青空に乾杯♪


☆★ その84 真実の心 ★☆


 「意外と遅かったわね。」
「そうね、もっと早く襲ってくると思ったけど・・・。」
荒野で馬を飛ばすミルフィーたちの前に黒ずくめの男たちが数十人行く手を阻むようにして立っていた。その男たちを目の前に、3人は馬を止めてしばらく様子をうかがっていた。
「でも、あれくらい大したことはなさそう・・。」
「ミルフィー?」
一人馬を前へと進めたミルフィーの鎧が光を吸収し始めていた。
「やば・・・・やる気よ・・・」
ラルフとジャミンはお互い目で後退の合図をしあい、揃って馬を後ろへ下がらせる。

−キーーーーーン・・・・・−
一人前に立つミルフィーの鎧とそしてすっと抜いた剣に光が集中していた。
ゆっくりと辺りは薄暗くなっていく中、太陽の光はミルフィーの鎧と剣に注がれていく。
それは黄金龍からもらった神龍の鎧と剣。別名太陽の鎧と剣と称されるそれらは、名の通り太陽の光を吸収して本来の力を発するようになる。
薄闇の中、太陽の光はミルフィーに集中し、それらは徐々に光を増していき、黄金色の輝きを放つものとなった。

そして、太陽の光が元に戻ると同時に、ミルフィーは彼らに向かって突進していく。金色の鎧と剣が光を放ち、金色の光の波を作って流れる。

−キン!シュッ!−
男たちの攻撃を押さえ、太陽の剣を一振りする。
−ジュッ・・・−
身体に触るか触らないかのその一振りで、瞬時にして男の身体は消滅する。
全てが蒸発し何も残らない。肉片であろうと、血であろうと、衣服や武器でさえも同時に霧となって消滅する。
−キン!ジュッ・・・−
ミルフィーは自分が押さえられなかった。こんな大げさな力を引き出す必要はないことは十分承知していた。が、彼女の中の苛立ちと悲しさ、そして、はけ口のない想いが彼女にそうさせた。

「すごいな。」
「でしょ?」
「だが、太刀筋にいつもの冴えがないな・・ミルフィーらしくない。」
「え?」
背後でしたラルフのものではない男の声に、最初は何気なく答えてしまったジャミンは二度目にはそれに気づき振り返る。
「あれが神龍の守護騎士に与えられるというものなのか?」
そこにいたのは、ミルフィーに拒絶されて帰ったはずのカルロスだった。
「そうだけど・・・・あなた、帰ったんじゃ?」
「ああ。一旦は来た道を戻ったんだが・・・考えてみれば、オレには帰るところなどないしな。」
「そ、そうなの?」
「そうだ。・・それに・・・・確かに言われた時はショックだったが・・・いろいろ考えてな。それで思い出したんだ。」
「思い出した?」
「そうだ。ああいったことを、彼女が正直に言うわけないし、彼女の態度もいまいち腑に落ちない。」
「それで帰ってきたの?」
「・・・強情だからな、ミルフィーは。傍にいさせてくれるかどうか分からないが・・・・。」
ははは、と軽く笑ってからカルロスは続けた。
「しかし、ミルフィーは向こうにいる間もずっとあんな感じだったってことはないだろ?」
カルロスは視線で戦っているミルフィーを指す。手にしている獲物は立派だが、腕にいつもの冴えがない。よほどのことがない限り、ミルフィーが剣に集中しないはずはない。
「そう?おかしい?」
「ああ・・・ミルフィーの剣は知ってるつもりだ。あれは・・・彼女のものじゃない。迷いか何か、ミルフィーにとって気がかりなことでもあるんじゃないのか?いや、現状ではないといった方がおかしいかもしれないが、それにしても、普通じゃないと思うんだが?」
落ち着いた、そして真剣なカルロスの瞳に、ジャミンはにっこり笑った。
「そうね・・・剣士であるときは別として、普段のミルフィーは、私にとって仲間というより、かわいい妹ってところかしら?危なっかしくって放っておけないとこがあるのよね?」
「ああ、そうだな。」
カルロスは笑顔で同意する。
「うーーん・・・・ミルフィーには怒られちゃうかもしれないけど・・・話しちゃおうかしら?」
ちらっとまだ一人戦っているミルフィーを見つつ、ジャミンはふふっと笑った。
「その前に聞かせて。正直なあなたの気持ち。あなたはどうするつもりなの?もし、・・そうね、もし、ミルフィーがあなたを必要としていたとしたら?」
カルロスは迷いのない笑顔で断言した。それは、夕べから、いや、ミルフィーが一人で旅立ってからずっと考えた結論だった。ずっと自分に問い続けた結果。
「邪魔でないのなら彼女の傍にいるつもりだ。」
「男としての望みは叶えられなくても?」
「そうだな・・・確かに男としては彼女がほしい。が、今の彼女の状況でそれを望むのは身勝手というものだ。それよりも、オレは、彼女の心が・・いや、彼女の心の支えになりたいんだ。以前の明るいミルフィーに戻してやりたい。」
「背負ってるわね。オレならできるって事?」
意地悪そうな目つきで聞くジャミンに、カルロスは自信のある瞳で答える。
「もちろんだ。」
「そう。」
じっとカルロスを見つめ、ジャミンは満足そうに微笑む。
「・・さすが、ミルフィーが惚れた男だけあるわね。」
「惚れた?・・・ジャミン・・今・・惚れたと言ったのか?」
驚いたように目を見開いて反復したカルロスにジャミンはくすっと笑う。
「ホントに2人とも不器用ね。あなた、本当に女殺しだったの?」
「あ・・いや・・・・オレはそんなつもりではなかったし・・・それに、どうも彼女を目の前にするとうまく言えなくてな。」
ははは、とカルロスは軽く照れ笑いをする。
「いい男ね。腕もよさそうだし。・・相手がミルフィーでなかったら、私が立候補したいくらい。」
「ジャミン!」
ラルフの睨みに、ジャミンは軽く笑って応えた。

