青空に乾杯♪


☆★ その83 選んだ道 ★☆


 「でもすごいのね、一気に世界だけでなく時まで越えて来てしまうなんて。」
レイラが感心しながら言う。
「そうだな。別にオレたちの力じゃないけどな。」
「そうよね、こっちへ送ってくれたのはそれぞれの主である神龍なんだしね。」
ギルバートとジャミンが笑う。
「それに、ミルフィーがいるのよ。神龍に直接遣えていないにしても同格のミルフィーがね。だから要は簡単なのよ。ミルフィーの気を追えばそれでOKだから。」
「なるほどねー・・。」
「そう。」


「さてと、そろそろ出発しない?」
「そうだな。で・・・だ・・」
ファンガスがミルフィーの言葉を受けて返事をしながらレイラを見る。
「あんたは過去へ行くとかだったよな?」
「ええ、そうよ。」
「で、確かカルロスだったな、あんたがついて行くのか?」
「いいえ、カルロスはミルフィーと行くわ。私は一人で大丈夫だから。」
カルロスが答えようとするのを遮るかのようにレイラが微笑む。
「それでは戦力が偏りすぎだろ?」
「でも、過去まで追っては来れないから大丈夫。」
「しかし、分からんぞ。追っては来れないにしても、意識をさかのぼって過去の自分自身とか誰かを操るとか・・・そういうことならできるかもしれないじゃないか?」
「あ・・・・」
ファンガスのその言葉に全員はっとする。確かにそうだ。可能性が全くないわけではない。
「ということでだな、あんたさえよかったら、オレがついて行こうと思うんだが。」
「ファンガスが?」
少し驚いたような表情でレイラは聞き返す。
「ああ、そうだ。だめか?」
「あ・・いいえ、とても心強いです。」
にっこりわらって答えるレイラにファンガスも満足したように微笑む。
「よし!決まりだな。オレのことはガスと呼んでくれ。」
「よろしく、ガス。」
「よろしくな、レイラ。」
「ちょっと待て、2人きりなんて危ないだろ?オレも行く。」
「危ないって・・・私なら別に・・・」
2人の間に割って入ったギルバートにレイラは気にしてないと笑う。
レイラという人物がどういう性格かを知らないギルバートがそう思うのも無理はなかったが、当然、カルロスとミルフィーは、その心配は全くないと感じていた。自由気ままなレイラには必要のない心配だった。
「私は時の魔女なのよ。そんなこと全く気にしないわ。それに・・・」
レイラに妖艶な笑みが戻っていた。その笑みで彼らを見つめつつ、断言するレイラをギルバートはきつい視線で睨む。
「ダメだ、魔女だろうとなんだろうと、自分は大切にするべきだ。君みたいな美しい人は特に。」
「え?」
それまでそんなことは言われたことがないレイラは驚いてギルバートをじっと見つめた。全身から毒気が一気に抜けていく・・そんな感じをレイラは感じていた。
「ということで、オレも同行する。文句あるか、ガス?」
そのレイラに満足げに微笑みながらギルバートはファンガスを見る。
「・・・・あるわけないだろ?」
レイラをちらっと見てから、ファンガスは軽く笑いながらギルバードに答えた。
「ミルフィーもいいな?」
「あ・・・え、ええ・・・・・みんながそれでいいのなら、私は別に。」
反対意見は誰からもでない。彼らはさっそく旅立つことにした。

レイラはファンガスとギルバートと共に過去へとその姿を消し、ミルフィーは、ジャミン、ラルフ、そしてカルロスと共に、老婆の家を後にした。
レイラの指示に従い、転移ができるところまで、街や村にある転移装置を使用し、その先は馬を買い、それに乗ってレイラの描いてくれた地図をたよりに藍の一族の地を目指した。早馬と極力休憩を省けば約2週間の道程だった。


老婆の家を出て2晩目、その日まで特に何事もなく、予定通りの村で宿をとることにした。その間、ミルフィーとカルロスは一度も言葉を交わさなかった。ミルフィーはほとんどジャミンと行動を共にし、いつも彼女と笑い、語り合っていた。その間にラルフが割り込むといった形だったが、完全にカルロスは蚊帳の外といった感じだった。
(やはりオレは部外者か?)
黙ってミルフィーを見つめるカルロスは切なかった。

「カルロス。」
一人宿の裏のデッキで手すりにもたれてぼんやりしていたカルロスにミルフィーが声をかける。
「ミルフィーか・・・・どうした?眠れないのか?」
それには答えず、ミルフィーは、カルロスと少し距離を開けて同じように手すりにもたれかかる。

