☆★ その88 飛んでX年後(爆) ★☆


 「きゃ〜〜〜〜♪、お、おみ足が見えてしまったわ・・・・レイミアス様のおみ足が〜〜〜・・・・」
そこは、シャンポワール大聖堂。広大な敷地の中に、大聖堂と神学校、そして僧侶や学生たちの屋敷や寮が、緑の中に立ち並んでいる。
その大聖堂の大ホール、そこは世界各地から巡礼者などの見学者が立ち寄るところ。その大ホールをぐるっと囲むようにある通路の窓から、馬に乗って中庭に入ってきたレイミアスの姿を見つけ、見学に来ていた少女たちが騒ぐ。
馬から下りる時にちらっと僧衣のすそから見えたレイミアスの足に、騒然とする。

ミルフィーの元を去って村へ帰り、その村もようやく落ち着いた2年後、レイミアスは大僧正に乞われ総本山であるシャンポワール大聖堂で僧侶として勤めることとなった。
それから数年後には、奇跡とも言えるレイミアスの持つ聖龍の法力、それを求め、その恩恵を受けようと、世界各地から様々な信者が訪ねてくるようになっていた。
そして、誰にでも優しく、柔和で控えめな性格と、優しく人々を包む緑の目、やわらかな茶色の髪と整った顔立ちの長身のレイミアスは、大聖堂を訪ね来る少女たちの憧れの的となっていた。シャンポワール大聖堂に行ったら、聖龍の祭司長レイミアス様を一目見る。それはレイミアスの噂を知る少女たちがあこがれる夢物語となっていた。

「まるで鈴をつけたネコのようじゃな。賑やかいことじゃ、レイミアス殿。」
「・・・申し訳ございません、大僧正様。」
天空の祭壇とよばれる大聖堂10階にある祭室で、レイミアスは大僧正と会っていた。
「ではさっそくじゃが・・・」
祭壇に置かれた分厚い封筒を手にすると、大僧正はレイミアスに渡す。
「これが、今年、世界各地から寄せられた嘆願書じゃ。」
「はい。確かにお預かりいたしました。」
深々と礼をするレイミアスに、大僧正は満足そうに付け加える。
「藍の巫女殿によろしくの。」
「はい。では、行ってまいります。」


藍の巫女の聖地・・そこは普通では決して足を踏み入れることができない幻の地。有史以来、神殿に直接ゆかりのある者以外では、最高僧である大僧正しか知ることのない、三大巫女の聖地の一つ。
それは、神話としてでしか知らない世界を支える巫女の聖なる地。そこへの入り口に当たる通常藍の神殿と呼ばれている神殿にミルフィーたちはいた。
人々は、実際に世界を支えている事までは知らず、神話の聖なる巫女をまつっている神殿だと思っている。それでも閉鎖的だったそこは、ミルフィーの代になってから変わりつつあった。そこへはレイミアスやレオン、チキやシャイそして、彼女に関わったいろんな人々が訪れるようになっていた。それと同時に、生涯そこを出ることなく一生を終えるのが普通だった巫女生活も変わった。
人々からの嘆願書を受け取るなどということも、ミルフィーの代になってから始まった事だった。とは言っても世間には藍の巫女としての本当の力に関しては伏せてある。知っているのは、神殿に関わる人間以外では、レイミアスやレオンらとそして大僧正のみである。
レイミアスはその藍の聖地へと向かった。

「レイム!」
「巫女様、お久しゅうございます。お元気でいられましたか?」
「ええ、とっても。」
藍の神殿の巫女の間、レイミアスは藍の巫女である幼い少女の前に額ずいていた。
「それが、今年の嘆願書?」
「はい、そうです。人々の豊穣への祈りと希望がこの中に詰まっています。」
「そう。」
にっこりと微笑むんで書類を受け取ると、傍仕えの修道女に渡す。
「ミルフィー・・あ、いえ、母君様は?」
「母は神龍の国に呼ばれて今留守なの。」
「そうですか・・神龍の国に。」
少し残念そうな表情をしたレイミアスに少女は拗ねた顔をする。
「・・・お母様じゃなくちゃだめなのね・・・」
「あ、いえ、巫女様、そのようなことは。」
「ホント?」
「本当です。」
レイミアスはにっこりと少女に微笑む。
「じゃー、一緒に散歩してくださらない?」
「喜んでお供させていただきます、巫女様。」
レイミアスは、少女と連れだって庭へと出た。

