☆★ その94 サラマンダーの国にて(1) ★☆
-- ミルフィーが藍の巫女だったときの話とレオンもちらっと・・/^^; --


 「さー、着いたわ、ここが私たち、サラマンダーの国よ。」
藍の巫女であるミルフィーは、火龍の少女、ミリアに連れられ、サラマンダーの国へ来ていた。
大地には、吹き上げる硫黄の熱気と臭気に覆われた岩場がどこまでも続き、マグマの川が流れている。が、遠くに深緑の森らしいところもみえた。
「見、見ているだけで暑く・・・どころじゃないわね、燃え上がってしまいそう・・。」
「そうでしょうね。」
ミリアがふふっと笑って答えた。
ミルフィーはミリアが持ってきた熱を通さない衣服と身体の周りにやはり熱を遮る結界を張っていた。が、その光景は・・・灼熱の地獄へ来たのかとさえ感じさせられた。もっとも地獄ではないので鬼もいないし、空はミルフィーの大好きな青空が広がっている。そして、これでもか、と照りつける太陽。まさに、火の国にふさわしかった。


「藍の巫女殿には、わざわざお越しいただき恐縮です。」
「いえ、こちらこそ。ミリアさんにはいつもお世話になってばかりで。」
「いやいや、ミリアの方こそ、あなたには本当にいろいろ世話になっているとか。」
岩山1つが宮殿となっていた。そこの一室、一族以外の客人用に、石綿で周りを囲み、熱気を遮った幾分涼しく感じる部屋で、ミルフィーは、ミリアの父親に当たる、ガイガに会っていた。そう、レオンの恋人である妖精のリーシャンの父親でもある。
体躯の良い小麦色の上半身を惜しげもなく見せているガイガは、燃えるような真っ赤な髪と深い緑色の瞳を持つ、結構ハンサムな人型を取っていた。
「で、早速だが、お頼みしていいかな?」
「あ、はい。私にできることでしたら、何なりと。」
「実は、この国の空気の浄化を担ってくれている森のことなのだが。」
「ああ、遠くに見えてましたあの緑の森?」
「そうだ。実は、数年前から燃え続けておる。」
「燃え続けて?」
驚くミルフィーに、ガイガは苦笑いをする。
「勢いはそう大したことはないのだが、この地にあるその森は火に対する抵抗力があって、簡単には燃えない。が・・・ちょっとしたことでついてしまった火がもう何年も消えず困っておる。で、藍の巫女殿にお願いして消していただこうと思い、こうしてわざわざお越し願ったわけなのだ。」
「でも、こちらの方々でできないことが私にできるのでしょうか?」
ふと心配になったミルフィーは聞く。
「藍の巫女殿なら水を呼ぶことができるはず。我々では水はだめだからな。炎なら、いくらでも呼べるが。」
ははは、と笑ってガイガは答える。
「そうなんですか・・でも、その火をつけた本人ならどうにかできるのではないんですか?」
「・・・・それはそうだが・・・」
「お父様が意地を張ってらしてるからいけないのよ?」
頭をかいて照れるガイガを、ちょうど飲み物を持ってきたミリアがちらっと睨む。
「え?」
ふふっと意味ありげな笑いをこぼし、ミリアはテーブルに飲み物を置く。
「はい、ミルフィーはちゃんと人間界のジュースよ。それから・・お父様はこれね。」
純銀製のカップに入ったガイガ用の飲み物は、さらさら状だったが、マグマであることには違いなかった。
「それと、クッキーと、お父様には火山岩っと。」
「またか?たまには真っ赤に焼けた鉄などがいいんだが・・銅でもいいぞ。」
「それはまた今度ね。火が消えてないと周りの空気が熱くなってミルフィーがたまらなくなってしまうわ。」
「あ・・なるほどな。さすがミリアだ。」
「ふふっ♪それほどでも。」
ミルフィーは仲の良さそうな2人を嬉しそうに見ていた。
「で、意地を張ってるからって?」
「それはね・・・・」
ふふっと笑ってミリアは、渋い顔をしているガイガを横目に話し始めた。

--------------------------------
「ここがサラマンダーの国よ、レオン・パパ。」
「ほー・・・・・み、見るからに熱そうだな・・・。」
「大丈夫?」
「あ、ああ、一応それなりに石綿の入ったローブと、耐火の宝珠は身につけているが・・・それでも、やはり暑さは感じるな。」
