☆★ その95 サラマンダーの国にて ★☆
-- ミルフィーが藍の巫女だったときの話 --


 「そんなことがあったの?それで、その火がまだ消えなくて・・広がってるとかなの?」
「そうなのよ。本当に苦労してようやくついた火なのよ。何度諦めようとおもったことか・・・。必死になって炎の魔法を出し続けているレオン・パパが本当にかわいそうに感じたわ。それで、本当に火をつけたレオン・パパに、変な意地を張って消してって言えないのよ。・・・全く!」
ちらっとガンガを見てミリアは笑った。
「でもね、本当はレオン・パパも消せないのよ。」
小声で耳打ちしたミリアに、ミルフィーはびっくりして彼女を見つめ直す。
「レオン・パパって、水系の魔法だめでしょ?だから・・」
「なるほどねー。」
「で、お父様の顔もレオン・パパの顔もつぶさずにすむから、私がミルフィーの事を持ち出したの。」
「さすがミリアね。」
ふふっと2人は顔を見合わせて笑った。


そして、ミルフィーはミリアとガンガと共にその森へ向かった。
火のついた木は、ほんの少しずつだがその燃える部分を広げていく。勢いはなくても放っておけば確実に木は減っていく。

「水精よ・・・・我が声に答えよ・・・すべての生きとしい生けるものの命の糧をはぐくむ水の精霊・・我が友、水精よ。」
ミルフィーは精神を集中して水精に呼びかける。
「やさしさと激しさを秘める水精よ・・その優しさの手を借り、我はこの炎を消さん。その激しさの手を借り、炎の元を絶やさん。・・・・」

−ぴちょん・・・−
しばらくすると、森の上空に雲が現れ、雨粒が一つ落ちてきた。
−びちょん・・・−
そして、その雨粒は少しずつ増えていった。
−サーーーーーー−
決して勢いは良くなかったが、糸のように細い雨がやさしく周りを包み込んでいた。
無事鎮火したのを見届けると、ミルフィーらは再び宮殿に戻った。


「いや、さすが藍の巫女殿。通常では、いくら水を操る術師といえど、この国に水を呼ぶことは無理だったので、失礼かと思ったが、いまいち不安だった。」
「まっ、お父様ったら、私を信用してくださらなかったの?」
ミリアがきっと睨む。
「あ、いや・・・そういうわけではないが・・・何しろ初めての試みだったものだから。」
「普通の術師じゃないのよ。藍の巫女なのよ、ミルフィーは。」
「そうだな。そうだったな。」
その言葉をかみしめるようにガンガは、微笑みながらミルフィーを見つめた。
「世界を支える藍の巫女殿・・・だったな・・。いや、感服いたした、巫女殿。」
「いえ、お役に立ってよかったですわ。」
「巫女殿?」
「はい?」
人型のガンガは、その瞳に優しさをたたえながら、ミルフィーに近づき、彼女の手を取る。
「どうかな?このままここに滞在というのは?・・あ、いや、巫女殿が世界に必要だということは承知しておる。どうだろう・・時々こうして来ていただくというのは?・・・ああ、そうだ、私が巫女殿の所に行くという手もあるな。」
「え?」
「巫女殿・・私は心底感服致した。心底・・・あなたが好きになった。」
「え?」
思っても見なかった事を言われ、ミルフィーは耳を疑って驚く。そして、それはミリアも同様だった。
「水を呼ぶ時のあなたの美しい立ち姿・・・私は・・私は・・・」
−ドコッ!−
今にも抱きしめそうになっていたガンガを、ミリアの振り上げたイスが襲う。
「ミ、ミリア・・・」
「お、お父様っ!女好きは知ってますが、む、娘の前で口説くのはやめて下さいっ!それに、それに・・・ミルフィーは同族ではないのよ?」
「同族ではないからいいんじゃないか。人間はまだ経験ないし。」
殴られた頭を手で撫でながら、ガンガはしれっとした表情で言う。
勿論ミルフィーは、その時にミリアの後ろに下がっている。
「お父様っ!」
「何、心配はいらぬ。こうして人型をとっているのだ。十分愛し合える。」
「そういう問題じゃないでしょ?!」
ミリアは激怒した。
「お父様っ!藍の巫女がどういう存在か、お忘れ?!」
赤くなって硬直しているミルフィーに代わり、怒りで真っ赤になって怒鳴るミリアにガンガは落ち着き払って答えた。
「勿論、忘れてはいない。だが、火龍の炎は、邪を焼き払うのだ。愛し合っても炎で清められこそすれ、汚れるということはない。その昔、緋の巫女と愛し合った王族がいると聞いたことがある。私は・・・それに憧れてもいた。」
「え?・・・あ、あの・・・・」
「だめーーー!ミルフィーにはカルロスというれっきとした旦那様も、それから子供もいるのよっ!」
焦るミルフィーを守り、両手を広げてミリアは間に立ちはだかる。
「『れっきとした』というのは、正確ではないだろう?」
「な、なぜ?」
あくまでクールに意見を言うガンガにミリアは焦りを覚えていた。
「人間と愛し合えば、確実に藍の巫女ではなくなるはずだ。その子供にしても実際に産んだのではあるまい?」
−ボン!−
「きゃっ?!」
ガンガの呼び出した炎で、ミリアはどこかへ飛ばされたらしい。邪魔者がいなくなり、ガンガは、ゆっくりとミルフィーに近づく。
「その男を愛しているならそれはそれで一向に構わない。ここに来たとき私の愛を受け入れてくれれば、それだけで・・」
壁に張り付いたミルフィーに逃げ場は残されていなかった。
「巫女殿・・・この度のお礼も込め、心よりの愛を受け取って・・・」

