青空に乾杯♪


☆★ その87 向かうところ敵なし! ★☆


 「ミルフィー・・」
「な〜に、カルロス?」
頻繁になってきた襲撃。その襲撃の中の一つを片づけ、木陰で一息ついていたミルフィーにカルロスが声をかける。
「ミルフィー、お前は神龍の世界を旅していた時もずっとこんな調子だったのか?」
「『こんな調子』って?」
不思議そうな顔をしているミルフィーにカルロスは微笑む。
「全部一人で背負い込んで、一人で片づけようと気負ってただろ?」
「え?・・・そ、そうかしら?」
「何に対しても一生懸命で、真っ先に行動を起こして向かっていく。そこがミルフィーらしいと言えばらしいんだが・・・」
「いけない?」
「いや・・・オレはそんなお前が好きだ。そこに惚れた。」
「・・・・カルロス」
頬が熱くなってきた感じを受け、ミルフィーは言葉を詰まらせる。
聞いているミルフィーが恥ずかしくなるようなセリフを平然と言うのは、そこはやはり、カルロスのカルロスたる所以。
「そういうところがたまらなく好きなんだが・・」
さりげなく片手を彼女の顔に添えたカルロスを、その手の温かさと熱を帯びた視線にどきっとしながら、ミルフィーは見つめる。
「だが?」
そんなミルフィーの動揺を感じつつ、カルロスはやさしく微笑む。
「ミルフィー、お前はもう一人じゃない。オレがいるんだ。だから、もう少し肩から力を抜け。・・・少しはオレを頼ってくれ。」
「カルロス・・」
「何も戦闘の時、頼れと言ってるんじゃない。そんなことは、同じ剣士として言う口は持たん。第一、お前が怒るだろうしな。」
そうだろ?と同意を求めているようなカルロスの視線に、ミルフィーは苦笑いする。
「だから、それ以外の時は、もっと気楽にしてろ。オレをそう心配させるな。」
「心配って?」
「気を張ってばかりだろ?・・・だから、いつ神経が切れてしまわないかと時として心配になる。」
「大丈夫よ、カルロス、私がそんな柔じゃない事知ってるでしょ?」
にっこり笑って答えたミルフィーの肩を抱き寄せ、カルロスは頬に当てた手をすべらせ彼女を頭からふわっと包み込むようにして見つめる。
「ああ、知ってるさ。・・・そして、そう見せかけているだけだということも。」
「え?」
「ミルフィー・・・面倒な事はオレに任せておけ。そう何もかも一人でしなくていいんだ。心の中にしまい込まずにオレに全部吐き出せ。・・・そうだな、戦闘以外の時は、オレの事だけ考えていればいいんだ。」
「『オレの事だけ』って・・・カルロス・・・」
それはいくらなんでも無理、と言おうとしたミルフィーだが、カルロスの真剣な瞳に口にすることができず、そして、その瞳に囚われたようにじっと見つめる。
「そうだ、それでいい。その宝石のように青く美しい瞳にオレだけを写していろ。
そうやってオレの横で笑っていてくれ。オレはその為ならなんでもしよう。どんなことも厭わない。ミルフィー、お前のためなら、この命かけ・・」
「カルロス・・・」
頬を染めながら、ミルフィーははにかみながらもにっこりカルロスに微笑む。
「ありがとう、カルロス。でも・・・」
「なんだ?」
「『命かけて』はやめてくれる?」
「は?」
「まるで私を守って先に死んでしまうみたいじゃない?私、そんなのイヤよ。」
ミルフィーの言葉にカルロスははっとして苦笑いする。
「イヤか?」
「そう。イヤよそんなの。私は好きな人とずっと一緒にいたいの。一人取り残されるのは絶対イヤ。」
「そこまで深読みするか、普通?」
せっかくムードが高まってたのに・・とカルロスは不服そうに言った。
「だって、カルロスならしかねないから・・。」
少し陰りを帯びた表情のミルフィーを、カルロスはそっと抱きしめ、彼女の髪に頬を寄せる。
「思いも遂げてないのに、オレがお前を置いていくと思うか?」
「カルロス・・・」
密着した身体と頬の温かさにどきっとしながら、その言葉は一瞬ミルフィーの気持ちを沈ませた。それを敏感に感じ取り、カルロスは腕に力を込めて続ける。
「だから、その分、お前の心を感じていたい。心の奥底まで知っていたい。どんな些細な事でもいい、オレに話してくれ。オレは何でも知っていたいんだ。」
「カルロス・・・・・・」
「お前の心をオレの心で包んでいたい。お前と同じものを見つめ、感じていたい。」
「あら、それは無理よ。」
「な、なぜだ?」
順調に自分の思惑通りムードが高まっていることに満足していたカルロスは、その言葉に少し焦りと少し気が抜けた感覚を覚え、彼女の髪につけていた顔を上げミルフィーを見る。
それは5年前のミルフィーとの付き合いと変わらないような雰囲気をにおわせていた。といってもカルロスにとっては数ヶ月前にすぎないのだが。ともかくミルフィーには常にそんな調子で、しかもここまでもいかないうちにムードをぶちこわされ、カルロスの思惑はいつも水泡に帰していた。ひょっとしたらまたあの関係に戻ってしまうのか?思わずカルロスの脳裏をそんな心配が過ぎった。
「『なぜ』って・・・」
が、恥ずかしそうにカルロスから視線を背け、その先を言うことを躊躇っているミルフィーに、以前の彼女とは少し違うと感じる。
「なんだ?」
カルロスはミルフィーの顔をそっと自分の方へ向ける。
「だって・・・あ、あの・・・」
「『だって』?」
「あの・・・・」
カルロスと違い、本人を目の前にして、ミルフィーはその先を言うことが恥ずかしく、言いかけてしまったことを後悔していた。
が、カルロスはどうあってもその先を言わせたいようだった。うやむやにはできそうもない、とミルフィーは観念する。
「だから、つまり・・・あなたには見れないから・・・。」
「何が?」
「何がって・・・だから、・・その・・・・・私の目に映っているのは・・・」
そこまで言って再び恥ずかしそうにうつむいたミルフィーを、カルロスは彼女の顎に手を添えそっと上を向かせる。
「映っているのは?」
顔から火が出る思いでミルフィーは思い切って言った。
「・・・カルロス、・・あなただから。」
「・・・ミルフィー・・・」
もしかしたらとは思ったが、彼女がそう言うとは思わなかったことも確かだった。その言葉にカルロスは喜びで顔をほころばす。
確かに5年の歳月が、ミルフィーを少しは変えたようだと感じる。外見だけでなく中身も以前より女性になっていると感じた。そして、あれほど頑なに閉ざされていた心は・・・確かに自分に向かって開かれていると再認識する。ただ・・・さほど変わっていないと思われる彼女の純なところがまだ少し邪魔をしているようだとも感じられたが。
「いや、見られるさ。」
カルロスは心からの微笑みと温かい視線でミルフィーを包み込むように見つめる。
「え?」
またしてもうつむいてしまっていたミルフィーは、その言葉で顔を上げる。
「その青い瞳に映っているオレを・・お前の中のオレを見ることができる。」
熱い瞳で見つめながら、カルロスはそっとミルフィーの髪をすくようにやさしく手を添える。
「お前に囚われたオレの姿を。」
「カルロス」
「そして・・お前はオレのものだ。・・・そうだろ?」
「もう・・・ホントに、カルロスったら・・・・」
恥ずかしそうにくすっと笑うミルフィーの頬に片手を沿え、カルロスは言葉に確信を込め、耳元でささやく。
「本当の事だろ?・・違うか、ミルフィー?」
「カルロス・・」
熱い想いを込め、カルロスはミルフィーをぐっと抱きしめて口づけをする。
二人はしばし時を忘れ、幸せを感じていた。