「いつ来ても美しい庭ですね。」
「でも、大聖堂の空中庭園もきれいだって聞いたわ。」
「そうですね。確かにそうですが、ここの庭はまた一段と綺麗です。豊かな緑と澄んだ泉。」
「で、お母様がいればもっといいんでしょ?」
「巫女様!」
レイミアスは少し焦ったように少女を軽く睨む。
「だめ!神殿以外の時は、フィアって呼んでっていったでしょ?」
「そうですが・・・」
「呼んでくれないの?」
悲しそうな表情に、レイミアスはため息混じりの笑いをこぼした。
「わかりました、フィア。」
「まだだめ!そんな丁寧な言葉もなしにして!」
「・・・わかった、フィア。」
「ふふっ♪」
嬉しそうに差し出した小さな手を、レイミアスはそっと取り、森の中を散策する。

「ねー、レイム、いつまでいられるの?2、3日はゆっくりできるんでしょ?」
「そうですね・・・本当なら用が済み次第戻らないと行けないんですが・・・。」
少女の寂しそうな顔に、レイミアスはふっと笑う。
「藍の巫女様を悲しませては、緑も枯れてしまいますから・・・2日ほど滞在させていただくことにしましょうか。」
「嬉しいわ、レイム!」
素直に喜ぶ少女を、レイミアスはやさしく見つめていた。


−カキン!ギン!−
しばらく進むと剣の音がした。
「やってるな。どんな感じかな、フィーの腕は?」
「そうね。お父様もお母様も強いから、まだまだのように思えるんだけど、神殿の守護騎士たちと手合わせしてみても、結構通用するみたいよ。それにこの前、里の村のお祭りで剣術大会があって、参加したの。・・・私もそっと見に行ったのよ。」
「なるほど・・・で?」
「子供の部では優勝よ。」
「さすがですね。」
「そうでしょ?」

箱さんからいただきました。フィーとフィアです。
いつもありがとうございます! M(_ _)M


「レイムか・・・」
2人で話しながら近づいていくと、先に気づいたカルロスが、剣を交えていた少年の剣を止めてにこやかにレイミアスを迎える。
「元気そうだな、レイム。相変わらず女の子に騒がれてると聞くぞ?」
「そ、そんな・・・・私なんてカルロスの足下にも及びませんよ。」
「ははは・・・そうか?オレ以上じゃないのか、大聖堂に響く黄色い声は?」
「人聞きの悪いこと言わないで下さい。私は別にどうこうしてるわけじゃないんですから。」
(カルロスと違って・・・)と言いたそうに、レイミアスはカルロスを見る。
「そうよ、お父様っ!迷惑なさってるんですからね、レイムは!」
「そうなのか?」
「そうです!・・・ね、レイム?」
少女はカルロスに断言すると、レイミアスを振り返り、同意を求める。
「そ、そうですね・・・・・もう少し静かにしてくれるといいと思ってますが・・。悪いことをしてるわけじゃないので、注意するわけにもいかないし。」
「まー、なんだな、それには身を固める事が一番の解決策じゃないのか?」
「え?・・・む、無理ですよ、相手がいませんよ。」
「里の少女でも、誰か紹介してやろうか?」
「だめーーーーー!」
レイミアスが断る前に、少女が大声で叫んでいた。
「だめったらだめ!レイムのお嫁さんは私がなるのっ!」
「は?・・・・・」
カルロスだけでなくレイミアスも、そして、傍でじっと話を聞いていた少年も驚いて目を丸くする。
「レイム・・・お前、ミルフィーに会うのが目的だと思っていたが・・・彼女だけでなく・・・」
「あ・・い、いえ、そんなつもりじゃ・・・・」
カルロスのきつい視線を受け、レイミアスは最後まで聞かないうちに、慌てて弁解する。
「大僧正様の使いで来てることはカルロスも知ってるでしょう?」
「どっちが本命だか・・」
「カルロス!」
思わずレイミアスは赤くなりながら声を荒げる。
「お父様っ!」
「ん?なんだ?」
レイミアスを睨んでいたきつい視線がふっと消え、少女を見つめるカルロスの瞳は優しさであふれる。
「レイムをいじめたら、私が許さないわよ?!」
「あ・・・いや・・いじめたわけじゃ・・・」
とたんに形勢逆転。カルロスは頭をかいて苦笑いでごまかした。
「ね、レイム・・・・私じゃ・・だめ?・・・私、絶対お母様のようになるから・・だから・・・」
「フィア。」
「だめだっ!」
微笑みを少女に向けてレイミアスが差し伸べたその手を、少年が勢いよく払った。
「フィアはぼくのお嫁さんになるんだっ!」
「おばかさんね、フィー。」
「ど、どうして?」
レイミアスをきっと睨んでいた少年は、ため息混じりに笑ったその少女に戸惑う。
「だって、兄妹じゃ結婚できないのよ。そんなことも知らないなんて・・・フィーってばいつまでたっても子供なんだから。」
「ぶっ・・・・ぶはははははは!」
カルロスはそれを聞いて大笑いしていた。そして、レイミアスも必死になって笑いを堪える。
「『いつまでたっても子供』はよかったな、フィア。お前もまだ十分子供だろ?」
「そ、それは・・・お母様と比べたら子供だけど・・でも、私、誰にも負けないわ・・・レイムが好きなことは・・誰にも負けない。」
「フィア・・ありがとう。」
にっこりと笑うレイミアスに、少女も嬉しそうに微笑む。
「だから、お父様、お願い・・」
「ん?何をだ?」
早くも花嫁の父親の気分にさせるつもりか?とレイミアスを睨みながら、カルロスは少女を抱き上げる。
「だから、前からの約束を早く叶えてほしいの。」
「約束・・・?」
カルロスはなんだったかと考える。
「土産か何かだったか?」
「違うわよ〜。お父様、忘れちゃったの?」
カルロスは少女に目を覗き込まれて困っていた。思い出せない。
「ん!もう!お母様との事ならきちんと覚えてるくせに!」
「そ、そんな事はないぞ。そんな事は・・・・フィアとの約束だって・・・」
が、思い出せない。
「仕方ないわね。じゃー、もう一度約束よ。」
「あ、ああ。」
助かった、とカルロスはほっとして少女を見つめる。
「だから、少しでも早く叶えてね。」
「わかった。」
「絶対よ?」
「ああ。で、なんだったんだ?」
「今度こそ忘れないでね。」
「忘れない。約束する。」
少女はにっこりと笑ってはっきりと言った。
「絶対よ。・・あのね、私がレイムのお嫁さんになれるように、妹をちょうだいね。早いほうがいいわ。だって、すぐには巫女の座は譲れないんですもの。」
「あ・・・い、いや・・・・それは、そう思ってもどうにかなるものでは・・・」
「お父様っ!」
約束だと言ったのに・・・と恨めしそうな顔で睨む少女に、カルロスはうろたえる。
「い、いや、だからな・・父様だけがその気になってもだな・・・ミルフィー・・母様がだな・・・そ、そうだ!母様に頼んだ方が確実だぞ。」
「だって、前、私がお母様に言ったら、お父様に頼めって・・・」
「う・・・・・」
(逃げたな、ミルフィー・・・・)思わずカルロスは心の中でつぶやく。
「いや、やはり母様に頼むべきだな。」
「どうして?」
「勿論父様も約束は守る。が、そうするためには母様の協力が必要なんだ。」
「そうなの?」
「そうだ。母様は忙しすぎるからな・・・ほら、今も出かけているだろう?」
「ええ、そうね。」

