青空に乾杯♪


☆★ その86 ミルフィー、連勝? ★☆


 −キン!ガキッ!シュッ・・・キン!−
ジャミンらと落ちあう約束の宿。その裏庭で2人は真剣に剣を交えていた。あの時の試合の時のように真剣に。
−ギン!・・・キン!−
なかなか勝負はつきそうもなく、いつの間にか2人は剣を交える都度、会話をするようになっていた。
「この前の試合の時から疑問に思っていたんだが・・」
「なーに?」
「ああ・・・」
交差する剣の隙間からお互いを見つめる。
「不思議なんだ。なぜオレの渾身の力を込めた剣を止められる?その細い腕と身体で?」
−ザッ・・・ガキッ!ー
身を引き、今一度剣を交えるとミルフィーは微笑んだ。
「そうね、なんといったらいいかしら?内から保護してる?・・・強化してるって言った方がいい?」
「強化?」
「そう。霊体だったフィーが身につけた実体化。その応用・・・ね。」
「実体化の応用・・・」
カルロスはしばらく考えていた。
「なるほどな・・・わかるような気がする。が、すごいな?」
「うーーん・・・私一人じゃ思いつかなかったし、できそうにもなかったわ。これも銀龍に教えてもらったというか・・・叩き込まれたっていうところね。」
「なるほど。さすが神龍だな。」
「そうね。」
−ザッ・・・−
「さてと、お遊びはこれくらいにして、そろそろ決着をつけるとするか?」
「いいわよ。覚悟はいい?」
「それはオレのセリフだ。身体は強化しても体力まではそうはいかないだろ?」
試合の時もそうだった、とカルロスは思い出して余裕の笑みをみせる。油断さえしなければ、負けはしないはず。
「わからないわよ?私にはあれから5年の経験があるし。」
「そうだったな・・・・そういえば・・・・」
−キン!−
「そういえば・・なに?」
「あれから5年か・・・5つ歳をとったんだな。いくつになった、ミルフィー?」
カルロスのその言葉にぎくっとする。
「歳をとったって・・・・まるで私がおばーちゃんになったみたいに聞こえるでしょ?」
「ははは。悪い。そういうつもりで言ったんじゃないが・・・オレとあまり変わらなくなったのか?」
「そ、そんなことないわよ。カルロスの方がずっと年上でしょ?」
交えた剣の向こうのミルフィーの顔が少し赤く染まっていることに気付いたカルロスに少し悪戯心がわき上がる。
「『ずっと』・・か・・・3つ4つくらいだろ?」
「わ、悪かったわね。」
「いや、悪くない。オレは別に歳で好きになったわけではない。が、相変わらず色気がないというか・・・あのころとあまり変わらないな。」
「い、色気って・・・・」
「大人の女の色気・・色香っていうのか?それがでてもいい年頃だろ?男は知らなくても歳相応に。」
「カ、カルロス!」
真っ赤になってミルフィーは睨む。
「・・・・進歩がないって言いたいんでしょ?」
「いや、冗談だ。十分魅力的さ。他の男に目に触れさせたくないほどに。」
熱を帯びた真剣なカルロスの瞳に、耳たぶまで赤く染まったミルフィーの腕からほんの少し力が抜けた。
−ガキン!−
その瞬間にミルフィーの剣は勢いよく払われていた。が、飛ばされてはいない。ミルフィーは、態勢を整えてさっと剣を構え直す。
「卑怯よ、カルロス!」
「そうか?それでも勝負は勝負だけどな。」
余裕で笑い顔を自分に向けるカルロスをミルフィーは睨みながら、再びかかっていく。
「まだ勝負はついてないわよ、カルロス!」
−カキン!キン!・・ギン!−
「剣の切れも戻ったようだな。」
「そお?」
「ああ・・・いい感じだ。これでこそミルフィーだ。・・・なまじたいそうな力を持ってる獲物など手にすると、意識してなくともそれに頼るようになってしまう場合があるからな。」
「かもしれないわね。」
太陽の剣・・その力は強大だ。いつのまにかそれに頼って本来の腕が落ちていたかもしれない、とミルフィーは感じていた。
−ザっ・・・ガキン!−
「やはりオレがついてないとダメということなんだよな?」
「相変わらずの自信家ね、カルロス。そういうのを自意識過剰っていうのよ?」
−ガキン!−
「違うのか?」
−ザッ・・・・ギン!−

「・・・・違わないわ。」
しばらく交わしていた視線を下へむけ、少しはにかんで言ったミルフィーに、カルロスは当然のごとく気を取られる。
素直に認めるとは思わなかったミルフィーのその言葉とはにかんだ態度に、嬉しさと愛しさを感じる。
「ミルフィー・・・・」
−カキーン!−
その一瞬の気のゆるみで、カルロスの剣はミルフィーの剣によってはじかれていた。
「勝負あったわね。私の勝ちよ!」
満足そうにカルロスに笑顔を見せるミルフィーと、棒立ちのカルロス。
「ち・・・ちょっと待て、ミルフィー・・・それは・・卑怯ってもんだろ?」
「どこが?勝負は勝負でしょ?」
「う・・・・」
今さっきの自分のセリフを言われ、カルロスは言い返す事ができない。
「うーーん・・・すっきりした。私の連勝ね。じゃー、そろそろ中に戻らない?」
「おい、ちょっと待て、勝ち逃げは卑怯だぞ?いや、今のは勝ったとは言えないぞ?」
あわててカルロスは立ち去ろうとするミルフィーの腕を掴んで止める。
「でも、勝負は勝負よ。」
「今のは勝負にならん。」
「どうして?」
ミルフィーの肩をつかんで、自分の方へむけると、カルロスは熱い視線で見つめる。
「オレの愛を利用しただろ?」
「・・・・・・・」
ぼっと顔から火が立ち上ったように頬に火照りを感じたミルフィーは、返答のしようがない。
「敵には通用しないぞ?」
「今は敵と勝負してたんじゃないから、別にいいでしょ?」
焦ったように早口で言い返すミルフィーを見つめるカルロスの瞳に、意地悪な輝きがあった。
「じゃー、ペナルティーをもらうことにしよう。」
「え?」
その言葉の理由を考えている間に、ミルフィーはカルロスに唇を塞がれていた。


