青空に乾杯♪


☆★ その79 絶望の底 ★☆


 「う・・ん・・・・」
タヒトールの屋敷のロビーにあるソファーの上、目覚めたカルロスがゆっくりと上体を起こす。
「・・・・夢だったのか・・あれは?」
少し前のことをカルロスは思い返していた。荷物を取りに行った時までは実際にあったことだと実感できた。が、その後はどうも曖昧になっていた。
「オレは・・荷物を持ってきて・・・・・それからどうしたんだ?」
ふと見ると、テーブル越しのイスにカルロスの荷物が置いてある。夢だったのかそれとも現実だったのかはっきりと断言はできなかったが、記憶はあった。
(まさか・・)
悪い予感がカルロスの脳裏を走り、心が震撼する。
「ミルフィー・・・?」
隣室、台所、そして、各部屋を見て回る。
「ミルフィー?!」
カルロスは、胸が張り裂けそうな気持ちと共に今一度屋敷内を、そして外に走り出るとその辺りを走り回って探してみる。が、どこにもミルフィーの姿はなかった。

−ドサッ−
外から重い足取りで帰ってきたカルロスは、ソファーに倒れこむように腰かける。
「つまり・・・そういうことなんだよな・・・。」
片手で目頭を覆い、涙こそは出なかったが、明らかにカルロスは悲しみに沈んでいた。
(一緒に行ってくれと言ったのは・・なんだったんだ・・・あれも夢だったのか?・・・・)
その言葉でミルフィーが試合に出たことから考えられた事に対する絶望から救われた気がした。が、今の状態は、より一層深い絶望と悲しみの中へとカルロスを沈めていた。
「ミルフィー・・・。」
いたずらっ子のような輝きをその瞳の中に見せ、カルロスをからかうミルフィーの姿が瞼の裏に浮かんでいた。
いつも明るく朗らかに笑っているミルフィー。魔物との戦闘の時の、真剣な表情。そして、美しい王女姿。どこか寂しげな光が宿るミルフィーの瞳。
そして、思い出す。
『カルロスはミルフィアがいいんでしょ?』
「ミルフィア・・か・・・・だが、お前がミルフィアでもあるんだろ?・・ミルフィー・・・」
確かに最初の頃は、ミルフィーの中のミルフィアを探していたかもしれない、とカルロスは気付く。できるならこの手で一生守っていきたいと想いを寄せた少女。
簡単に忘れられるわけはない。ミルフィーがそうだと言われても、その違いに戸惑い、無意識にミルフィアらしいものを彼女の中に探してしまっても当然のようにも思えた。が、確かに今のミルフィーの中に同じ心を見つけ、そして、一生かけて愛していくのはこの少女だと今一度感じた矢先だった。
(それでもオレはミルフィアを追っているのだろうか?彼女を通り越し、ミルフィアを探し求めているんだろうか・・・?)
自問自答すればするほど、それはわからなくなっていった。
「オレは・・・この先どうすればいいんだ?」
銀龍の世界に行くと言った言葉を覚えていた。が、それがどこにあるのか、どう行けばいいのか、そして、果たして追いかけていっていいものかどうか、今のカルロスには判断できかねていた。
一人旅立ったミルフィー。それはカルロスを拒絶したことを意味している。
「嫌いではないが、好きでもない・・か。・・・・いや、オレは・・彼女にとってはどうでもいい奴だったのか?・・全く見ず知らずの世界。不安であるのに違いないのに・・オレでは支えにもならないのか?・・・オレは・・必要ともされていないのか?」
カルロスは、一緒に行ってくれと言った時のミルフィーの瞳を思い出していた。不安に揺れていた瞳を。
(あれは嘘ではない、断じて。・・瞳を見ればわかる。あれは本心から出た言葉だ。・・・・なのに・・・・オレは・・・仲間でもなかったのか?)

まるでスローモーションのようにゆっくりとソファーから立ち上がると、カルロスは荷物を背負う。
身体を、そして重い心を引きずるかのようにして、屋敷を後にした。


それから約2ヵ月後、カルロスは老婆の家へ帰ってきた。
−カチャリ・・・−
そっとドアを開ける。そこにミルフィーがいるとは思わなかった。が、もしかすると・・という気持ちもほんの少し、ほんの一破片は心の底にあったかもしれない。

が、予想通り、家の中に人気は全くない。
カルロスはし〜〜んと静まり返っていた屋内を、戸口のところで立ったままぼんやり見ていた。
今にも奥からひょい!とミルフィーが出てきそうだった。『遅かったじゃない!今まで何してたのよ?』と笑うミルフィーが。
が、当然のことだが、彼女は出て来ない。その代わりに、その幻がカルロスを襲った。ミルフィーの笑顔がそこここに見え、そして笑い声がカルロスの耳に響く。

そして、そのことによりカルロスは確信する。それはここまで戻ってくる間ずっと考えていたことであり感じていた事。
それは・・・彼の心に住んでいる少女は・・・心を占めている少女は、ミルフィアではなくミルフィーであるということ。その心に決して偽りはなかったが、何かに引かれるように心惹かれたミルフィアではなく、彼自身の心が、そのよりどころとしてミルフィーを求めている、彼女の心を必要としている。そんな確信がカルロスの中でできていた。
「ミルフィー・・遅すぎたのか、オレ自身、その事に気づくのが・・・。」
ふと呟いたカルロスに、寂しげな視線で見つめるミルフィーの幻が写った。同じ心、そしてその瞳に同じ光をたたえてはいたが、それは確かにミルフィアではなくミルフィーだった。
「オレは知らず知らずのうちにお前を傷つけていたのか?愛していると言いながら、オレは、その言葉の影にあったミルフィアの影を消せなかったのか?・・・それをお前は敏感に感じ取っていたのか?・・・ミルフィー・・・お前はその笑顔の下で何を思ってた?・・・何をどう感じてたんだ?」
「何言ってるの、カルロス?!冒険が一番に決まってるじゃない?!」
「ミルフィー・・・」
「あはははは・・・」
ほがらかに笑う彼女の幻が再び襲う。

−バタン!−
その場にいたたまれなくなったカルロスは、乱暴にドアを閉めると村へと続く道を下っていった。

 

箱さんからいただきました。
いつもありがとうございます!

しかし・・なぜここにミルフィアを載せる? /^-^;

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