「で・・・その・・・お前の父親ってのは?」
「それは、今から感で探すの。」
「今から?」
「そうよ。」
驚いた顔のレオンに当時チビと呼ばれていたミリアはにっこりする。といっても、当時はまだ人型は取れない。チビ龍である。
−ズズン・・・ゴゴゴゴゴーーー−
そんなことを話していた時、突然地響きがし、目の前に地割れがしたと思った同時に、天まで届かんというくらいの、巨大な火の柱が勢いよく立ち上がった。
「ひ、ひぇ〜〜・・・」
思わずレオンは腰を抜かしていた。
その火の柱はゆっくりと形をつくり、5m程の火龍の姿となった。
「よく無事でここまで来たな、我が子よ。」
「お父様?!」
低い声が辺りに響き渡っていた。
「あの森では、十分な熱さは望めないと思ったのだが・・・よく立派に成長してくれた。」
その言葉を耳にし、嬉しそうにチビ龍を見ていた巨龍を、思わずレオンは怒鳴る。
「なんだそりゃ?それじゃ孵化できないかもしれないことがわかっててあそこに硫黄の池を作ったのか?卵を置いたってのか?」
「お?」
その声で巨龍は初めてレオンを見る。
「なんだ、この人間は・・・?ひょっとすると・・?」
そしてチビ龍の方へ目をやる。
こくんと頷いたチビ龍に、巨龍は、にっこりと笑みをレオンに見せる。
「なるほど、お前がこの子の孵化を、そして、成長を助けてくれたということか・・・それは何よりの助け。いや、感謝するぞ、人間よ。」
「『感謝するぞ』、じゃねーよっ!オレが森に行かなかったらどうするつもりだったんだよ?」
「あ・・い、いや・・・・それは、時はもっとかかったかもしれないが・・・いずれ・・・あははは・・・」
「ってことは、卵から出るに出られず、もっと長い間ああやってもがいていなければならなかったってことか?」
卵の中で出たくても出られないというようにもがいていたチビ龍の影をレオンは思い出し、怒っていた。
「あ・・それも試練ということで・・だな・・・。」
「何が試練だよ?!仮にもあんたの子供だろ?かわいくないのか?かわいく?!」
「あ・・・い、いや・・・それを言われると・・・・」
巨大な龍が、小さな人間に意見をされて小さくかしこまっていた。
「ともかく、あの硫黄の池はとっぱらってくれないか?妖精の女王様からも頼まれたことだし。」
「ん?」
巨龍はレオンをじっと見つめる。
「妖精の女王だと?貴様あいつの手の者か?」
ごごごごご〜、と怒りがわき出てくるのがわかるようで、レオンは思わず後ずさりする。
「な、なんだよ・・・・オレは頼まれただけだし、それに卵が孵ったんだから、もういいだろ?」
し、しまったっ!勢いでつい言っちまったが・・・やっぱりやばかった?とレオンは焦る。
「そうはいかん!オレのかわいい娘を追放し、その結果死に至らしめたお礼だ!」
それを聞いてレオンはぎくっとする。
「お父様っ!」
「な、なんだ・・・・?」
今にもレオンに襲いかかろうとしていた巨龍の目の前に飛び上がったチビ龍が、彼を睨む。
「仮にもレオン・パパは、あたしの命の恩人よ。手を出したりしたら許さないからっ!」
「お?」
チビ龍の睨みを受けて、巨龍は視線を合わせ、しばらくじっと見つめ合っていた。
「いや・・・・はっはっはっはっ!さすがわしの子だ。肝が据わっているというか・・・いい子だ。本当にいい子だ。」
「で?」
「ああ、悪かった。お前の命の恩人だ。何もしやしないし、池もすぐ取り除こう。」
それを聞いてレオンは心から安堵して胸をなで下ろす。
「・・・っと・・・待てよ・・・・その名前どこかで・・・・レオン・パパ・・・レオン・・・・」
そして、それに続いた言葉に、レオンは暑いにもかかわらず、さ〜っと血の気が引いていき、全身を寒さが走る。
「あ、あの・・・そうと決まったら、オレそろそろ帰るから・・・チビ、送っていってくれないか?」
小さくチビ龍に言ったレオンの前に、巨龍は一段と大きく立ちはだかった。
「そうはいかんっ!誰かと思ったら・・お前は・・・お前こそは、事の元凶!我が娘、リーシャンを泣かせた人間ではないかーーーっ?!」
