☆★ <<第67話>> 剣への誓い ★☆


 「だから、ね、フィー、あたしはフィーさえいればいいの。だからカルロスがあの人を選んだのならそれでいいの。ね♪」
「フィア?」
うつむいて話すミルフィアの顔をミルフィーはのぞき込む。
「ぼくの目を見て言ってごらん。」
「だって、こんな事言うのって・・・いくらフィーにでも恥ずかしいわ。」
「フィア・・・じゃー、自分の心にもう一度よ〜く聞いてごらん。それでいいのかどうか?」
「・・・・・」
ミルフィーにそうは言われても、ミルフィアには分からなかった。『夫』という言葉を聞いた時、確かに頭からハンマーで思いっきり叩かれたようなショックを受けた。が、かといって、カルロスを愛しているのかどうか、一人の男性として好きなのかどうか・・・はっきりとはわからなかった。その時からずっと自問自答していた。確かに好意はもっている、が、それがどこまでの好意なのか、ミルフィアは情けないとは思いつつ、判断にあぐねていた。
が、どうであれ、一つの答えをださなければいけないことは確かだった。
時の魔女は確かにカルロスを夫と言った。そして、カルロスもそれを否定しない。自分よりずっと大人で、カルロスと並んでも引けを取らない魅力的な女性。誰が見てもお似合いのように思えた。
「いいの!」
ミルフィアは思いきって顔を上げ、にこっとミルフィーに笑って答えた。がその表情は明らかに悲しみを帯び、青ざめたままだった。
「フィア・・。」

そんなこんなでとても旅立てる状況ではなくなり、相談するまでもなく、レオン、レイミアス、火龍の少女とミルフィアは老婆の家へに戻っていき、そこには老婆と時の魔女、カルロス、そしてミルフィーのみが残っていた。

