青空に乾杯♪


☆★ <<第62話>> 小型台風現る ★☆


 「いったいどこまで行けばいいんだ?」
戦闘がすんだ後、思わずレオンはそう吐いていた。
絶え間がないといえるほどの戦闘。回復魔法や薬で体力、気力は回復してもやはりゆっくりとしたいと思うのは当然だった。
「一旦村へ帰ったらどうぢゃの?」
「村へ?」
老婆の言葉を受け、ミルフィアが呟く。
「でも、せっかくここまで来たのに・・・・」
ミルフィアの思いも当然だった。もうずいぶん奥まで入ってきた。村へ帰れば、またしてもここまでくるのに同じ様な苦労をしなければならない。
「いや、それは大丈夫だ。」
「え?」
レオンのその言葉に、全員レオンに注目する。
「火のあるところならたとえ地獄の底だろうが、サラマンダーで移動可能だ。」
「だが、ここに火なんてないぞ。」
カルロスが辺りを見渡してから言う。
「まー、そうなんだが、そういうときのためにこれ、だな。」
そう言いながらレオンは懐から1本の蝋燭を取り出した。
「そうだなー、ちょうどいいくぼみかなんか・・・・」
そして場所を探すと、壁のくぼみに蝋燭を固定させ、火をつける。
「よし!と。あとは、ここの様子をしっかりと目に焼き付けてっと。」
ぐるっと周囲を見渡す。
「オッケーだ。これでどこからでもここへ一直線に跳んで来ることができる。」
自信たっぷりにレオンは微笑む。
「火があるだけじゃだめなんですか?」
「当たり前だろ?火なんてものはどこにでもあるんだからな。同じ様な洞窟も結構あるし。だから両方しっかり覚えておく必要があるのさ。」
レオンは笑いながらレイミアスに答える。
「そうなんですか。」
「でも・・・もしも消えてしまったら・・・」
「ああ、その心配ならいらない。それはリーパオにもらった特別な蝋燭なんだ。」
「リーパオから?」
驚いた表情でレイミアスがレオンを見つめる。
「ああ、ここへ来る前にちょっと立ち寄ってきたのさ。こういう展開になりゃーしないかと思ってな。」
「さすが・・というべきなんでしょうけど・・でも・・もしかしたらその蝋燭は・・・」
不安げなレイミアスをレオンは一笑する。
「まーな・・・オレの命の炎ってとこだが・・・勢いよく燃えてるだろ?」
「でも、誰かに吹き消されたりしたら?」
「ああ、そういうことか。オレ自身でない限り消えないってリーパオが言ってたけどな。」
「リーパオって?」
2人の話をじっと聞いていたミルフィアが聞く。
「ああ、話せば長くなるんだが、リーパオってのは夢魔でな、以前、夢の中であんたと逢えたのは奴のおかげなんだ。」
「夢魔・・・・」
「そう。人の夢を喰らうダークユニコーン。でもそう悪い奴じゃない。ま、詳しい話は村へ戻ってからするとして・・・・じゃー、始めようか?」
「あ・・でも、火に包まれるんでしょう?・・・それって熱いんじゃ・・・」
「大丈夫。オレがついてるからな。」
「そうなの?」
「だ〜い丈夫!まかせておけって!」
にっこりと自信たっぷりに返事したレオンにミルフィアはほっとする。
「決まりだな。」
焦りばかりが増してきている感じがあった。気分転換に一度帰った方がいいとカルロスも思っていた。
「じゃ、オレの回りに寄ってくれ。」


紅い空気のベールに包まれる、といったらいいのだろうか、周りの空気はそれまでより温かくは感じたが、確かに炎に包まれているのに、少しも熱くはない。その炎の中、洞窟の壁が見えなくなった次の瞬間、一行は塔の大扉の横に立っていた。
「あはは・・すまん、村で火のある場所というのが的確にイメージできなかった。」
頭をかきながらレオンは照れ笑いした。