「そうね・・・彼女は・・・・向こうで一度死んだの。」
少し遠い目をし、思い出しながら話し始めたジャミンのその言葉に、カルロスは驚く。
「何?!」
「まだ龍騎士の仲間は私だけのときだったわ。・・・・どうあっても私達にはミルフィーが、彼女の腕が必要だった。だから黄泉の闇に融ける前に彼女の魂を連れ戻さなければならなかった。横たわっている彼女に、必死で思念を送ったわ。戻ってこいって。いけないとは分かってるけど、身体に残っている波長を辿り、どうしたら黄泉の空間に漂っているはずの彼女の意識に届くか調べたの。でも、いろいろ呼びかけたけど何も反応してくれなかったわ。そうしてるうちに、あなたの影を見つけた。記憶の、ううん、心の奥底にしまい込まれたようなあなたへの気持ちを見つけたの。」
「オレへの気持ち?」
「そう。で、私はあなたの幻影と声色を使って彼女に呼びかけたの。勿論最初から反応があったわけじゃない。これでもだめなのか、とあきらめかけたとき、短く答えたミルフィーの声が聞こえたの。後は必死で呼びかけた。そうして、彼女は息を吹き返したんだけど・・・その後、しばらく見ていられなかったわ。」
「見ていられなかったとは?」
ふ〜っとため息をついてから、ジャミンは続ける。
「黄泉にいたときの記憶はないはずなんだけど、それがきっかけになって、自分の気持ちに・・あなたを愛してる事に気付いてしまったのよ。そうなると、あなたにとった自分の行動を思い起こせば、当然でしょ?今更帰るわけにもいかないし。端で見ている私たちがたまらなく思うほど落ち込んで・・・私はそれ以後、ずっと後悔のしつづけよ。・・・罪悪感っていうのかしら?あんなことをしなければ、彼女は一生気付かずに終わったかもしれないのに、苦しませる原因になってしまった、ってね。それから、なんとかそんな自分を正面から見つめる事ができるようになって落ち着いたんだけど、それでもあなたのことを想って一人泣いてたことがあるのは知ってるわ。こっちへ帰ってくるときもね・・・私があなたを探して幸せになりなさいって言ったんだけど、彼女は5年もたっているんだから、あなたにはもうきっとかわいい人がいるだろうからって・・・そう言って悲しそうに笑った彼女の笑顔は、今でもはっきりと覚えてる。自分が選んだ結果なんだから、仕方ないって笑ってたわ。」
悲しそうにジャミンは微笑んだ。
「だから・・・彼女があなたにした事はそれで帳消しにしてあげてくれない?勝手なこと言ってるのはわかってるけど、でも、自分の本当の気持ちに気付いてからずっとあなたを想って苦しんできたのよ。だから・・・・」
「ジャミン・・オレがそんな男にみえるか?確かに置いて行かれた時はショックだったが・・・そんなものは大したことじゃない。彼女が、ミルフィーがオレを少しでもそう思ってくれてるのなら・・・・」
カルロスは飛び上がりたいほど喜びで震えていた。それを隠して極力落ち着いた口調で話す。
「ありがとう、カルロス。・・・ミルフィーには悪いことしちゃったけど・・でも、結果として良かったのよね?そう思っていいわよね?」
祈るような瞳で自分をじっと見つめるジャミンに、カルロスは心からの笑みを投げかける。
「もちろんだ。オレは・・お礼を言いたいくらいだ、ジャミン。」
「ありがとう、カルロス。」

「ジャミン!」
周囲に注意を張っていたラルフが警戒を促す。別方向にも敵の姿が見えてきていた。
「じゃ、カルロス、あいつらは私たちに任せておいて。ミルフィーの方はもう終わったみたいだから・・・後はよろしくね。ゆっくりしてていいわよ。」
「いいのか?」
「当たり前よ。あれくらい私一人でも十分よ。そうね、次の宿で会うことにしましょうか?」
「そうだな。では、言葉に甘えさせてもらおう。」
カルロスは戦闘の終わったミルフィーに向けて馬を進めさせ、ラルフとジャミンは右手から来る男たちに向かっていく。

「カルロス!」
「なんだ?」
走り始めた馬を止め、振り返って声をかけたジャミンにカルロスも振り返る。
「ミルフィーを、・・私の妹を・・よろしくね。」
「ああ、わかってる。」
「もし、セーブがきかなくなって暴走してしまったら、その時はその時で、民族大移動計画でもたてればいいから。」
「ははは・・・悪いな、気を使ってくれて。が、大丈夫だろう。だてにミルフィーに虐められてたわけじゃない。我慢強さは相当なものだと自負してる。」
「虐めて・・だったの?・・じゃー、たっぷり虐め返してあげなさいな。ちっとも正直になれないじゃじゃ馬さんに。」
「そうだな。そうするとしよう。」
ジャミンとカルロスは笑みを交わして前をむき直す。
3頭の馬は2手に別れ、その目標に向かって疾走していった。





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