢を見た。」
「へー・・・楽しそうな夢じゃない、カルロス?」
「ああ。」
「で・・・フィアはもう巫女になれるのか?」
「え?」
いきなり言われ、思わずミルフィーはどきっとする。
「まだか?」
「な、なーに?き、急に?」
「いや・・・ちょっと夢でな・・・」
「夢で?」
「ああ・・そろそろ巫女の座を譲ってもいいような事を言ってたんだが・・」
「私が?」
じっと自分を見つめて言うカルロスに、落ち着くようにと自分に言い聞かせながらミルフィーは極力平静を保って言う。
「でも、夢でしょ?」
「あ、・・・ああ・・・・まー、そうなんだが・・・・」
「そうねー・・・まだ・・少し早いような気がするんだけど・・・」
「そうか?」
「え、ええ・・・ごめんなさい、カルロス。」
「あ、いや、お前が謝ることじゃない。」
「・・でも・・・。」
「そう気にするな。まだだとしてもそのうちには譲れるんだろ?一生だったと思えばなんてことないさ。」
「ありがとう、カルロス。」
そっと差し伸ばされたカルロスの腕に、ミルフィーは身体を寄せる。
「ミルフィー・・・」
今はこうしていられることに満足すべきだ、と自分に言い聞かせて彼女を抱きしめたカルロスの視線が、ミルフィーの首筋に釘付けになった。
襟の高い衣装ではあったが、その裾からちらっと見えたもの・・・それは・・・・。
−シャラ・・−
「え?」
急に彼女の首からペンダントを外したカルロスを、ミルフィーは不思議そうに見つめる。
「危ない、危ない・・・もう少しでまただまされるところだったな。」
「な、何が?」
意地悪な輝きを含んだ瞳でミルフィーを見つめながら、カルロスは、首筋に見つけた跡にそっと指を這わせる。
「これが、オレがつけたものじゃないとしたら・・・誰なんだ?」
テーブルの上に置いてある磨きぬかれた燭台を指し、カルロスはにまりと笑う。
そこには周囲の色よりほんのり赤く染まった円形が写っていた。
「あ・・・・・」
一気にミルフィーの顔が赤く染まる。と同時に心臓がこれでもかというくらい早く大きく鼓動する。
「二度としないといった約束を破った罪は重いぞ、ミルフィー。」
「そ、それは、そのことじゃないでしょ?」
焦りまくるミルフィー。
「いや、同じ事だ。・・それに、オレの気持ちを知っててそうしたんだからな・・・覚悟はいいか?」
「覚悟って・・・あ、あの・・・・」
「場所がいけなかったのなら・・・場所を変えればいいんだろ?」
「カ、カルロス・・・・」
すっとミルフィーを抱いたままカルロスは立ち上がる。
「ま、待って・・」
「なぜだ?・・・オレがイヤか?」
「あ・・そ、そうじゃないけど・・・・でも・・」
「それなら文句はないはずだ。」
それでもまだ何か言おうとするミルフィーの口を自分の唇で塞ぐと、歩幅も大きく、カルロスは彼女を自分の寝室へと運んでいった。


「ん?」
木漏れ日の中、カルロスは目覚める。
「なんだ・・・・オレは・・・・・何をしてたんだ?」
そこは神殿の中庭。大木を真っ二つに割って作ったベンチの上にカルロスは横たわっていた。
「ミルフィーは・・・・・」
今し方まで見ていた夢を思い出しながら、カルロスはミルフィーの姿を探す。

「ミルフィーはどこに?」
そして、傍を通りかかった神官にカルロスは声をかける。
「巫女様でしたら、まもなく奥神殿からお戻りになられるかと。」
「奥神殿・・・・」
カルロスに礼をとって立ち去っていく神官の後ろ姿を見ながら、彼は今一度考えていた。
「そうだ・・・・奥神殿だ。」

ミルフィーがカルロスを聖魔の塔へ誘ったまでは実際にあった事だった。が、その後は・・・レイミアスが緊急だといって持ってきた書状で、それは必然的に中止となっていた。南の地方での災害の実態と今後の対策を計る為、ミルフィーは奥神殿へと入っていった。


「カルロス。」
そして奥神殿から戻り、そのことに関してしたためた書状をレイミアスに渡し、彼を見送ってからようやくカルロスの傍に来たミルフィーの首筋を、カルロスは思わずじっと見つめてしまう。
「どうかしたの?・・何かついてる?」
木の葉でも髪に絡まってついているのだろうか?と首に手をあてるミルフィーに、カルロスは残念そうに笑みを送る。
「あ、いや。・・・何も。」
「へんなカルロス。」
そう言って微笑むミルフィーのさわやかな笑顔に、カルロスはつくづく残念だと思っていた。夢でなかったら今頃は・・・・。

暖かい木漏れ日が見せたせつない夢。それでもそのうちには実現するだろう。・・カルロスは、暖かくミルフィーと笑みを交わしていた。

 


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