☆★ その99 カルロスの嘆き ★☆
-- フィアに巫女の座を譲った直後あたり・・・/^-^; --


 「え?・・・・ここ?」
藍の巫女の座をフィアに譲った翌日、緋の神殿へフィーを連れていき、そして、帰ったと同時にレイラからの招待状で、時の館へと飛んだミルフィーがようやく本当に神殿へ帰った時、自室で荷物を片づけようとした彼女は、そこから何もなくなっていることに驚く。
「確か私の部屋はここだったはずなのに・・・。」
不思議に思いながら、廊下へ出、通りかかった巫女仕えに聞く。
「あ、はい。巫女様のお部屋でしたら、カルロス様のご指示で、今少し広いお部屋へ移させていただきましたが・・・巫女様・・ご存じではなかったのですか?」
巫女の座を退いても神殿に仕える者たちはミルフィーをそう呼び、そして、フィアを巫女姫様と呼んでいた。
「あ・・・・そ、そうだったわね。あちこち行ってたから・・・」
「お疲れなのでしょう、巫女様。お荷物、私がお持ち致します。」
彼女はにっこりと笑うと、ミルフィーから荷物を受け取り、移した部屋へと先に立って歩き始めた。
(よ、よかった。)
部屋がどこだったか聞かずにすんだことにほっとしながら、ミルフィーは、まさか、と思っていた。

「では、巫女様、ごゆっくりなさってください。あ、何かお飲物でもお持ちしましょうか?」
「あ、いえ・・フィアやフィーにまだ会ってないので、荷物を少し片づけたらそちらでいただきます。」
「はい、かしこまりました。」
巫女仕えは、丁寧にお辞儀をすると、部屋から立ち去っていった。

「・・・・カルロスったら・・・・」
予想通り、そこは夫婦の部屋だった。少しどころか、今までの倍以上もあるその部屋と・・そして、4人くらいは寝ることができるのではないかと思えるほどの天蓋付きベッドに、ミルフィーはため息をついていた。備え付けられている家具は、見覚えのある自分のものとそして、カルロスのもの。
「・・・・これ以上、延ばしようは・・・ないわね・・・・」
くすっと軽く笑い、一人頬を赤く染めて、ミルフィーは、しばらくそこに立っていた。


そして、その夜・・・。
「ミルフィー・・」
「カルロス」
長きにわたる忍耐の日々に別れを告げる日が、ひたすら焦がれ待ち続けたその時が、ようやく訪れていた。

「ミルフィー・・お前は、オレの半分でも、オレの事を想い眠れぬ夜を過ごしてくれたのだろうか?」
滾る情熱のまま抱いてしまおうかとも思ったが、そこは百戦錬磨(?)のカルロス。いや、単にそうした場合、ミルフィーの気分を害することが怖かっただけなのかもしれないが、ともかく、カルロスはともすると嬉しさで我も忘れて暴走しそうな自分を今少し押さえ、緊張していると思われたミルフィーの気持ちをほぐすことから始めた。
何度夢に見、せつない想いに覆われ、焦がれ続けていたかしれない、とカルロスは思い起こす。
(夢なら覚めないでほしい・・・いや、これは・・夢ではないはずだ。)
抱きしめているミルフィーの全身から伝わってくる温かさに、カルロスは現実を確信する。
そっとうなじに指を這わせると、彼女は小さく声をあげる。
「ミルフィー」
思いの丈を込め熱い口づけをしようと、唇を近づけた時・・・
−コンコン!・・バタン!−
ノックする音と続いて聞こえたドアの開く音に、2人はびくっとして起きあがる。
「お母様!お父様!」
フィアとフィーが2人に駆け寄る。
「わー、広いのね、このお部屋。」
「な、なんだ・・・お前たち?」
「だって、久しぶりなんですもの、お母様がいらっしゃるのって。それに・・・」
フィアが嬉しそうにミルフィーを見あげていた。
「しばらくフィーに独り占めされちゃってたから・・・私・・・・」
「フィア・・・」
ミルフィーはそっとフィアを膝に抱き上げた。
緋の神殿へはフィーと2人で行っていた。そしてすぐレイラのところへ行っていた。その間、巫女になったばかりということもあり、不安だったのだろう、とミルフィーは思う。
「ごめんなさいね。でも、母様はいつもフィーと同様、傍にいなくてもあなたの事も思ってるわ。」
「お母様。」
少し怖いと感じるのか、フィアがまだ一度も一人で奥神殿へ行ってないと神官から聞いていたミルフィーは、フィアの不安そうな瞳にそれを確信する。
「大丈夫、巫女としてのお仕事は、母様が一緒にしてあげるから。」
「ホント?」
ミルフィーは目を輝かせたフィアに微笑む。
「ええ、明日は一緒に奥神殿へ行ってみましょうか?きっと水精や風精があなたに会えるのを楽しみにして待っているわ。」
「はい♪お母様。」
「お母様・・・」
「フィー・・・」
嬉しそうなフィアに、今度はフィーが少し寂しげな表情でミルフィーに近づく。
「フィー・・いい子ね。いつもフィアを守ってくれてるのね。」
「お父様にはかなわないけど、でも、ぼくは、ぼくは、フィアを・・。」
「分かってるわ、フィー。・・・・そうね・・・」
フィーとフィアを交互に見てから、ミルフィーは2人に微笑む。
「今日はここで一緒に休むことにしましょうか?」
「え?いいの?お母様?」
「今日は、と・く・べ・つ。」
2人同時に嬉しそうに叫んだフィアとフィーに、ミルフィーはにっこりと笑うと、気づいたように付け加える。
「お父様がお許しくださったら、ね?」
そう言われて期待に瞳を輝かせた2人にじっと見つめられ、カルロスが拒否できるわけは・・・ない。
「あ、ああ・・・今日だけだぞ。」
「はいっ!」
元気よく同時に返事する2人に、カルロスは微笑みながら、心の底では渋い顔をしていた。
(な、なんでこうなるんだ?今までこんなことなかったじゃないか?)
いつも2人一緒にいたフィーとフィア。それがフィアが巫女の座についたことで、離れる時間が増えていた。そのことによる不安もあり、2人は幼いながらも変化した暮らしに不安を覚えていたようだった。
ミルフィーはそんな2人の気持ちを敏感に感じ取り、今までと変わらないことを分からせるため、そうすることにした。

そして・・・その日だけのはずだったそれは・・・数日間続いていた。
「そのうち落ち着くから、ね、カルロス?ごめんなさい!この通りだから。」
申し訳なさそうに微笑み、両手を合わせて拝むように頼み込むミルフィーに、カルロスは、嫌とは言えなかった。
夜は何もすることがないから必要のない不安も感じるんだ、こうなったら日中にミルフィーを・・・とつい思ってしまったカルロスだが、その日中・・・ミルフィーはフィアに巫女としての務めをあれこれ教えたり、一緒にしている。そして・・・フィアと一緒でない分寂しいのかフィーが前よりもまして、剣の稽古をせがむようになっていた。

「夜明けは・・・・一体夜明けはいつなんだ〜〜〜?!」
カルロスの心の底からの嘆きが神殿中に響いていた。(聞こえはしないが・・・・)



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