☆★ <<第70話>> 破棄された誓い ★☆


 「ともかく見つかったことは見つかったのよね。」
元の時代に戻り、レイラは満足げに微笑む。
「じゃー、カルロス・・・・」
手を差し伸べ、一緒に行こうと目で誘う彼女に、カルロスは頭をかきながら少し言いにくそうに言った。
「うーーん・・・悪いな、レイラ。実はあの剣は壊れてしまってな。というか、跡形もなく融けてしまったんだが。まー、そういうわけで、必然的に誓いは消滅したことになる。」
「え?」
レイラだけでなくそこにいた全員驚いてカルロスを見る。勿論火龍の少女以外。


それは、ミルフィアが気を失ったように眠っていた間のこと。
どうやらその状況では身体は取り戻せそうもない、とは思いつつ、が、魔物との戦いは終わっていたということで、カルロスは剣を折ろうとあたり構わず叩きつけていた。が、名刀中の名刀であるそれは、刃こぼれ一つしない。
「ふ〜〜〜・・・・」
「ふふふっ!苦労してるようね。」
「お嬢ちゃんか。」
カルロスは近づいてきた火龍の少女に苦笑いする。
「お手伝いしましょうか?」
「お手伝い?」
「そ♪」
「できるのか?」
疑いの眼で自分を見つめるカルロスに、火龍の少女はにっこり笑う。
「私が誰だか忘れてない?いくら名刀でも、人間の鍛えたものなんて、私たちにかかればどうってことないわ。こう見えても正当なサラマンダーの王族よ。」
「そ、そうだったのか?」
「んもう、レオン・パパったら肝心なこと、な〜〜んにも話してないのね。」
ははは、とついカルロスは笑う。
「だから、まかせてちょうだい。跡形もなく溶かしてあげる。」
「跡形もなく・・・か。」
思わず剣をじっと見つめる。長年使い込み慣れ親しんだ愛刀。それに命を預け、苦労を共にしてきた相棒。
「カルロス?」
何を今更?といった感じの少女の視線に、カルロスは苦笑いして、その場に剣を置いた。
「辺りが焼けてもいけないから。」
少女が右手を上げると、剣は空中に浮いた。
「オッケー。少し離れててね。」
カルロスが無言で数歩下がると、少女はヴン!と火龍の姿に戻る。が、少し離れているとはいえ、レオンたちに見つかるといけないので、身体は小さいまま。
−ごごごごごおおおおおおおおーーーーーーーーーーーーー!−
数千度に燃える硫黄のような炎に抱かれ、剣はゆっくりとその形を崩していく。
−ごおおおおおおおおーーーーーー・・・−
そして、炎が消えたあとは、融けて真っ黒になった鉄の塊。
「これでオッケーよね?」
「ああ、感謝するぜ、お嬢ちゃん。」
「うふ♪」
少女は人間の姿に変身すると満足そうに笑った。
「ところで・・聞いていいか?」
「なーに?」
「あ、ああ・・・ミルフィアのことなんだが・・・」
過去へ来てからずっとその気持ちを押さえていた。誓いが無効になりその必要がなくなったとき、カルロスは自分が押さえられそうもないと感じていた。おそらく声をかけるだけでは留まらない。触れて・・そして触れてしまったら、後は、押さえに押さえていた分どうしようもならなくなるだろうと感じていた。だから、もしミルフィアにその気がないのなら、しばらく距離をとってみようかとも思っていた。そして、もし少しでも自分を悪く思わないような感情があるのなら・・・・。少しでも好いていてくれているようなら・・・。
カルロスの目を見、少女はすぐ何が言いたいのか悟った。
「そうねー・・・ちょっと妬けちゃうけど・・・・・・たぶん・・・」
「たぶん?」
カルロスは先を言う事をもったいぶる少女を目で催促する。
「間違いなくカルロスの事は好きよ。」
(やったぜっ!)
カルロスは思わず心の中で叫んでいた。これで心置きなくミルフィアに接することができる!


カルロスはその事を思い出し、にやけそうなのを必死で我慢しながら、レイラに鉄の塊をみせる。
「ということで、誓いは白紙だな。」
「な?!」
レイラの目がショックで大きく見開かれていた。
そして、その目にじわっと涙が溜まってきた。
「何?」
その涙を見てカルロスはぎょっとする。
「レイラ・・・」
老婆が声をかけながら、そっと彼女に近づく。
「あ・・・・」
老婆を見るレイラの瞳から涙がこぼれ始める。
「・・お、おばあちゃん・・あ、あたし・・・あたし・・・・・本気だったのに・・あたし・・・・」
わーっ!とレイラは老婆に寄りかかって泣き崩れる。
「っと・・・・」
これにはさすがのカルロスも驚き戸惑う。てっきり遊び半分だとばかり思っていた。単にいじめる為にそうしたものだとばかり思っていた。
「よしよし・・・・」
老婆はわんわん泣き続けるレイラの背中をやさしくなでながら、彼女をそこから連れて行った。

「カルロス、いいの?」
ミルフィアが言う。
「『いいの?』といわれてもだな・・・確かにかわいそうだとは思うが・・だが、オレは・・・オレの好きなのは・・・・オレが心から愛しているのは・・・・・」
それまで見せた以上の熱い瞳でミルフィアを見つめ、カルロスはそっと手を彼女に延ばす。
『げ、心配がなくなったら早くも始まったぞ。』とレオンとレイミアスは他人事なのにどぎまぎする。2人も過去にいる間のミルフィアの様子に、彼女の気持ちは分かっていた。
邪魔しちゃ悪いと火龍の少女を連れ、そっとその場を離れようとした時。
−パン!−
(は?)
カルロスだけでなくレオンもレイミアスも火龍の少女も驚いて、カルロスの手を勢いよく払ったミルフィアを見つめる。
「手は出さないんじゃなかったの?」
「は?」
「ま、まさか・・・ミルフィー・・・・だ・・なんてことは・・・・?」
愕然としてカルロスは呟く。
「ううん、カルロス、今の私はミルフィーでもないしミルフィアでもないの。」
「は?」
唖然としているカルロス、そしてレオンとレイミアスと火龍の少女。
「私は私。2つに別れた心が1つに戻った。・・ただそれだけ。」
「は?」
「ということで、心は白紙状態になってるから、悪いけどカルロス、私、その気ないの。強がりでもなんでもなく、本当に。」
さわやかに微笑んで断言するミルフィアの瞳は、確かに呆れるほどさっぱりしている。そこには恋の『こ』の字の欠片も見られない。
「はーあ?」
理解できなかった。カルロスは、あまりにものショックでミルフィアが何を言っているのか、今何が起こっているのか把握できず棒立ちになっていた。

 


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