−しゅごお〜〜〜!・・・ガッシャーーン!−
ガンガは、突如巻き怒った突風で、窓を突き破って外にその身を飛ばされた。
「ふ〜〜・・・・・」
勿論、それはミルフィーの風術だった。ほっとしてミルフィーはそこに座り込む。
「ま、まさかこんなところで・・・しかもミリアのお父さんに迫られるとは思いもしなかったわ。」
「ご、ごめんなさい、ミルフィー。」
「ミリア。」
戸口には、急いで戻ってきたらしいミリアが、荒い息をして立っていた。
そして、ミリアはミルフィーの意識をたどり、即神殿へと転移した。


「でも、驚いたわ。」
「本当にごめんなさい、ミルフィー。世話になっておきながら、あんなことするなんて!」
ミルフィーの私室で、2人は話していた。
「お礼って言ってたけど・・」
ミルフィーは思い出して笑っていた。
「・・・・まったく・・・気が多いんだから。」
「気が多い?」
「そうよ。火龍族は・・・そう言うことに関しては自由奔放なのよ。夫婦制というのもないし・・・。」
「そうなの?」
「そう。だから、同族はもちろんのこと、リーシャンの母親である妖精でしょ、それ以外の種族にも手を出してるみたいだし。・・・今は人間を落としてみたいってとこなのかしら?・・・まったく・・・」
申し訳なさそうに言うミリアに、気にする必要はない、とミルフィーは微笑む。
「じゃー、他の人が見つかればそれでいいのね?」
「・・・それがね・・・・・それぞれの相手に結構本気なのよ、あの人。その時その時で恋に落ちるのよ。誰でもいいというわけでもないらしいの。で、その時だけかと思ったら・・結構、続いてるらしいし・・。こうと思いこんだら誰が何を言おうと聞かないし・・・諦めないし・・・・。」
「ち、ちょっと、ミリア・・・」
たら〜〜っとミルフィーから冷や汗が流れた。
「だから・・だから・・・・私、レオン・パパのような人がいいの!」
レオンのようにただ一人の人をずっと愛し続けている人。ミリアは、彼の外見もだが、それより何よりレオンの心が好きだった。自分もそうありたいと思っていた。
「だから、サラマンダーの国にいい人はいないって言ったのね?」
「そう。みんなあんな感じだから・・・。」
「ミリア・・・」
悲しそうに下を向いたミリアの手をそっと取るとミルフィーは微笑んだ。
「いつか、いつか、ミリアにも素敵な人が現れるわ。ミリアだけを愛してくれる人が。」
「そ、そうかしら?」
「火龍族でもそんな人ばかりじゃないでしょ?それに、人間だっていいんじゃない?」
「そうね。・・・火龍族で見つけるには・・・それに染まっていない迷い種とどこかで出会うしかないんでしょうけど、それは難しいけど、でも、人間なら・・・・って、でも、人間でもなかなかそう簡単には・・・」
「そうね。」
「何を話してるんだ?」
ミルフィーが帰ってきていると聞いたカルロスが、カチャリとドアを開けながら入ってきた。
「いい?ミリア、さっきのことは内緒にしておいてね。」
「そうね。嫉妬でカルロスに火がついたら大変だから・・・・」
2人は小声で囁きあうと、カルロスに微笑んだ。
「ん?何かいいことでもあったのか?2人とも機嫌よさそうだな。」
「え・・ま、まーね。サラマンダーの国でいろいろあって。」
「そうか。何があったんだ?」
「あのね、レオンが・・・・」
差し障りのないことをカルロスに話し、ミリアは一晩泊まってから帰っていった。

が、その翌日・・・
「ガンガ・・・あなた、どこから?」
ミルフィーは、目の前で羽ばたいている小さな火龍に驚く。直感でそれがガンガだと感じた。
「火のあるところならば、どこへでも。巫女殿、私の思いは燃えさかる炎のように・・・」
ぎくっとしてミルフィーは、ガンガの口を塞ぐと、周囲を見渡し、誰もいないのを確認すると、諭すように言う。
「ですから、私には心に決めた方が・・・・」
「気にしないといったはずだ・・・私は・・・・」
−しゅごーーーーー!−
再び風術でガンガを吹き飛ばし、ミルフィーはため息をつく。

「身を小さくしてることがせめてもの救いだけど・・・どうしたらいいの?」
そんなことがその日だけでも、数回あった。一応ガンガは他の人の目に留まらないようにと姿を小さくしていてくれているらしいが・・・。
神殿のところどころに松明などの炎はある。勿論寝室にも・・ある。そして、そこへ出られたら・・それこそ絶体絶命というものである。
「本当ならカルロスに話して、傍についていてもらえると安心なんだけど・・・。」
が、そんなことを頼もうものなら、ガンガからは守ってもらえても、おそらく・・・藍の巫女はその時点で消滅する。
例え結界を張っても、その中に炎がある限りどんなものも通用しない。


「ミリアを呼んで対策をたてないと!」
炎の指輪を握りしめ、ミルフィーは、その日、松明も消し、水の結界を幾重にも張って暗闇の中眠りについた。


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