青空に乾杯♪


☆★ <<第65話>> 過去へ! ★☆


 その翌日、老婆の家へ行くと言ったが、夜明け近くまで森で剣を振っていて無理だった為、その次の日、カルロスは老婆の家へと向かった。

「おはよう、お嬢ちゃん。夕べはよく眠れたか?ん?」
ミルフィアに近づきながらカルロスは笑顔で言葉をかける。
「ちょっと待ったっ!」
ミルフィアの傍まで行く前に、彼女とカルロスとの間に、勢いよく駆けてきた少女が両手を拡げて立ちはだかった。
「それ以上近づくのは、このあたしが許さないわよ!」
「は?」
そのかわいらしい少女にカルロスは呆然として見つめる。勿論、最初から傍を通り過ぎるつもりで、それ以上ミルフィアに接近するつもりはなかった。が、本人以外そうとは思わないのも当然である。
(誰だ?)という視線でカルロスはミルフィアを見つめる。
「あ、彼女、レオンさんが育てた火龍なの。名前をつけてもらうまで一緒にいることになって。」
「火龍?この・・オレの前にいるかわいらしいお嬢ちゃんが、か?」
「あら・・・」
カルロスのその言葉に、少女はにっこり微笑む。
「カルロスって正直者なのね。あたし気に入ったわ。」
「そ、それは、どうも・・・」
わざとらしく頭をかいて照れ笑いするカルロス。
「でも、それとこれとは別ですからね。」
「は?」
「だから、ミルフィア姉様とのこと!」
「あ・・・そうか、そういうことか。」
「何よ?素っ気ないのね?」
「ん?そうだったか?はははは・・・」
軽く笑うカルロスを、少女はじ〜っと見つめた。
「なんだ?見惚れたか?だが、いくらなんでもお嬢ちゃんでは、オレと釣り合いがとれそうもないと思うんだがな。そうだな、少なくみてもあと5、6年は必要・・・」
「さ〜いて〜いっ!」
カルロスがからかい半分に口にした言葉を全部聞かないうちに、少女は大声で怒鳴った。
本気で怒った顔をカルロスに向けて睨み、それからミルフィアを振り向く。
「いいこと、ミルフィア姉様、こんな奴の言うこと信じちゃダメよ!聞いてもダメ!」
「え?・・・あ、あの?」
その勢いにミルフィアは押されていた。
「だって・・・そりゃあたしはカルロスを姉様に近づけさせないようにしようと思ったわ。だってレオン・パパもそのつもりなんだし・・。でも・・でも・・・」
くるっと再びカルロスに向きを変えると軽蔑の眼で見つめる。
「本気なら・・・本当に姉様を愛してるなら、どんな障害も妨害も乗り越えられるはずよ!それをを乗り越えてこそ本当の愛というものだわ!それを・・・会ったばかりのあたしにあんなこと言うなんて!それも姉様が目の前にいるっていうのに!いくらあたしがかわいいからといっても、言っていい事と悪い事があるわっ!」
「ははは、なかなかきついお嬢ちゃんらしいな。」
−パン!−
頭を撫でようと出したカルロスの手を叩くと、少女は思いっきりあっかんべ〜をした。
「あんたなんか、ぜ〜ったい近寄らせないんだからっ!」
そして、どうやって少女を落ち着かせようかとおろおろしているミルフィアの手をぐっと握り、ぐいぐいと家の中へ引っ張っていってしまった。
「お〜〜い・・・と言っても聞こえないか・・いや、聞く耳もたんというやつか。」
苦笑いをしながら、カルロスは驚きはしたが、この展開に少なからずほっとしていた。この状況ならミルフィアに近づかなくなっても、さほど不思議とは思わないはずだ。