そして、しばし、戦士の休息・・・・。
久しぶりの入浴やベッドでの睡眠、酒場での賑わい、庭や森などでののんびりした休息など、それぞれ全員思い思いの行動をとっていた。
ただ、ともすると事を急くあまり、気落ちしがちなミルフィアの傍には必ずだれかがいた。
が、どういうわけか気がつくとそこにカルロスの姿がなかった。
そのことにはミルフィアだけでなく、他の者も気になっていた。いなければそれで安心だが・・・それはそれで何か物足りないというか・・・なんとも複雑な思いであったことは確かである。探すのもなんだが、一応内緒で探してもみた。が、村にもどこにもカルロスの姿はない。どうしたのか?と思ってもお互いそれを口にすることは躊躇われた。いかにも気にしているようで恥ずかしい気がして聞けなかったのはミルフィアだけではなかったらしい。


そんな彼らのところへ、一人のかわいらしい少女の訪問客があった。
「こんにちは。」
「あ、はい、こんにちは。」
「レオン・パパは、いるかしら?」
「は?」
玄関に応対に出たミルフィアは、今聞いた言葉に耳を疑った。
にこにことかわいらしい笑顔をみせるその少女は、確かに『レオン・パパ』と言った。燃える炎を思わせる元気一杯の短めの赤毛と大粒な朱色の瞳の8歳くらいの女の子。
「あ、あの・・・レオン・パパって・・?」
しばらく少女を見つめたあと、ミルフィアはようやく少女に聞いた。
「レオン・パパはレオン・パパよ!」
そんなやりとりをしていたところに、勝手口から入ってきたレオンの声が聞こえる。
「あっちーなー・・・ったくちょっと動きゃ汗だくだくだぜ。薪拾いも楽じゃねーや。」
「レオン・パパ!」
その声を聞き、少女はタタタタッと奥へと走りこむ。
「パパッ!」
そして薪を肩から下ろしていたレオンの首に飛びつく。
「へ?・・・な、なんだ、なんだ?」
何事が起こったのかと、レオンは自分に巻きついた少女の身体を離れさせ、じっと見る。
「パパって・・・・お、おい・・・あんた誰だ?」
「パ、パパ・・・あたしがわからないの?」
「わからないって・・・・オレまだ独身だぞ。ガキ持った覚えはない・・・・ぞ?」
狐につままれた顔とは今のレオンの顔を言うのだろう。もしくは目が点状態。
「パ・・・・パ・・・・・」
ごごごごご〜〜と怒りの音がするような気配をかもしだし、少女はレオンを睨む。
「パパの薄情もの〜〜〜!!!」
ごごごごごぉ〜〜!と今度は本当に音をたて、少女は一気にそのかわしらしい姿を、なんと火龍の姿へと変身した。しかも天上までとどく高さ。
「へ?・・・・あ、・・・も、もしかしてお前・・チビ?」
「もうチビじゃないわよっ!」
「どうでもいいけど、家が燃えちまうだろ?さっきの姿に戻れよ!」
「ふ〜〜んだ!燃やすつもりはないんだから、燃えないわよっ!」
すっと少女の姿にもどると、彼女はいかにもすねた表情でレオンを睨む。
「あ、あの〜〜・・・」
その様子を見ていたミルフィアが恐るおそる声をかける。
「なあに?」
「あなたが・・あの、レオンが育てたって言う火龍の赤ちゃん?」
「ええ、そうよ。レオン・パパの娘で〜す。よろしくっ♪」
スカートの裾をひるがえし、少女は嬉しそうにくるっと回った。
「え、ええ、こちらこそ、よろしく。」
そのかわいらしいさにミルフィアもにっこり微笑む。
「お、おい・・・なんなんだよ、これ?」
一人焦るレオン。
「なんだよって・・・なによ〜、せっかく訪ねてきたのに。それも龍の姿じゃ世間体悪いだろうから、きちんと人間の姿に変身してきたのに・・。ね、これなら娘って言ってもいいわよね?」
「せ、世間体って・・・・娘って・・・お、お前、変身なんてできたのか?」
「二次成長期に入ればできるようになるのよ。知らなかった?あ!二次成長期ってね、身体は成獣と同じになったってことよ。火龍としての身体が。」
「あ、ああ・・・」
レオンは腰を抜かしていた。加えて事の展開もまだしっかり把握してない。