−リーン・・リーン−
虫の音が聞こえていた。2人は黙って目の前の暗闇に広がる庭を見つめていた。
「ごめんなさい、カルロス。」
しばらくしてミルフィーがカルロスに視線を移してから小さく言った。
「いや・・・いいさ。」
カルロスもミルフィーを見つめる。
「すんだことだ。」
「・・・カルロス。」
心の底から申し訳なさそうに言うミルフィーの瞳の中に、寂しげな光を見つけ、カルロスは思わず抱きしめそうになった。が、老婆の言葉を思い出し、ぐっとこらえる。
「一つだけ聞いていいか?」
ミルフィーの視線を避けるように再び庭に目を向け独り言のように言ったカルロスに、ミルフィーはこくんとうなずく。
そのうなずきを横に感じ取り、カルロスはゆっくりと言った。
「おばばから最後の頼みだと言われて来たが・・・邪魔ならはっきり言ってくれ。オレは・・・そうまでしていようとは思わん。」
それを聞いた瞬間、ミルフィーは一瞬ぴくっと全身を震わせる。
「・・・カルロス・・・私・・・・」
「黙って行った事を怒ってるんじゃない。ただ・・・二度とああいうことはされたくない。必要ないのなら、はっきり言ってほしい。」
自分でも不思議なくらい、カルロスは静かに言っていた。が、事実は、そんなことは言われたくない。また、言われることを考えたくもなかったが、もしそうだったら、自分自身割り切るためにも、とカルロスは心の中で思っていた。
「・・ごめん・・・なさい・・・」
「・・・それは・・・必要ないということか?」
「カル・・・・」
反射的にカルロスの横顔を見たミルフィーは必死に涙を堪えていた。そういう意味で言ったのではなかった。黙って置いていってしまったことに対してのごめんなさい、だった。が、カルロスは違った意味でとった。
「そ・・・・うよ。」
そして、ミルフィーは、誤解してとったカルロスに便乗することにした。
「そうか。・・・なら・・・・・・オレがこれ以上ここにいる必要は・・ないな。」
悲しみと絶望で震えてきそうな手をぐっと握りしめ、そして、その心をぐっと押さえ、カルロスは、ミルフィーを見ようともせずにくるっと向きをかえて宿の中へと入っていく。
−バタン−
裏口の戸が閉まる音がすると同時に、ミルフィーは、静かにそこへ泣き崩れていた。
「カル・・ロス・・・・・・」
これ以上一緒にいてもカルロスの気持ちには答えられない。巫女になるということは一生その可能性はない。
それよりも、少しでも早く忘れて、カルロスに似合った人を見つけ幸せになってもらいたい。その方がどれだけいいかしれない。ミルフィーは、自分自身にそう言い聞かせていた。いや、それよりも、ミルフィー自身がたまらなかった。カルロスを目の前にし、なにもかも忘れて何度その胸に飛び込んでしまおうかと、胸の内を全て吐き出して泣きついてしまおうと思ったかしれなかった。

別れたからこそ気づいた自分の気持ち。一緒に来ていたらとも思ったことがあった。が、もし一緒だったのならずっとあの関係だったと思えた。遠く離れたからこそ、見つめ直すことができた自分自身。そして、気づいたカルロスへの想い。
別れたときから5年の月日がたち、その想いが、自分勝手な想いが叶うとは思ってはいなかった。5年もたてばカルロスの横にはかわいい人がいるだろうと思っていた。それで諦めることもできるかもしれない、と思っていた。が、こんな形になるとは夢にも思わなかった。


翌朝、出立の時、カルロスの姿がないことに、ジャミンは不思議に思う。
「ミルフィー、彼はどうしたの?カルロスは?」
「彼は・・・帰ったわ。」
「帰ったって・・・ミルフィー?」
「私たちだけで十分でしょ?」
淡々と話すミルフィーの肩をジャミンは悲しみと怒りの混ざった顔で掴む。
「いいの?それで?・・・ミルフィー!?」
ジャミンにはカルロスの事も話してあった。彼女はミルフィーの気持ちは自分の事のように分かっていた。
「じゃー、どうしろって言うの?・・・これ以上いてもらっても・・私は彼の気持ちには・・・ううん・・これ以上傍にいたら・・・世界なんかどうでもよくなってしまう・・・カルロスと世界とで・・・私、・・・・私は・・私は、世界なんかより・・・・」
「ミルフィー・・・・」
「私は・・・」
感情をぐっと抑え、ミルフィーは涙を堪える。が、それでもにじみ出た涙が幾筋かこぼれ落ちる。
ジャミンは慰める術もなく、ただ、全身を震わせて堪えているミルフィーの両手をぎゅっと握りしめていた。

 

 


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