「で、あんたは本当にこいつを気に入ってんのか?」
ミルフィアの後ろ姿がその視野から消えると、ミルフィーは老婆とカルロスと共にいる時の魔女、レイラにズカズカと近づきざま聞く。
「ただ単に一人が寂しいってんのなら、オレでもいいだろ?」
突然の提案に、3人共驚いてミルフィーを見る。
「くすくす・・・一人で勝手に決めないでね。確かにひとりぽっちは寂しいわ。でも、誰でもいいというわけじゃ・・・」
ミルフィーを頭の先から足の先まで値踏みをするように見てからレイラは言った。
「なんだよ、オレじゃ不服だとでも?」
思わず表情が強張るミルフィー。
「剣士としてはまーまーなんでしょうけど、男としてはどうかしらね?」
「なんだよ、それ?」
「だってあなたのような子供じゃ楽しませてくれそうもないじゃない?私、年下は趣味じゃないのよ。それとも年の割に、女を満足させる技でも知ってるのかしら?」
「なに?」
意味がよく理解できなかったというか、レイラの言葉を頭で反復させて何を意味しているのか考えるミルフィー。
「・・・それなら話にのらないこともなくってよ?」
レイラは、ミルフィーに意味深のウインクを投げかける。
「・・・あ〜もう、だめね、ぼうやじゃ。やっぱり男は包容力よ。カルロスのように実のある男じゃなくっちゃだめ♪」
ようやく意味がわかり、赤くなったミルフィーにレイラは失望する。そして、つん!と冷たく視線を外し、今度は熱い眼差しをカルロスに送る。
−ガツン!−
「いたっ!なによ、もう、おばーちゃんったら!」
老婆の杖がレイラの頭に飛んだ。が、文句は言ったものの、不機嫌そうな老婆にそれ以上の口答えは禁物とレイラは判断する。そして、ため息をついてから老婆にではなくミルフィーに言った。
「それに・・・剣士が己の剣にかけて誓った言葉は絶対なのよ。だから、ね?カルロス♪」
「なんだって?」
思わずミルフィーはカルロスの顔を見る。
「悪いな、そういうことだ。」
「って、いいのか、それで?」
ミルフィーでも剣士にとってどういう誓いなのか分かっていた。
「そんな簡単に・・・」
「簡単には決めた覚えはないがな。」
ふっと笑ってカルロスは答えた。
「そうなのよねー。好きな人を取るか、自分を犠牲にして好きな人が望むものを取るか・・・迷ったわよねー。」
面白がっているようなレイラの目だった。
「おい、ひょっとしてあんた、カルロスが気に入ったというより、その状況におかれたカルロスの気持ちを楽しんでるだけじゃないのか?」
「あら・・・・なかなか鋭いわね、ぼうや。」
「ぼ、ぼうや・・・・」
「だってそうでしょ?あれくらいで赤くなってるんだから。」
「レイラ!」
老婆の叱責が飛び、レイラはぺろっと舌をだしてから続けた。
「でもちょっとはずれ。だって、カルロスが気に入った事もホントなんだもの。確かに、ただ単に色男だけだったらそこまでしないわね。寂しいといっても、どの時代へもどこでも行けるのよ。楽しませてくれる男なら見つかるわ。だから、そうね、気に入った本当の理由は、この私にこれっぽっちもなびきもせず、堂々と、しかも面と向かって好きな女だけなんて言ったカルロスが憎らしいほど素敵に思えたの。」
「なんだそれ?他の女が好きだっていう男のどこが気に入ったんだ?」
「分からない?誓いによってカルロスの行動は誓約される。本当に好きな女には触れたくとも触れることもできない。そして、心はそうでなくても他の女を愛さなくてはならない。ふふっ、その心の奥底での葛藤する様を考えただけでも、もうぞくぞくしちゃうのよ。」
「おい、それって!」
−パッコ〜〜ン!−
ミルフィーが質の悪い虐めだと言う前に老婆の杖が再び飛んだ。
「い・・いったいわねー、もう!暴力は止めてって言ったでしょ!」
「だからお前は魔王なんぞに目をつけられるんぢゃっ!」
「だって・・・じゃーあのまま時が止まっててもよかったの?」
「う”・・・そ、それはぢゃな・・・だれか他にいなかったのか?」
「それがねー、あの年は不作で・・・一族の中にそれらしき力を持った娘がいなかったらしいのよ〜。」
−パッコ〜〜ン!−
「もう!おばーちゃん?!」
「ふん!知った口利くんじゃないよ!」
「ふ〜〜んだ。」
「どうでもいいけど、おばばと話す時とオレ達と話す時と、ずいぶん違ってやしないか?」
「あら・・・そう言われればそうね。おばーちゃんだとやっぱり『孫』っていうのが前面に出ちゃうのかしら。ほほほほほ」
「『ほほほほほ』じゃーないだろ?で、そのおばーちゃんのお願いも聞けないということなのか?」
「ざ〜〜んねんでした。公私の区別はきっちりつけてるのよ、私。ビジネスはビジネス。例えおばーちゃんの依頼でも気に入らない限り受け付けないわ。」
つん!と冷たく言い放つレイラ。
「ふ〜〜・・・・で、当然、誓いの破棄も?」
「当たり前でしょ。一旦誓ったことを破棄するなんてできるわけないわ。それに・・・」
その熱い視線の中にいたずらっぽさも加えてレイラはカルロスを見つめた。
「剣に誓った言葉をあなたが覆すわけはないわよね、例え何があろうと。」
「そうだ。」
「くっ・・・・くくくくくっ・・・ね、聞いた、ぼうや?男らしくて最高に素敵な男(ひと)でしょ?私のカルロスは♪」
レイラはいかにも満足そうに後ろからカルロスの首に抱きついた。切り株に腰を下ろしているカルロスを上から包み込むように。
「カルロスっ!」
平気な顔をして座っているカルロスが、ミルフィーには憎らしく思えていた。

 


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