「あら?ミルフィーを呼びに行ったんじゃなかったの、ラルフ?」
少し離れたところで休憩を取っていたジャミンがラルフに声をかける。
「せっかく沸かしたのに・・・。」
お茶好きなジャミンはわざわざ火をおこしてハーブティーを入れていた。

紫檀さんから頂きました。ありがとうございます。m(__)m


「・・・声をかけられる雰囲気じゃないって・・・。馬に蹴られて死んじまうぞ?」
「あ・・・そっか・・・そうか・・そうよね。」
ラルフと言葉にすぐぴん!と来たジャミンは軽く笑う。
「熱いったらありゃしないぜ?」
「そうね。ようやく想いが通じ合ったんだから、熱くもなるわよね。実ることは決してないと思ってた恋なんだし・・。」
「まーな。・・・分からないこともないけどな・・・。」
「じゃー、そのお二人さんの為にもう一踏ん張りしない?」
「は?」
笑いながらジャミンの視線は、鋭く遠くに姿を現した敵を見つめていた。
「そうだな・・・何もしないんじゃ、オレたちがここにいる理由がないし。」
苦笑いしながら、ラルフも敵の集団を睨む。
「ティータイムは・・その後・・ゆっくりとでも?」
「そうだな。」

−ドカカッ、カカッ!−
手早く片付け、馬に乗ろうとした2人の傍を勢い良く駆け抜けていく馬があった。
「な・・・?」
「ち、ちょっと・・・」
それは、カルロスとミルフィーの駆った馬だった。
「ジャミン、ラルフ、何ぼやぼやしてるのよ?」
明るい笑い顔を見せて敵に向かっていくミルフィーの瞳には、真剣な表情の中に心の底から幸せそうな輝きがあった。

−キン!ガキン!−
交わす剣の音も軽快に聞こえる。ミルフィーの剣はカルロスの剣を傍に、一段と冴えわたる。そして、ミルフィーのその剣の舞いに呼応するかのようにカルロスの剣もまた激しく、そして鋭く敵を打ち砕いていく。それはまるで二人の向かうところ敵なし状態。

「オレたちって・・・何しにここに来たんだっけ?」
ラルフとジャミンは顔を見合わせて苦笑いをしていた。




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