「で、なんで来たんだ?」
レオンが少し落ち着いてから、3人は食堂のテーブルに座っていた。
「だって〜・・・もう1週間よ?!いいかげんに聖魔の塔に行きましょうよ〜!あたしつまんな〜い!」
「『つまんない』って・・おまえ・・・」
「だって〜、たいくつなんだもん。」
「・・ったく、じゃじゃ馬なんだからな・・・」
小声で呟きがら、レオンはちび龍を育てていた頃を思い出していた。満足するまで相手にしてやるのは相当な体力と労力が必要だったことを。
「え?何か言った?」
「あ、いや、こっちのこと。」
「火龍の国にいりゃいいだろ?」
「だって、たいくつなんだもん。」
「そんなこと言ったって・・・」
レオンは困り果てていた。
「それにね、魔物狩りって面白いし。なんといってもパパと一緒にいられるんだもん。」
少女(?)はレオンの思惑などおかまいなし。レオンとミルフィアが圧倒されていることをいいことしにて、自分の言いたいことをたて続けに話す。
「あとね、名前をつけてもらわないといけないの。」
「名前?」
「そう。育ての親がいる場合はね、その人につけてもらって一人前として認められるの。だから、素敵な名前つけてちょうだいね、パパ♪」
「名前って、一応『チビ』・・・」
「パパッ!」
だん!とテーブルと叩いて少女は激怒する。
「それはたんに幼名というものでしょ?だいたいチビだからチビだなんて手抜きもいいとこよ!」
「は〜〜〜・・・・・」
レオンは大きくため息をついていた。
「とにかく、名前をつけてもらうまでいさせてもらうからそのつもりでね、パパ。ただし、思いつきでつけないでね。あたしが気に入るのじゃなくちゃダメよ!」
そしてすっと立ち上がると、ミルフィアの方を向いてにこっと笑い、スカートの裾をつまんで丁寧に礼をする。
「よろしく、お姉さま。あたし好き嫌いないけど、特に肉類が大好きなの。」
「え?・・・は、はい。」
居候が居候を呼び・・・老婆の家はぎちぎち、満員ぎゅ〜ぎゅ〜になっていた。
レオンが老婆から思いっきり睨まれたのは言うまでもない。
が、その反面、火が必要な時はすっとつけてくれる。レオンには文句を言ったが、その実、老婆は火龍の少女を大いに気に入っていた。
気っぷがいいというか、根性も度胸もある。何よりも率先してレオンたちをこき使ってくれる。老婆がいちいち言わなくとも、撒も食材も水も少女の指示で常にそろえられていた。
・・・が、レオンとレイミアスはたまったものではない・・・・。
「まさか、カルロスの野郎・・これを予知か何かで知ったってんで、逃げたんじゃねーよな?」
思わずそんな考えがレオンの頭を過った。
「オレたちの息抜きはどうなったんだあ〜?」
そんな心の叫びをよそに、女同士すっかり意気投合したミルフィアと少女は、毎日楽しく語り合っていた。が、これでますますミルフィアがしっかりものになるのは目で見るより確かだった。

「ぼく、お嬢様は苦手だけど、元のかわいらしいというか、柔らかな感じのミルフィアの方がよかったのに・・。ちょっとしっかりしてきすぎなんじゃ・・・・」
元が無垢だった分、ミルフィアは誰からでも、あれもこれもしっかり吸収していく。

未だ姿を見せないカルロス。彼が帰ってきて、今のミルフィアを見たらどう思うだろう?とレイミアスもそんなことを考えていた。

 



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