「それにしてもまたすばらしく強力な助っ人を呼び寄せたものだな?」
老婆の家の居間で、カルロスはレオン、レイミアスと共にテーブルを囲んでいた。
「別に呼び寄せたつもりはないんだが・・・といってもそっちはそれでいいんだけどな・・・・」
カルロスの言葉にレオンはため息をついて答える。
「なんだ?まだ何かあるのか?」
「大ありですよ。もう、ぼくたちくたくたで・・・これなら塔で戦っていた方がどれだけ楽か・・。」
レイミアスがカルロスがいなかった時の様子を小声で話す。
「あっはっはっはっはっ・・・なるほど、それは難儀だったな。」
「『だったな』で済ませればいいが・・・まだ当分続きそうだぞ。」
ふ〜、と何回目かのため息をつくレオン。
「名前をつけてやれば帰るんだろ?」
「う〜〜ん、そうなんだが、どれもこれも気に入らないらしくてなー・・・もうお手上げ状態さ。」
両手を拡げ、オーバーにも見えるジェスチャーをしながら言ったが、レオン本人に至っては真実、真面目な感想だった。
「なるほど。が、それも穏やかすぎる生活のせいじゃないか?戦いが始まればそれで鬱憤もはらせるだろうから、そんなこともなくなるんじゃないだろうか?火龍だけあって燃えたぎる情熱を発散させる機会がなくて自分でも持て余してるんだろ?」
「そ、そうかな?」
「そうでしょうか?」
カルロスの言葉に、レオンもレイミアスも目を輝かせる。それはいかにこき使われているかの証拠だった。
「多分、だけどな。」
その言葉で2人の目からつい今し方の輝きは消える。
「そういえば、最初来たとき、早く塔へ行こうとかいってたな。」
「じゃー、行きましょう!すぐにでも!」
ガタッと音を立ててレイミアスが立ち上がる。
「待てって、レイム。慌てるなって。」
「だって、レオン・・・」
「予定変更だろ?」
レオンはレイミアスに座るように目配せすると、カルロスを見つめた。
「あんた、どこで何してたんだ?」
レオンのその言葉に、ああ、そうだった、とレイミアスもイスに腰掛けながらカルロスを見る。
「おばばからはまだ何も聞いてないのか?」
「ああ、まったく・・あのおばばも喰えないばーさんだって。」
頬杖をつきながら、文句を言うレオン。
「まーな、おばばにかかっちゃ、オレたちなんざ、まだまだガキだからな。」
「だれが喰えないんぢゃ?」
老婆の声に3人とも驚いて戸口を見る。
「まー、よいわ。今はそんなことを話してる場合じゃない。」
すたすたとテーブルにつく老婆。その後からミルフィアと火龍の少女が入ってくる。ミルフィアと少女はそれぞれにお茶を配り終えると座る。
「で・・ぢゃ・・・・勝手な事をしたとは思うが、闇雲に突き進むよりこの方法をとったらどうかと思い、カルロスに頼んだんぢゃが・・・」
そして、老婆は、時をさかのぼってミルフィーの身体を探すことと、時の魔女の事を簡単に話した。
「すごいですね、過去へ行けるんですか?」
レイミアスが驚嘆のため息をつく。
「時の魔女ならお安いもんぢゃ。ぢゃが、なかなか言うことを聞いてくれなくての。特に頼み事となるとなおさら・・・」
苦虫を噛み潰したような表情で老婆は淡々と話す。
「でも、承知してくれたんでしょ?すごいじゃないですか、カルロス。」
尊敬の眼差しでカルロスを見るレイミアスとは反対に、レオンはぶすっとした表情で言った。
「大方、甘〜い口説き文句を山のようにでも言ったんじゃないのか?魔女だって女には違いないからな・・・。」
「レオンっ!失礼ですよ!訂正してください!」
「あ、いや・・まー、そんなもんだからいいのさ。」
「え?そ、そうなんですか?」
いくらなんでも今回はそんなもので話がついたのではないだろう、と思い、きつい視線でレオンを睨んだレイミアスは、カルロスにそう言われて気が抜ける。
「で、出発はいつにするんだ?オレはいつでもいいぞ。」
レイミアスの質問には答えず、カルロスは老婆に聞く。
「お前さんの帰りに合わせて一応支度はしてある。いつでも出発できるが・・・」
「が?」
「カルロス・・・本当に・・・」
その先を老婆が口にするより先にカルロスは立ち上がっていた。
「じゃー、すぐにでも出かけた方がいいだろ。旅支度が整ったらすぐ先にある森の2本杉の大樹の下に集合してくれ。」
−バタン!−
返事を待たず、カルロスはさっさと家の外へと出ていった。
「なんなんだ、あいつ?帰ってからおかしくないか?」
レオンが不思議そうに呟く。
「そうですよね、どこが違うとかじゃないんですが・・・どこかいつものカルロスじゃないような・・・?」
レイミアスの感想も同じだった。
「カルロス?」
それはミルフィアもそう感じていた。どこか前のカルロスと雰囲気が違う。そんな気がしてなぜか不安を覚えていた。

 


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