ビリビリビリ!と辺りに響く声で巨龍は怒りの声を上げる。
「げっ・・・思い出しちまったよ・・・ど、どうしよう・・・・お、おこげ・・・しかないのか?・・」
レオンは恐怖でもう腰砕けで、その怒りに本当に腰を抜かしてそこへ座り込む。
「ち、ちょっと待って、お父様!」
「なんだ?」
ぎろっと睨んだ巨龍にチビ龍は懇願する。
「名前が同じだけかもしれないでしょ?決めつけないで!」
事情まで聞いていないチビ龍は、自分の育ての親であり、命の恩人をなんとかして助けようと思っていた。
「そうなのか?」
それもそうだと、一端怒りを抑えた巨龍は、レオンを見つめる。
「あ・・・・・い、いや・・・・」
レオンは静かに立ち上がると、巨龍のきつい視線を見つめて答えた。
「同一人物だ。・・・オレがリーシャンとの約束を忘れた恩知らずのどうしようもない人間だ。」
「な・・な・・・なんと!そこまではっきり言うとは・・・」
全身を震わせて怒る巨龍の瞳を見つめ続けて、レオンは静かに続けた。
嘘を言っても通用したかとも思えたが、それではレオン自身が納得いかなかった。
「悪かったと思っている。そして・・・オレは・・・・・オレは、リーシャンが生き返るのならなんでもすると女王に約束してきた。だから、ここへ来たんだ。」
「生き返る?・・・・あの娘が?リーシャンが?」
「ああ。シュロの木の破片に残った彼女の心・・・それに銀龍が奇蹟を起こしてくれた・・・そして、女王は生き返ると言ってくれたんだ。・・・記憶は失ってしまうかもしれないらしいが・・・」
「ほ、本当か?」
「嘘ついたって仕方ねーだろ?すぐばれちまうだろうし。」
−ボン!−
「何?」
人型を取った巨龍に、レオンは驚いて見つめる。
そのレオンの瞳を巨龍はじっと見つめる。上からだとしっかりと見る事ができなかったレオンの瞳の奥、心の中を。
「なるほど・・・・嘘はないようだな。」
「お父様!」
あくまでレオンの命乞いをするかのようなチビ龍の瞳と、逃げるために嘘をつかなかったこと、そしてレオンのリーシャンを思う真剣な瞳に、巨龍は決心した。
「わかった。お前を許そう。」
「ホ、ホントか?」
「ただし条件がある。」
「条件?」
「種族は違ったとはいえ、仮にも王族の血を引く娘を一度は死に至らしめたのだ。簡単に許すことはできぬ。故に・・・」
「故に?」
「この国には火に耐性を持った木々の森がある。その木を1本でよい。お前の力で燃やしてみせろ。」
「1本でいいのか?」
簡単じゃないか?とレオンはほっとする。
「受けるかその条件を?」
「勿論だ。」
「よくぞ言った。その木は我々火龍の炎をもってしても燃えないのだ。が、その心意気で火をつけてくれ。」
「え?」
ほっとしたのもつかの間、レオンは、火龍ができなくて誰ができるんだ?と焦る。
「それでは、頑張ってくれ賜え。何、1本丸ごとなどとは言わぬ。一筋煙が立ち上っただけでも良しとしよう。私が認めた時点で森の池も移動させよう。」
「え?・・あ、あの・・・そ、そんなに火に強い木なのか?」
「そうだ。もし、その木を燃やす事ができれば、お前のその力に他の者たちも力を認め、一目おくだろう。それで全ては解決するはずだ。」
そしてチビ龍に視線を移す。
「お前はこの男を森まで連れていってやるがいい。そして、もし、燃やすことができたら知らせに来い。私の名前は、ガイガ。誰に聞いても宮殿の場所は教えてくれるはずだ。」
「はいっ!」
レオンを心から信じてやまないチビ龍は、元気いっぱいに答える。
「いい子だな。・・・どうやらお前の餌となった炎は、滅多にないと言ってもいいほどの純粋なものだったらしいな。いい子だ。・・・・ひょっとすると・・」
「ひょっとすると?」
「あ、いや・・・。」
聞き返したチビ龍には答えず、巨龍はレオンを笑顔で見つめる。
「まー、頑張るんだな。」
「わ、わかったよ、燃えない木だろうがなんだろうが、燃やしてやろうじゃないか?燃やしてっ!」
レオンは表情を強ばらせ、ガンガに啖呵を切っていた。


【前ページへ】 【青空に乾杯♪】Indexへ 【次ページへ】