そして、しばらくうつむいて何か考え込んでいた少女は、にっこりとカルロスに微笑むと言った。
「お母様が帰ってきたらもう一度頼んでみるわ。それから、今度から巫女としてのご用は他の人にしてもらうわ。なるべくお母様がお父様に協力できるように、お父様の傍にいてもらうようにするわ。」
「よし、いい子だ。」
(何もわかっていない子供をだまして・・)と責めているようなレイミアスの視線を感じながらも、カルロスは上機嫌で微笑んでいた。

それというのもミルフィーは忙しすぎた。
彼女は世界中・・いや、異世界までも駆け回る。神龍の国、サラマンダーの国などなど。それに緋の巫女の神事も任されていた。じっとしてるのが嫌いな性格もあったが、面倒見のいいミルフィーは、何事かあるとすぐ呼ばれる。おかげでカルロスは寂しい思いをすることが多い。2人そろって招待されれば別なのだが、通常の場合、相談事はミルフィー宛にくる。一緒に行くと言っても気恥ずかしいのか、ミルフィーはうんとは言わなかった。最も子供たちだけ置いていくというのも気がかりだという理由もあった。
が、その子供であるフィーとフィアにしても、確かに彼ら双子の父親であり母親ではあった。が、実際に、カルロスがその最終目的を・・長い間お預けをくらっていた願望を果たしたのはつい最近のこと。フィアが巫女の座についてから、一年が経つというのに、まだほぼ半年が過ぎたところだった。

共に暮らし始めて6年ほど、その前も結構長い期間共に行動している。が、完全な夫婦となってまだ半年のカルロスにとって、まだまだ満たされていないと感じていた。いや、カルロスにとっては1年過ぎようと5年過ぎようとそうかもしれないとも思われるが、ともかく、できることなら常に傍に置いて彼女を感じていたい、それが、カルロスの本音だった。忍の一文字に耐え続けてきたカルロスの、ようやく迎えた夜明け・・それは当然だとも言えた。が、今日もミルフィーは世界を越えて飛び回る。その翼は疲れを知らぬがごとく。

「帰ってきたら部屋に閉じこめて・・いやベッドにでも縛り付けておくか・・・」
カルロスはため息混じりにつぶやいていた。



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