「ラルフ!」
そんな2人の様子を窓から見ていたラルフの肩をジャミンがポン!と叩いた。
「本当に彼の力は偉大ねー。いい笑顔してる。」
「そうだな。・・・・あんな笑顔は見たことがない。」
ラルフが悲しそうな表情で、ミルフィーを見つめながら呟く。
「そうね。あんなすがすがしい笑顔は、私ももうずいぶん長い間見たことないわ。」
「そうなんだ?」
「そう。最初出会った頃以来・・かしら?」
「・・・オレ・・本気だったんだぜ・・。」
「知ってるわ。」
「茶化してばかりいたが、・・・本気だった・・・。」
「そうね。」
ラルフがミルフィーと会ったのは、彼女がカルロスへの自分の気持ちに気付いた後。ミルフィーのカルロスを想う真剣な心に、心変わりは・・自分を振り向いては・・くれないだろうと感じていたラルフは、彼女に素直に接したことがなかった。言えばミルフィーに負担がかかってしまう。ラルフは、いつもからかうように、茶化してばかりいた。
「つきあうわ、ラルフ。今日は・・とことん。」
「ん?」
「ただし、明日の予定に支障のない程度ね。」
「ああ。悪いな。」
2人は宿の酒場に行くと、カウンターに座り、ビールを注文する。
乾杯をしようとグラスを差し出すジャミンにラルフは力ない笑みを返しながら、自分のグラスをそれに当てた。
−チン!−
「何の祝いだ?」
「失恋記念。」
「言ってくれるな。」
ふふっと笑ったジャミンにため息まじりの笑いを見せ、ラルフはグラスを一気に空ける。
「親父!じゃんじゃん注いでくれ。」
「あいよ。」
上機嫌な宿の主人は、並々と注ぐ。
「ミルフィーの幸せの為に!」
−チン!−
そう言ってグラスを当てたラルフを、ジャミンはやさしく見つめていた。


ラルフとジャミンが呑み始めた酒を何杯か重ねた頃、ミルフィーとカルロスは裏庭にあるベンチに並んで座り、夜空を見上げていた。
「こうしていると、世界が終焉に向かっているかもしれないなんて、嘘のようだな。」
「そうね。」
遠い目をしてミルフィーは付け加える。
「・・・そうだったらいいのに。」
「ミルフィー・・・」
ミルフィーの肩をカルロスはそっと抱き寄せる。温かいミルフィーのぬくもりに、カルロスは幸せと、せつなさを感じていた。できることなら、許されることなら、もっとミルフィーを身近に感じたい。
安心しきって全てを自分に任せているミルフィーが、たまらなく愛しく・・そして、苦しいほどせつなかった。

「ミルフィー」
精一杯の理性で自分を押さえ、カルロスは、ミルフィーを膝に乗せ腕で包み込む。そして、腕の中のその存在を確かめるかのようにぎゅっと彼女を抱きしめた。
「カルロス」
自分の胸に顔をうずめ、そっと背中に手を回しているミルフィーを、よりいっそう力とそして、愛を込めてカルロスは抱きしめる。
(わがままは言わない。今こうしてミルフィーをこの胸に抱いている・・・心を通い合わせることができた・・・それだけで、十分幸せだ・・・。)
数日前までの落ち込んでいた自分を思いだしながら、月明かりの下、ミルフィーを抱きしめ、カルロスは自分に言い聞かせていた。


「カルロス?・・・・眠れなかったの?」
翌朝、眠そうな顔でカルロスが食堂に下りていくとミルフィーが笑って言った。
「ミルフィーは・・・眠れたか?」
「ええ、もう、ぐっすり!」
前の晩、ミルフィーはカルロスの腕の中でいつのまにか眠っていた。カルロスは起こすに起こせず・・・そして、その無防備な寝顔にほんの少し残っていた理性さえもどこかへ吹っ飛んでいってしまいそうで、必死になってそんな自分を押さえていた。
なんとかミルフィーを部屋まで無事に運び、彼女を横たえたベッドに自分も滑り込みたいという思いを必死になって押さえて自室に戻った。が、ミルフィーの寝顔と、そして、抱き上げて運んだおかげで例え服の上からだとはいってもしっかりと感覚が覚えてしまった彼女の身体の線、そんなこんなと、あれこれちらつき、カルロスはついに一睡もできなかった。


「わーー・・今日もいいお天気よ。」
そんな事などつゆ知らず。ミルフィーは嬉しそうに窓から空を見上げて微笑んでいた。
「幸せな子ね・・・・」
「・・・ミルフィーらしくていいさ・・。」
二日酔いのジャミンとラルフが苦笑いして見ていた。

 

ミル&カルのつもり・・・・(爆




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